↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された元パティシエ令嬢、追放先で【デパート】を開業!守銭奴商人と規格外護衛を雇ったら、三カ国の軍と胃袋を支配してました  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
47/76

悪徳役人とハッピー・ドリーム ~お客様には極上の幻覚と洋菓子を~

 悪徳役人とハッピー・ドリーム ~お客様には極上の幻覚と洋菓子を~

ポポロ村の財政は、かつてないほどの潤いを見せていた。

私がユニークスキル【デパート】を駆使し、ルナ様が錬成した規格外の果物を「デパ地下スイーツ」へと加工・販売した『世界樹フルーツタルト祭』は、三大国の富裕層や兵士たちを巻き込んで大成功を収めたのだ。

「フフフ……ええ眺めや。ワイの算盤がこんなに軽快な音を立てるんは久しぶりやで……」

村長公邸のリビングルーム。

ゴルド商会の幹部にしてポポロ村の財務担当、ニャングルさんが、山積みになった金貨の山を前に恍惚の表情を浮かべていた。普段は胃薬を手放さない彼だが、今日ばかりは猫耳をピコピコと揺らして上機嫌である。

「お疲れ様でした、ニャングルさん。これで当面の村の運営資金と、キャルルさんの自警団の弾薬代は賄えそうですね」

「せやな。コトネはんの商売手腕には恐れ入るで。……ただな、これだけ派手に儲けを出すと、どうしても『嫌なハエ』が寄ってくるもんや」

ニャングルさんが煙管に火をつけようとした、まさにその時だった。

『ドガァァァンッ!!』

公邸の玄関扉が、乱暴に蹴り開けられた。

大理石の床を土足で踏み鳴らしながら上がり込んできたのは、ひどく柄の悪い三人組だった。

「邪魔するぜぇ! 景気良く儲かってるらしいじゃねえか、ポポロ村!」

先頭を歩くのは、ルナミス帝国の軍服を着崩した傲慢そうな人間の男。

その後ろには、レオンハート獣人王国の腕章をつけた粗暴な猪の獣人。

さらに最後尾には、アバロン魔皇国の紋章を掲げた、陰湿そうな魔族の男がニヤニヤと笑いながら続いている。

三大国の駐留部隊から派遣されてきた、タチの悪い『悪徳役人』たちだ。

緩衝地帯であるポポロ村は、建前上は中立だが、実際にはこの三大国からの不当な圧力や「みかじめ料」の要求に常に晒されているのである。

「……何の用や。あんたら三大国への今月の『特別協賛金』は、先日きっちり耳を揃えて払ったはずやで」

ニャングルさんが煙管を口から離し、鋭い三白眼で彼らを睨みつけた。

「おいおい、冷たいこと言うなよ猫の旦那ぁ。あれはあくまで『基本料金』だろ?」

「風の噂で聞いたぜ。なんでも、世界樹の果物を使ったすげぇケーキを売って、莫大な利益を出したそうじゃねえか。俺たちの護衛があってこその商売なんだ、当然『特別防衛税』を払ってもらわねえとなぁ?」

「金だけじゃねえ。美味い酒と、とびきりの女も用意してもらおうか。この村には、元王女だかエルフだかの極上が揃ってるらしいじゃねえか。ヒヒヒッ!」

下劣な笑い声を上げる三人組。

完全にヤクザの取り立てである。前世のデパートにも、理不尽な要求を突きつけてくる悪質なクレーマーはいたが、流石に「女と酒と金を出せ」と正面から凄んでくる輩はいなかった。

「……おい、コトネ」

リビングの特等席、コタツの中から、低い声が響いた。

私の専属護衛であるジークさんが、読んでいた競馬新聞をゆっくりと畳む。

「あいつら、お客様か?」

「いえ……流石に当店をご利用いただくお客様ではありませんね。ただの強盗紛いの公務員ですわ」

「そうか。なら、接客(サービス)は必要ないな」

ジークさんはタローマンのジャージ姿のまま立ち上がると、傍らに置いてあった『タローマン製・折りたたみパイプ椅子』を片手で軽々と持ち上げた。

「おい、そこの三匹。俺は今、次のレースの予想で忙しいんだ。お前らの頭蓋骨でこのパイプ椅子の耐久テストをしてやるから、そこに直れ」

ジークさんの全身から、空気が軋むほどの超高密度の闘気が立ち上る。ただのパイプ椅子が、神話級の鈍器のような禍々しいオーラを放ち始めた。

一瞬で気圧された悪徳役人たちが、顔を引きつらせて一歩後ずさる。

「ま、待ってくださいジークさん!」

私は慌ててジークさんの前に立ち塞がった。

「ここで彼らを物理的にミンチにしたら、三大国との国際問題に発展してしまいます! 営業停止処分どころか、村が火の海になりますわ!」

「チッ……じゃあどうするんだ。大人しく金を払うのか?」

「それは……」

私が一流の販売員としての交渉術をフル回転させようとした、その時。

「まあまあ皆様。いらっしゃいませ!」

奥の部屋から、ふんわりとした花のような香りと共に、世界樹の次期女王候補・ルナ様が満面の笑みで現れた。

「女と酒と金、ですか? ええ、ポポロ村を警護してくださっている皆様のご要望とあらば、私にお任せくださいな♡」

ルナ様はそう言うと、世界樹の杖を床にコツンと突いた。

「出番ですわよ、『ハッピー・ドリーム』!」

その瞬間、大理石の床を突き破り、巨大な植物が姿を現した。

見た目は極彩色の美しい巨大な花――なのだが、その花弁の中央には「ダラダラとヨダレを垂らす巨大な口」があり、周囲には不気味に蠢く無数の触手がうねっている。

どう見ても、魔界に生息する人喰い植物の類である。

「な、なんだこの化け物はぁぁッ!?」

悪徳役人たちが腰を抜かして悲鳴を上げた。

しかし、彼らが逃げ出すより早く、ハッピー・ドリームの触手が鞭のようにしなり、三人の首筋に『ブスリ』と突き刺さった。

「ぎゃああああっ!? ……あ?」

役人たちの悲鳴は、一瞬でピタリと止んだ。

彼らの目がトロンと濁り、だらしなく口が開き、そこからツーッとヨダレが垂れ始める。

「へ、へへへ……最高級のサケスキーじゃねえか……たまんねぇ……」

レオンハートの獣人が、何もない空を両手で抱え込み、ゴクゴクと酒をあおる仕草を始めた。

「おおっ、なんて美しいんだ……! こっちにおいで、俺の膝の上に……ぐへへっ」

ルナミスの人間の役人は、部屋の太い大理石の柱を「絶世の美女」と思い込んでいるらしく、熱烈なハグとキスを繰り返している。

「ウヒョヒョヒョ! 金だ! 金貨の風呂だァ! 見ろよこの輝きを!」

アバロンの魔族に至っては、床を泳ぐように転げ回りながら、持参していた「特別徴税免除の許可書」に自らバンバンと承認印を押し始めた。

「……ルナ様。これ、一体何をされているんですか?」

私は引きつった笑顔で、惨状を指差した。

「幻覚催眠植物『ハッピー・ドリーム』ですわ! 触手から相手の脳内に直接、その人が一番望んでいる『快楽の疑似体験(幻覚)』を注入するんですの。彼ら、女と酒と金が欲しいとおっしゃっていたので、脳内でたっぷりと味わっていただいておりますわ♡」

ルナ様は、純度百パーセントの「良いことをした」という笑顔で胸を張った。

コンプライアンス違反どころの騒ぎではない。完全に違法薬物的なバイオテロである。

幻覚を見せられながら柱にキスをしている役人たちの姿は、国際問題以前に、人間の尊厳の完全なる敗北であった。

「ほら、満足されたみたいですわね」

ルナ様が指を鳴らすと、ハッピー・ドリームは役人たちの首から触手を抜き、床下へとシュルシュルと姿を消した。

「あぁ〜……極上だったぜ……」

「最高の接待だった……ポポロ村、最高……」

「税金なんて取らねぇよ……この免除書、置いていくからよぉ……」

首筋に触手の刺し傷を残したまま、三人の悪徳役人たちは完全に骨抜きにされ、フラフラと千鳥足で公邸の出口へと向かっていく。彼らの顔には、この世のすべての快楽を味わい尽くしたような、だらしなくも幸福な笑みが浮かんでいた。

「……えげつなぁ。ワイ、あの子絶対敵に回さんとこ」

ニャングルさんが震える手で胃薬を煽る。

「……スコップで殴って物理的に記憶を飛ばした方が、まだ人道的だったんじゃないか?」

ジークさんが呆れたように肩をすくめた。

私も同感だった。しかし、お客様(?)がお帰りになるのなら、デパートの責任者としてやるべきことはただ一つである。

「……お待ちくださいませ、お客様」

私はハッとして駆け出し、ユニークスキル【デパート】を発動した。

「オープン! 【デパート】B1F、高級洋菓子店!」

空中に現れたショーケースから、私は美しいリボンでラッピングされた『デパ地下特製・高級マカロンと焼き菓子の詰め合わせボックス』を取り出した。それを、フラフラと歩く三人の役人の手に、一つずつ丁寧に持たせる。

「本日は遠方よりご足労いただき、誠にありがとうございました。こちらは当店からの手土産でございます。お帰りの道中でお召し上がりくださいませ」

私は両手を前で重ね、腰を深く折る、完璧な『リッツ・カールトン流・最敬礼』でお見送りをした。

「おお、すまねぇな……」

「ありがとよ、良い店だったぜ……」

「また……来月も来るからよぉ……へへへっ」

三人の悪徳役人たちは、手土産の高級菓子箱を大事そうに抱え、幻覚の余韻に浸りながらポポロ村を去っていった。

「……コトネさん。なんであんな連中に、タダで高級菓子を持たせてやったんだ?」

ジークさんが不思議そうに尋ねてくる。

「デパートの矜持ですわ、ジークさん」

私は最敬礼の姿勢から顔を上げ、エプロンをパンパンと払った。

「彼らは確かに理不尽な輩でした。でも、結果的に免除書にサインをし、満足して帰られたのです。ならば、最後まで『極上のおもてなし』を提供し、良い気分を持続させたままお帰りいただくのが、一流の販売員の仕事というものですわ」

相手が極悪人だろうと、脳内を幻覚植物に溶かされていようと、「お客様」として接遇し尽くす。それが私の絶対に譲れない商道徳である。

「……コトネはん。あんたのその徹底した『お客様第一主義』、ルナはんの天然サイコパスよりある意味狂っとるで」

ニャングルさんが深い溜息をついた。

「あなたの接客と、あのエルフの毒花。どっちが恐ろしいか分からなくなってきたな」

ジークさんも同意するようにポポロシガーに火を点ける。

「失礼ですね! 私はただ、お客様の笑顔が見たいだけですわ!」

私はプイッと頬を膨らませた。

ポポロ村の平和は、今日も【デパート】のホスピタリティと、エルフの善意(幻覚)によって無事に守られたのだった。

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけましたら、★評価やブックマークで応援していただけると励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。