最強コンビの氷結斬り! 愛の力(?)が死蟷螂を粉砕する、その裏で。
最強コンビの氷結斬り! 愛の力(?)が死蟷螂を粉砕する、その裏で。
「天上の奇跡よ、私のキュートさにひれ伏しなさい! ホーリー・メイクアップ!!」
壮大なシンフォニックBGMとキラキラした光の粒子の中、華麗にポーズをキメながら優雅にリボンを体に巻きつけていくゴッドチューバー・キュララ。
しかし、その背後からは、死蟲王サルバロスの遺産である巨大な死蟷螂機が、時速二百キロの殺意を乗せて猛烈に急降下してきている。
「だから言いましたのよ! 変身バンクが長すぎて丸焼き……じゃなくてミンチにされますわぁぁっ!」
テラス席で見ていたリーザが、自分の頭を抱えて絶叫した。
現実の物理法則は、魔法少女アニメの演出に対してあまりにも冷酷だった。キュララ自身も「あれっ? 間に合わない!?」と、ようやく真顔に戻って冷や汗をダラダラと流し始めている。
――だが。
このポポロ村の治安と日常を守るのは、なにもお飾りで変身している配信者だけではない。
「……仕方ねぇな。主役の邪魔をするクソ虫は、さっさと退場させるとするか」
冷ややかな呟きとともに、ジークの巨体が風を切った。
彼が手にした『氷のロングソード』――デパ地下の特製包丁に極大の黄金闘気を纏わせた凶悪な神剣が、朝の光を浴びて青白く輝く。
「ジークさん! 私も合わせます!」
新村長のキャルルさんも、タローマン特注の安全靴を鳴らしながら、一瞬でジークの隣へと跳躍した。
彼女の全身が、月兎族の本能である満月の波動と強烈な闘気で紫電に染まる。
「月影流――『顎砕き(あごくだき)』っ!!」
ドンッ!!
キャルルさんが音速のステップで死蟷螂機の懐に潜り込み、特注安全靴の強靭な硬度と跳躍力を乗せた凄まじいカウンターの膝蹴りを、その禍々しい顎下へと叩き込んだ。
「グルァッ!?」
どんなに強靭な装甲を誇る死蟷螂機といえども、月兎族最上位種の渾身の全力蹴りをまともに食らえば、そのバランスは一瞬で崩れ去る。
巨大な体躯がぐらりと空中で浮き上がり、完全に無防備な隙が露わになった。
――その瞬間。
「アブソリュート・ゼロ!!」
ジークが、氷のロングソードを上段へと振りかぶり、ありったけの絶対冷気を纏わせた闘気を前方に叩きつけた。
轟音とともに放たれた極寒のブリザードが、周囲の空気中の水分を一瞬で凍結させ、空中に飛び出した死蟷螂機を爪先から触角の先まで完全に『氷漬け』に変えていく。
「ゴ、グガァァァ……!?」
バキィィィンッ! と、巨大なカマキリ型の魔獣は、見事なまでに巨大な『氷の彫刻』へと姿を変え、空中でピタリと静止した。
「仕上げだ」
ジークは氷のロングソードを軽々と片手で構え直し、静かに息を吐いた。
「アイス・エッジ・フィニッシュ!!」
ズバァァァァァァァァァァンッ!!!!
一筋の閃光。
ジークが放った一太刀は、氷漬けになった死蟷螂機の硬度ごと、分子レベルで綺麗に縦へと両断した。
タイムラグののち、真っ二つに分かれた氷の塊が、パラパラと音を立てて地面へと崩れ落ちていく。
――戦闘終了。
ジークが死蟷螂機を一刀両断するまで、キャルルが顎をかち上げてから、わずかコンマ数秒の出来事だった。
* * *
……その頃。
「天上の奇跡よ、愛と正義とマネーのために! 黄金聖騎士、ゴッドチューバー・キュララ、ただいま見参っ! どーだ、みんな! 私の華麗な変身、バッチリ撮れ高稼げたでしょー! さぁ、この邪悪な魔獣を、私の愛の銃撃でズダボロに……っ!」
テラス席の前。
キュララはようやく『ホーリー・メイクアップ』の全工程(約45秒)を完全に終了させ、フルプレートの聖騎士アーマーを装着し、右手にM4カービンを、左手にGlock 19を構えながら、満面のドヤ顔でポーズをキメた。
――しかし。
彼女の目の前に広がっていたのは、見事なまでに綺麗に一刀両断され、地面に転がっている死蟷螂機の『残骸』の山だった。
「…………え?」
キュララのポーズが、ピタリと固まった。
彼女はゆっくりと周囲を見回した。
ジークはすでに氷のロングソードを消し、落ちていたクロワッサンの続きを無表情で齧り始めている。
キャルルさんは「はぁぁ、今のジークさんの横顔、カッコよすぎました……♡」と、鼻血を拭いながらハート型の目を向けている。
そして、村人たちは「おっ、いつの間にか終わってた」「さすがジークさんだな」と、普通に日常へと戻りかけていた。
「……ちょっ、ちょっと待って! ちょっと待ってよ!!」
キュララは頭上の光の輪を激しく明滅させながら、地団駄を踏んだ。
「なんで!? なんで敵がいないの!? 私、いま人生最高にカッコよく変身したところだよ!? 撮れ高は!? 私のオープニング大活躍のシーンはどこにいっちゃったのよぉぉっ!?」
悲痛な叫び声が、ポポロ村の青空にむなしく響き渡る。
長すぎる変身バンクのせいで、肝心の戦闘が『完全終了』していたという、配信者にとってこの上ない悲劇である。
「ぷっ……あはははははっ! 最高ですわ、その手羽先天使!」
テラス席で見ていたリーザが、お腹を抱えて転げ回りながら大爆笑した。
「何よその格好! 聖騎士の鎧を着てるのに、手に持ってるのはモロにタローマンの魔導アサルトライフルじゃないですか! 鎧の意味、完全にゼロですわよ!」
「うるさい! ギャルゲーの主人公並みに空気の読めないタイミングで敵を倒したあのお兄さんが悪いのよ!」
「文句を言うな。俺たちの邪魔をする前に勝手に終わってたんだから、お前の出番なんて最初からねぇよ」
ジークが、クロワッサンをモシャモシャと噛みながら冷たく言い放つ。
「ひどいっ! ひどいお兄さんだわ! キュララ、アンチコメントに負けないもん! でも撮れ高ゼロでリスナーになんて言い訳すればいいのよぉ!」
地面に膝をつき、グリグリと頭を抱えて泣き叫ぶキュララ。
その横で、リーザが「ふふふ、ざまあみろですわ! これで私の人気が相対的にアップしますわね!」と悪びれた笑みを浮かべる。
「はぁ……。本当に、このデパートの周りは騒がしい人たちばかりね」
私は、片付け用のほうきを手に持ちながら、遠い目でその光景を見守っていた。
死蟲機の襲来という大きな危機は、ジークとキャルルの圧倒的な連携により、わずか数秒で鎮圧された。
けれど、その結果として「撮れ高を完全に逃したトップゴッドチューバー」の絶叫と、「それを煽る極貧地下アイドル」の小競り合いが始まり、村の平和な日常(?)はすぐに戻ってきたのである。
「さぁ、皆さん! 騒ぎは終わりました! デパートは通常通り営業を再開しますよ!」
私の掛け声に合わせ、ニャングルが早速「死蟷螂の鎌の素材買い取り価格はこれくらいやな」と商売の計算を始める。
戦いの後とは思えないほど、相変わらずカオスで賑やかな私たちの日常。
でも、こういうドタバタが嫌いじゃないなと思いながら、私は再び開店準備のために厨房へと戻っていくのだった。
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