大間産冷凍本マグロの冷気ブレス vs RPG-7 ~極上の海の幸で空を制す~
大間産冷凍本マグロの冷気ブレス vs RPG-7 ~極上の海の幸で空を制す~
ポポロ村の広場に吹き荒れる、Aランク魔獣・グリフィンの暴風。
その絶望的な戦場のど真ん中に、私の専属護衛であるジークさんは、ジャージ姿でふらりと現れた。
彼の右肩に担がれているのは、私のユニークスキル【デパート】の地下鮮魚コーナーから持ち出された、全長三メートル、重さ数百キロは下らないであろう巨大な魚。
カチカチに凍りつき、表面に霜を纏った『大間産・冷凍本マグロ』である。
「……ジ、ジークさん? 確かに私は『デパ地下の在庫なら何でも使っていい』とは言いましたけど……なんでよりによって冷凍マグロなんですの!?」
「空を飛ぶ魔獣(鳥野郎)を落とすには、これが一番手っ取り早いからだ」
ジークさんは、マグロの巨大な尾びれをガシッと掴み、まるで対空バズーカ砲でも構えるかのように、その凍てつく巨体を軽々と肩に担ぎ直した。
「一番手っ取り早いって……まさか、そのマグロをブーメランみたいに投げてぶつけるおつもりですか!?」
「バカ言え。そんなことをしたらマグロの身が傷むだろう。今夜は極上の寿司にする予定なんだからな」
ジークさんは心底呆れたようにため息をついた。
……いや、待ってほしい。投げない? では、一体どうやって上空数十メートルを旋回しているグリフィンを攻撃するというのか。
「キルルルルッ……?」
上空のグリフィンも、突如として眼下に現れた『巨大な凍った魚』に気づき、困惑したように羽ばたきを止めていた。
誇り高き空の王者が、まさか大間産のマグロを向け撃たれる日が来るとは、夢にも思わなかっただろう。
「……よし、大人しく的になってるな」
ジークさんは、マグロの腹を抱え込むようにして構えると、自身の全身からどす黒い赤色をした『闘気』を爆発的に噴出させた。
バツンッ!!
空間が軋む音と共に、ジークさんの超高密度の闘気が、冷凍本マグロの巨体へと一気に流れ込んでいく。
ジークさんの得意技、『野生の思考』。パイプ椅子やフランスパンをも神話級の武器に変えるその理不尽な闘気コーティングが、今回は『魚類』に適用されたのだ。
「闘気注入、完了。……いくぞ」
次の瞬間。
闘気を充填された冷凍本マグロの、カチカチに凍っていた両目が、突如としてカッ! と禍々しい青白い光を放った。
「えっ……!?」
「な、なにアレ……マグロの目が光ったわよ!?」
私と、傷ついた体を抱えて立ち上がったキャルルさんが、同時に悲鳴を上げた。
さらに、マグロの大きく開いた口の奥から、周囲の空気を一瞬にして凍らせるほどの極寒のエネルギーが急速に収束し始めたのだ。
ピキピキピキッ……! と、広場の地面が瞬時に凍りついていく。
「……標的、上空の鳥野郎。冷凍本マグロ、冷気ブレス……発射」
ジークさんが静かにトリガー(マグロの背びれ)を引いた。
ズゴォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!
マグロの口から、絶対零度の『冷気ブレス』が、極太のレーザービームのごとく天空へ向かってぶっ放された。
「キシャァァァッ!!?」
グリフィンが驚愕の悲鳴を上げるが、遅い。
音速を超える大間産マグロの冷気ブレスは、逃げる隙も与えずグリフィンの巨体を完全に飲み込んだ。
空中で暴風を纏っていたはずのグリフィンは、一瞬にして全身を分厚い氷に包まれ、美しい氷の彫刻へと姿を変えてしまった。
「……う、嘘でしょ……?」
「マグロが……冷凍マグロが、口から冷気ブレスを吐いた……!?」
私とキャルルさんは、ポカンと口を開けて、空中でピタッと静止した氷漬けのグリフィンを見上げた。
前世のデパ地下で何十本もマグロを扱ってきた私だが、マグロがビームを吐くなどという生態は、図鑑のどこにも載っていなかったはずだ。
氷漬けになったグリフィンは、自重に耐えきれず、空からゆっくりと自由落下を始める。
その時だった。
『キュイイイーーーン!!』
広場に、派手な電子音とまばゆい光が降り注いだ。
上空から、純白の翼を広げたトップゴッドチューバー、キュララが舞い降りてきたのだ。
彼女は聖騎士の鎧をチャキッと鳴らし、空中に浮かべた魔導カメラに向かって、満面のアイドルスマイルとウインクを飛ばす。
「はいっ! 全国のリスナーの皆さ〜ん! キュララちゃんねる、緊急クエスト生配信だよっ☆」
彼女は空から落ちてくる氷漬けのグリフィンをバックに、ビシッとポーズを決めた。
「見事な氷漬け! これは最高の撮れ高キタァァァッ! さぁ皆、グリフィン討伐の瞬間を見逃さないでね! スパチャよろしくぅ!」
チャリンチャリン! と、配信画面(魔導モニター)にリスナーからの投げ銭が滝のように流れ込む。
「よーし、それじゃあトドメ、いっちゃうよー!」
キュララは可愛らしい声で宣言すると、聖騎士の鎧とは全く不釣り合いな、無骨で巨大なロケットランチャー――『RPG-7』をどこからともなく取り出し、肩に構えた。
デパートの防衛用に私が取り寄せた、本物の近代兵器である。
「ホーリー・バズーカ……ファイアッ☆」
キュララがウインクをしながら引き金を引いた。
シュボボボボボォォォォォンッ!!
対戦車用の高威力弾頭が火を吹き、空から落ちてくる氷漬けのグリフィンに真っ直ぐに直撃した。
ドッッッガァァァァァァァァァァァン!!!!!
凄まじい爆発音と閃光。
絶対零度で脆くなっていたグリフィンの巨体は、RPG-7の直撃を受けて完全に粉砕され、キラキラと輝く氷の破片となって、ポポロ村の広場に雪のように降り注いだ。
「ミッション・コンプリートっ☆ スパチャくれた皆、ありがとーっ!」
キュララが、空からヒラリと優雅に着地し、カメラに向かって手を振る。
Aランク魔獣・グリフィンの討伐。
それは、大間産冷凍本マグロと、ロケットランチャーという、異世界ファンタジーの欠片もない圧倒的暴力によって、わずか数十秒で完了してしまったのだった。
「……ふぅ」
ジークさんは、冷気ブレスを吐き終えて少し霜が取れたマグロを肩から下ろすと、やれやれと首を鳴らした。
「相変わらず、無茶苦茶だな。あいつの配信は」
ジークさんが、RPG-7の煙を吹いているキュララを見て、呆れたように呟いた。
その言葉に、私とキャルルさんの中で、限界まで張り詰めていたツッコミの導火線に火がついた。
「「冷凍本マグロから冷気ブレスを出すジークさんに言われたくありませんわ(ないわよ)!!」」
私とキャルルさんは、完璧に息の合ったデュエットで、ジークさんに向かって指をビシィッと突きつけた。
魔法陣でもなく、聖剣でもなく、海産物から極太の絶対零度ビームを放った男が、ロケットランチャーごときで無茶苦茶などと言えるはずがない。
しかし、ジークさんは私たちの総ツッコミを受けても、一切表情を変えずに、マグロの腹をポンポンと叩いた。
「何を言っている。大間産だぞ? 厳しい津軽海峡の荒波を生き抜いた極上の本マグロだ。冷気ブレスくらい出るだろ」
「「んなわけあるかあああッ!!」」
私とキャルルさんの渾身の絶叫が、ポポロ村の夕空に虚しく響き渡った。
青森県の漁師の方々に土下座して謝れ。
大間ブランドを何だと思っているのだ。マグロは冷凍されるから冷たいのであって、決して口からビームを吐くから冷たいわけではない。
私のデパ地下の知識と常識が、ジークさんの『野生の思考』によって完膚なきまでに破壊されていく。
「まぁ、いい」
ジークさんは、見事に解凍されつつある本マグロを見つめて、ニヤリと笑った。
「グリフィンを仕留め、マグロの解凍も完了した。一石二鳥の完璧な仕事だ。……さぁコトネ、約束通り、極上の寿司を握ってもらおうか」
「……はぁ。もう、ツッコミ疲弊で胃薬が手放せませんわ」
私は深く深いため息をつきながら、広場の真ん中に転がっているマグロを見つめた。
だが、そのマグロの横には、もう一つ、忘れてはならない『問題』が残されていた。
「ひぃぃっ……! ば、化け物や……! グリフィンより、お前らの方がよっぽど化け物やぁぁぁっ!」
地面に這いつくばり、完全に腰を抜かしている詐欺師・火原元。
そして、彼の首に嵌められた爆破首輪のタイマーは、依然として冷酷な電子音を響かせ、残り十秒を切っていた。
ピッ……! ピッ……! ピッ……!
「マズいですわ! グリフィンは倒せましたけど、あの首輪の爆発が……!」
私が再び青ざめた、その時だった。
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