回るお寿司と極貧アイドル。そして漁船から生還した駄女神と共に、大宴会で乾杯を!
回るお寿司と極貧アイドル。そして漁船から生還した駄女神と共に、大宴会で乾杯を!
ルチアナ様が深夜のガチャ爆死の末、大宇宙管理局(カスハラ部)の黒服天使レスラーによってスーツケースに詰められ、シーラン国の『マグローザ漁船』へとドナドナされてから数日が経過した。
その日の夜、閉店後の『デパート・コトネ』1階の食品フロア。
私たちは、新しくオープンしたばかりの『魔導回転寿司コーナー』のボックス席に集まり、賑やかな大宴会を開いていた。
「さぁさぁ、皆さん! 今日はルチアナ様がいなくなった分の人件費も浮きましたし、新村長就任と月光薬の大ヒットの打ち上げも兼ねて、私のおごりです! 好きなだけ食べてくださいね!」
「わぁぁぁいっ! お姉ちゃん太っ腹ぁっ!」
私が乾杯の音頭を取ると、リリスちゃんが歓声を上げて、レーンを流れていく『特上サーモン』の皿を次々と確保していく。
「うひょひょひょ! 回転寿司っちゅうこのシステム、無駄な配膳コストを削りつつ、客の視覚に直接訴えかけて食欲を刺激する……まさに悪魔のビジネスモデルやな! 大トロ、いただきや!」
ニャングルは算盤を置き、金貨の如く輝く大トロをパクパクと頬張る。
「ジ、ジークさん! 私のお手製の『愛の月見大根おろしポン酢ハンバーグ軍艦』です! あぁん、私の愛(と重い念)がたっぷり詰まってますから、ぜひ一口で……っ♡」
「ん、おう。……悪くねぇな」
「はうぅぅっ♡ ジークさんに私のお寿司を食べていただけましたぁっ♡」
ボックス席の奥では、すっかりデパートの常連(というか入り浸り)になったキャルルさんが、ジークの口へ甲斐甲斐しくお寿司を運んでいた。
ジークがモシャリと咀嚼するたびに、キャルルさんの兎耳がピンッ!と跳ね上がり、今にも鼻血を吹き出しそうな限界の顔をしている。
そして、そのテーブルの端には、もう一人。
ルナミスデパートのワゴンセールで買ったエンジ色の芋ジャージに、健康サンダルという見覚えのあるスタイル。
キャルルさんのシェアハウス時代の同居人であり、シーラン国の正統なる人魚姫にして、現在『極貧地下アイドル』としてどん底生活を送っている、リーザ先輩の姿があった。
「あの……コトネさん」
「はい、リーザさん。お腹空いてるんでしょう? 遠慮なくお寿司、食べていいんですよ」
私が微笑みかけると、リーザさんは涙ぐみながら、タッパーを取り出した。
「本当に……この『ガリ』と『粉末緑茶』、タッパーに詰めて持ち帰ってもいいんですか……っ!?」
「ダメです。お寿司を食べなさい」
私はハリセン代わりに丸めた『ルナミス新聞』で、リーザさんの頭を軽くポカッと叩いた。
この人魚姫、極貧生活が板につきすぎて、無料のガリと醤油とお茶だけで一食を済ませようとする悲しきサバイバル癖が抜けていないのだ。
「いいから、これ食べてください。炙りえんがわです」
「あ、炙り、えんがわ……? こ、こんな高級食材……いつも公園の鳩とお弁当の取り合いをしてる私なんかが、口にしていいはずが……」
リーザさんは震える手でお寿司を口に運んだ。
その瞬間、彼女のエメラルドグリーンの瞳から、滝のように涙が溢れ出した。
「お魚がっ! お魚が口の中で溶けるぅぅぅっ! 脂が甘くて、香ばしくて……公園で食べる茹で卵の何万倍も美味しいよぉぉぉっ! 生きててよかったぁぁっ!」
「泣きながら食べなくても……はい、パンの耳ばっかりじゃ栄養偏りますから、茶碗蒸しもどうぞ」
私が出来立ての茶碗蒸しを差し出すと、リーザさんは「コトネさんは女神様ですぅっ!」と私のエプロンにしがみついて号泣した。
このデパート、駄女神といい極貧アイドルといい、胃袋を掴むとすぐに泣いてすがりついてくる残念な美人ばかりである。
「コトネさん! このご恩、私のお歌で返させてください! 皆様の食欲と金運を全開にする、私の新曲をお聴きください! 『Love & Money』!」
リーザさんが立ち上がり、箸をマイク代わりに握りしめて歌い始めた。
『愛! アイ! 愛! アイ! ラ〜ブラブ! マネー! マネ! ローン! ダーリン! グ!』
『夕方の鐘が鳴ったわ♪ お腹はもうペコペコよ♪』
その透き通るような美しい人魚の歌声が、デパートの空間に響き渡る。
極貧地下アイドルとはいえ、腐っても彼女はシーラン国の王家。その歌声には『共鳴歌唱バフ』という、聴く者の体力と気力を爆発的に全回復させる奇跡の魔法が宿っていた。
「おおっ!? なんや、お寿司がいつもより輝いて見えるで!」
「すっごーい! お腹いっぱいだったのに、またデザートが食べたくなってきたもん!」
バフの効果によって、宴会のボルテージは最高潮に達する。
ジークに至っては、レーンを流れてくるお寿司を無表情のまま手裏剣のように残像が見える速度で口に放り込み、見事な皿のタワーを築き上げていた。
「よーし! それじゃあ宴会の〆に、特大の『あまおう苺パフェ』と『抹茶パフェ』を作ってきますね!」
私が厨房へ向かおうと立ち上がった、その時だった。
――ウィィィィン……。
閉店しているはずのデパートの自動ドアが、力なく開いた。
そこから、ズリッ……ズリッ……と、ゾンビのように這いずってくる一つの影があった。
「あ……あぁ……っ」
全身泥だらけで、至る所が破れたエンジ色の芋ジャージ。
髪には海藻が絡みつき、顔はゲッソリとこけ、口からは魂が抜けかかっている。
「る、ルチアナ様!?」
「先輩ぃぃぃっ!?」
私とリリスちゃんが悲鳴を上げる。
そこには、大宇宙管理局にドナドナされ、シーラン国の『マグローザ漁船(強制労働)』へと出荷されたはずの駄女神・ルチアナ様が、ボロ雑巾のような姿で帰還を果たしていたのだ。
「コ……コトネ、ちゃぁん……っ」
ルチアナ様は、床を這いつくばりながら、血走った目で私を見上げた。
「帰っ、て……きたよ……。荒れ狂うシーランの海で……巨大なマグローザを、三十匹……素手の一本釣りで、釣り上げて……借金、全額、チャラにして、帰ってきたわよぉぉっ……!」
「す、素手で一本釣り!? 神の力をそんな肉体労働に!?」
驚愕の事実だった。
オタクの執念というか、過酷なタコ部屋労働から一刻も早く抜け出して『推しのライブのアーカイブ』を見るためだけに、彼女は世界神としてのリミッターを完全に解除し、マグローザ漁船の船長すらドン引きするほどの漁獲量をたった数日で叩き出して、力技で借金を完済(生還)してきたのである。
「す、すごい執念や……。オタクの推し活への執念、悪魔より恐ろしいで……」
ニャングルが、顔を引き攣らせながら算盤を落とした。
「は、腹が、減ったよぉ……。マグローザの生肉はもう嫌だぁ……。コトネちゃんのご飯、食べさせてぇぇ……ガクッ」
ルチアナ様はそのまま白目を剥き、床に突っ伏してピクピクと痙攣し始めた。
「……はぁ。本当に、世話の焼ける神様ですね」
私は深く、深いため息をついた。
全く反省しているのかどうかも怪しいし、きっと手元にお金があれば、懲りずにまたガチャを回すに決まっている。
それでも。
ボロボロになって、私のデパートの『ご飯』を求めて帰ってきてくれたこの駄女神を見捨てることなんて、前世でも今世でも『ホワイト企業の店長』を自負する私にできるはずがなかった。
「……いらっしゃいませ。デパート・コトネへ」
私は【デパート】のスキルを起動し、最高級の『大間産・本マグロ』の大トロを取り出した。
それを手早く、ふんわりとした絶妙な力加減でシャリと握り合わせ、ルチアナ様の顔の前に差し出す。
「借金完済、お疲れ様でした。そして……おかえりなさい、ルチアナ様」
お寿司の極上の香りに、ルチアナ様がバチッ!と目を見開いた。
彼女は震える手で大トロの握りを掴み、そのまま口の中へと放り込む。
「――――ッ!!」
一瞬で、彼女の頭上の光の輪がピカァァァァッ!と眩い輝きを取り戻した。
「おい、ひぃぃぃぃっ……! お口の中でマグロが溶けるよぉぉぉっ! 海水の塩味じゃない、お醤油の甘さが全身に染み渡るぅぅぅっ! やっぱり、コトネちゃんのご飯が宇宙で一番だよぉぉぉっ!!」
ボロボロのジャージ姿のまま、ルチアナ様は床に正座し、号泣しながら大トロを咀嚼した。
「あら? ルチアナ先輩じゃない。マグローザ漁船から帰ってきたのね。奇遇だわ、私もお寿司ご馳走になってるのよ」
「えっ? リーザ? あんた何でここに……って、ちょっと! 私の大トロ、勝手に食べないでよぉっ!」
「いいじゃないですか、ケチ! アイドルはお腹が空くんです!」
そこに極貧アイドルのリーザさんが加わり、駄女神と貧乏人魚による、みみっちいお寿司の奪い合いが始まった。
「あはははっ! 二人とも、お寿司はまだまだたくさんありますから、喧嘩しないでくださいね!」
私は、お茶を注ぎながら、そのドタバタな光景を見て心底笑ってしまった。
「ジークさん、特大パフェ、食べます?」
「おう。甘いのは嫌いじゃねぇ」
「はいはぁぁいっ! ジークさんのパフェは私がアーンして食べさせますぅっ♡」
「村長、鼻血出てるで。ワイの算盤に血ぃ飛ばさんといてや!」
「コトネお姉ちゃん! 私、お寿司三十皿食べたよ!」
頼もしくて少しズレている最強の護衛。
頼りになるお金の亡者。
可愛い看板娘の見習い女神。
愛が重すぎるヤンデレ村長。
たくましすぎる極貧地下アイドル。
そして、漁船から生還した懲りない駄女神。
私の周りには、いつの間にかこんなにも賑やかで、優しくて、騒がしい仲間たちが集まっていた。
前世の閉鎖的で苦しかったブラック企業の日々からは考えられないほどの、温かい居場所。
それが、私の誇る『デパート・コトネ』なのだ。
「よーし! それじゃあ、ルチアナ様の生還祝いも兼ねて、もう一度乾杯しましょう!」
「「「乾杯〜っ!!」」」
ポポロ村の夜空に、私たちの楽しげな笑い声とグラスの音が響き渡る。
ピロリンッ♪
不意に、ルチアナ様のポッケの中で、スマホの通知音が鳴った。
画面には『朝倉月人ガチャ・第二弾ピックアップ開始!』の文字。
「あっ、月人君のガチャ……」
ルチアナ様の目が、再び虚無のガチャジャンキーのそれに染まりかけた、その瞬間。
「没収です(真顔)」
「あぁぁっ!? 私のスマホぉぉぉっ! ちょっとだけ! 一回だけ引かせてぇぇっ!」
私はルチアナ様のスマホを華麗にひったくり、そのままエプロンのポケットの奥深くへと封印した。
トラブルは絶えないけれど。
明日からも、私のデパートは最高に美味しくて、最高にホワイトな環境で、元気に営業を続けていくのである。
(第3章 完)
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
これにて第3章、堂々の完結です!
魔導回転寿司コーナーでの大宴会!
相変わらず極貧サバイバル癖が抜けないリーザのタッパーを没収し、美味しいお寿司と『Love & Money』のバフで大盛り上がり。
そこへ、マグローザ三十匹を素手で一本釣りするというオタクの執念で借金を力技で完済したルチアナ様が生還(笑)!
ボロボロの駄女神に「おかえりなさい」と大トロを握ってあげるコトネの優しさと、最後の最後でまたガチャを引こうとするルチアナのスマホを「没収です(真顔)」とひったくる見事なオチ。
読者の皆様の腹筋と涙腺を、少しでも刺激できていれば幸いです!
【読者の皆様へのお願い】
「ルチアナのオタクの執念こわっw」「リーザのガリ持ち帰りリアルww」「コトネの真顔没収で吹いた」「第3章も最高だった!」と思っていただけましたら、
ぜひ画面下部の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』にタップして、コトネたちの最高の宴会にスパチャ(応援)をお願いいたします!
皆様の星と【ブックマーク】が、第4章執筆への最大の原動力となります!
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
引き続き、『デパート・コトネ』の大繁盛にご期待ください!




