回るお寿司とヒモ天使の全自動決済。勝者も敗者も、美味しいご飯で大宴会の〆!
回るお寿司とヒモ天使の全自動決済。勝者も敗者も、美味しいご飯で大宴会の〆!
死蟷螂機の襲撃事件と、それに伴う『キュララの放送事故(店長のシャイニング・ウィザード炸裂)』から数日。
私たちのデパート・コトネは、早朝の広場爆破未遂のダメージを微塵も感じさせないほど、今日も元気に大繁盛していた。
その日の夜、閉店後のデパート1階。
新しくオープンしたばかりの『魔導回転寿司コーナー』の貸し切りボックス席には、村の平和を守り抜いた(?)いつもの騒がしい面々が大集合し、盛大な宴会が開かれていた。
「はーい、みんな! 今日はキュララちゃんの奢りだから、好きなだけ食べてね〜♡ もちろん、お代はぜーんぶ、リスナーさんからのスパチャ(投げ銭)でーすっ!」
白銀ツインテールのゴッドチューバー・キュララが、手元のスマホのQRコード画面を自撮り棒で配信カメラに向けながら、満面のあざとい笑顔を振りまいた。
『キュララちゃん、寿司代送ったよ!』
『コトネ店長のシャイニング・ウィザード、何回見ても最高www』
『フリー素材化おめでとう!』
「もぉ〜、みんな店長のことばっかり褒めないでよぉ! キュララだって頑張ったんだからね! ……まぁ、スパチャがいっぱい飛んでるから許してあげるけど♡」
キュララはウィンクをキメながら、レーンを流れてくる『特上・大トロの握り』をヒョイッと取って口に放り込んだ。
私の膝蹴りで一時はプロレスのヤラレ役へと転落した彼女だが、その放送事故がネットで大バズりした結果、チャンネル登録者数はさらに爆増。結果的にウチのデパートの知名度も爆上がりしたため、今回は特別に彼女の「全自動ヒモ決済」での宴会を許可したのである。
「ぐぬぬぬぬ……っ!」
その向かいの席で、エメラルドグリーンの瞳に血走った涙を浮かべているのは、極貧地下アイドルのリーザさんだ。
彼女の前には、すでに数十皿の寿司の空き皿がピラミッドのように積み上げられているが、その表情は複雑極まりない。
「悔しいですわ……! 私から石油王を奪ったこの手羽先天使の、しかもリスナーの金で食べるお寿司なんて……! 屈辱の極みですの……!」
「あら、貧乏魚ちゃん。じゃあ食べるのやめる? 無理しなくていいんだよ?」
「食べますわ!! 悔しいけど、デパートの炙りエンガワが美味しすぎるんですのぉぉぉっ!!」
リーザさんは血の涙を流しながら、猛然と『炙りエンガワ』を口に放り込み、幸せと屈辱の板挟みで悶絶している。
そして、手元にこっそりと隠し持っていたタッパーを取り出し、レーンを回ってきた『特上ウニ軍艦』を素早く詰め込もうとした。
ペシッ!
私は、手持ちのルナミス新聞紙で、リーザさんの手を軽く叩いた。
「痛っ!?」
「リーザさん、持ち帰りは禁止です。お寿司は生モノですから、その場で食べてください。あと、ガリと粉末緑茶をタッパーに限界まで詰め込むのもやめなさい」
「うぅっ……コトネさんのケチ! 備えあれば憂いなし、明日の飢えを凌ぐためのサバイバル術ですのに……っ!」
「アイドルがガリと粉末緑茶で飢えを凌がないでください」
私がピシャリと叱ると、リーザさんはしょんぼりとウニ軍艦を自分の口へと運んだ。
その隣の席では、エンジ色の芋ジャージを着たルチアナ様が、完全に気配を消してモクモクと『炙りサーモン』を食べ続けている。
五円玉錬金術(貨幣変造罪)でニャングルに怒られて以来、彼女はすっかり大人しくなり、今はただただ無料で食べられる寿司の恩恵に預かっているようだ。
「うひょひょひょ! しかし、この『回転寿司』っちゅうシステム、ほんまに画期的やな!」
ボックス席の端で、財務担当のニャングルが算盤を片手にホクホク顔で笑っている。
彼は寿司を食べるよりも、レーンの仕組みそのものに感動しているようだった。
「客の目の前に商品を循環させることで、視覚から直接食欲を刺激する。しかも配膳の人件費を極限まで削り、客が勝手に皿を取るから回転率も異常に高い! コトネはん、アンタほんまに悪魔のような商売人やで!」
「ふふっ、ありがとうございます。それに、死蟷螂機の素材も高く売れそうですね?」
「おうよ! あの黒曜魔導鋼のカマキリの鎌、アバロン魔皇国の武器商人に流したら、金貨数千枚の利益が出たわい! 泥棒人魚の手から守り抜いた甲斐があったで!」
ニャングルの言葉に、リーザさんがビクンッ!と肩を震わせ、顔面の絆創膏(顔面パンチの跡)を押さえて目を逸らした。
どうやら、あの時の右ストレートのトラウマはまだ癒えていないらしい。
「ジ、ジークさんっ! 私のお手製、『愛情たっぷり♡特製ネギトロ軍艦・月影流仕立て』ですっ! さぁ、私と間接キスになるように、あーんして……っ♡」
一方、ジークの隣を完璧にキープしているキャルルさんは、箸で摘んだネギトロ軍艦をジークの口元へと運んでいた。
ウサギ耳をピコピコと震わせ、瞳孔をハート型にして猛烈なアピールを仕掛けるヤンデレ村長。
「……ん」
ジークは、キャルルさんの箸から直接お寿司をパクリと食べた。
「はうぅぅっ……♡ じ、ジークさんが、私のネギトロを……っ♡ これでもう、私たちは実質的に一つに結ばれました……っ!」
「村長、鼻血! また鼻血出てるから! 寿司に血が飛ぶから上向いて!」
興奮のあまりオーバーヒートして鼻血を吹き出すキャルルさんに、後輩の見習い女神・リリスちゃんが慌ててティッシュを差し出している。
当のジーク本人は全く動じることなく、レーンを流れてくるお寿司を、まるで残像が見えるほどの超高速で次々と口に放り込み、見事な空き皿のタワーを築き上げていた。
「おい、コトネ。ハマチが足りねぇぞ。あとエンガワと、唐揚げも頼む」
「はいはい、ジークさん。食べるペースが早すぎますよ。……まぁ、今日はキュララちゃんのリスナーさんのおごりだから、遠慮はいらないですけどね」
私は厨房へのオーダー用魔導端末を操作しながら、賑やかな宴会の光景を見渡した。
月収二億のあざといゴッドチューバー。
底なしの胃袋と執念を持つ極貧人魚。
懲りない駄女神と、可愛い見習い女神。
愛が重すぎるウサギの村長。
お金の亡者の猫耳商人と、最強で大食漢の護衛。
トラブルメーカーばかりで、毎日が事件の連続。私のツッコミも、時にはシャイニング・ウィザードといった物理的制裁も必要になるカオスな日々だ。
けれど、前世のブラック企業で、ただ心をすり減らしながら一人でレジを打っていた日々に比べれば。
この騒がしくて、温かくて、美味しいご飯の匂いに満ちたデパートは、間違いなく私の誇るべき『城』だった。
「よーし、みんな! お腹いっぱい食べて、また明日からしっかり働いてもらいますからね!」
私が手元のグラス(特製メロンソーダ)を高く掲げると、全員がそれぞれの飲み物を持って立ち上がった。
「キュララちゃんの放送事故と、デパートの大バズりに感謝して! それから、ポポロ村の平和を守ってくれたジークさんとキャルルさんに……」
「「「乾杯〜っ!!」」」
カチンッ!とグラスが合わさる軽快な音が、デパートのフロアに響き渡る。
キュララの配信カメラの向こうでは、数百万人のリスナーが『乾杯!』のスタンプとスーパーチャットを滝のように流し続けている。
リーザさんは「悔しいですわぁ!」と言いながらも最高の笑顔でプリンを頬張り、キャルルさんはジークの腕に抱きついて完全に昇天(気絶)しかけていた。
こうして、月収二億のインフルエンサーと極貧人魚のドロドロの抗争、そして死蟲機の襲来という数々の波乱に満ちた日々は、極上のお寿司と大宴会によって、最高にハッピーでドタバタな結末(〆)を迎えたのである。
明日からも、私たちのデパート・コトネは、世界一美味しくて、世界一ホワイトな環境で、元気に営業を続けていく。
……そう。次に訪れる『さらなる厄介な客人』たちの影が、すぐそこまで迫っていることなど、この時の私たちはまだ知る由もなかったのであった。
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