真贋判定! デパ地下特設・本物アンティーク&名産品フェア ~メッキは剥がれるためにあるのですわ~
真贋判定! デパ地下特設・本物アンティーク&名産品フェア ~メッキは剥がれるためにあるのですわ~
翌朝。
朝日に照らされるポポロ村の中央広場は、一夜にして煌びやかな異空間へと変貌を遂げていた。
「さぁさぁ皆様、おはようございます! 本日限定、『百貨店シュクル特設・本物アンティーク&名産品フェア』へようこそいらっしゃいました!」
私の声が、魔導マイクを通して広場に響き渡る。
ユニークスキル【デパート】によって現出したのは、深紅の絨毯が敷き詰められ、豪奢なシャンデリアが朝日に煌めく巨大な催事場空間だ。
精巧な細工が施された本物のアンティーク家具、ドワーフの国宝級職人が打ち出した真のミスリル武具、そして一切の不純物を含まない極上のポーション類が、磨き上げられたガラスケースの中で圧倒的な存在感を放っている。
「す、すげえ……! あれが本物のミスリルの輝きか……!」
「見ろよあのポーション、黄金色に澄み切ってやがる……!」
集まった村人や冒険者たちが、ため息を漏らしながらショーケースに見入っていた。
圧倒的な「本物」が放つオーラ。それを見せつけることこそが、今回の私の最大の目的である。
その華やかな催事場の片隅で、一人だけ顔面を土気色にして震えている男がいた。
悪徳詐欺師、火原元である。
彼は昨夜、私が『無料鑑定サービス』を宣言した後、夜逃げを図ろうとしたらしい。
だが、深夜三時に村からコソコソと逃げ出そうとしたところを、夜風に当たりながら競馬新聞を読んでいたジークさんに発見され、丸めた新聞紙で後頭部をフルスイングされて気絶し、広場のど真ん中へ強制送還されたのだった。
「ひっ……! は、離せや! ワイは忙しいんや! こんなインチキ催事場、さっさと出させろや!」
「……動くな。次の一歩を踏み出したら、お前の膝の関節をパイプ椅子で逆方向にへし折るぞ」
逃げ出そうとする火原の肩を、タローマンのジャージ姿のジークさんがガシッと掴んで押さえ込んでいる。彼の声には一切の感情がなく、それが逆に底知れない恐怖を煽っていた。
「それでは皆様、お待たせいたしました! 本日の目玉企画、『無料鑑定サービス』のお時間ですわ!」
私は純白の手袋をはめ、鑑定士用のルーペを右目に装着して、特設カウンターの前に立った。
「昨日、そちらの火原様から商品をご購入されたお客様。どうかご遠慮なく、お品物をこちらへお持ちくださいませ」
最初にカウンターへやってきたのは、昨日路地裏で火原に声をかけられていた、怪我をした若い下級冒険者だった。
彼の手には、怪しげな蛍光色に光る『月光薬の劣化コピー』が握られている。
「……嬢ちゃん、頼む。これに俺の全財産、銀貨三枚をはたいたんだ。本物だって言ってくれ……!」
「拝見いたしますわ」
私は小瓶を受け取り、フタを開けて匂いを嗅いだ。そして、デパートの化粧品フロアから持ち出した『成分分析試薬』を、スポイトで一滴だけその液体に垂らす。
シュワッ……! という音と共に、蛍光色だった液体が一瞬にしてドブのような濁った緑色に変色し、ツンとしたカビの匂いを放ち始めた。
「……残念ながら、これは『月光薬』ではありません。ただの泥水に、洞窟の発光ゴケの汁を混ぜただけの代物ですわ」
「な、なんだって……!?」
「本物の月光薬は、試薬に反応して黄金色に輝く性質を持っています。これを傷口に塗れば、治るどころか重度の感染症を引き起こし、最悪の場合は患部を切断することになりますわよ」
私の冷酷なまでの鑑定結果に、若い冒険者の膝から崩れ落ちた。
「お、俺の銀貨三枚が……ドブ水に……!」
「う、嘘や! そいつの試薬がインチキなんや! ワイの薬は本物……」
「黙りなさい」
火原の言い訳を、私はピシャリと遮った。
「次のお客様、どうぞ」
次に現れたのは、腰の曲がったお婆さんだった。
彼女が差し出したのは、火原が『魔族の呪いを防ぐ』と豪語していた【厄除けミスリル数珠】である。
「ジークさん。こちら、強度の確認をお願いできますか?」
「あぁ。造作もない」
ジークさんが歩み寄り、その数珠を親指と人差し指で軽く摘んだ。
そして、ほんの少しだけ闘気を込めて指先に力を入れる。
グシャァッ!!
甲高い音を立てて、数珠の玉が無惨にもペチャンコにひしゃげた。
「本物のミスリルであれば、ドラゴンの牙すら弾き返します。指で摘んでひしゃげる金属など、ただのアルミホイルかスズの丸め物に過ぎませんわ。原価は銅粒二枚といったところでしょうか」
「お、おお……私のなけなしの年金が……アルミホイルに……」
お婆さんが涙ぐみ、周囲の村人たちから「おい、どうなってんだよ!」「あの詐欺師、年寄りまで騙しやがったのか!」という怒りの声が上がり始める。
そして、最後にカウンターへドンッと置かれたのは、ひときわ見覚えのある悪趣味な『黄金の壺』だった。
持ち込んだのは、もちろん芋ジャージ姿のルチアナ様とリーザちゃんである。
「コトネ! この壺も鑑定しなさいよ! 昨日、火原の奴が『金運が爆上がりする』って言ってたんだから!」
「そうですわ! 私たちの背後の貧乏神のオーラを払ってくれる神の壺ですわ!」
未だに一縷の望みを捨てきれていない二人に、私は深い哀れみの視線を向けた。
「……ルチアナ様、リーザちゃん。よく見ておいてくださいな。メッキというものは、剥がれるためにあるのですわ」
私はデパートの清掃用品コーナーから取り出した『強力メラミンスポンジ』を水で濡らし、黄金の壺の表面をごしごしと擦り始めた。
するとどうだろう。
「ああっ……!?」
「そ、そんな……! 黄金が、黄金が溶けていきますわーッ!?」
黄金の輝きはメラミンスポンジに無惨にも削り取られ、下から現れたのは、ボロボロと崩れやすい、どこにでもある赤茶色の『泥粘土』であった。
「これが現実ですわ。ただの泥壺に、極薄の粗悪な金メッキを施しただけの【ハリボテ】。原価はゼロに等しい粗大ゴミです。……火原さん。あなたはこれに、元本の100%が複利で増え続ける『魔法のローン契約書』を添えて、彼女たちに売りつけましたわね?」
私の声は、もはや怒りを通り越して氷のように冷え切っていた。
広場の空気も完全に凍りついている。群衆の視線が、一斉に火原へと集中した。
「わ、ワイは知らん! そいつらが勝手に勘違いして買ったんや! ワイはただ、開運の『祈り』を込めた壺を売っただけで……!」
「祈りや信仰心は、粗悪品を高値で売りつける免罪符にはなりませんわ!」
私はカウンターをバンッと叩いた。
「商人の誇りとは、商品の『品質』そのものに宿るのです! お客様の無知や不安につけ込み、価値のないガラクタを押し付け、未来まで借金で縛り付ける……それは商売ではなく、ただの略奪! デパートの看板にかけて、あなたの存在をこの市場から完全に追放いたしますわ!!」
私の宣言と共に、群衆の怒りがついに爆発した。
「ふざけんなァァァッ! 俺の銀貨を返せ!!」
「詐欺師め! 村から叩き出してやる!」
「私の月人君完凸の夢を返してよぉぉっ! 天罰よ! 神の怒り(雷)を落としてやるわ!」
怒り狂った冒険者や村人、そして頭上に雷雲を発生させ始めた駄女神が、火原を包囲してジリジリと距離を詰めていく。
「ひっ……! くるな! 寄るなやぁぁッ!」
腰を抜かして後ずさる火原。
だが、彼はまだ完全に心を折られてはいなかった。
追い詰められたネズミが猫を噛むように、彼の血走った目が、私の背後に並ぶデパートの極上スイーツや、高級武具のショーケースへと向けられる。
「こ、このまま終わるかァァッ! ワイにはユニークスキル【コピー】があるんや! お前が偉そうに並べとるそのケーキも、タローマンの防具も、ワイが片っ端からコピーして半額以下でばら撒いたるわ! どっちが本物の商人か、見せつけたるからなァァッ!」
火原は狂ったように叫び、一縷の望みをかけて私のデパ地下商品へと手を伸ばそうとした。
「……愚かですわね」
私は哀れむように目を伏せた。
商品の『表面(見た目)』しかコピーできない彼のスキルが、何十年という修練を積んだ『職人の手』と『デパートの品質』の前に、どれほど無力であるか。
それを、身をもって思い知らせてあげる時間だった。
読んでいただきありがとうございます。
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