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婚約破棄された元パティシエ令嬢、追放先で【デパート】を開業!守銭奴商人と規格外護衛を雇ったら、三カ国の軍と胃袋を支配してました  作者: 月神世一


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変身映えのための自作自演(爆破)。店長のシャイニング・ウィザードで最高の放送事故が配信されました。

変身映えのための自作自演(爆破)。店長のシャイニング・ウィザードで最高の放送事故が配信されました。

 先日、ポポロ村を襲撃した死蟲機ネクロマンティスの群れ。

 ジークとキャルルさんの圧倒的な連携によって村の平和は一瞬で守られたのだが、その裏で、深い心のトラウマを抱えてしまった者が一名いた。

 月収二億のトップゴッドチューバー、下級天使のキュララである。

『ホーリー・メイクアップ!』と45秒もかけて壮大に変身バンクをキメている間に、敵が綺麗に全滅してしまい、オープニングの美味しいところを全て持っていかれた彼女は、それ以来「撮れ高……私の撮れ高が……」と、うわ言のように呟く日々を送っていた。

「ダメだわ。このままじゃ、私の『ピュアで強くて可愛い天使』っていうブランディングが崩壊しちゃう! 配信者として、ここで一発超絶バズる『神がかった変身シーン』をリスナーにお届けしないと!」

 キュララは、自室の配信部屋でスマホを握りしめ、決意の炎を燃やした。

 しかし、都合よく村に強力な魔獣が襲ってくることなどそうそうない。

 ならば、どうするか。

「敵がいないなら、私が自分で『最高に映える変身エフェクト』を作っちゃえばいいのよ♡」

 キュララのあざとい頭脳が、とんでもない悪知恵(自作自演)を弾き出した。

 彼女はすぐさま、熱狂的なリスナー(囲い)たちに向けてSNSでメッセージを発信した。

『みんな〜♡ 明日の朝、最高にド派手な配信をするから、キュララ宛にルナミス帝国軍の払い下げ品の【特大花火】と【閃光爆雷】をルナ・イーツでたくさん送ってね♡ 待ってるゾ♡』

 ――そして、運命の翌朝。

「ふふふ……完璧だわ!」

 開店前の『デパート・コトネ』の正面入り口。

 誰もいない早朝の広場に、キュララは鼻歌を歌いながら、リスナーから大量に送りつけられた火薬類をせっせと並べていた。

 赤や青の極彩色に光る特大の打ち上げ花火。それに加えて、本来は軍事用の目くらましに使われる『魔導閃光爆雷』が、デパートの入り口の周囲にぐるりと、まるで地雷原のように設置されている。

「これを私が『ホーリー・メイクアップ!』って叫んだ瞬間に一斉起爆させれば……ドッカァァァンッ! っていう超ド派手な炎と光をバックに、カッコよく私が登場するってわけ♡ はぁ〜、私ってば天才演出家かも〜!」

 キュララは満足げに頷き、スマホの自撮り棒をドローンモードにして空中に待機させた。

 導火線を一つにまとめ、手元の魔導スイッチに接続する。

 これで準備は万端だ。

「よしっ! それじゃあ、配信スタートぉっ♡」

 キュララが配信ボタンをタップすると、早朝にも関わらず、瞬く間に数十万人のリスナーが枠へと流れ込んできた。

『キュララちゃんおはよー!』

『今日はどんな神回になるの!?』

『朝から赤スパ投げとくぜ!』

 滝のように流れるチャット欄を見つめ、キュララはとびきり可愛い笑顔を作った。

「みんな〜、おはようっ♡ 天界から舞い降りたピュアピュア・エンジェル、キュララだよ♡ 実はね、前回は敵が弱すぎて変身シーンを見せられなかったから……今日は特別に、私の『ガチの変身』をみんなにお見せしちゃいまーす!」

『おおおおお!!』

『待ってました!!』

『ついに黄金聖騎士のお出ましだ!』

「みんな、画面から目を離さないでねっ! それじゃあいくよ……!」

 キュララは両手を天高く掲げ、右手の指を起爆スイッチにそっと添えた。

 彼女の脳内には、すでに大爆発の炎を背に受けてポーズをキメる自分の美しい姿と、莫大なスパチャの雨が降るビジョンが鮮明に浮かんでいた。

「天上の奇跡よ! 私のキュートさにひれ伏しなさい! ホーリー・メイク――」

 ――アッ!!

 と、彼女が叫び、起爆スイッチを押し込もうとした、まさにその刹那だった。

「…………ちょっと待ちなさい」

 地獄の底から響き渡るような、絶対零度の声が広場に木霊した。

「……えっ?」

 キュララがポカンと口を開け、スイッチにかけた指を止める。

 カメラのフレームの端、デパートの自動ドアがゆっくりと開き、そこから一人の女性が姿を現した。

 エプロン姿の――私、コトネである。

「コ、コトネ店長……? お、おはようございま〜す! 今、大事な配信中で……」

「おはようございますじゃないわよ。……あなた、ウチのデパートの入り口で、何をやっているの?」

 私は、前世のブラック企業で『遅刻と横領を繰り返したアルバイトを詰めるときの完全な真顔』で、デパートの周囲に設置された大量の火薬を見下ろした。

 その量は、どう見ても「ちょっとした花火」のレベルではない。起爆すれば、間違いなくデパートのガラスが全損し、入り口の屋根が吹き飛ぶ威力の『爆発物』である。

「えっと、これはですね……その、配信の『映え』のための、ちょっとした特効エフェクトというか……」

「特効? これ、ルナミス軍の閃光爆雷よね? これだけの火薬を店の前で起爆させたら、消防法違反どころかテロ行為よ」

「あはは……でも、みんなが見たいって言うから……」

「言い訳は無用です(真顔)」

 私はエプロンの紐をキュッと締め直し、静かに腰を落とした。

 キュララは私のただならぬオーラ(殺気)に気づき、顔を青ざめさせた。

「ひっ!? コ、コトネ店長、目が笑ってないよ!? わ、わかった、やめる! やめるから、そんな闘気を纏わないでぇっ!」

「いいえ、遅いわ。ウチのデパート(城)に傷をつけようとした罪は、万死に値します」

 私は地面を蹴った。

 前世で蓄積されたストレスと、今世でデパートを守るという強い使命感が、私の肉体を極限まで研ぎ澄ましていた。

 タタタタタッ! と、目にも止まらぬ速さでキュララとの距離を詰める。

「ひぃぃぃっ! 許してぇっ! ホーリー・メイクアップ――!」

 恐怖のあまり、キュララが反射的に逃げようと背中の羽を広げ、片膝を立てた姿勢になった、その瞬間。

「甘いわァッ!!」

 私は、キュララが立てた右膝を『踏み台』にして、空高く跳躍した。

 そのまま空中で体を捻り、私の右膝を、恐怖に引きつるキュララの顔面(顎先)へと正確にロックオンする。

 そう、プロレスを愛する者なら誰もが知る、伝説の必殺技。

「シャイニング・ウィザァァァァァァァァドッ!!!!」

 ――ドゴォォォォォォォォォォォォンッ!!!!

 変身のエフェクトでも、火薬の爆発でもない。

 生身の人体と人体が激突する、純粋にして究極の『物理的衝撃音』が、早朝のポポロ村に響き渡った。

「あべしっ!?」

 完璧なタイミングと角度で顎を撃ち抜かれたキュララは、奇妙な断末魔を上げながら、キリモミ回転して吹っ飛んだ。

 パステルカラーのアイドル衣装が宙を舞い、彼女はそのままデパートの前の噴水へと、綺麗な放物線を描いて『ドッボォォォン!』と水柱を上げて落下した。

「「「…………」」」

 デパートの広場に、水を打ったような静寂が落ちた。

 ドローンカメラは、噴水の中で白目を剥いてプカプカと浮かんでいる月収二億のゴッドチューバーの無惨な姿と、エプロン姿のまま、残心(シャイニング・ウィザードの着地ポーズ)を美しくキメている私の姿を、バッチリと全世界へと生中継していた。

 ――数秒の沈黙の後。

 ゴッドチューブのチャット欄が、かつてないほどの凄まじい勢いで爆発バズした。

『うおおおおおおおおっ!?』

『なんだ今のクソ綺麗なシャイニング・ウィザードはwww』

『店長つええええええええっ!!!』

『変身より百倍すげぇもん見れたわwww』

『完全な放送事故じゃねーかwww 腹痛いww』

『コトネ店長に赤スパ投げるわ!!!』

 キュララが期待していた『ド派手な変身シーン』は木端微塵に粉砕されたが、代わりに『ガチギレした店長のプロレス技』という前代未聞の放送事故が、ネットの海で大バズりするという奇跡の神回が誕生したのである。

   * * *

「……うぅっ、ぐすっ……。私の、私のピュア天使のイメージが……完全に、プロレスのヤラレ役に……」

 一時間後。

 ずぶ濡れになったアイドル衣装のまま、キュララは半泣きでデパート前の広場をほうきで掃除させられていた。

 彼女の顎には、私のシャイニング・ウィザードの強烈な膝の跡が、うっすらと赤く残っている。

「自業自得です。火薬の片付けが終わるまで、朝ごはんは抜きですからね」

 私が腕組みをして冷酷に言い放つと、キュララは「は、はいぃ……」と涙声で頷き、せっせと導火線や爆雷をゴミ袋へと回収していく。

 そこへ、エンジ色の芋ジャージを着たリーザさんが、タッパーに入れた茹で卵を齧りながら通りかかった。

「ぷっ……あははははっ! 最高ですわ、その無様な姿! せっかく自作自演で火薬まで用意したのに、変身する前に顔面蹴り飛ばされて噴水にダイブなんて! 歴史に残る放送事故ですわよ!」

「う、うるさいっ! この貧乏魚! あんただって泥棒してニャングルさんに顔面パンチされたくせに!」

「私は放送されませんでしたからセーフですの! あなたのその白目剥いた顔、もうネットの海でフリー素材になってますわよ!」

「キィィィィッ! やめてぇぇっ! 拡散しないでぇぇっ!」

 泣き叫ぶキュララと、腹を抱えて煽り倒すリーザ。

 相変わらずの、新旧アイドルの醜い争いである。

「……まぁ、うちのデパートの宣伝バズにはなったから、結果オーライかしらね」

 私は、スマホの画面で「デパート・コトネの店長、強すぎる」とトレンド入りしているハッシュタグを見つめながら、小さく苦笑した。

 平穏な日常とは程遠いが、こんな騒がしい朝も、悪くない。

 そう。この放送事故がきっかけで、のちにさらなる厄介な客(ドンガン地下帝国のVIP)が私たちのデパートに興味を持つことになろうとは、この時の私はまだ知る由もなかったのである。

読んでいただきありがとうございます。

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