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婚約破棄された元パティシエ令嬢、追放先で【デパート】を開業!守銭奴商人と規格外護衛を雇ったら、三カ国の軍と胃袋を支配してました  作者: 月神世一


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裏側は地獄。やらせカツ丼大食い配信と、極貧人魚のブラックホール胃袋。

裏側は地獄。やらせカツ丼大食い配信と、極貧人魚のブラックホール胃袋。

 ポポロ村のシェアハウスで起きた「太客(石油王)強奪事件」から一晩が明けた翌日の昼下がり。

 デパート・コトネの1階フロアの一角に、特設のオープンスタジオ(配信ブース)が設置されていた。

「はーい! みんな待ちに待ったお時間だよ♡ 本日のゴッドチューブ・スペシャル生配信は……『限界に挑戦! 特製デパ地下カツ丼十杯完食チャレンジ』れすっ……あ、噛んじゃった♡ えへへっ!」

 白銀ツインテールの下級天使・キュララが、自撮り棒付きのカメラに向かって満面のあざとい笑顔を振りまく。

 その目の前には、デパートの厨房で私が腕よりをかけて作り上げた、香ばしい衣と厚切りロース肉、そしてトロトロの卵が絶妙に絡み合った『特製デパ地下カツ丼』が、なんと十杯も山のように積み上げられていた。

 カツオと昆布の豊かな出汁の香りと、甘辛い醤油の匂いがフロア中に立ち込め、通りすがりの村人や兵士たちが「おっ、美味そうだ」「あんなに食べられるのか?」と足を止めて見物している。

『キュララちゃん、がんばれー!』

『十杯はさすがに無理だろ! 残したら俺が代わりに食べる!』

『推しの食べっぷり、最高に癒やされる……!』

 チャット欄には数万人のリスナーからの応援コメントと、大量のスーパーチャット(投げ銭)が滝のように流れ続けている。

「ふふっ、みんな応援ありがとう♡ キュララ、みんなの期待に応えて、この十杯のカツ丼を綺麗に完食しちゃいまーす!」

 キュララはパチリとウィンクをキメて、一番手前にある1杯目のカツ丼を引き寄せた。

 割り箸を割り、黄金色に輝くカツを一口大に切り分けると、カメラに向かって「あーん♡」のポーズをとる。

「では、いただきまーす!」

 パクッ。

 モグモグモグ……。

「んん〜っ! 美味しすぎるっ! サクサクの衣に、お肉の旨味がジュワッと広がって、ご飯が進みすぎちゃうよぉ!」

 『キュララちゃん、美味しそうに食べるなぁ』『天使のモグモグ姿、プライスレス』と、チャット欄がさらに大歓喜に包まれる。

 しかし。

 その華やかな配信画面の裏側では、今、人類の歴史に残る『最悪のやらせ』が着々と進行していた。

 オープンスタジオの机の下。

 カメラの死角となるその暗がりに、エンジ色の芋ジャージを着た影が、まるで地縛霊のようにうずくまっていた。

 極貧地下アイドルの――リーザさんである。

「……ふふっ。ふははははっ……!」

 リーザさんは、血走ったエメラルドグリーンの目を狂気の色に染め、恨み言をブツブツと呟いていた。

「私から石油王さんを奪ったあのおバカ天使め……。自分の胃袋のキャパシティも考えずによくもこんな無謀な企画を……。いいでしょう、その『大食い』のメッキ、今すぐ完璧に剥がして差し上げますわ……!」

 数分前。

 配信が始まる直前、楽屋でキュララはリーザさんにこう言い放っていたのだ。

『ねぇ貧乏魚ちゃん。私、少食だから十杯なんて絶対に無理なんだけど、配信の撮れ高のために「食べたこと」にしなきゃいけないの。だから、カメラに映らない机の下で、残りの九杯分、全部平らげてよね。もし残したら、あんたの分のタッパーの茹で卵も没収だからね!』

 圧倒的な権力(月収二億)による、理不尽すぎるパワハラと残飯処理の強制。

 しかし、極貧のリーザさんにとって「茹で卵の没収」は死を意味する。屈辱にまみれながらも、彼女は怒りのエネルギーを全開にしてその命令に従わざるを得なかったのだ。

「――はいっ! 一杯目、美味しく完食しちゃいましたぁ♡」

 表向きの配信で、キュララが可愛らしくお皿を持ち上げて見せた、その瞬間。

 シュッ!

 机の陰から、音もなく伸びてきた細い手が、空になったお皿をススッと回収した。

 そして、代わりに出されたのは、まだ手をつけていない山盛りの2杯目のカツ丼である。

「んっ!」

 リーザさんは、差し出されたカツ丼を受け取るや否や、神をも恐れぬ超スピードで箸を動かした。

 ガツッ! モグモグモグッ! ゴクンッ!

 咀嚼という概念を完全に無視した、人魚の王家としての驚異的な消化吸収能力。

 噛むのではない、吸い込むように、黄金のカツ丼がブラックホールのような胃袋へと消えていく。

「ふぅ……2杯目も、ペロリと美味しくいただきましたぁ♡」

 表のカメラでキュララが上品に口元を拭うコンマ数秒の間に、机の下から空っぽになったお皿がポンと差し出される。

「おっ、2杯目クリアだって! キュララちゃん、ペース早くないか!?」

「すげぇ……見た目の細い体のどこにそんな入るんだ……」

 見物客たちが驚きの声を上げる。

 しかし、地獄の机の下では、リーザさんがすでに3杯目と4杯目を同時に胃袋に流し込みながら、涙を流してむせ返っていた。

「ぐはっ……! ごほっ、お米が喉に詰まりましたわ……っ! でも、負けませんわよ……あのおバカ天使に恥をかかせてやるんですわ……!」

 ――5杯目、クリア!

 ――6杯目、クリア!

 ――7杯目、クリア!

 表のカメラでは、キュララが「あはは、ちょっとお腹いっぱいになってきちゃったかも〜♡ でも、みんなのためにがんばるね!」と、汗一つかかずにニコニコと微笑んでいる。

 しかしその足元では、リーザさんが7杯分のカツ丼のどんぶりをピラミッドのように積み上げ、息を絶え絶えにしながら8杯目のカツを頬張っていた。

「もう……限界ですの……私の胃袋のキャパシティは……すでに大気圏を突破して……」

 極限状態に達したリーザさんの目が白目を剥きかける。

「おや、リーザさん。何やってるんですか?」

 その時。

オープンスタジオの脇を通りかかった私が、机の下をのぞき込んだ。

「ひっ……! こ、コトネさん……! 助けてくださいまし……このままでは、私はカツ丼の海に溺れて死んでしまいますわ……っ!」

「あら、良いじゃない。デパートのカツ丼をそんなに美味しく食べてくれるなんて、店長として嬉しい限りよ」

「美味しく食べてるわけありませんわ! これは苦行ですの! 拷問ですの!」

 涙目で訴えるリーザさんの横を、私はスッと通り過ぎながら、小さな小声で囁いた。

「ちなみに、この配信の裏側の『やらせの証拠』、ちゃんと録画してあるから。あとでキュララちゃんに、出演料のキックバック(裏金)を要求する材料に使いなさい。交渉のコツも教えてあげるわ」

「……っ! 本当ですの!?」

 極限の絶望の底にいたリーザさんの目に、パァァッと強烈な金の亡者のハイライトが灯った。

 そうだ。ただこき使われるだけの底辺ではない。この証拠さえあれば、あの成金天使から弱みを握って大金を巻き上げることができる!

「やりますわ……! 私のブラックホール胃袋の限界を見せてやりますわぁぁっ!」

 リーザさんは完全に『別の意味での欲の炎』を燃え上がらせ、残りの9杯目と10杯目のカツ丼に向かって猛然と噛みついた。

 ――そして。

「――というわけで! なんと、キュララ、見事に特製カツ丼十杯を完食しちゃいましたぁぁぁっ! パチパチパチ〜♡」

 表のカメラの前で、キュララが両手を叩いて満面の笑みで配信を締めくくった。

『すげぇぇぇぇっ! あの細い体で十杯完食とかマジキチかよ!』

『キュララちゃん、愛してるぞーーーっ!!』

『特大の赤スパ投げたわ!』

 チャット欄は、驚愕と賞賛の嵐で文字通り爆発した。

 数十万、数百万という莫大なスーパーチャットが、キュララの口座へとチャリンチャリンと吸い込まれていく。

「みんな、応援ありがとね♡ それじゃあ、今日の配信はここまで! バイバイ、まったね〜♡」

 プツッ。

 配信が終了し、カメラの赤いランプが消えた瞬間。

「ふぅ〜……。疲れたぁ。やっぱり大食いは肌が荒れちゃうから大変よね〜」

 キュララはパタパタと手で顔を扇ぎながら、何食わぬ顔で立ち上がった。

 その足元。

 机の陰から、泥まみれ(カツ丼のタレまみれ)になったゾンビのような人魚姫が、フラフラと這い出してきた。

 彼女の前には、見事にピカピカに磨き上げられた十杯分の空のどんぶりが、綺麗に積み上げられている。

「ふ、ふふふ……ふははははっ……!」

「ひゃっ!? な、なにこの貧乏魚、急に出てきて気味の悪い笑い声を……!」

 リーザさんは、カツ丼のタレを顔中にベッタリとつけたまま、スマホを取り出し、ある画面をキュララに突きつけた。

「これを見なさい、キュララちゃん」

「え……? なにこれ、さっきの配信の裏側の定点カメラの映像……? え、なんであんた、机の下から私の足舐めるみたいなアングルで……じゃなくて!」

 映像には、キュララが口をつけることもなく、すべてのカツ丼を机の下に滑り込ませ、それをリーザさんが野獣のように貪り食っている一部始終が、高画質で鮮明に録画されていた。

「これがあれば、『ピュア天使・キュララの大食いチャレンジは、完全なやらせ詐欺だった』というスキャンダルを、いつでもゴッドチューブ運営や世間にリークできますわねぇ……っ!」

「なっ……! そんなの脅しよ! 卑怯だわ!」

 キュララが真っ青になり、あざとい笑顔を完全に引っ込めて地団駄を踏む。

 極貧アイドルは、ニヤリと極悪非道な笑みを浮かべた。

「卑怯とはなんですの。ビジネスですわよ、ビジネス!」

「うぅ……っ。で、で、どうすればこの動画を消してくれるわけ……?」

「決まってますわ! 今日の配信で稼いだスパチャの取り分――『五分五分』の山分けですの! さもないと、あなたの全財産と社会的信用が秒で消え去りますわよ、先輩♡」

 お互いの弱みを握り合い、ギスギスとした薄汚い笑みを浮かべる新旧アイドル二人。

 その修羅場を、私は遠くから冷ややかな真顔で見守りながら、密かに呟いた。

「……うん。あの二人は、一生そのまま仲良く共依存していればいいわね」

 こうして、世界を揺るがす(?)やらせ大食い配信は、大盛況(と大泥沼)の内に幕を閉じ、私たちのデパートの日常は、今日も元気にカオスを極めていくのであった。

読んでいただきありがとうございます。

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