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婚約破棄された元パティシエ令嬢、追放先で【デパート】を開業!守銭奴商人と規格外護衛を雇ったら、三カ国の軍と胃袋を支配してました  作者: 月神世一


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善意の果実とデパ地下フルーツフェア ~市場崩壊をスイーツで阻止せよ!~

 善意の果実とデパ地下フルーツフェア ~市場崩壊をスイーツで阻止せよ!~

タルトの恨みは恐ろしい。

前回の村長公邸リビングにおける『ジークさんのタルト食い尽くし事件』は、ルナ様が発動しかけた広域自然魔法を、ジークさんがタローマン製のパイプ椅子でギリギリ打ち返す(物理)という力技で事なきを得た。

それから数日後。ポポロ村に平和が戻った……かのように見えた。

しかし、天然サイコパスな善意の厄災は、水面下で確実に進行していたのだ。

「ああああああっ!? な、なんじゃこりゃあああッ!?」

朝のポポロ村中央広場。

仕入れのために散歩がてらジークさんと広場へ向かっていた私は、悲痛な絶叫を耳にして立ち止まった。

声の主は、ポポロ村で高級果実『メロロン』を栽培しているベテラン農家の泥沼源蔵さんだ。メロロンの妖艶な甘い囁きに狂わされ、奥さんとのドロドロの不倫騒動の末に仮面夫婦(マスクメロン)状態になっている哀しきおじさんである。

その源蔵さんが、広場の中央で膝から崩れ落ち、頭を抱えていた。

彼の目の前には、見渡す限りの――そう、文字通り『山』のように積み上げられた、極上のフルーツの数々が存在していたのだ。

「おはようございます、泥沼さん! 今日も良いお天気ですわね!」

フルーツの山の頂点に立ち、ふんわりとした笑顔で手を振っているのは、世界樹の次期女王候補・ルナ様だった。

彼女の足元には、最高級の糖度を誇る完熟メロロン、ツヤツヤの太陽芋、さらには三大国でもお目にかかれないような幻の果実が、文字通り湧き水のようにゴロゴロと生み出され続けている。

「な、なんだこれは……っ! ワシの畑の一年分の収穫量が、たった一晩で……いや、これは十年分……いや、百年分以上あるぞ!?」

「ええ! 昨日、泥沼さんが『今年は日照りが続いて、メロロンの育ちが少し悪い』と悲しそうにおっしゃっていたので、私、世界樹の杖にお願いして少しだけお手伝いさせていただきましたの!」

「少しだけってレベルじゃねえええッ!!」

ルナ様は、源蔵さんの絶叫を「歓喜の涙」と勘違いしているらしく、えっへんと誇らしげに胸を張っている。

「ど、どないなっとるんやこれはぁぁぁッ!?」

そこへ、ゴルド商会の幹部であり村の財務担当であるニャングルさんが、血相を変えて飛んできた。彼の片手には算盤が握られ、もう片方の手には胃薬の瓶が握られている。

「ルナはん! あんたまた何ちゅうことを……!」

「あら、ニャングルさん。見てくださいな。これで泥沼さんも、ポポロ村の農家の皆さんも、冬を越すお金に困りませんわ!」

「アホかぁぁぁッ! 経済っちゅうもんを知らんのか!」

ニャングルさんが算盤を地面に叩きつけんばかりの勢いで絶叫した。

「ええか!? メロロンっちゅうのはな、栽培が難しくて数が少ないから『高級品』として金貨で取引されるんや! こんな何百トンもの極上フルーツが一気に市場に流れてみい! 供給過多で大暴落や! メロロンの価値が『その辺の雑草』以下になるんやぞ!」

「えっ……?」

ルナ様が不思議そうに首を傾げた。

「価値が下がる……? でも、美味しい果物がたくさん食べられるなら、皆さんは幸せになれますわよね?」

「市場が崩壊したら、来年から誰もメロロンを作らんようになるんや! 流通網は麻痺し、農家は借金まみれで首を括る羽目になるんやで! あんたの善意は、大量破壊兵器よりタチが悪いんや!」

ニャングルさんの血を吐くような解説を聞き、源蔵さんはついに白目を剥いてバタリと倒れ伏した。

「そんな……私、泥沼さんを助けたくて……」

ルナ様の瞳に涙が浮かび、彼女が握る世界樹の杖が不安げに明滅し始めた。

マズい。このままルナ様がパニックを起こせば、無意識の自然魔法が暴走して、ポポロ村が文字通り「フルーツの樹海」に飲み込まれてしまう。

「……おいコトネ。あのエルフが泣きそうだぞ。面倒だから、俺がスコップで気絶させてこようか?」

「ジークさんは少し黙っててください! 暴力で解決したら、世界樹本体がブチ切れて人類に宣戦布告してきますから!」

私はタローマンのジャージ姿でスコップを構えようとする護衛を制止し、深呼吸をした。

お客様の善意が生み出したトラブル。それを鮮やかに解決し、双方が笑顔になれる妥協点を見つけ出すことこそ、一流のデパート販売員の腕の見せ所である。

「ルナ様! 泣かないでください!」

私は営業スマイルを全開にして、フルーツの山の前へ進み出た。

「コトネさん……私、またいけないことをしてしまったのでしょうか……」

「いいえ、ルナ様。あなたの優しさは間違いなく源蔵さんを救います。ただ、少しだけ『売り方』に工夫が必要なだけですわ」

「売り方……?」

「ええ。ニャングルさん! このフルーツ、ゴルド商会を通して三大国へ『そのまま』卸そうとするから相場が崩壊するんですよね?」

「せや! こんなもん市場に出したら、一瞬でハイパーインフレの真逆、価格破壊のデフレ地獄や!」

私は不敵に微笑み、右手でパチンと指を鳴らした。

「ならば、付加価値をつけて『加工品』として販売すればいいのです。私のユニークスキル【デパート】にお任せください!」

私の足元から、眩い光の魔法陣が展開される。

空間が歪み、ポポロ村の広場に巨大な建造物の幻影が重なり合った。

「オープン! 【デパート】B1F、デパ地下食料品街・特設催事場!!」

光が収まると、広場の中央には、大理石の床とガラスケースが輝く、広大な『デパ地下特設会場』が出現していた。

天井からは『期間限定! 世界樹フルーツタルト&スイーツフェア!』という煌びやかな垂れ幕が下がっている。

「な、なんやこれは……!」

「さぁ、ルナ様の出してくださった果物を全部こちらへ! ジークさん、搬入の手伝いをお願いします!」

「……ちっ。日当に夕飯のハンバーグ追加な」

ジークさんが面倒くさそうに首を鳴らしながら、常人なら十人がかりで運ぶ木箱を片手で軽々と持ち上げ、次々とデパ地下のバックヤードへ運び込んでいく。

「ここから先は、私の『職人の手』の出番ですわ!」

私はコックコートとエプロンを身に纏い、厨房に立った。

前世、デパ地下でチーフパティシエを務めていた私の腕が鳴る。

ルナ様が錬成したメロロンは、甘みが強すぎてそのまま食べると人をダメにする魔性がある。だが、厳選したロックバイソンのミルクから作った極上生クリームと、ほのかな酸味を持つ特別なリキュールを合わせることで、その魔性を完璧な『至福の味わい』へと昇華させることができる。

「『完熟メロロンのプレミアム・ショートケーキ』! 『世界樹の恵み・太陽芋の濃厚スイートポテト』! そして『百花繚乱・特製フルーツタルト』ですわ!」

私の指示のもと、デパ地下の設備がフル稼働し、山のような果物が次々と宝石のような極上スイーツへと生まれ変わっていく。

ショーケースに並べられたそれは、生の果実とは全く違う、圧倒的な付加価値を持った『高級ブランド品』だった。

「ニャングルさん! これならどうですか! 果物として市場に流すのではなく、『百貨店シュクルの限定高級スイーツ』として売り出します。これなら既存の農作物の相場は崩れませんし、ポポロ村の新たな名物として外貨を獲得できますわ!」

ショーケースに並んだ芸術品のようなケーキを見て、ニャングルさんの猫耳がピクッと反応した。

彼の手元の算盤が、パチパチパチッと猛烈な勢いで弾かれる。

「……いける! これなら『加工技術』と『ブランド代』が上乗せされるから、元のメロロンの価格を維持したまま、いや、それ以上の利益を生み出せる! コトネはん、あんた天才や! 天才の悪徳商人や!」

「悪徳とは心外ですね! 私はただのお客様第一主義の販売員です!」

その日の午後。

『百貨店シュクル・特設催事場』には、噂を聞きつけた三大国の兵士たちや、裕福な貴族、さらには冒険者たちが長蛇の列を作っていた。

「うおおおっ! なんだこのケーキは! 舌の上でとろける! 陣地のゲロオムレツとは天と地の差だぁぁっ!」

「おい、並べ! 全部買い占めろ! これを持ち帰れば、前線の部隊の士気がバフどころか限界突破するぞ!」

飛ぶように売れていくスイーツたち。

ルナ様の善意が生み出した果実の山は、夕方には見事に完売し、代わりにニャングルさんの手元には莫大な額の金貨(本物)が残った。

「源蔵さん、これが本日の売上(メロロンの仕入れ代)です。来年以降も、品質の良いメロロンの栽培をお願いしますね」

「おおお……! コトネさん、ルナ様、本当にありがとう! これで恵とも、少しはまともな食卓が囲めそうじゃ!」

源蔵さんが涙を流して金貨の袋を抱きしめる。

「ふふっ、皆様に喜んでいただけて、私とっても嬉しいですわ!」

ルナ様は満面の笑みで拍手をしている。彼女の無自覚な経済テロを無事に防ぐことができ、私はどっと疲れを感じてカウンターに突っ伏した。

「……おいコトネ」

「はい、ジークさん……。ハンバーグの準備ですか……?」

「いや。あのショートケーキ、俺の分は残ってるだろうな?」

「……もちろん、取り置きしてありますよ」

タローマンのジャージ姿でショートケーキを頬張り、「悪くない」と呟く最強の護衛を見ながら、私は深く息を吐いた。

デパートの平和は守られた。

しかし、天然サイコパスエルフの善意は、まだ底を見せていない。

私の胃薬の消費量は、ニャングルさんと共に右肩上がりに増えていく予感しかしなかった。

読んでいただきありがとうございます。

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