キャバクラ豪遊と聖雷鉄拳制裁 ~メッキが剥がれる夜
キャバクラ豪遊と聖雷鉄拳制裁 ~メッキが剥がれる夜~
ポポロ村の隣町にある歓楽街のど真ん中。
その中でも一際派手なネオンを輝かせる高級キャバクラ『バニー&サキュバス』のVIPルームは、狂ったような熱気と下品な笑い声に包まれていた。
「飲め飲めぇ! 今夜は俺の奢りだ! おいボーイ、一番高いドンペリのタワー、もう一つ追加だ!」
「キャーッ! サメジマ様、すごーい! 太っ腹ぁ♡」
「サメジマさんって、一体どんなお仕事をされているんですかぁ?」
テカテカの青スーツを着た鮫島剛は、両脇にバニーガールとサキュバスのホステスをはべらせ、王様のようにふんぞり返っていた。
テーブルの上には、超高級なシャンパンの空き瓶が何本も転がり、フルーツの盛り合わせが散乱している。
「俺かい? 俺は世界を股にかけるIT……魔導コンサルタントさ。市場の“ブルーオーシャン”を見極めて、圧倒的な“コミット”で不労所得を生み出してるのさ。まぁ、君たちみたいな可愛い子ちゃんを養うくらいの金なら、文字通り『腐るほど』持ってるからね!」
「すごぉい! サメジマ社長、カッコいいーッ♡」
ホステスたちの黄色い歓声を浴びながら、鮫島は高級葉巻を吹かし、下劣な笑みを浮かべた。
(くっくっく……! あの頭のお花畑なエルフの女、本当に良い仕事をしてくれたぜ! あの金塊十個があれば、このキャバクラごと買い取ってお釣りが来る! やっぱり情弱から巻き上げた金で飲む酒は最高だぜぇぇっ!)
己の詐欺ビジネスが完璧に成功したと信じて疑わない鮫島は、数時間もの間、湯水のごとく金を使って豪遊し続けた。
やがて、宴もたけなわとなった頃。
タキシードを着た屈強なミノタウロスの店長が、恭しく黒いバインダーを持ってVIPルームに現れた。
「サメジマ様、本日は大盤振る舞い、誠にありがとうございます。こちら、本日のお会計になります。……しめて、金貨五百枚でございます」
金貨五百枚。一般庶民の年収を優に超える、とんでもない超高額請求である。
だが、鮫島は全く動じず、フッと鼻で笑った。
「ふん、安いもんだ。カード……じゃなくて、現金一括で払ってやるよ。釣りはいらねぇ、ボーイたちで分けな」
鮫島はソファの横に置いていた重いボストンバッグを引き寄せ、ジッパーを勢いよく開け放った。
「さぁ、受け取りな! これが成功者の“アセット(資産)”だ!」
ドサッ!
鮫島がバッグの中身をテーブルの上にひっくり返した、その瞬間。
VIPルームの空気が、文字通り『完全停止』した。
「……あ?」
「……きゃっ。なにこれ……?」
テーブルの上に転がり出たのは、目も眩むような純金のインゴット……ではなかった。
ゴトッ、ゴロッと鈍い音を立てて転がったのは、泥と苔がこびりついた、その辺の河原に落ちているような『ただの汚い石ころ』が十個であった。
「……は?」
鮫島の顔面から、スッと血の気が引いた。
「おい、どうなってんだ!? 俺の純金は!? あのエルフの女が出した、純金はどこに行った!?」
鮫島がパニックになり、空っぽのボストンバッグを裏返して振るが、当然何も出てこない。
ルナ・シンフォニアの物質変成魔法は、『三日経過するか、彼女の魔力圏内から一定距離離れると、ただの石ころに戻ってしまう』という仕様がある。
隣町までウキウキで移動してきた鮫島の手荷物は、彼がキャバクラでドンペリを空けている間に、とうの昔に元の石ころへと戻ってしまっていたのだ。
ミノタウロスの店長の顔から、恭しい営業スマイルが消え去り、極道顔負けの青筋がピキピキと浮かび上がった。
「……サメジマ様? これは一体、どういう冗談でしょうか。まさか、天下の『バニー&サキュバス』で、石ころを金貨五百枚だと言い張って、無銭飲食(タダ食い)をなさるおつもりで?」
「ち、違う! これは“パラダイムシフト”なんだ! マトリックスのバグというか、一時的なシステムエラーで……!」
鮫島が意味不明な横文字を並べて弁明しようとしたが、店長が指を鳴らすと、屈強なオークやオーガの黒服たちがズラリとVIPルームの入り口を塞いだ。
「テメェ……ウチの店を舐めてんのか! 女の子たちを散々侍らせておいて、支払いは石っころだとォ!?」
「待て! 待ってくれ! 俺にはバックに『ナンバーズ』がついてるんだ! スリー様を呼んで……!」
「問答無用だ! 臓器売ってマグローザ漁船にブチ込んでやる!」
黒服たちが、鮫島の胸ぐらを掴み上げて引きずり出そうとした、まさにその時である。
「――おいおい。せっかく気分良く飲んでたってのに、うるせぇなぁ」
フロアの隅の薄暗いボックス席から、気怠げな、しかし凄まじい威圧感を伴う低い声が響いた。
その声に、怒り狂っていた黒服たちも、パニックになっていた鮫島も、ピタリと動きを止めた。
立ち上がったのは、この高級キャバクラには似つかわしくない、異様な出で立ちの男だった。
一切の妥協なくポマードでビシッと固められた黄金のリーゼント。
背中に『全国制覇』の金刺繍が入ったド派手な光沢ジャージ。
そして足元には、なぜか履き古したベランダサンダル(便所サンダル)。
だが、その顔立ちは誰もが息を呑むほどの超絶美形である。
彼こそが、第六の聖獣にして次元超越者、麒麟――通称『リキ兄貴』であった。
「あ、アニキ……! すいやせん、こいつが無銭飲食しやがりまして……」
ミノタウロスの店長が、先ほどのヤクザ顔から一転、借りてきた猫のようにペコペコと頭を下げた。リキ兄貴は、この歓楽街の裏社会やゴロツキたちを拳一つで心服させている、絶対的なカリスマなのだ。
リキ兄貴は、軍用マッチでショートホープに火をつけ、紫煙をふぅと吐き出しながら鮫島に歩み寄った。
「おい、そこの青スーツ」
「ひっ……!」
リキ兄貴の鋭い眼光に射抜かれ、鮫島は腰を抜かして床にへたり込んだ。
「姉ちゃんたちに調子のいい夢見させて、たらふく酒飲んで、お会計の段になって逃げようってか。……男の風上にも置けねぇ、ダサい真似してんじゃねぇぞ」
「ち、違う! 俺は悪くない! あのエルフの女が俺を騙したんだ!」
鮫島は極度の恐怖から、発狂したように叫び、己の切り札であるユニークスキルを発動させた。
『スキル発動――【ステータス偽装】ッ!!』
鮫島の頭上に、空中に浮かび上がるホログラムの文字板が出現した。
そこには、デタラメに改ざんされたステータスが燦然と輝いている。
『名前:サメジマ・ゴウ』
『職業:破壊神・大賢者』
『レベル:99(MAX)』
『攻撃力:99999』
『称号:魔王殺し・無敗の覇者』
「見ろ! 俺はレベル99の大賢者だ! 攻撃力は99999だぞ! お前みたいなヤンキー上がりのゴロツキが手を出せば、ただじゃ済まないからな!!」
鮫島は、虚仮威し(こけおどし)のステータス画面を盾にして、狂ったように喚き散らした。
周りの黒服たちが「レ、レベル99!? 攻撃力9万だと……!?」とざわめく中。
リキ兄貴は、ショートホープを咥えたまま、微動だにしなかった。
「……あ?」
リキ兄貴が、冷めた目で鮫島を見下ろす。
「レベル? 攻撃力? ……テメェ、そんな空中にピコピコ浮いてる薄っぺらい『文字』で、男の器が測れると思ってんのか?」
「なっ……!?」
リキ兄貴が一歩踏み出した。
その瞬間、鮫島の目の前からリキ兄貴の姿が『消失』した。
(消え……っ!?)
鮫島が目で追う暇すらなく、彼の視界は完全に置き去りにされた。
次元超越によるゼロ距離移動。気がついた時には、リキ兄貴はすでに鮫島の懐、数ミリの距離に入り込んでいた。
「テメェの強さが本物だろうが偽物だろうが、俺には関係ねぇ。……女泣かせてタダ飯食おうとしたケジメ、キッチリ取らせてもらうぜ」
リキ兄貴の右拳に、バチバチと紫銀色の恐るべき雷光――『無次元の聖なる雷』が収束していく。
本来ならば神をも穿ち、対象を細胞ごと消し炭にする極大の力。だが、相手がただの一般人以下であることを悟っているリキ兄貴は、その威力を「死なない程度(手加減)」にまでギリギリに抑え込んだ。
「奥歯、食いしばれや」
ゴッッッシャァァァァァァァァァァン!!!!!
「あべぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
リキ兄貴の放った【聖雷・鉄拳制裁(手加減バージョン)】の右ストレートが、鮫島の顔面にクリーンヒットした。
レベル99の偽装ステータスなど何の意味もない。スライムに殴られて骨折する虚弱な肉体が、聖獣の拳に耐えられるはずがなかった。
テカテカの青スーツが弾け飛び、金メッキの腕時計が粉々に砕け散る。
鮫島の体は、キャバクラのVIPルームの天井を文字通りブチ破り、木っ端微塵の瓦礫と共に夜空へと勢いよく打ち上げられた。
「あァァァァァ…………」
ヒューーー……キラッ☆
鮫島の姿は、満天の星空の彼方で、一筋の流れ星となって見えなくなった。
「……フン。文字通り、メッキが剥がれたな」
リキ兄貴は、煙を上げる右拳をジャージのポケットに突っ込み、ショートホープの灰を携帯灰皿にトントンと落とした。
「あ、アニキ……! ありがとうございます! さすがッス!」
店長と黒服たち、そしてホステスたちが、顔を真っ赤にして拍手喝采を送る。
「気にするな。……天井の修理代と、さっきの青スーツの飲食代、俺のツケに回しといてくれ。こんなことで店の女の子たちが泣き寝入りするのは見過ごせねぇからな」
「アニキィィッ! 一生ついていきやすッ!!」
「リキさーん! カッコいいーッ♡」
リキ兄貴は歓声を背に受けながら、「酒が不味くなっちまったな」と呟き、便所サンダルをペタペタと鳴らして夜の街へと消えていった。
一方その頃。
アゴを完全に粉砕され、全身打撲で気絶したまま夜空を飛んでいく鮫島剛の落下地点が、最悪の『債権回収者』たちが待ち構えるポポロ村の広場であることを、彼はまだ知る由もなかった。
読んでいただきありがとうございます。
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