意識高い系コンサルと、魔法のローン契約(二回目) ~まだもやしで消耗してるんですの?~
意識高い系コンサルと、魔法のローン契約(二回目) ~まだもやしで消耗してるんですの?~
「不労所得……金貨の雨……SSR確定チケット……」
「お肉……大トロ……ルナキン特大ハンバーグセット……」
ポポロ村の中央商業区から少し離れた、静かな裏路地。
ブツブツと呪文のようにつぶやきながら、フラフラとゾンビのような足取りで歩いているのは、芋ジャージ姿の女神ルチアナと、同じく芋ジャージの人魚姫リーザだった。
先ほど【デパート】のフードコートで、魔王ラスティアが見せつけてきた『A5ランク黒毛和牛のヒレステーキ』と『偶々の不労所得』という資本主義の残酷な光景。
もやし炒めで飢餓状態だった二人の脳は、すでに正常な判断力を失っていた。
「ねえリーザ、どこかに落ちてないかしら。拾った瞬間に金貨一万枚もらえる魔法のランプとか」
「そんなものがあるなら、私がとっくにお賽銭箱で吸い込んでますわ! ああもう、せめて『誰でも簡単に月収金貨百枚稼げる』みたいな、都合の良いビジネスの話でも転がってませんこと!?」
そんな、現実逃避も極まったダメ人間のセリフを吐き捨てた、その時だった。
「――君たち、まだ『もやし』で消耗してるの?」
背後から、やたらと滑舌が良く、妙に自信に満ち溢れた声が降ってきた。
二人が振り向くと、そこにはポポロ村の素朴な風景には全く似合わない男が立っていた。
テカテカと安っぽく光る化学繊維の青色スーツ。手首には三日でメッキが剥がれそうな金色の腕時計。そして、髪をジェルでガチガチのオールバックに固めた、三十代半ばの男。
「誰ですの、おじさん」
リーザが怪訝な顔で尋ねる。
「おじさんじゃないよ。僕は『サメジマ・アドベンチャー・サロン』の代表を務めている、サメジマだ。……さっきフードコートで君たちの姿を見かけてね。可哀想に、ポテンシャルはあるのに“認知のアップデート”ができていないせいで、そんな底辺の食生活に甘んじているんだなって」
男――鮫島剛は、前世で情報商材屋として荒稼ぎしていた詐欺師である。
彼は、大げさな身振り手振りを交えながら、口八丁手八丁で語り始めた。
「いいかい? 毎日ゴブリンを狩ったり、パチンコやガチャに労働の対価を突っ込んだりするのは、完全に“労働集約型の負け組”の思考回路なんだ。これからの時代は“魔導レバレッジ”を効かせて、メタ・スキルで不労所得を自動化する“パラダイムシフト”が必要なんだよ」
「れ、ればれっじ……?」
「ぱらだーむ……?」
もやし炒めしか食べていない二人のスカスカの脳みそに、鮫島の放つ意味不明なビジネス用語(横文字)が、妙に心地よいリズムで響き始めた。
「そう! つまり、君たちは『お金に働かせる』という“マインドセット”が足りていないんだ。でも安心してほしい。僕のコンサルティングを受ければ、明日から寝ているだけで君たちの部屋に金貨の雨が降り注ぐようになる。……君たちも、あっちでヒレステーキを食べていたお姉さんのように、勝ち組の“コミット”をしたくないかい?」
「「か、勝ち組……!!」」
ルチアナとリーザの瞳が、ギラギラと欲望の光を帯びた。
完全にカモの顔である。鮫島は心の中で「異世界人、チョロすぎ! 情弱狩り放題じゃん!」と高笑いしながら、懐から一枚の古びた『掛軸』を取り出した。
「特別に、君たちみたいな見込みのある若者にだけ、僕のサロンの秘密のアイテムを譲ってあげるよ。……これを見てごらん」
鮫島がバサリと掛軸を広げる。
そこには、墨で適当に描かれたような、下手くそな龍の絵が書かれていた。どう見ても、その辺の子供の落書きか、三流の贋作にしか見えない。
「……ただの汚い紙切れじゃないの?」
ルチアナが眉をひそめる。
「ふっちっち。これだから素人は困るなぁ。見た目で判断しちゃダメだよ。君たち、魔導鑑定石は持ってるかい?」
「ええ、一応自警団のお下がりを持ってますわよ」
「じゃあ、この掛軸を鑑定してごらん。僕の言っている意味が分かるはずさ」
鮫島は不敵に笑いながら、心の中で自身のユニークスキルを発動させた。
『スキル発動――【ステータス偽装】!』
鮫島のスキルは、対象のステータス画面や鑑定結果の『文字表記だけ』を自由に改ざんできるというものだ。実際の効果や材質は1ミリも変わらないが、鑑定石には彼が入力した通りのデタラメな情報が表示される。
リーザが魔導鑑定石を掛軸にかざした瞬間。
ピロロロンッ! と、鑑定石の空中に浮かび上がったホログラム文字を見て、二人は息を呑んだ。
『名称:神話級・黄金昇龍の金運掛軸』
『レアリティ:SSR(絶対確定)』
『効果:部屋に飾るだけで全知全能の金運が宿り、パチンコは常時確変、ソシャゲのガチャは単発で最高レアが排出される。さらに毎日金貨百枚が空から降ってくる』
「な、なななななっ!?」
「SSR確定!? パチンコ常時確変!? 神話級のアイテムですわーッ!!」
ルチアナとリーザが、互いの手を取り合って絶叫した。
目の前にあるのはただの紙切れ(原価:銅貨一枚)だが、魔導鑑定石の絶対的な表示を前に、二人の疑いは完全に吹き飛んでいた。
「わ、分かってくれたかな? これが成功者の“ポートフォリオ”さ。本来なら、この掛軸はサロンのVIP会員限定で、金貨五千枚で取引されている超絶レアアイテムなんだけど……君たちには特別に、金貨十枚で譲ってあげるよ」
「金貨十枚!?」
ルチアナがハッとして、自分のジャージのポケットを探る。
「……リーザ。私たち、さっきの定食代で、もう銅粒一枚すら残ってないわよね……?」
「ええ……。全財産ゼロですわ。どうしましょう、こんな神アイテムが目の前にあるのに、買えませんわぁぁっ!」
二人が絶望の淵に突き落とされたような顔をした、まさにその時。
鮫島は待ってましたとばかりに、テカテカの青スーツの内ポケットから、一枚の羊皮紙を取り出した。
「諦めるのはまだ早いよ。僕のサロンは、夢を追う若者を全力で“エンパワーメント”するんだ。……現金がないなら、この『魔法のローン契約書』にサインすればいい。初期費用は完全無料! 今すぐこの掛軸を持ち帰って、明日空から降ってくる金貨で支払えばいいのさ!」
「ろ、ろーん……!」
「魔法の契約書……!」
二人の脳裏に、かつてどこかで聞いたようなフレーズがデジャヴのようにフラッシュバックした。
そう、つい数週間前、悪徳詐欺師の火原から『開運の黄金壺』を買わされた時と、全く同じ手口である。
本来なら、ここで「うまい話には裏がある」「新聞紙で叩かれた痛みを思い出せ」と自制すべきなのだが……。
「買いますわ! 初期費用ゼロなら買うしかありませんわ!」
「そうよ! 明日SSRの月人君を引いて、余ったお金で払えば実質タダじゃない!」
空腹と強欲によってIQが限界まで低下している駄女神と元王女は、過去の教訓という名の『チーズ』を、完全にどこかへ置き忘れていた。
「はい、それじゃあここに名前を書いてね。細かい規約は後で読んでくれればいいから」
鮫島が差し出した羊皮紙の端には、これまた極小の文字でこう書かれていた。
『※金利:1日につき元本の1割。複利計算。支払いが遅延した場合は、臓器売却またはマグローザ漁船での強制労働に同意するものとする』
サラサラサラッ!
二人は、その恐ろしい文字を一瞥することすらなく、満面の笑みでサインを書き殴った。
「よし、契約成立だ。おめでとう、これで君たちも“成功者”の仲間入りだよ!」
鮫島が、偽装された落書きの掛軸を二人に手渡す。
「やりましたわルチアナ様! これで明日からはセレブ生活ですわーッ!」
「ええ! コトネやキャルルに、この神話級アイテムを自慢してやるわ! あいつら、絶対悔しがるわよ!」
二人は掛軸を大事そうに抱きしめながら、スキップするような足取りで村長公邸へと帰っていった。
「……くっくっくっ! アハハハハハッ!!」
二人の姿が見えなくなった路地裏で、鮫島は腹を抱えて爆笑した。
「バカな女どもめ! あんな落書きをありがたがって、しかもトイチの借金にサインするなんてな! 48時間経てばスキルの偽装効果が切れて『ただの落書き』に戻るのに! それまでに利子をたっぷり乗せて、自己破産させてやる!」
鮫島は、サインの入った契約書にキスをして、青スーツのポケットにしまい込んだ。
「異世界、マジでチョロすぎ! 情弱狩り、最高ォォォッ!!」
しかし、鮫島は知らなかった。
その契約書を手にした二人が帰っていく先が、絶対に敵に回してはいけない『最強の悪徳商法クラッシャー』――すなわち、百貨店シュクルの敏腕オーナーと、冷酷無比なゴルド商会の支店長が待ち構える魔窟であることを。
ポポロ村に、再びお馴染みの『天丼』の足音が忍び寄っていた。
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