戦場向け『お弁当サブスク』開始! 猫耳商人のえげつない商法と、神界からのスーパーチャット祭り。
戦場向け『お弁当サブスク』開始! 猫耳商人のえげつない商法と、神界からのスーパーチャット祭り。
翌朝。
私が店の開店準備をしようとシャッターを開けると、外には信じられない光景が広がっていた。
「……えっと。皆さん、おはようございます?」
ざわっ……。
店の前には、深緑の軍服を着たルナミス帝国の兵士たちと、毛皮を纏った獣人王国の兵士たちが、総勢百名以上もズラリと整列していたのである。
昨日の小競り合いのような殺気は一切ない。
それどころか、全員がピシッと背筋を伸ばし、一糸乱れぬ完璧な『一列縦隊』を作って待機していた。
「な、なんだなんだ!? ついに暴動か!?」
ニャングルが慌てて飛び出してきたが、兵士たちは誰一人として騒がない。
彼らの視線の先には、店の入り口横に設置されたパイプ椅子(デパートの事務用品フロアから出したものだ)に深く腰掛け、足を組んでいるジークの姿があった。
「おう、社長。おはよう。こいつら、夜明け前から並んでたぜ」
ジークはデパートのパン屋で出した『サクサクメロンパン』をかじりながら、面倒くさそうに片手を上げた。
昨日、フライパンとフランスパンで圧倒的な暴力を示してくれた彼が睨みを利かせているおかげで、百人の荒くれ兵士たちが、まるで幼稚園児のようにお行儀よく順番待ちをしているのだ。
「誰か一人でも列を乱したり、店に傷をつけたりしたら……」
「「「わ、わかっておりますッ! その光るフランスパンで木っ端微塵にされるんですよねッ! 絶対に行儀よく並びます!!」」」
兵士たちが泣きそうな顔で一斉に敬礼した。
ジークさん、どれだけトラウマを植え付けたの。
「それで、皆様今日はどうされたんですか?」
「は、はい! 昨日の『豚汁と塩むすび』の味がどうしても忘れられず……。俺たちの陣地で配給される『ゲロオムレツ』を口にしたら、数名が泡を吹いて倒れてしまいまして……」
「頼む! 金貨なら払う! 俺たちにあの美味い飯を売ってくれ!」
兵士たちの悲痛な叫び。
なるほど、これはもう立派な『需要』だ。
「わかりました! 任せてください。発動――【デパート】、地下食料品街、お弁当コーナー!」
私はスキルを連続発動し、ガラスケースの中に次々と商品を取り出していった。
ルナミス帝国の人間兵士たちには、色鮮やかなおかずがぎっしり詰まった『特製・幕の内弁当』と温かい緑茶。
体力と闘気を激しく消費する獣人兵たちには、超特大の『厚切りロースカツサンド』と、フルーツたっぷりのミックスジュース。
「うおおおおっ! なんだこの美しすぎる小箱は! 卵焼きが甘くてフワフワだ!」
「こっちのパンに挟まってる肉、分厚すぎるぞ! 衣がサクサクで、甘辛いソースが最高だぁぁぁ!」
広場のあちこちで、再び感涙にむせぶ屈強な男たちの姿が大量発生した。
そんな中、ニャングルが算盤をチャカチャカと弾きながら、ニヤァッと悪い笑みを浮かべて兵士たちの前に立った。
「毎度おおきに! せやけどアンタら、毎日毎日、最前線からここまで飯食いに抜け出すわけにはいかんやろ? 上官にバレたら軍法会議モノやで?」
「うっ……そ、それは……」
痛いところを突かれ、兵士たちが青ざめる。
ニャングルはパンッと手を叩いた。
「そこでや! ゴルド商会ポポロ支部・財務担当のこのワイが、最高のシステムを提案したる! 名付けて『戦場向け・お弁当サブスクリプション(定期便)』や!!」
「さ、さぶすく……?」
ニャングルが取り出したのは、分厚い羊皮紙の束だった。
「月額で金貨三十枚(約30万円)! これを部隊の経費で前払いしてくれたら、毎日決まった時間に、ワイらが最前線の陣地まで直接弁当を届けたるわ! わざわざ抜け出してジークはんに怯える必要もあらへん。どうや? ゲロオムレツの地獄から抜け出せるんやで?」
「げ、月額金貨三十枚!? 部隊の予算の半分以上が飛ぶぞ……!」
「せやな。でも、人間っちゅうのは『今目の前にある圧倒的な快楽』と『少し先の損失』を天秤にかけた時、必ず快楽を選ぶ生き物なんや。行動経済学の基本やで。さぁ、契約書にサインするんやったら今すぐや。限定五十部隊までやで?」
煽る、煽る。
ニャングルの愛読書である『予想どおりに不合理』の知識が、戦場で飢えた兵士たちの心理を的確にえぐっていく。
「くそっ……! あんな不味いメシ、もう一口も食えるか! サインする! ウチの小隊は月額契約だ!」
「俺たちもだ! カツサンドの定期便を頼む!!」
怒涛の勢いで契約書にサインが書き込まれ、ニャングルの手元にはズシリと重い金貨の袋が次々と積み上げられていった。
ニャングルはホクホク顔で私を振り返る。
「コトネはん、これで継続的な売り上げが確保できたで! 配達は、ポポロ村の暇しとるおばちゃん達を日雇いで雇うて『ルナ・イーツ(宅配部隊)』を作れば完璧や!」
「ニャングルさん、あなた本当にすごいわね……商売の天才よ」
「へへっ。コトネはんの美味い飯と、ジークはんの暴力あってこそのビジネスや」
私の【デパート】による『食の暴力』。
ニャングルの『経済の暴力』。
ジークの『物理の暴力』。
この三位一体のシステムが、恐ろしい速度で国境の兵士たちを籠絡し始めていた。
* * *
一方その頃。天界(神々の管理空間)。
『キタキタキタァァァッ! PV(視聴回数)ランキング、異世界部門でぶっちぎりの1位よ!!』
女神ルチアナは、芋ジャージ姿のまま歓喜の雄叫びを上げていた。
空中に浮かぶ半透明の巨大モニターには、ポポロ村で【お弁当サブスク】に狂喜乱舞する兵士たちと、えげつない笑顔で金貨を数えるニャングルの姿が大写しになっている。
『あはははっ! あの猫耳商人、最高に良い性格してるじゃない! それにあのジークって剣士、絶対にBランクの器じゃないわよ。このアンバランスな三人組、エンタメとして完成されすぎてるわ!』
永遠の17歳(自称)の魔王ラスティアも、お気に入りのアイドル『朝倉月人』の推し活うちわを振り回しながら爆笑している。
「ゴッドチューブ」は、神々が管理する宇宙規模の配信サイトだ。
下界の面白い出来事を神々が視聴し、PVや評価率が高ければ、その星(世界)に割り当てられる「奇跡の予算」が増額されるシステムになっている。
『よーし! このポポロ村のデパートには投資する価値があるわ。神界の経費で、特大の「スパチャ(スーパーチャット)」投げちゃうんだから! そーれっ!』
ルチアナがエンジェルすまーとふぉんを操作し、『投げ銭』ボタンを連打した。
――ピロリンッ♪ 【世界神ルチアナが、ポポロ村に金貨10万枚相当の『神の恩恵』を投げ銭しました!】
『あーっ、ルチアナ様! またそんな無駄遣いをして! 今月の予算が上限ギリギリなんですよ!?』
真面目な天使長ヴァルキュリアが慌てて止めに入ったが、時すでに遅し。
天界からの強烈な「神の恩恵」は、黄金の光となってポポロ村へと降り注いでいった。
『……じゅるり。あの、カツサンド、美味しそう……』
部屋の隅では、見習い女神のリリスが、モニターに映るお弁当をヨダレを垂らしながら見つめていた。彼女の心の中で「いつか絶対あのお店に逃亡する」という固い決意が芽生えた瞬間であった。
* * *
ポポロ村、デパート前。
「あら?」
私は、空から降ってきた柔らかな黄金の光の粒を不思議そうに見上げていた。
光の粒が店周辺の畑に降り注ぐと、土の中からポコポコと、見たこともないスピードで植物が芽吹き始めたのだ。
「なんやこれ! 村の畑が突然活性化しとるで!」
「神様からの開店祝いかしら……?」
「社長」
ジークがメロンパンを飲み込み、畑を指さした。
「兵士のメシもいいが、そろそろこの村の『地元食材』も使ってみたらどうだ? デパートの品物も最高だが、現地の食材と組み合わせれば、原価も抑えられるし新商品が作れるだろ」
「確かに!」
私はポンと手を打った。
デパ地下の食品も素晴らしいが、パティシエとしては未知の食材で新しいケーキや料理を開発してみたい。
「ニャングルさん、この村の特産品って何があるの?」
「せやな……『メロロン』っちゅうヤバいメロンとか、『月見大根』とか色々あるで。ただ、この村の農家を束ねてるのは、ネギオっちゅう超絶面倒くさい変人の教師なんや。そいつを納得させな、食材は分けてもらえへんで」
変人の教師。
新しい食材を手に入れるため、私たちの次なるターゲットが決まった。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
第4話、ニャングルのえげつない『サブスク商法』が火を噴きました!
行動経済学を駆使して戦場の兵士たちから金貨を巻き上げる守銭奴猫耳、最高に輝いています。
そして、その光景に大爆笑する神々(ルチアナ&ラスティア)。天界からのスパチャ(神の恩恵)が降り注ぎ、村の農業がブーストされました。
次回、第5話ではポポロ村の怪人・ネギオ先生が登場!
コトネはデパ地下の品物で、この超面倒くさい変人を「餌付け(論破)」できるのか!?
スローライフ(※ドタバタ)が加速する次回をお楽しみに!
【読者の皆様へのお願い】
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