生真面目なケンタウロス自警団長の『25歳のトラウマ』。特製バースデーケーキで自己肯定感を限界突破させてみました。
生真面目なケンタウロス自警団長の『25歳のトラウマ』。特製バースデーケーキで自己肯定感を限界突破させてみました。
「無許可営業、ならびに周辺の軍隊をたぶらかした容疑で、貴様らの店を監査させてもらう!」
ネギオ先生との交渉を終えた直後、重々しい蹄の音と共に現れたのは、ポポロ村自警団のリーダー、マンミアさんだった。
ケンタウロス種である彼女は、下半身が艶やかな毛並みの馬、上半身が凛とした美しい女性という姿をしている。
手には物騒な鎖と、巨大な盾を構えており、その生真面目そうな瞳で私たちをキッと睨みつけていた。
「監査、ですか?」
「そうだ! ルナミスや獣人の兵士たちが、最近この村の怪しい店で大量の金貨を浪費しているという報告を受けている。違法な薬物や、法外なボッタクリ商売をしているなら、元帝国騎士団長の名にかけてこの私が容赦しない!」
「ボ、ボッタクリやなんて人聞きの悪い! ワイらは需要と供給のバランスを正しく守った適正価格(ルビ:戦場レート)で商売しとるだけや!」
ニャングルが慌てて懐に帳簿を隠す。その動きが完全に悪徳商人のそれだ。
「まあまあ、マンミアさん。監査なら堂々と受けて立ちますよ。立ち話もなんですし、お店の中で美味しい紅茶でも飲みながら書類を見てください」
「ふん、賄賂で丸め込もうとしても無駄だぞ。私の正義は決して揺るがない!」
鼻息を荒くするマンミアさんを、私はオープンしたての【デパート】のテラス席へと案内した。
ジークが退屈そうに麦茶を飲む横で、マンミアさんはニャングルが渋々提出した分厚い書類(ドンガン地下帝国との契約書や、各部隊とのサブスク契約書)に目を落としていた。
「……書類上は完璧だな。抜け道すらない、むしろえげつないほど合法的な契約だ」
「せやろ? ワイの法務スキルを舐めたらアカンで」
マンミアさんは悔しそうに唇を噛むと、ふと、店内に設置されたガラス張りの冷蔵ショーケースへと視線を向けた。
そして、その端っこに置かれていた『ある札』を見て、ピタリと動きを止めた。
『本日のタイムセール・おつとめ品(30%オフ)』
それは、昨日のお弁当の余りや、少し時間が経ってしまった焼き菓子などを安く売るためのコーナーだった。
デパ地下ではお馴染みの光景だが、マンミアさんはその札を見た瞬間、耳をペタンと伏せ、この世の終わりのような絶望的な顔になった。
「……おつとめ品……三割引き……」
「マンミアさん?」
「……そうだ、どうせ私なんか、誰の背中にも乗ってもらえない売れ残りだよ……。クリスマスに店頭に並ぶ、半額シールを貼られたケーキと同じ……」
ブツブツと、マンミアさんが暗いオーラを放ちながら呟き始めた。
「私は今年で25歳だ。16歳で結婚するのが当たり前のこの世界で、25歳まで独身の女騎士……。しかもケンタウロスだぞ? そりゃ男だって、こんな馬力のある女より、可愛らしいエルフや猫耳の女の子を選ぶに決まってる……! どうせ私は、一生半額以下の人生なんだぁぁぁ!」
どんっ! と机に突っ伏し、マンミアさんはボロボロと大粒の涙を流し始めた。
「な、なんや突然!? 情緒不安定すぎるやろ!」
「……ニャングル。彼女にとって『25歳』と『値引き』は、絶対に触れちゃいけない地雷らしい」
ジークが冷静に分析する。
なるほど、生真面目で高潔な元騎士団長という仮面の下には、年頃の女性としての深刻な『自己肯定感の低さ』が隠されていたのだ。
パティシエとして、そしてデパートの女主人として、お客様の心をこんな状態のまま帰すわけにはいかない。
売れ残りのクリスマスケーキ? 半額以下の人生?
冗談じゃない。ケーキというものは、人を幸せにするために存在しているのだ。
「発動――【デパート】。極上アニバーサリー、特注ホールケーキ!」
私はスキルを発動し、最高級の素材で作られた一つのケーキをテーブルのど真ん中に召喚した。
「え……?」
涙を拭いながら顔を上げたマンミアさんが、息を呑む。
そこに現れたのは、真っ白な生クリームで美しくコーティングされた、大きなホールケーキだった。
上面には宝石のように輝く大粒のイチゴが敷き詰められ、精巧な飴細工で作られた真紅のバラが咲き誇っている。
そして、中央のチョコレートプレートには、華やかな文字でこう書かれていた。
『最高に美しく気高い女性へ。定価(ルビ:プライスレス)』
「マンミアさん。当店には、貴女のような凛とした美しい方に似合う『値引き品』なんて置いていません」
私はナイフを取り出し、ホールケーキを綺麗にカットして彼女の前に差し出した。
「年齢なんて関係ありません。女性は、美しく生きているその瞬間が常に『定価』で『最高級』なんです。村のために毎日汗を流すマンミアさんに、私からの日頃の感謝のプレゼントです。さぁ、泣いていないで食べてみてください」
「こ、こんな綺麗なケーキ、私が食べていいのか……?」
マンミアさんは震える手でフォークを持ち、ケーキを一口パクリと口に入れた。
その瞬間。
北海道産の最高級純生クリームの濃厚なコクと、とろけるようなスポンジの甘み、そしてイチゴの爽やかな酸味が、彼女の口の中で幸せのパレードを引き起こした。
「――――ッ!!」
マンミアさんの瞳から、さっきまでの暗い涙とは全く違う、大粒の真珠のような涙がポロポロとこぼれ落ちた。
「うぅぅ……美味しい……! 甘くて、優しくて……私、こんなに美味しいケーキを食べたのは初めてだ……!」
「ふふ、お気に召して良かったです」
「私……半額以下じゃない……! 私だって、こんなに綺麗で甘いケーキみたいに、誰かに大切にされる価値があるんだ……ッ!」
彼女はケーキを頬張りながら、声を出して大号泣した。
その顔は、もう自警団の厳しいリーダーのものではなく、一人の純粋な乙女の顔だった。
「せ、社長。この人、重すぎるだろ」
「ジークさん、静かに。女の子には色々あるのよ」
しばらくして、ケーキを完食し、すっかり泣き腫らした顔になったマンミアさんは、スッと背筋を伸ばして立ち上がった。
その瞳には、かつての迷いや卑屈さは消え、圧倒的な自信と使命感が宿っていた。
「コトネ殿! 監査の結果、この店舗は極めて優良であり、村の発展に寄与する重要拠点であると認定する!」
「あ、ありがとうございます」
「そして! このような素晴らしい精神と技術を持つ貴方たちを、野盗や理不尽な軍隊から守るため、今日から私、マンミアが率いる自警団が、この店の専属警備を担当させてもらう!」
マンミアさんは胸に手を当て、騎士の最敬礼を行った。
「コトネ殿のケーキと心意気、確かに受け取った! この店に手出しする者は、私の盾と鎖が容赦なく粉砕すると思え!!」
「お、おお……!」
ニャングルが「タダで最強の警備員が手に入ったで!」と歓喜のガッツポーズをしている。
ジークも「まあ、俺がサボれるならそれでいいや」と満足そうに頷いていた。
こうして、村の変人教師ネギオに続き、生真面目で乙女な自警団長マンミアさんという強力な味方を手に入れた私たち。
美味しいご飯と極上のスイーツは、確実にこの辺境の村の勢力図を『デパート』中心へと塗り替えていた。
――だが、私たちの快進撃の噂は、ついにルナミス帝国の軍上層部、そして天界のトラブルメーカーたちの耳にも届き始めていたのである。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
第6話、生真面目なケンタウロス自警団長・マンミアさんが仲間に(常連に)なりました!
「25歳の売れ残り」という重いトラウマを抱えていた彼女でしたが、コトネのデパ地下特注ケーキと優しい言葉で、見事に自己肯定感を限界突破!
これでジークの武力に加え、村の自警団という強固な防衛戦力がデパートの味方につきました。
次回、ついにルナミス軍で大きな動きが!
不味すぎる野戦食「ゲロオムレツ」に耐えかねた部隊長が、コトネのデパート飯を持って軍上層部に直訴!?
兵站無双が国を揺るがす第7話をお楽しみに!
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