面接は『黒毛和牛ハンバーグ弁当』で。やる気ゼロのBランク剣士、弁当一つで最強の専属護衛になる。
面接は『黒毛和牛ハンバーグ弁当』で。やる気ゼロのBランク剣士、弁当一つで最強の専属護衛になる。
「コトネはん。店を開くのはええけど、まずは『武力』が必要や」
ポポロ村にある冒険者ギルドの出張所。
木造の古びた建物の扉をくぐりながら、私の専属財務担当となった猫耳商人のニャングルが、キセルをふかしながら言った。
「武力、ですか?」
「せや。ここはルナミス帝国、レオンハート獣人王国、アバロン魔皇国が睨み合う最前線の緩衝地帯やで? 空には魔導ドローンが飛んでるし、その辺に野盗や魔獣もウロチョロしとる。美味い菓子と金庫を守るためには、絶対に腕の立つ用心棒がいるんや」
なるほど、一理ある。
いくら私に【デパート】のスキルがあるとはいえ、私自身はただの元パティシエだ。戦う力なんて皆無に等しい。
「でも、凄腕の冒険者なんて、お金がかかるんじゃ……」
「そこはワイの腕の見せ所や。安うて、強うて、都合のええ奴を探したる」
ニャングルがギルドの依頼掲示板に目を向けると、そこには暇を持て余している冒険者たちが数人たむろしていた。
その中で、ひときわ異彩を放つ青年が一人。
くせっ毛の黒髪に、鋭い三白眼。着古した簡素な革鎧を身につけ、背中には使い込まれた長剣を背負っている。年齢は二十歳そこそこだろうか。
彼は掲示板の依頼書を見ながら、深いため息をついていた。
「……どれもこれも面倒くせぇ。ゴブリン討伐に、遺跡の探索? 冗談じゃない。俺はただ、日当がそこそこで、三食美味い飯が食えて、定時で帰れる仕事がしたいだけなんだよ……」
なんという意識の低い冒険者だろうか。
しかし、ニャングルはニヤリと笑うと、彼に声をかけた。
「そこの兄ちゃん。ワイらの店の専属護衛にならへんか? Bランクの『ジーク』はんやな」
「あ? 商人か。店ってどこだよ」
「このポポロ村のど真ん中や」
「パスだ。このキナ臭い村で商売の護衛なんて、面倒事のオンパレードに決まってる。他を当たってくれ」
ジークと呼ばれた青年は、ひらひらと手を振って背を向けようとした。
確かに、彼の言う通りだ。普通に考えれば割に合わない危険な仕事だろう。
ニャングルが舌打ちをする横で、私はふと、あることを思いついた。
「あの、ジークさん。三食美味いご飯が食べられるなら、お仕事を引き受けてくれますか?」
「あん? ……まあ、飯のレベルにもよるがな。ルナミス軍の『ゲロオムレツ』みたいな野戦食を出された日には、店ごと叩き斬るぞ」
ご飯のレベル。
それなら、私にお任せあれだ。
私は右手をかざし、念じる。
「発動――【デパート】。食品フロア、お弁当コーナー!」
ポォンッ、と小気味良い音が鳴り、私の両手に一つの四角い箱が現れた。
それは、日本のデパ地下でよく売られている、高級感あふれる黒いプラスチック容器のお弁当。
パッケージには金色の筆文字でこう書かれている。
――『特選・黒毛和牛100% 網焼きハンバーグ弁当』。
「なんだ、その箱は?」
「ふふっ、見ていてくださいね」
私はお弁当の横から飛び出している黄色いヒモを、シュッと勢いよく引き抜いた。
これは『加熱式弁当』のギミック。石灰と水が反応し、いつでもどこでもアツアツのご飯が食べられるという、日本の叡智の結晶である。
シューゥゥゥッ……!
箱の下部から白い蒸気が吹き出し、瞬く間にギルド内に香ばしい匂いが充満した。
肉が焼ける匂い。赤ワインとフォンドボーを煮詰めた、濃厚なデミグラスソースの香り。
五分後。蒸気が収まったところで、私はパカッとフタを開けた。
「はい、お待たせいたしました!」
艶々に輝く白いご飯の横で、分厚いハンバーグが湯気を立てている。
添えられたポテトとブロッコリーの彩りも完璧だ。
「な、なんだこの狂ったように美味そうな匂いは……!?」
ジークの三白眼が、限界まで見開かれていた。
私は彼に割り箸(これもデパートの付属品だ)を手渡す。
「さぁ、冷めないうちにどうぞ」
「い、いただきます……」
ジークは震える手で箸を割り、ハンバーグを半分に割った。
その瞬間、中から滝のような肉汁がジュワァァッ!と溢れ出し、真っ白なご飯へと染み込んでいく。
彼はそのまま、ハンバーグとご飯を一緒にかき込んだ。
「――――ッ!!」
ジークの動きが、雷に打たれたように完全に停止した。
「な、なんだこれは……ッ! 噛まなくても肉が溶ける!? 溢れ出す脂の甘みと、このドス黒いソースの暴力的なまでの旨味! それにこの白い穀物……俺たちが普段食ってるボソボソの『米麦草』とは次元が違う、ふっくらとした甘さと粘り気! これが、これがおかずを受け止める完璧な土台……ッ!」
ガツガツガツガツッ!!
ジークはもはや言葉を失い、一心不乱に弁当をかき込み始めた。
わずか一分で、黒毛和牛ハンバーグ弁当は空っぽになった。
「ふぅ……」
ジークは箸を置き、深く息を吐き出すと、私に向かって直角に頭を下げた。
「社長。俺の命、今日からアンタのものです。一生護衛させていただきます」
「チョロォォォォッ!!?」
ニャングルが目をひん剥いてツッコミを入れた。
こうして、超絶有能(?)なBランク剣士ジークが、日替わり弁当を対価に私の専属護衛として雇われることになった。
* * *
早速、店舗の予定地へと三人で歩いていた時のことだ。
村の外れの茂みから、ガサガサと物音がした。
「ヒャッハー! 身なりからして商人だな! 身ぐるみ置いていきな!」
飛び出してきたのは、薄汚れた鎧を着た五人の野盗たちだった。
手には物騒なナタやクロスボウを持っている。
「ひぃぃっ!? 早速出たで! コトネはん、ジークはん、逃げ――」
「ニャングル、騒ぐな。うるさい」
ジークがため息をつきながら前に出た。
しかし、彼は背中の剣を抜こうとしない。
「あれ? ジークさん、剣は?」
「あー、今日ちょっと刃こぼれしてて、あんまり汚したくないんだよね。社長、なんでもいいから棒切れみたいなのない?」
「棒切れ? ええと……」
私は慌てて【デパート】のインベントリを探った。
食品フロア、ベーカリーコーナー。
私はそこから、一本の長くて硬いパンを取り出した。
「これならありますけど……『特製フランスパン(バゲット)』です」
「パン? ……まあ、これでいいや。貸して」
ジークは片手でフランスパンを受け取ると、ふぅ、と短く息を吐いた。
その瞬間。
ジークの体から、目に見えるほどの凄まじい黄金色のオーラ――『闘気』が爆発的に噴き出したのだ。
「闘気・硬化コーティング」
ジークが呟くと、ふんわりしていたはずのフランスパンが、黄金色に輝く鋼鉄の鈍器へと変貌を遂げた。
「な、なんだあいつ! パンが光って――」
野盗が言い終わるより早く。
ジークは黄金のフランスパンを、軽く横になぎ払った。
――ズガァァァァァァァァンッッ!!!!
たった一振り。
パンから放たれた黄金の斬撃(いや、打撃?)が、衝撃波となって野盗たちを吹き飛ばし、さらにその後ろにあった小山を綺麗に『V字』に削り取ってしまった。
「「…………え?」」
私とニャングルは、ポカーンと口を開けたまま固まった。
目の前には、白目を剥いて気絶している野盗たちと、地形が変わってしまった小山。
「うん、なかなかいい切れ味(?)だ。社長、このパンすげぇな」
ジークは黄金のオーラを消すと、フランスパンの端っこをちぎってムシャムシャと食べ始めた。
「美味い。小麦の香りがたまらねぇ」
「いやいやいやいや!! アンタ何者やねん!! パンで山斬り飛ばすBランクがおるかいな!!」
ニャングルが泡を吹いて叫んだ。
どうやら私、お弁当一つで、とんでもない規格外を雇ってしまったようです。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
ついに最強の護衛・ジークが仲間に加わりました!
彼にかかれば、デパートのフランスパンですら伝説の聖剣に早変わり!?
これで経済面と武力面の最強の地盤が固まりました。
次回はいよいよ店舗オープン! しかし、最初のお客様としてやってきたのは、不味い野戦食に絶望し、ボロボロになった三カ国の兵士たちで……!?
デパートの美味しいご飯が、国境の戦争を止める第3話をお楽しみに!
【読者の皆様へのお願い】
「和牛ハンバーグ弁当美味しそう!」「フランスパン無双ワロタ」「続きが読みたい!」と思っていただけましたら、
画面下部にある『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』にタップして応援していただけると、執筆のスピードがフランスパンの衝撃波並みに跳ね上がります!
また、更新を逃さないための【ブックマーク登録】もぜひぜひよろしくお願いいたします!




