↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された元パティシエ令嬢、追放先で【デパート】を開業!守銭奴商人と規格外護衛を雇ったら、三カ国の軍と胃袋を支配してました  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
49/76

暖炉代わりの火炎龍とパイプ椅子 ~休日の護衛と、空飛ぶトカゲ~

暖炉代わりの火炎龍とパイプ椅子 ~休日の護衛と、空飛ぶトカゲ~

マンルシア大陸の気候は時として非常に気まぐれだ。

数日前まで小春日和だったポポロ村に、突如として厳しい寒波が到来した。朝起きると、窓ガラスにはびっしりと霜が降り、吐く息は真っ白に染まっている。

「ぶるぶる……急に冷え込みましたわね。これは急遽、売り場のレイアウトを変更しなくては」

私は村長公邸のリビングで身震いしながら、ユニークスキル【デパート】を稼働させた。

「オープン! 【デパート】5階、アウトドア・冬物衣料品フロア! 並びに地下1階、特設ホットデリコーナー!」

リビングの一角に、最新のゴアテックス素材を使用した超高機能防寒具や、高級羽毛(ダウン)ジャケットがズラリと並ぶラックが出現する。さらにその隣には、湯気を立てるおでんの鍋や、デパ地下名物のホカホカの特上肉まん、そしてとろけるようなビーフシチューの保温ケースが現れた。

お客様のニーズ(気候変化)に即座に対応し、最適な商品を陳列する。これぞ百貨店の基本である。

「……天国だ。ここは天国か、コトネ」

リビングの中央に鎮座する特等席、魔導コタツの中からは、私の専属護衛であるジークさんがとろけきった声を出していた。

彼はタローマンで購入した裏起毛の厚手ジャージを上下に着込み、首までコタツに潜り込んでいる。片手にはポポロシガー、もう片方の手には私が先ほど出した『デパ地下特製・フカヒレ入り極上肉まん』が握られていた。

「ジークさん、今日は非番だからってリラックスしすぎじゃないですか? 少しは外のパトロールでも……」

「断る。俺の愛読書『銀河英雄伝説』のヤン・ウェンリーも言っている。休日に働くのは人類の罪だと。俺は今日、このコタツから一歩も動かん。もしこのコタツから俺を引きずり出そうとする奴がいれば、魔王だろうが神だろうが斬る」

「はいはい、分かりましたよ」

徹底した超合理主義(と究極の怠惰)を貫く護衛にため息をつきつつ、私はビーフシチューの仕込みに戻ろうとした。

その時だった。

窓の外、ポポロ村の中央広場の方から、子供たちの無邪気な声と、聞き慣れたおっとりとした声が聞こえてきた。

『うぅ〜、今日はすごく寒いねぇ』

『本当ね。みんな、風邪を引いてしまわないか心配ですわ』

世界樹の次期女王候補、ルナ様だ。

彼女は早朝から、村の子供たちと一緒に広場で遊んでいたらしい。

『でも大丈夫ですわ! 寒い時は、暖かいものを用意すればいいんですもの!』

『ルナおねえちゃん、あったかい魔法つかえるの?』

『ええ、もちろんですわ! さぁ、私のお友達、出番ですわよ!』

その直後だった。

ズゴォォォォォォォォッ!!!!!

鼓膜を破るような、大気の震える轟音がポポロ村に響き渡った。

同時に、窓ガラスがガタガタと激しく揺れ、部屋の温度がマイナスから一気に『真夏のサウナ』レベルへと急上昇した。

「えっ!? な、何事ですか!?」

私は慌てて窓に駆け寄り、外を見下ろした。

そして、自分の目を疑った。

ポポロ村の中央広場。

そこには、全身が紅蓮の炎で構成された、見上げるほどに巨大な『火炎龍(フレイム・ドラゴン)』が鎮座していたのだ。

ドラゴンの鼻息がフンッと噴き出されるたびに、周囲の空気が陽炎のように歪み、広場の端にある物見櫓の屋根がチリチリと焦げ始めている。

「ぎゃああああっ!? ど、ドラゴンが出たぁぁぁッ!?」

「村が燃えるぞぉぉぉッ!! 逃げろぉぉッ!!」

早朝の広場は、一瞬にして阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。

当然である。あんな歩く大災害が村のど真ん中に現れれば、誰だってパニックになる。

しかし、その火炎龍の足元では、ルナ様が一人、満面の笑みで拍手をしていた。

「ほら、皆様! 特大の『暖炉』ですわ! これなら村中どこにいても、ポカポカで暖かく過ごせますわね♡」

「暖炉代わりにするサイズじゃねえええええッ!!」

私は思わず窓を開けて絶叫した。

ルナ様の善意が、またしても常識の斜め上を光の速さで駆け抜けてしまったのだ!

寒がっている子供たちを温めるために、村ごと焼き尽くしかねない高位の火属性ドラゴンを召喚する。まさに天然サイコパスエルフの面目躍如である。

「マズい……! このままじゃポポロ村が消し炭になりますわ! ええと、消火! デパートの防災設備! 7階の家庭用品フロアから、最新式の粉末消火器を大量に……っ!」

私がパニックになりながらユニークスキルを発動しようとした、その時。

「……おい」

背後から、地獄の底から響くような、低く、ドス黒い声が聞こえた。

振り返ると、コタツに入っていたはずのジークさんが、ゆっくりと立ち上がっていた。

「……コ、コタツの中が……暑い……」

ジークさんの額にはダラダラと汗が流れ、手に持っていたフカヒレ入り極上肉まんは、外からの異常な熱気でパサパサに乾燥してしまっていた。

彼の瞳には、全ての生命を刈り取る死神のような、冷たい怒りの炎が灯っている。

「俺の……至福の休日を……。俺の、快適なコタツ空間を……よくもサウナに変えてくれたな、あのトカゲ野郎……ッ!!」

バツンッ!

ジークさんの全身から、空気が軋むほどの『闘気』が爆発的に噴き出した。

彼はタローマンのジャージ姿に便所サンダルという出で立ちのまま、ズンッ、ズンッ、と重い足取りでリビングを出て、広場へと向かっていく。

「ジ、ジークさん!? 相手は巨大な火炎龍ですよ! 剣も持たずにどうするんですか!?」

私が慌てて後を追うと、ジークさんはリビングの隅に立てかけられていた『タローマン製・折りたたみパイプ椅子(特売品・銀貨一枚)』を無造作にひょいと持ち上げた。

「剣などいらん。俺の『野生の思考(ブリコラージュ)』にかかれば、その辺のパイプ椅子だろうが神を殺す凶器になる。……少し、素振りをしてくる」

広場に降り立ったジークさんの姿を見て、村人たちが「あ、ジークさんだ!」「でも武器がパイプ椅子だぞ!?」とざわめく。

「あら、ジークさん! おはようございますわ。あなたも暖炉(火炎龍)にあたりに来たのですか?」

ルナ様がニコニコと手を振る。

「……エルフ。三秒だけ目を閉じてろ。お前の『お友達』を、少し遠くへ散歩させてくる」

ジークさんはパイプ椅子を広げることなく、閉じた状態のまま、野球のバッターのように両手で構えた。

その瞬間、ジークさんの異常な密度の闘気がパイプ椅子に流れ込み、安物のアルミフレームが『黒紅のオーラ』を放つ特級呪物のような鈍器へと変貌した。

火炎龍が、足元に立つジャージ姿の男に気づき、苛立たしげに咆哮を上げる。

グォォォォォンッ!!

ドラゴンの口に極大の炎が収束し、ジークさんに向かって放たれようとした、まさにその刹那。

「……休日の邪魔をする奴は、ホームランだ」

ダンッ!!

ジークさんがサンダルで大地を踏み砕き、強烈なステップを踏み込んだ。

そして、渾身の力でパイプ椅子をフルスイングする。

ゴガァァァァァァァンッ!!!!

炸裂音が響き、衝撃波で広場の土煙が爆発的に舞い上がった。

闘気を極限まで圧縮したパイプ椅子が、火炎龍の下顎にクリーンヒットしたのだ。

物理法則を完全に無視した圧倒的な運動エネルギーが、炎の巨体をカチ上げ――。

『ギ、ギャアァァァァァ…………!?』

火炎龍は、悲鳴を上げる間もなく、文字通り『天高く』打ち上げられた。

凄まじい速度で上空へと飛んでいき、空の彼方でキラッと星のように光って消滅する。

「お、おおおおおおっ!?」

「す、すげええええっ! 一撃だァァッ!」

村人たちが、ポカンと口を開けた後、割れんばかりの歓声を上げた。

「わぁぁっ! お星様になりましたわ! ジークさん、とってもダイナミックな打ち上げ花火ですのね! 素晴らしいですわ!」

ルナ様は、自分の召喚した火炎龍が彼方へ吹っ飛ばされたというのに、無邪気にパチパチと拍手をして喜んでいる。

「……ふぅ。これでようやく、コタツの温度が下がる」

ジークさんは、ひしゃげたパイプ椅子をポイッと捨てると、面倒くさそうに首を鳴らした。

その顔には「魔物を倒した達成感」など微塵もなく、「休日にゴミ出しに行かされた父親」のような疲労感だけが漂っている。

「ジ、ジークさん……お疲れ様でした……」

私が引きつった笑顔で歩み寄ると、ジークさんはジロリと私を見た。

「コトネ。俺は休日に深刻な肉体労働を強いられた。この精神的・肉体的苦痛を癒すには、さっきのパサパサになった肉まんでは足りない」

「……はい、承知しておりますわ、お客様」

私はデパートの販売員として、最上級の笑みを浮かべて深く一礼した。

「5階の売り場から、最新の極厚コタツ布団をご用意いたします。さらに地下1階のホットデリから、A5ランク黒毛和牛をトロトロになるまで煮込んだ『特製デミグラス・ビーフシチュー』と、『窯焼き特大チーズハンバーグ』をルームサービスでお持ちいたしますわ」

「……よし。合格だ。お前のそういう話が早いところ、嫌いじゃないぞ」

ジークさんは満足げに頷くと、再びサンダルを引きずりながら、愛しのコタツが待つリビングへと帰っていった。

その後、完全に冬の寒さに戻った広場で、私は村の子供たちに『デパ地下特製のあったかコーンスープ』を振る舞いながら、深く息を吐いた。

「ルナ様。今度から、暖房器具が必要な時は、ドラゴンを呼ぶ前に私のデパートの『家電コーナー』にお声がけくださいませね……」

「まぁ! コトネさんのお店には、ドラゴンより暖かいものがあるんですの? 楽しみですわ♡」

天然サイコパスエルフの善意は、今日も健在である。

私とジークさんの胃薬(とパイプ椅子)の消費量は、まだまだ減りそうになかった。

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけましたら、★評価やブックマークで応援していただけると励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。