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婚約破棄された元パティシエ令嬢、追放先で【デパート】を開業!守銭奴商人と規格外護衛を雇ったら、三カ国の軍と胃袋を支配してました  作者: 月神世一


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屋上遊園地ビアガーデン防衛戦 ~パンダカーの狂宴と、冷えた生ビールの結界~

屋上遊園地ビアガーデン防衛戦 ~パンダカーの狂宴と、冷えた生ビールの結界~

『パ〜プ〜♪ ポ〜プ〜♪ ペ〜ポ〜パ〜ポ〜ピ〜♪』

ポポロ村の防壁前に展開された【デパート】の屋上遊園地。

そこに、なんとも気の抜けた、電子音の可愛らしいメロディが響き渡っていた。

百円玉を入れると二分間だけ動く、デパートの屋上でお馴染みの遊具『メロディ・パンダカー』の稼働音である。

だが、そのパンダカーが走っているのは平和な遊園地のマットの上ではない。

地鳴りを立てて進軍してくる、世界樹の無敗の植物軍団――その最前線のど真ん中である。

「……俺の、某国の筆頭騎士としての輝かしい経歴も、ついにここまで地に落ちたか」

パンダカーの背中に跨り、無表情でハンドルを握っているのは、私の専属護衛であるジークさんだ。

タローマンのジャージ姿の男が、窮屈そうにパンダの遊具に乗っている。傍から見ればただの罰ゲームかシュールなギャグにしか見えない。

しかし、そのパンダカーは異常だった。

ジークさんの全身から噴き出す、どす黒い赤色をした超高密度の『闘気』。それがパンダカーのモーターと車体に完全にコーティングされ、ただの遊具が『神話級の質量兵器』へと変貌していたのだ。

ズゴゴゴゴゴゴゴォォォォォッ!!

『パ〜プ〜♪ ポ〜プ〜♪』の気の抜けた音楽と共に、闘気を纏ったパンダカーが時速二百キロを超える猛スピードで荒野を爆走し、凄まじいドリフトをキメる。

その圧倒的な質量と遠心力によるタックルが、前衛の樹人歩兵『ポーン』の群れに激突した。

「ギギギィィッ!?」

ポーンたちが自慢の木製パイルバンカーを構えるより早く、パンダカーの無慈悲な突撃が彼らの陣形をボウリングのピンのように弾き飛ばしていく。

「チッ……数が多すぎるな。俺の休日の午睡を邪魔する雑草どもめ、少しは手加減して刈り取ってやる」

ジークさんは片手でパンダカーのハンドルを握りながら、もう片方の手で、私が先ほどB1Fのベーカリーから渡した『焼き立てのフランスパン(バゲット)』を引き抜いた。

長くて硬い、本場仕込みのフランスパン。それにジークさんの闘気が限界まで圧縮して注ぎ込まれると、パンの表面が鋼鉄すら凌駕する黒光りを放ち始めた。

「ギシャァァァッ!!」

高機動のケンタウロス型樹人『ナイト』が、空気を蹴りながら死角からジークさんにランスを突き立てようとする。

「遅い」

ジークさんがフランスパンを一閃。

パァンッ!! という小気味よい破裂音と共に、ナイトの強固なランスが根本からへし折れ、その衝撃でナイト自身が遙か後方へと吹き飛ばされた。

パンダカーで爆走しながら、フランスパンで植物兵器を粉砕するジャージの男。

ポポロ村の自警団リーダーであるマンミアさんが、防壁の上で「あんな戦い方、どこの騎士学校でも教わってない……っ!」と頭を抱えていた。

「コトネはん! ジークはんが前衛を足止めしてくれとる間に、こっちの準備もできたで! 樽生ビール、全サーバーに装填完了や!」

屋上ビアガーデンのカウンターで、ニャングルさんが猫耳を逆立てながら叫んだ。

彼の目の前には、数十台の最新式ビールサーバーがズラリと並んでいる。

「ありがとうございます、ニャングルさん! こちらのバーベキューグリルも鉄板の温度は最高潮ですわ! A5ランク黒毛和牛のカルビ、厚切り牛タン、そして特製ダレに漬け込んだジンギスカン! デパ地下の誇る極上肉のフルコース、焼きに入ります!!」

私はコックコート姿で巨大な鉄板の前に立ち、山のような肉を次々と焼き始めた。

ジュウウウウウッ!!

という食欲をそそる爆音と共に、焦げた醤油とニンニク、そして極上の脂が溶け出す圧倒的な『暴力的な匂い』が、屋上ビアガーデンに立ち込める。

「いくら無敵の植物軍団とはいえ、彼らもまた『生きた有機体』! そして世界樹から生み出された存在ならば、大地と自然の恵みである『栄養』には敏感なはずですわ! デパートの巨大送風機、スイッチオン!!」

私は家庭用品フロアから持ち出した巨大な扇風機を何台も並べ、鉄板から立ち上る極上のBBQの匂いと、キンキンに冷えた生ビールの酵母の香りを、進軍してくる後続の植物軍団に向けて全力で送風した。

「さぁ、いらっしゃいませ! 遠路はるばるポポロ村までご足労いただき、誠にありがとうございます! 長旅でお疲れのお客様、まずは冷たい一杯と、スタミナ満点のお肉で疲労を回復していきませんかーッ!?」

私の澄んだ営業ボイスが、戦場に響き渡る。

その瞬間。

ジークさんのパンダカー突撃を躱し、防壁に肉薄しようとしていた植物の魔術師型『ビショップ』たちの動きが、ピタリと止まった。

彼らは本来、感情を持たない殲滅兵器のはずだ。

しかし、彼らの顔のあたりにある葉っぱが、ヒクヒクと奇妙な動きを見せ始めた。

『……ォ……ォォ……』

植物たちが、うめき声のようなものを漏らす。

そして、彼らが編み上げていた広域殲滅魔法の魔法陣が、スッと霧散した。

「……あれ? 魔法が消えたで?」

ニャングルさんが不思議そうに目を瞬かせる。

「ええ! 私の予想通りですわ! 植物だって生き物、極上の栄養素(アミノ酸)と発酵の香り(アルコール酵母)には抗えないんです!」

私はトングで焼き上がったばかりの分厚いカルビを掴み、大皿に山盛りにすると、さらにキンキンに冷えた特大ジョッキの生ビールをドンッと置いた。

「さぁさぁ、立ちっぱなしでは疲れるでしょう! こちらのお席へどうぞ! おしぼりも冷えておりますわよ!」

ビショップたちが、フラフラと吸い寄せられるように屋上ビアガーデンのテラス席へと歩み寄ってきた。

彼らは私の差し出した大ジョッキを、蔓(つる)で不器用に受け取ると、ジョッキの縁から直接、植物の繊維を伸ばしてビールを『吸収』し始めた。

ズズズズズズズッ……!!

『……ォォォ……ォォォォォ……ッ!!』

一口ビールを吸い上げた瞬間、ビショップたちの全身の葉が、歓喜に震えるようにパァァッと緑色の輝きを増した。

アルコールと酵母の旨味が、彼らの植物細胞の隅々まで行き渡ったのだ。

「ギ、ギギギッ!」

さらに、カルビの肉汁と特製ダレを吸収したポーンたちが、あまりの美味しさにパイルバンカーを放り出し、狂喜乱舞して踊り始めた。

「よし! おかわりどんどん行きますわよ! ニャングルさん、サーバーのバルブ全開で!」

「お、おう! まさか植物にビールと焼き肉を奢る日が来るとは思わんかったけど、宴会ならワイの得意分野やで! どんどん飲まんかいワレェ!」

ニャングルさんも腹を括ったのか、見事な手捌きで次々とジョッキにビールを注いでいく。

『パ〜プ〜♪ ポ〜プ〜♪』

そこへ、ジークさんの乗ったパンダカーが、ドリフトしながら帰還してきた。

フランスパンは激しい戦闘で少しだけ端が削れていたが、ジークさん自身は息一つ乱していない。

「……おい、コトネ。前衛をあらかた片付けて戻ってみれば、なんで敵と宴会を開いてるんだ、お前は」

「ホスピタリティですわ、ジークさん! クレームを入れてこられたお客様には、美味しい食事でご満足いただいてお帰りいただく。これが百貨店の基本です!」

私は満面の笑みで、ジークさんにも生ビールと山盛りのジンギスカンを差し出した。

「ほら、ジークさんも休日の労働のお疲れ様会です。一緒に飲んでくださいな」

「……ふん。まぁ、このジンギスカンの匂いを嗅がされて、食わずにいられるほど俺も人間ができていないからな」

ジークさんはパンダカーから降りると、タローマンのジャージの袖をまくり、ビショップ(植物)の隣の席にどっかりと座ってジョッキをあおった。

「ギギッ?」と不思議そうに見る植物兵器に、「お前、飲みっぷりがいいな。俺の枝豆も食うか?」と普通に絡み始めている。最強の護衛は、適応能力も規格外であった。

こうして、ポポロ村を滅亡の危機に陥れた世界樹の軍勢は、屋上遊園地のビアガーデン結界によって、見事なまでに『ただの酔っ払い客』へと無力化されたのである。

「うふふ……お肉、とっても美味しいですわ……」

背後のVIP用ソファでは、腹痛が治まったらしいルナ様が、いつの間にか復活してショートケーキを頬張っていた。

「……ルナ様。あなたのお腹が痛くなっただけで、村が一つ消滅しかけたんですのよ。少しは反省してくださいな」

「ごめんなさい、コトネさん。でも、世界樹様も、私のことが心配でつい過保護になってしまっただけなんですの」

ルナ様はえへへと笑う。

(過保護……か)

私は、ビールを吸収して赤く(紅葉して?)上機嫌になっている植物軍団を見つめながら、ふと思考を巡らせた。

ルナ様は『私が腹痛を起こしたから怒って攻めてきた』と言っていた。

だが、本当にそれだけだろうか?

世界樹は、ただ怒り狂っているだけなのだろうか?

もし、この植物軍団がここまで『極上の栄養(食事)』に餓え、食いついているのだとしたら――。

「……ニャングルさん。私、世界樹の真の目的が分かったかもしれませんわ」

「なんやて? 真の目的?」

「ええ。世界樹は、ルナ様を害した敵を滅ぼしに来たのではありません。可愛い我が子が、外の世界で『ろくなものを食べていないのではないか』と心配して、様子を見に来たのですわ!」

私がそう結論づけた時、屋上ビアガーデンの外、世界樹の森の奥深くから、これまでとは比較にならないほど巨大で、圧倒的な魔力の波動が膨れ上がった。

ズウゥゥゥゥゥゥンッ……!!

大地が割れ、森の木々を押し退けて姿を現したのは、まるで一つの山のように巨大な、美しい女性の姿をした大樹。

世界樹の権限を完全に掌握し、全てを自然に還す最高位の化身――『クィーン』であった。

『……我ガ……愛シ子ヨ……。腹痛ハ……治リマシタカ……?』

脳内に直接響く、心配性な母親のような、しかし絶大なプレッシャーを伴う念話。

「お、おいコトネはん! 親玉が出てきよったで! あんなデカイのに、ビールと焼き肉は通じへんぞ!」

ニャングルさんが悲鳴を上げる。

「大丈夫ですわ、ニャングルさん。相手がどれだけ大きくても、心配性な親御さんには変わりありません。……ここは、デパートの『外商部』の出番ですわよ!」

私はエプロンを外し、ビシッとスーツ姿に着替えるイメージを思い浮かべた。

ポポロ村の平和を完全に確立するため、私は世界樹という名の巨大なお客様と、かつてない『大型契約』を結ぶ覚悟を決めたのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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