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婚約破棄された元パティシエ令嬢、追放先で【デパート】を開業!守銭奴商人と規格外護衛を雇ったら、三カ国の軍と胃袋を支配してました  作者: 月神世一


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最強の兵站、世界樹を手懐ける ~心配性な大樹と、オーガニック外商契約~

最強の兵站、世界樹を手懐ける ~心配性な大樹と、オーガニック外商契約~

ズウゥゥゥゥゥゥンッ……!!

ポポロ村の防壁前に広がる荒野が、波打つように隆起した。

大地を割り、土砂を撒き散らしながら姿を現したのは、見上げるほどに巨大な『女性の姿をした大樹』だった。

世界樹の権限を掌握し、あらゆる命を自然(土)へと還す最高位の化身――『クィーン』。

『……我ガ……愛シ子ヨ……。腹痛ハ……治リマシタカ……?』

空気を震わせ、脳内に直接響く念話。

その言葉自体は娘を心配する母親そのものなのだが、彼女が放つ魔力とプレッシャーは、三大国の正規軍ですら一瞬で戦意を喪失するほどの『神話級の暴力』だった。

「あ、あかん……! クィーンが本気出したら、ポポロ村ごと更地にされてまう……! コトネはん、逃げるで! ワイの算盤と現金だけ持って地下シェルターに……!」

ニャングルさんが、尻尾の毛をタワシのように逆立てて悲鳴を上げた。

「お待ちください、ニャングルさん。あのお客様は、決してポポロ村を滅ぼしに来たわけではありませんわ」

「はぁ!? あんな巨大な殺意の塊が目の前におるんやで!?」

「いいえ、あれは殺意ではありません。……過剰なまでの『親心』です」

私は深呼吸をし、ユニークスキル【デパート】の更衣室機能を使って、一瞬で服装を切り替えた。

コックコートとエプロンから、仕立ての良い漆黒のパンツスーツへ。胸元には、一流百貨店の外商部(VIP専門の訪問販売員)であることを示す金色のネームプレートが輝いている。

「ジークさん、少しだけ後ろに控えていてください。ここからは、武力ではなく『商談』の時間ですわ」

「……あぁ? まぁ、俺はジンギスカンを食うのに忙しいからな。しくじるなよ、コトネ」

ジークさんは、植物兵器(ビショップ)と肩を組みながら、ジョッキの生ビールをあおっている。最強の護衛は、すでに戦う気を完全にオフにしていた。

私は背筋をピンと伸ばし、圧倒的な威圧感を放つクィーンの足元へと進み出た。

「初めまして、世界樹の化身様。私はこの『百貨店シュクル』のオーナーにして、外商部責任者のコトネと申します。遠路はるばるのご来店、誠にありがとうございます」

私は両手を体の前で重ね、リッツ・カールトン流の完璧な最敬礼でお辞儀をした。

巨大な大樹の女性が、ゆっくりと首を傾げ、私を見下ろした。

『……人間ヨ……。貴様ラノ中ニ……我ガ愛シ子ニ……毒ヲ盛ッタ者ガイルナ……? 我ガ子ノ……腹痛ト苦シミ……万死ニ値スル……』

クィーンの周囲の空気が急速に冷え込み、無数の巨大な茨の鞭が空中でうねり始めた。一振りで村の防壁を粉砕しかねない威力だ。

「お待ちください、お母様(世界樹様)!」

私を庇うように、スーツ姿の私の横へ飛び出してきたのは、ルナ様だった。

彼女の口元には、さっきまで食べていたショートケーキの生クリームがちょっぴりついている。

「コトネさんは毒なんて盛っていませんわ! 彼女の作るお菓子が美味しすぎて、私がつい食べ過ぎてしまっただけなんですの!」

『……本当カ……? 外ノ世界ノ食ハ……粗末デ……不衛生ダト聞ク……。我ガ子ガ……栄養失調ニナリハシナイカ……悪イ虫ガツカナイカ……母ハ……夜モ眠レヌノダ……』

クィーンの声が、急にシュンと小さくなった。うねっていた茨の鞭も、まるで力のない柳のようにダラリと垂れ下がる。

どうやら、完全なるモンスターペアレント(心配性な母親)であることは間違いないらしい。

「お母様ったら、心配しすぎですわ! 私は毎日、コトネさんのところで美味しいものをいただいて、健康そのものですのよ!」

『シカシ……甘イモノバカリデハ……虫歯ニナル……。昔ノヨウニ……痛クテ泣クノハ……可哀想ダ……。ヤハリ……森ヘ連レ帰リ……私ガ管理シタ方ガ……』

クィーンが、巨大な手でルナ様を掬い上げようと身を屈めた。

「そこまでですわ、お客様」

私は凛とした声で、クィーンの動きを制止した。

そして、足元に魔法陣を展開する。

「当デパートを、その辺の粗末な食堂と一緒にされては困りますわ。甘いスイーツだけが当店の売りではありません。……オープン! 【デパート】B1F、特設オーガニックデリ&高級惣菜コーナー!」

私の背後に、緑豊かなショーケースがズラリと出現した。

そこに並んでいるのは、ただの惣菜ではない。前世のデパ地下でも一部の健康志向のセレブにしか手が出せなかった、究極のオーガニック(無農薬・自然派)食品の数々だ。

「こちらは、三十品目の有機野菜をふんだんに使用した『大地の恵み・特製キヌアサラダ』。そして、最高級のシープピッグの赤身肉を、ハーブと岩塩のみで低温調理した『極上ローストポーク』。さらに、陽薬草の成分を抽出してブレンドした『特製デトックス・グリーンスムージー』でございます!」

私は次々と、色鮮やかで栄養満点なオーガニックデリをテーブルの上に並べていった。

「ルナ様には、スイーツだけでなく、これらの栄養管理が行き届いたお食事も毎日召し上がっていただいております。世界樹の化身様、どうぞ、我が百貨店の『食の安全』を、その舌で直接お確かめくださいませ!」

私は、巨大なクィーンの顔の前に、デパートの魔法で巨大化させたスプーンを浮遊させ、オーガニックデリのフルコースを差し出した。

『……人間ノ……食事ナド……』

クィーンは疑わしげに目を細めたが、ルナ様が「本当に美味しいんですのよ!」と勧めるため、渋々といった様子でキヌアサラダを口に含んだ。

『――――ッ!?』

その瞬間。

クィーンの巨大な樹木の体が、ビクゥッ! と大きく震えた。

彼女の頭頂部から、ポンッ、ポンッ! と、美しい桃色の花が次々と咲き乱れる。

『コ……コレハ……。なんという……大地の生命力……! 根から吸い上げる純粋な水よりも清らかで……それでいて、三十種類もの野菜の複雑な味わいが……見事に調和している……!』

クィーンの念話から、先ほどの禍々しいプレッシャーが完全に消え去り、代わりに「高級レストランで感動する貴婦人」のようなウットリとした感情が伝わってきた。

「いかがでしょうか。当店では、保存料や人工着色料は一切使用しておりません。素材の味を極限まで引き出す『職人の手』と、完璧なカロリー・栄養計算によって、ルナ様の健康を二十四時間体制でサポートさせていただいております」

『……素晴らしい。これほど完璧な食事ならば……愛し子が栄養失調になる心配は……ないな……』

クィーンが、安堵したように大きなため息を吐いた。

その溜息と共に、周囲に漂っていた緊迫した空気が、春のそよ風のように柔らかく解けていく。

「ご安心いただけて何よりですわ。……さて、世界樹の化身様」

私は、ニッコリと、この上なく素晴らしい『外商員(トップセールス)』の笑顔を浮かべた。

「もしよろしければ、当店と『特別外商契約(定期配送サービス)』を結びませんか?」

『……ガイショウ……ケイヤク……?』

「ええ。毎月、この極上のオーガニックデリと、ルナ様がお好きな特製スイーツの詰め合わせを、我が【デパート】の配送部門(ルナイーツ)が、世界樹の森の奥深くまで直接お届けにあがります。これなら、化身様ご自身も、毎日森から出ることなく、娘様と同じ美味しいお食事をお楽しみいただけますわよ」

クィーンの巨大な瞳が、ピクリと反応した。

『私ニモ……コノ美味ナ食事が……届クノカ……?』

「もちろんでございます。何しろ、化身様は村を一つ消滅させかねないほどの力をお持ちの、当店の『超VIP』ですから。特別待遇をお約束いたしますわ」

私はすかさず、羊皮紙で作った契約書と万年筆を取り出した。

「お代につきましては……そうですね。ルナ様に毎月『お小遣い』として送られているという、【純金100kg】。あれの『半分(50kg)』を、毎月の定期配送サービス代金として頂戴する、というのはいかがでしょうか?」

『なんと。たったそれだけで良いのか? 安いものだ。ぜひ頼む』

クィーンは、巨大な指先から一滴の樹液を垂らし、あっさりと契約書に『世界樹の承認印』を押した。

商談成立である。

「毎度ありがとうございます! 百貨店シュクル外商部、末永いお付き合いをよろしくお願いいたしますわ!」

私は深々と、最高のお辞儀をした。

「……コトネはん」

私の背後で、ニャングルさんが震える声で呟いた。

「ルナはんの持っとる純金100kgは、市場に流れたらポポロ村の経済がインフレで吹き飛ぶ劇薬や。それを、月額サービスの『代金』として回収して塩漬けにしつつ……実質的に、ポポロ村に合法的な外貨(金塊)の備蓄を生み出しよった……」

ニャングルさんは、ペタンと座り込み、天を仰いだ。

「インフレの危機を回避し、モンスターペアレントを手懐け、無敗の植物軍団を常連客に変えた……。コトネはん、あんたホンマに天才や! 天才の悪魔の商人やぁぁぁっ!!」

「悪魔ではありません。お客様のニーズにお応えする、誠実な販売員ですわ」

私はニャングルさんにウインクを返した。

『……コトネヨ。我ガ子ヲ……頼ンダゾ……』

「はい、お任せくださいませ」

クィーンは満足げに頷くと、巨大な体を再び大地の中へと沈めていった。

後に残されたのは、すっかり宴会モードでジークさんと肩を組んでいる植物兵器(ポーンやビショップ)たちと、平和なポポロ村の広場だけだ。

「……おい、コトネ。話がまとまったなら、ジンギスカンの肉を追加しろ」

ジークさんが、空になったジョッキを掲げて要求してくる。

「もう、ジークさんったら。今日は非番のはずなのに、すっかり宴会部長じゃないですか」

「うるさい。この植物ども、意外と酒の飲みっぷりが良くて気が合うんだ。ほら、飲め」

「ギギギッ♪(ビールを吸収する音)」

私は苦笑しながら、巨大な鉄板に新しい肉を並べ始めた。

ルナ様の引き起こした未曾有の危機は、こうしてデパートの『食の力』と『外商契約』によって、極めて平和的に、かつビジネスライクに解決されたのである。

「さぁ、明日は打ち上げですわね! デパートの総力を挙げて、とびきりの宴会をご用意いたしますわよ!」

「わぁっ! 楽しみですわ、コトネさん♡」

ルナ様が無邪気に笑う。

翌日、私がポポロ村に『回転寿司のレーン』を完全召喚し、さらなるカオスな大宴会が繰り広げられることになるのだが……それはまた、別のお話である。

読んでいただきありがとうございます。

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