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婚約破棄された元パティシエ令嬢、追放先で【デパート】を開業!守銭奴商人と規格外護衛を雇ったら、三カ国の軍と胃袋を支配してました  作者: 月神世一


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劣化コピーの限界 ~職人の魂と品質は、パクれませんわ~

 劣化コピーの限界 ~職人の魂と品質は、パクれませんわ~

「やめとけやぁぁッ! ワイを誰やと思っとる! ユニークスキル【劣化コピー(ジェネリック・イミテーション)】の使い手、火原様やぞォォッ!!」

怒り狂った群衆に取り囲まれ、絶体絶命の危機に陥った詐欺師・火原元は、血走った目をひん剥いて咆哮した。

彼は包囲網のわずかな隙間を縫って、私の展開した【デパート】催事場のガラスケースへと全速力で突進してきた。

「コトネ! 危ない、そいつから離れろ!」

ジークさんがパイプ椅子を片手に動こうとするが、私はスッと手でそれを制した。

「お待ちください、ジークさん。手を出してはいけませんわ」

「なに? だが、奴はお前の商品に……」

「ええ。どうぞ、お好きになさってくださいな」

私が一歩下がって道を譲ると、火原は狂ったような笑声を上げながら、ガラスケースに並べられた二つの商品に両手を叩きつけた。

一つは、私の職人技が詰まった最高傑作『デパ地下特製・完熟メロロンのプレミアム・ショートケーキ』。

もう一つは、ポポロ村の自警団も愛用している『タローマン製・超硬度魔導シールド(ハイグレードモデル)』である。

「ひゃははははッ! 嬢ちゃん、後悔しても遅いで! お前の店の看板商品を、ワイのスキルで丸パクリしたるわ! スキル発動……【劣化コピー】ゥゥッ!!」

火原の両手から、ドス黒い魔力が放たれた。

ポンッ、ポンッ! という軽い音と共に、彼の手元には、ガラスケースの中と全く同じ『見た目』をしたショートケーキと魔導シールドがポロリと生み出された。

「おおおっ……!?」

「す、すげぇ……一瞬でそっくりなもんを作り出しやがったぞ……!」

広場に集まっていた群衆が、どよめきを上げる。

火原のスキルは、対象の物質を瞬時に複製する。その『外見だけ』を忠実に再現する力だ。

彼が生み出したショートケーキは、完熟メロロンの鮮やかな果肉のツヤから、純白の生クリームの絞り目まで、私の作った本物と寸分違わぬ美しさを保っていた。魔導シールドも、表面の重厚な金属光沢を完璧に再現している。

「フハハハハハ! 見たか、このワイの究極のスキルを! お前らが金貨や銀貨で売っとるこの高級品、ワイなら無限に量産できるんや! 今からこれを、銅貨一枚で投げ売りしたるわ! お前のデパートなんか、一瞬で客が飛んで倒産やでぇぇッ!」

火原は勝利を確信したように、下品な笑い声を響かせた。

群衆の中に、「ど、銅貨一枚なら……」「俺も欲しい……」という誘惑に駆られる声がポツポツと漏れ始める。

だが、私はエプロンのシワを優雅に撫で伸ばし、ふふっ、と笑みをこぼした。

「……火原さん。あなた、本当に商売というものを分かっていらっしゃらないのね」

「なんやと! 負け惜しみか、小娘!」

「いいえ。では、皆さんの前で証明して差し上げますわ。……リーザちゃん!」

私は、先ほどから私の後ろで『ショートケーキ』という言葉に釣られてヨダレを垂らしていた地下アイドルを呼び寄せた。

「はいっ!? なんですの、コトネさん! 私にケーキを食べさせてくれるんですの!?」

「ええ。火原さんが今コピーしたそのケーキ、リーザちゃんが試食して感想を聞かせてちょうだい」

「や、やったぁぁぁっ! 無料(タダ)のケーキですわーッ!!」

リーザは火原の手からコピー品のショートケーキをひったくると、一切の躊躇なく、大きな口を開けてガブリと噛み付いた。

「パクッ……もぐっ…………。………………うっ」

次の瞬間。

リーザの顔色が、青、紫、そして土気色へと、目まぐるしく変化していった。

「うげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!? ぺっ、ぺっ! ま、マッズゥゥゥゥッ!! なんですのこれぇぇぇッ!?」

彼女は食べたばかりのケーキを豪快に吐き出し、舌を出して涙目でむせ返った。

「あ、甘くないどころか、スポンジがパサパサの砂みたいですわ! クリームはギトギトの工業用油みたいだし、メロロンはただの泥と粘土の味がしますわ! これなら、公園の雑草やパンの耳の方がまだ百倍マシですわーッ!!」

「な、なんやとォォッ!?」

火原が目を剥いて驚愕する。

「当然の結果ですわ」

私は腕を組み、冷徹な視線で火原を射抜いた。

「火原さん。あなたのスキルは『外見』をトレースするだけ。素材の分子配列や、成分の黄金比、焼き加減といった『内部構造』までは決してコピーできない。……私の作るケーキはね、完熟メロロンの魔性を中和するための計算し尽くされたリキュールの配合、小麦粉と卵を空気と混ぜ合わせる絶妙な温度管理、そして何より、美味しいものを食べていただきたいという『職人の魂』が詰まっているのよ」

「しょ、職人の魂やと……?」

「ええ。表面のクリームの形だけをパクっても、中身がスカスカの泥と粘土になるのは火を見るより明らか。……食を、そして職人の仕事を舐めないでいただけます?」

私の放った冷酷な事実に、群衆の中から「うわぁ……泥のケーキだってよ……」「タダでもいらねぇ……」という嫌悪の声が上がり始めた。

「ひっ……! け、ケーキは失敗やったかもしれんが、こっちのタローマン製シールドは本物や! 見ろ、この金属の輝きを! これがあれば魔物の攻撃も完全に……」

火原は慌てて、コピーした魔導シールドを胸の前に構えた。

「ジークさん、お願いしますわ」

「……あぁ」

私が声をかけると、ジークさんが面倒くさそうに一歩前に出た。

彼はタローマン製パイプ椅子を肩に担いだまま、もう片方の手の『人差し指』をピンと立てた。

「俺のタローマンジャージの耐久性を舐めるなよ。……お前のその盾が、どれほどの強度か試してやる」

ジークさんが、火原の構えた魔導シールドの表面を、人差し指で『ピンッ』と軽く弾いた。

本当に、子供がビー玉を弾くような、軽い動作だった。

パァァァァァァァァンッ!!

弾かれた瞬間。

超硬度金属であるはずの魔導シールドが、まるで薄いガラスか、乾いたクラッカーのように、粉々に砕け散った。

「へっ……?」

火原の腕には、シールドの持ち手だった部分の、ボロボロになった厚紙のような残骸だけが握られていた。

「……外側だけの厚紙だな。防弾チョッキの代わりにダンボールを仕込んでいるようなもんだ。こんなものを前線に持っていけば、ゴブリンの木の枝でも貫通するぞ」

ジークさんが、指先についた厚紙のクズをフッと吹き飛ばしながら、残酷な事実を宣告した。

「あ、あ、あああぁぁぁ……っ!!」

火原が後ずさり、ペタンと尻餅をついた。

「火原さん。あなたは過去にルナミス帝国でも、同じように粗悪なコピー武器を売りさばき、多くの冒険者を死地に追いやったそうですね」

私はゆっくりと彼に歩み寄り、見下ろした。

「形だけを模倣し、中身の安全性や品質を担保しない。それは商売ではなく、ただの殺人ですわ。職人が血の滲むような努力で築き上げた技術と、お客様の命……その両方を冒涜するあなたのような人間を、この百貨店シュクルの商圏で一秒たりとも野放しにはいたしません」

私の決定的な断罪の言葉に、ついに群衆の怒りが沸点に達した。

「殺せェェッ! こいつ、過去にも粗悪品で冒険者を殺してやがったのか!!」

「俺たちの銀貨を返せ! この詐欺野郎ォォッ!!」

怒り狂った村民と冒険者たちが、火原を完全に取り囲み、じりじりと距離を詰めていく。

もはや言い逃れは不可能。スキルの底も知れ、信用は完全にマイナスに振り切れた。

「ひぃぃぃっ! や、やめてくれ! 悪かった、ワイが悪かったから! 許してくれぇぇぇッ!」

火原は頭を抱え、涙と鼻水を垂らしながら命乞いを始めた。

だが、彼が本当に絶望するのは、群衆の怒りに対してではなかった。

『……おい。随分と無様な姿を晒しているじゃないか、火原』

突如として、広場の空気が凍りついた。

空間そのものが歪み、火原の背後に、漆黒のコートを着た長身の男が『音もなく』出現したのだ。

「す、スリー様……ッ!?」

火原が、縋り付くような、しかし極度の恐怖に引き攣った声でその名を呼んだ。

犯罪組織『ナンバーズ』の幹部、No.3 スリー。

空間転移(テレポート)のユニークスキルを持つ、闇のブローカーが姿を現したのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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