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婚約破棄された元パティシエ令嬢、追放先で【デパート】を開業!守銭奴商人と規格外護衛を雇ったら、三カ国の軍と胃袋を支配してました  作者: 月神世一


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爆弾首輪とマグローザ漁船行きの切符 ~天然の爆発物処理班と、債務の精算~

爆弾首輪とマグローザ漁船行きの切符 ~天然の爆発物処理班と、債務の精算~

ピッ……! ピッ……! ピッ……!

ポポロ村の中央広場に、無機質で冷酷な電子音が響き渡っていた。

Aランク魔獣・グリフィンが、大間産冷凍本マグロ(冷気ブレス仕様)とRPG−7のコンボによって粉砕された直後。残された最大の危機が、詐欺師・火原元の首に嵌められた『魔導爆破首輪』であった。

タイマーの赤い光が、残り時間を残酷に告げている。

『00:08』

『00:07』

「い、いややぁぁぁっ! 死にとうない! 首が飛んでまうぅぅっ!」

火原が地面をのたうち回り、涙と鼻水にまみれて絶叫する。

「マズいですわ! ドンガン炭鉱の脱走防止用首輪なら、爆発の威力は広場全体を巻き込みます! 皆様、伏せて!!」

私はデパートの防刃エプロンで頭を覆いながら叫んだ。

「チッ……俺がパイプ椅子で奴の首輪だけを弾き飛ばしてやってもいいが、万が一爆発の余波で『このマグロ』の身が傷んだら一大事だからな。少し離れさせてもらうぞ」

「ジークさん!? 人命よりマグロの鮮度を優先しないでください! 護衛としての矜持はどこに行ったんですか!」

私が叫ぶが、ジークさんは担いだ本マグロを大事そうに抱えながら、ヒョイッと十メートルほど後方へ飛び退いてしまった。本当にこの男は、食が絡むと合理性のベクトルが狂ってしまう。

『00:05』

『00:04』

「あああああっ! 終わる! ワイの人生が、こんなクソみたいな田舎の村で終わってまうぅぅっ!」

火原が白目を剥いて天を仰いだ。

もはや絶体絶命。誰もが最悪の事態を覚悟して目を閉じた、その時だった。

「あら? 皆様、あんなに騒がしかった鳥さんがいなくなって、今度は何をして遊んでいらっしゃるの?」

ふんわりとした百合の香りと共に、平和ボケを具現化したようなおっとりとした声が降ってきた。

世界樹の次期女王候補、ルナ様である。

彼女は、片手に私が作ったデパ地下特製のマカロンを持ちながら、ニコニコと広場の中央へ歩み寄ってきたのだ。

「ル、ルナ様!? 危険ですわ、近づかないで!!」

「えっ? 何がですの?」

ルナ様が不思議そうに小首を傾げた先には、首を抱えて悶え苦しむ火原の姿があった。

「まぁ。おじさまの首飾り、赤くピカピカ点滅して、とっても可愛らしいですわね。でも、なんだか凄く『悪い魔力』がパンパンに詰まっているみたい……」

「か、可愛らしいわけあるかいッ! これ爆弾や! あと三秒で爆発するんやでェェェッ!」

火原が血涙を流しながら叫ぶ。

『00:03』

『00:02』

「爆弾……? あらあら、それは危険ですわね。でも大丈夫ですわ」

ルナ様はマカロンをかじりながら、空いている方の手で持った世界樹の杖を、コツンと地面に突いた。

「私のお友達、こういう『悪い魔力』が大好物なんですの。……出番ですわよ、『パクリンチョ』♡」

ズボォォォォォォッ!!

ルナ様の足元の石畳を突き破り、巨大な植物が出現した。

それは、ウツボカズラ(食虫植物)を数万倍に巨大化させ、さらに鋭いサメのような牙を何重にも生やした、悪夢のような姿の肉食植物だった。

「ひぃぃぃっ!?」

「さぁ、お食べなさいな」

ルナ様が指を差すと、巨大食虫植物『パクリンチョ』は、シュルルッ! と凄まじいスピードで首を伸ばし、火原の顔面に襲いかかった。

「ぎゃあああああッ!! 喰われるゥゥゥッ!!」

火原が絶叫した次の瞬間。

パクリンチョの巨大な口が、火原の頭部ごと、その首元に嵌められていた爆破首輪にガブリと噛み付いた。

『00:00』

――タイマーがゼロになった。

だが、爆発音は広場には響かなかった。

ボォムッ……!!

パクリンチョの分厚い植物の腹の中で、くぐもったような、鈍い破裂音が鳴っただけだ。

巨大食虫植物の体が、風船のように一瞬だけボンッと膨らみ――すぐに元のサイズに戻った。

「ゲェップ……」

パクリンチョの口から、黒い煙の混じったゲップが吐き出される。

そして、植物の口がパカッと開き、中から火原の頭部がペッ、と吐き出された。

「……あ、あれ?」

火原は全身を植物の消化液でベトベトに濡らしながら、自分の首元を手でまさぐった。

そこにあったはずの分厚い魔導爆破首輪は、跡形もなく消え去っている。パクリンチョが、寸分の狂いもなく首輪だけを噛みちぎり、その分厚い腹の中で爆発のエネルギーごと完全に『消化』してしまったのだ。

「……天然の、爆発物処理班……?」

私は唖然としてつぶやいた。ルナ様の善意の暴走が、初めて村の危機を完璧に救った瞬間である。

「うふふ、パクリンチョも美味しい魔力が食べられて大満足みたいですわ!」

ルナ様が無邪気に拍手をする中、火原は自分が生きていることを実感し、歓喜の笑い声を上げた。

「た、助かった……! ワイは生きてる! 生きとるでぇぇぇッ! 首輪も外れた! ハハハッ、スリーの奴めザマァ見ろ! ワイの悪運はまだ尽きとらんのやぁぁぁッ!!」

「……誰の悪運が尽きていないって?」

火原が歓喜の舞を踊ろうとした瞬間、その後頭部に、鉛のように重い『蹴り』が直撃した。

「ゴバァッ!?」

火原が顔面から大理石の地面に突っ伏す。

彼を踏みつけていたのは、背中にグリフィンから受けた傷を負いながらも、鬼のような形相で立ち上がった村長、キャルル・ムーンハートだった。

「私の村で散々詐欺を働いて、偽の月光薬で私の名前を泥で汚して、挙げ句の果てにAランク魔獣まで喚び出しておいて……ただで逃げられるとでも思ったの?」

「ひっ……! そ、村長……!」

「お縄やで、詐欺師はん」

さらに、逆側から冷酷な関西弁が響く。

ゴルド商会のニャングルさんが、手にした捕縛用の魔導ロープをシュルシュルと器用に操り、一瞬にして火原を亀甲縛りのように厳重に縛り上げた。

「い、痛い! 離せ! ワイは被害者や! ナンバーズに無理やりやらされとったんや!」

火原が情けなく命乞いをするが、ニャングルさんの目は笑っていなかった。片手に持った算盤を、パチパチパチッと恐ろしい速度で弾き始める。

「さーて、債務の精算ターイムや。まずは、うちの村の善良な住人に売りつけた偽造品の返金と慰謝料。さらに、元王女はんと駄女神はんに結ばせた違法ローンの精神的苦痛への損害賠償。そんでもって、お前が出した鳥野郎(グリフィン)が壊した広場の修繕費と、村長はんの治療費……」

ニャングルさんが算盤をピタリと止め、冷酷な笑みを浮かべた。

「しめて、金貨五万枚(約五億円)や」

「ご、ごまん……!? 払えるわけないやろそんな大金!」

「せやろな。お前のその『劣化コピー』のスキルじゃ、一生かかっても稼げへん。……というわけで、お前には『体』で払ってもらうで」

ニャングルさんが指を鳴らすと、路地の影から、黒服にサングラスをかけたゴルド商会の屈強な取り立て屋たちが三、四人現れ、火原の体をヒョイと持ち上げた。

「体で払う……? ま、まさか……!」

その言葉に、これまでもやし炒め生活で泣きを見ていた地下アイドル、リーザが、ガクガクと震えながら一歩前に出た。

「火原……お前、シーラン国の『マグローザ漁船』に送られますのね……。同情いたしますわ」

「マ、マグローザ漁船……!? なんやそれ!」

「巨大な魔獣マグローザを狩る、地獄の蟹工船ですわ。給料は『K』と呼ばれる、お尻を拭く紙以下の価値しかない船内通貨で支払われ、夜な夜な労働者たちが地下室でチンチロリンをして脱出を夢見るという……一度乗ったら生きては帰れない、絶望の監獄船ですわーッ!」

リーザが、なぜか実体験のように生々しい解説を入れる。

「い、いややぁぁぁっ! 炭鉱の次は漁船なんて勘弁してくれぇぇぇっ! 嬢ちゃん、ワイのスキルで偽札作るから! コトネはん、助けてくれぇぇぇっ!!」

火原が涙と鼻水まみれで私のデパートのエプロンにすがりつこうとするが、私は冷ややかに一歩下がった。

「自業自得ですわ、火原さん。職人の魂とお客様の信用を裏切った者に、デパートの救済はありません」

私は深々と、完璧な営業スマイルで最敬礼をした。

「マグローザ漁船へのご乗船、誠にありがとうございます。……二度と当店(ポポロ村)にはご来店されませんよう、心よりお願い申し上げますわ」

「うわあああああああぁぁぁぁぁっ!!」

火原の絶叫が夕暮れの空に響き渡り、彼は黒服たちによって、シーラン国へと向かう護送車の中に乱暴に放り込まれていった。ドナドナの哀愁漂うメロディが、幻聴のように聞こえた気がした。

「……ふぅ。これでようやく、一連の詐欺騒動も決着ですわね」

私はエプロンをパンパンと払い、大きく息を吐き出した。

村を襲ったグリフィンの恐怖も、悪徳商法も、すべては去ったのだ。

「おい、コトネ。掃除が終わったなら、さっさと準備をしろ」

背後から声がして振り返ると、ジークさんがタローマンのジャージの袖をまくり上げ、満足げな顔で立っていた。

その傍らには、先ほどの冷気ブレスの発射によって程よく霜が溶け、表面が美しい赤色に解凍され始めている『大間産冷凍本マグロ』がデデンと横たわっている。

「見ろ。グリフィンを仕留めるために闘気を流し込んだおかげで、芯まで完璧に解凍されてやがる。しかも、一ミリの傷もついていない最高の状態だ」

ジークさんが、マグロの腹をポンポンと叩く。

「さぁ、約束通り、俺の休日の労働の対価を支払ってもらおう。……極上のマグロ寿司の宴会の始まりだ」

私は、解凍された大間産本マグロと、期待に目を輝かせる村の皆を見渡し、フッと笑みをこぼした。

「ええ、承知いたしましたわ、お客様! 百貨店シュクルが誇る最高の『食のエンターテインメント』……とくとご覧あれ!」

悪徳商法を乗り越えたポポロ村に、今度こそ本物の笑顔と美味がもたらされる。

いざ、デパ地下名物・特大本マグロ解体ショーの開幕である!

読んでいただきありがとうございます。

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