大団円のデパ地下回転寿司 ~偽金には買えない、本物の笑顔とトロの味~
大団円のデパ地下回転寿司 ~偽金には買えない、本物の笑顔とトロの味~
世界樹の化身『クィーン』との間に、毎月純金五十キロを代金とする「オーガニックデリ定期配送(外商)契約」を結んだ翌日。
ポポロ村の広場には、未曾有の危機を乗り越えたことを祝うための、巨大な特設会場が設営されていた。
「皆様! 本日はポポロ村防衛完了、ならびに世界樹様との歴史的通商条約締結を祝しまして、当店が誇る最高のエンターテインメント・ダイニングをご用意いたしましたわ!」
私はコックコートに身を包み、広場の中央で高らかに宣言した。
そして、ユニークスキル【デパート】の魔力を全開にして解放する。
「オープン! 【デパート】レストラン街、特設・超大型回転寿司フロア!!」
眩い光と共に、広場全体に巨大なカウンターとボックス席、そしてその間を縫うように走る『レーン』が出現した。
レーンの上には、色とりどりの小皿に乗った美しい寿司たちが、規則正しい等間隔でカタカタと音を立ててパレードをしている。各席には注文用のタッチパネル式魔導端末と、お湯が出る給湯器、そして粉末緑茶が完備されていた。
「な、なんやこれは……! 食べ物が、勝手に目の前を流れていくで!?」
ゴルド商会のニャングルさんが、目を丸くしてレーンを見つめている。
「これが私の前世の世界の誇る食のエンタメ、『回転寿司』ですわ! さぁ皆様、お好きな席について、流れてくるお皿をご自由にお取りくださいませ!」
私の合図と共に、村長公邸のシェアハウス組が一斉にボックス席へと雪崩れ込んだ。
「わぁぁぁぁっ! サーモンですわ! 脂が乗ってキラキラ光る、本物のサーモンですわーッ!!」
芋ジャージ姿のリーザが、流れてきたサーモンのお皿をひったくるように手に取り、そのまま口に放り込んだ。
彼女の瞳から、ボロボロと大粒の涙がこぼれ落ちる。
「うぅぅ……美味しい……! パンの耳じゃない……その辺の公園の雑草でもない……お魚が、お口の中でとろけますわぁぁっ!!」
「リーザちゃん、泣きながら食べるのはやめなさい。ほら、こっちの『ピラダイの炙りマヨネーズ』も美味しいわよ」
村長のキャルルさんが、呆れながらもリーザの前に次々とお皿を積んでいく。
「はい、全国のリスナーの皆さ〜ん! キュララちゃんねる、本日はポポロ村の祝賀会から生配信ですっ☆ 見てくださいこのお寿司! 私、今日は限界突破の百皿食いチャレンジやっちゃいますよー!」
聖騎士の鎧を着たキュララが、魔導カメラに向かって元気にピースサインを決める。
しかしカメラの死角では、「ほらリーザちゃん、このエンガワも食べなさい」と、自分が取った皿を次々と貧乏アイドルの口へ放り込むという、高度な『ヤラセ(餌付け)』を行っていた。
「ちょっと! 私の『海老アボカド』を取らないでよ! 永遠の17歳には上質な脂質とコラーゲンが必要なの!」
「神様が海老アボカドごときでガタガタ言わないの! こっちは蹴り技で酷使した筋肉を修復するためにタンパク質が必要なのよ!」
ルチアナとキャルルが、流れてきた一皿の海老アボカドを巡って、割り箸で激しいチャンバラを繰り広げている。
そんなカオスなボックス席から少し離れたカウンター席では。
「……悪くない」
私の専属護衛であるジークさんが、タローマンのジャージ姿で一人静かに湯呑みを傾けていた。
「ジークさん、お寿司は食べないんですか?」
「いや。この粉末の緑茶……自分で適量をお湯に溶かして飲むこのシステムが、妙に心を落ち着かせる。戦場の喧騒を忘れさせる、実に合理的な一杯だ」
「お茶で満足しないでください! ほら、大好物の『ロックバイソンの特製炙り肉寿司・チーズ乗せ』が来ましたわよ!」
「……! いただく」
ジークさんは湯呑みを置くと、目にも留まらぬ速さでレーンから肉寿司の皿を掠め取った。やはり肉とチーズには勝てないらしい。
「コトネさん。これは、とっても不思議で楽しいお食事ですわね!」
ふんわりとした笑顔でカウンターに座っていたのは、今回の騒動の元凶である天然サイコパスエルフ、ルナ様だった。
彼女は、目の前を通り過ぎていくお寿司たちをキラキラした目で見つめている。
「でも、こんなにたくさんのお料理……お代は一体いくらになりますの? 私、昨日のお詫びに、今ここでお支払いいたしますわ!」
ルナ様はそう言うと、懐からあの『三日で石に戻る偽金の袋』を取り出そうとした。
「お待ちください、ルナ様」
私はルナ様の手を優しく制止した。
「本日は村の祝賀会ですから、お代は一切いただきません。……それに、ルナ様。この『デパート』において、お客様から頂戴したい本当の対価は、その金貨ではないのですわ」
「金貨では、ない……?」
「ええ。確かにルナ様の魔法は凄いです。何もないところから、果物や金貨を一瞬で生み出すことができます。でも……」
私はレーンの向こう側、厨房スペースで寿司を握っている『自動寿司ロボット(デパ地下仕様)』と、それを美しく盛り付ける私の手元を指し示した。
「私たちの提供する商品は、魔法でポンッと出したものではありません。ネタの仕入れ、鮮度管理、シャリの温度、そしてお客様にどうすれば楽しんでいただけるかという『職人の工夫と時間』が詰まっています。……私たちが本当に欲しいのは、その工夫に対するお客様からの『美味しい』という笑顔。それが、偽金では絶対に買えない、本物の価値(信用)ですわ」
ルナ様は、不思議そうに瞬きをした。
そして、目の前を流れてきた『世界樹の蜂蜜入り・特製厚焼き玉子』を手に取り、小さく口に運んだ。
「――――あ……」
ルナ様の瞳が、ふわりと見開かれた。
それは魔法で錬成しただけの味気ない甘さではなく、出汁の旨味と、卵のコク、そして計算し尽くされた職人の火加減が融合した、極上の味わい。
「……美味しい……。とっても、心が温かくなりますわ……」
ルナ様の目から、ホロリと一筋の涙がこぼれた。
彼女は初めて、「誰かが自分のために手間暇をかけて作ったもの」の本当の価値に触れたのだ。
「うふふ、ありがとうございます。その笑顔こそが、私にとって最高の報酬ですわ」
私がウインクを返した、その時だった。
『ファンファーーーン♪ タイムセールのお知らせです!』
店内に、突如として激しいファンファーレが鳴り響いた。
「さぁさぁ皆様! 本日の目玉商品の登場ですわ! シーラン国の深海から一本釣りされた幻の巨大魚、『マグローザの極上大トロ』!! そして、世界樹の香木でスモークした『特製炙りサーモン』が、特急レーン(新幹線型トレイ)で発射されますわよーッ!!」
私がマイクでアナウンスした瞬間、店内の空気が一変した。
「な、なんだってェェェッ!?」
「大トロ! マグローザの大トロですって!? 借金返済のために男たちがドナドナされるあのマグローザの、一番美味しいところですわーッ!!」
リーザが目を血走らせ、箸を刀のように構えた。
「私のよ! 永遠の17歳のお肌の曲がり角を救うのは極上のDHAなのよ!」
ルチアナが女神の神気を解放し、背後に後光を輝かせる。
「譲らないわよ! 自警団の激務と流星脚の疲労を回復させるには、マグローザのタンパク質が不可欠なの!」
キャルルが特注の安全靴を鳴らし、いつでもテーブルの上を飛び石にして跳躍できるクラウチングスタートの姿勢をとる。
「は、速報です! 大トロと炙りサーモンを巡る、神と兎と王女の聖戦が今、始まろうとしています!」
キュララが実況モードに入り、カメラを回す。
『シュゴォォォォォォンッ!!』
そして、厨房から新幹線型の特急トレイに乗せられ、黄金の皿に鎮座した『極上大トロ』と『炙りサーモン』が、猛スピードでレーンを射出された!
「いくわよぉぉぉッ!!」
「私のよぉぉぉッ!!」
キャルルが空気を蹴って『乱れ流星脚』の三角跳びでレーン上空へ舞い上がり、ルチアナが女神の念動力で皿を引き寄せようとし、リーザが【貧乏神】の吸引力でお賽銭箱型バキュームを発動する。
三者の手が、黄金の皿に届く、そのコンマ一秒前。
「――兵站の基本は、敵より先に補給線を制圧することだ」
シュッ……!!
彼女たちの真横から、黒紅の『闘気』を纏った二本の割り箸が、音速を超えたスピードでスナイパーライフルのように突き出された。
割り箸は、見事な精密軌道で特急トレイの上から「大トロ」と「炙りサーモン」だけを寸分違わず挟み込み、そのまま電光石火の早業で持ち主の口元へと運ばれていった。
「……む。この大トロ、見事な脂の乗りだ。口の中で溶ける。サーモンも燻製の香りが引き立っているな」
コタツから抜け出し、いつの間にかレーンの最前列(川上)に陣取っていたジークさんが、モグモグと口を動かしながら渋い顔で頷いていた。
「あァァァァァァァァァッ!!? 私の大トロがぁぁぁぁぁッ!!」
「ジークゥゥゥッ! このタローマンジャージのド泥棒ォォォッ!!」
「マグローザァァァァァッ!!」
絶望の悲鳴を上げるリーザたち。
「おいおい、勝負は早い者勝ちだ。悔しかったら、俺の『野生の思考(割り箸無双)』を超えるスピードで取ってみせろ」
ジークさんは涼しい顔で粉末緑茶をすする。
「ああもう! ジークさん、大人げないですよ! 安心してください皆様、大トロもサーモンも、在庫はまだまだ『デパ地下』に山ほどありますからねーっ!」
私が厨房から追加の特急トレイを何台も発射すると、再び店内は歓声と怒号、そして割り箸が飛び交う大乱戦の宴会へと戻っていった。
「うふふ……あははははっ!」
そのカオスな光景を見つめながら、ルナ様が心からの笑顔で笑い声を上げていた。
偽金では買えない、本物の料理と、本物の笑顔。
そして、仲間たちと一つの皿を奪い合う、騒がしくも温かい食卓。
「……ええ村やな、コトネはん」
ニャングルさんが、熱燗をチビリとやりながら目を細める。
「ええ。本当に、最高のお客様たちですわ」
私はエプロンを外し、皆の輪の中へと飛び込んでいった。
天然サイコパスエルフの襲来から始まった、ポポロ村の市場崩壊と世界樹の危機。
それらはすべて、私の【デパート】が誇る極上の兵站(スイーツと回転寿司)によって、見事に胃袋の中へと収められたのである。
(第五章 天然エルフと百貨店の経済狂想曲 完)
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