開店初日! 疲弊した三国兵士に『豚汁と塩むすび』を出したら、武器を捨てて号泣し始めました。
開店初日! 疲弊した三国兵士に『豚汁と塩むすび』を出したら、武器を捨てて号泣し始めました。
ポポロ村のメインストリートに面した空き店舗。
そこを拠点と決めた私は、さっそくユニークスキル【デパート】の力を全開にして改装作業を行った。
「発動――【デパート】。店舗備品、カフェテラス用テーブルセット! パラソル! それから入り口に立て看板!」
次々と光の粒子が実体化し、殺風景だった木造の建物が、あっという間に現代日本のオシャレなオープンカフェ風店舗へと早変わりした。
店内にはガラス張りの冷蔵ショーケース。外には日差しを遮るパラソル付きのテーブル席。
看板にはチョークで『デパ地下惣菜&スイーツ コトネ』と可愛らしい文字で書いておいた。
「よし、これでオープン準備は完璧ね!」
「ほお、こりゃたまげた。ホンマに何もないとこから店が丸ごと出てきよったで。コトネはんのそのスキル、打ち出の小槌も真っ青やな」
ニャングルがキセルを吹かしながら、目を丸くして感心している。
パラソル席では、専属護衛となったジークがデパートの紙コップで麦茶を飲みながら、すでにオフモードでくつろいでいた。
「社長、この『麦茶』ってやつ、香ばしくて最高だな。延々と飲める」
「ふふ、良かったです。さて、あとはお客様が来てくれるのを待つだけですね」
――しかし。
ここは三国が睨み合う最前線の緩衝地帯。一般の村人はドンガン地下帝国との裏取引や農作業で忙しく、通りを歩く者はほとんどいなかった。
開店から数時間が経ち、やっぱり場所が悪かったかな……と思い始めた時。
「――っ! ルナミスの犬どもが、村の物資を奪おうって腹か!」
「黙れ毛玉野郎! こっちは三日三晩まともな飯を食ってないんだよ!」
突如、店の外から怒声と剣戟の音が響き渡った。
見れば、ポポロ村の広場に、泥だらけの兵士たちが雪崩れ込んできている。
深緑の軍服を着た『ルナミス帝国兵』が十名。対するは、毛皮の鎧を着た『レオンハート獣人兵』が十名。
どうやら国境付近での小競り合いが白熱し、村の中まで流れ込んでしまったらしい。
「うわぁ、いきなり修羅場やんけ」
「社長、片付けようか?」
ジークが麦茶の紙コップを置き、傍らに立てかけてあった『黄金にコーティングされたフランスパン』を手に取ろうとする。
「待って、ジークさん。彼ら……戦ってるっていうより、フラフラじゃない?」
よく見ると、両軍の兵士たちの足取りはおぼつかず、武器を振るう腕も震えていた。
「くそっ……支給された『ゲロオムレツ』のせいで、胃袋が裏返りそうだ……力が出ねぇ……」
「こっちだって固形燃料が切れて肉が焼けねぇんだ……もう限界だ……」
ルナミス兵の言う『ゲロオムレツ(第三型レーション)』は、防腐魔法と化学調味料が最悪の反応を起こした劇物のごとき野戦食だ。獣人兵たちも直火での調理ができず、長引く小競り合いで極限の飢えとストレス状態にあるらしい。
お互いを睨み合いながらも、全員の腹から『グゥゥゥゥゥ』という情けない大合唱が響いた。
飢えた者たち。
それはつまり、私にとって最高の『お客様』だ。
「いらっしゃいませー!!」
私は満面の笑みで、殺気立つ(けれどフラフラの)兵士たちの間に飛び出した。
「な、なんだお前は! 民間人はすっこんでろ!」
「当店では武器の持ち込みはご遠慮いただいております! それより皆様、温かいご飯はいかがですか?」
「ご、ご飯だと……!?」
兵士たちの目が血走る。
私はすかさず【デパート】を発動し、惣菜コーナーの奥義を繰り出した。
「特別メニュー! 『特製・具だくさん豚汁』と『極上粗塩むすび』のセットです!」
テーブルの上に、大きな寸胴鍋と、木箱に綺麗に並べられた大きなおにぎりが現れる。
寸胴鍋のフタを開けた瞬間――ふぁぁぁっ、と真っ白な湯気と共に、暴力的なまでの味噌と出汁の香りが広場に爆発した。
「嗅いでください、この香り! ごま油でこんがり炒めた豚肉の濃厚な脂。大根、ニンジン、ごぼう、こんにゃくに、里芋! 根菜の旨味がこれでもかと溶け込んだ、栄養満点の豚汁です!」
「あ、あああ……」
「そしてこちらが、ふっくら炊き上げた『米麦草(日本の白米)』を、職人がふんわりと絶妙な力加減で握った『塩むすび』! 海苔の香ばしい匂いと、粗塩の甘みが、極限まで疲労した体に染み渡りますよ!」
説明しながら、私は温かい豚汁をお椀に次々とよそい、塩むすびと一緒にお盆に乗せていく。
兵士たちの武器が、カラン、カランと音を立てて地面に落ちた。
彼らはフラフラと引き寄せられるようにテーブルに群がり、豚汁のお椀を震える両手で受け取った。
「い、いただきます……」
ズルッ。
ルナミス兵の部隊長が豚汁を一口すすり、塩むすびにかじりついた。
その瞬間。
「――――ッ!! う、うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
部隊長の目から、ブワァァァッ!と滝のような涙が噴き出した。
「美味い……! なんだこれは、腹の底からポカポカと温まっていく! 大根が溶けるほど柔らかい! そしてこの塩むすび! 口の中でハラリとほどける米粒一つ一つが、甘い……甘すぎる! 俺たちが今まで涙を流して食っていたゲロオムレツは、一体何だったんだ!!」
「ううぅぅぅぅっ! 美味え……獣王様、この塩むすびは国宝です……! 故郷のカーチャンの飯より美味えぇぇ!」
獣人兵たちも、顔をくしゃくしゃにして号泣しながら豚汁をかき込んでいる。
ついさっきまで殺し合いをしていたはずの両軍が。
今はテーブルに一緒に座り、「お前も食えよ」「そっちの豚肉デカくないか?」と肩を組みながら、むせび泣きつつご飯を分かち合っているのだ。
「美味しいものを食べれば、人は争いをやめる……これがデパ地下の平和理論です!」
「甘い! 甘いでコトネはん! 美味い飯の後は、ワイの出番や!!」
感動的な光景をぶち壊すように、ニャングルが算盤を片手にテーブルへ飛び乗った。
「毎度おおきに! 豚汁とおむすびセット、初回はサービスやが、おかわりは金貨一枚やで!!」
「き、金貨一枚だと!? ふざけるな、そんなの戦場の闇レートのさらに十倍のぼったくりじゃねえか!」
正気に戻ったルナミス兵の一人が、剣に手を伸ばしかけた。
だが。
「……おい」
ドゴォォォォォォン……ッ!
店の奥から、とてつもない質量の殺気(闘気)が放たれ、広場全体を重力魔法のように圧迫した。
見れば、ジークが黄金に輝くデパートの『高級フライパン(テフロン加工)』を片手に持ち、三白眼で兵士たちを睨み下ろしていた。
「社長の飯にケチつけんのか? それ以上騒ぐなら、このフライパンで全員の頭をミンチにして、今日の俺の夕飯のタネにしてやる。……おとなしく財布を出せ」
「「「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!? 払います! 払いますから命とご飯だけはお許しを!!」」」
ジークの圧倒的な暴力の気配に、兵士たちは秒で土下座し、持っていた小銭袋や武器を次々とニャングルに差し出した。
ニャングルは「ほくほくやで〜!」と笑いが止まらない様子だ。
* * *
その頃。
遥か上空、神々が住まう天界のモニタールームでは。
『ちょっと何これ!? 地球のデパ地下じゃん! 豚汁美味そうすぎるんだけど!!』
芋ジャージに健康サンダル姿の女神ルチアナが、ポテトチップスをかじりながらモニターを指さして大爆笑していた。
その隣には、永遠の17歳(自称)魔王ラスティアも、モニターに釘付けになっている。
『ヤバい、これ絶対バズるやつ! ほらルチアナ、ゴッドチューブのPV(視聴回数)が爆上がりしてるわよ! あの猫耳商人とヤバい剣士の組み合わせ、バラエティ番組として最高じゃない!』
『やったー! これで今月の予算増えるウマー! 朝倉月人君のライブのSS席チケット買えるぅぅ!!』
二人の神(と魔王)が狂喜乱舞する中、ポポロ村のライブ配信は異世界全土のゴッドチューブで急上昇ランキング1位を叩き出していた。
* * *
こうして、開店初日から三カ国の兵士の胃袋を完全に掌握してしまった私。
美味しいご飯を提供する私。
それをえげつない手腕で金に換えるニャングル。
暴れる客を物理で黙らせる最強のジーク。
私たちの役割分担は完璧だった。
婚約破棄されて辺境に追放されたはずが、気づけば私は、とんでもなく楽しくて平穏(?)な辺境デパート生活をスタートさせていたのである。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
開店初日の最初のお客様は、不味い野戦食で死にかけていた三国同盟軍の兵士たちでした!
『豚汁と塩むすび』の圧倒的な美味さの前に、憎しみも戦争も吹っ飛び、ただの食いしん坊集団と化してしまいました(笑)。
そしてニャングルの商魂と、ジークの抑止力(テフロン加工フライパン)が完璧に機能しています!
神々も大爆笑のデパート経営、ここからさらにスケールアップしていきます!
【読者の皆様へのお願い】
「豚汁と塩むすび食べたい!」「ゲロオムレツ可哀想すぎるw」「ジークのフライパン無双最高!」と思っていただけましたら、
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