ポポロ村防衛戦! 雷神の月兎と、場外ホームランを打つ『最強のフランスパン』。
ポポロ村防衛戦! 雷神の月兎と、場外ホームランを打つ『最強のフランスパン』。
ルチアナ様が試食販売員として謎の覚醒を遂げ、デパートがかつてないほどの売上を記録していた日の午後。
のどかなポポロ村に、突如としてけたたましい魔導サイレンの音が鳴り響いた。
「緊急事態です! ポポロ山の向こうから、はぐれ飛竜の群れがこちらへ向かってきています!」
自警団のリーダーであるマンミアさん(ケンタウロス種)が、蹄の音を高く鳴らしながら広場へ駆け込んできた。
飛竜といえば、通常は騎士団が束になってワイバーン専用の対空魔砲で迎撃するような、厄介極まりない空の魔獣である。それが群れで襲来したとなれば、普通の辺境の村なら一瞬で火の海だ。
「ワイバーンやと!? アカン、あいつら空から火ぃ吹いてくるで! デパートの屋上に干してある高級布団が燃えたら大損害や!」
ニャングルが頭を抱えて叫ぶ。
「落ち着いてください! 自警団の魔導対空砲と、防衛フィールドを展開すれば――」
私が冷静に指示を出そうとした、その時だった。
「皆さん、ご安心ください!」
デパートの前に、颯爽と駆けつけてきた人影があった。
ラフなパーカーにショートパンツ、そして足元にはタローマン特注の『鋼鉄先芯入り安全靴』を履いた新村長、キャルルさんである。
「この村は、新村長であるこのキャルル・ムーンハートが絶対に守り抜いてみせます! ……そしてっ!」
キャルルさんは、チラリとデパートのテラス席を見上げた。
そこには、相変わらず無気力な三白眼で、焼きたての『カッチカチのフランスパン』を片手に空を眺めているジークの姿があった。
「(私の村長としての初陣、そして村を守る凛々しい姿を、愛しのジークさんにアピールする絶好のチャンス……っ! ここで私が無双すれば、ジークさんは私の虜間違いなしですっ♡)」
鼻息を荒くし、ピンと兎耳を立てたキャルルさんは、クラウチングスタートの姿勢を取った。
「行きますっ!」
ドンッ!!
大気が爆発したかのような轟音。
キャルルさんの姿が、瞬時に私たちの視界から掻き消えた。
月兎族の並外れた脚力。彼女の100メートル走のタイムは5秒台。時速にして約72キロという、車並みのスピードで一気にポポロ村の外縁部へと跳躍したのだ。
「ギャァァァァァッ!」
上空から村へ向かって降下してきていたワイバーンの群れが、突然現れたウサギの少女に気づき、口から灼熱の炎を吐き出そうとする。
「遅いですっ!」
キャルルさんは空中で見えない足場(空気)を蹴り、変幻自在に軌道を変えながら、ワイバーンの死角へと回り込んだ。
「月影流・乱れ鐘打ちっ!」
ダダダダダダダンッ!!
空中で放たれた連続回し蹴りが、特注の安全靴の硬度と相まって、ワイバーンたちの強靭な鱗と骨を容易く粉砕していく。
悲鳴を上げる間もなく、数匹のワイバーンが空からボトボトと墜落していった。
「す、すごい……! 空を飛ぶ魔獣を、生身の蹴りだけで……!」
「なんちゅうバネや……あれが月兎族の最上位種の力か」
私とニャングルは、テラス席からポカンと口を開けてその光景を見上げていた。
「グルァァァァァァッ!!」
仲間を倒され激昂したワイバーンのリーダー格(一回り大きい個体)が、キャルルさんに向かって一直線に急降下し、極太の雷撃を放ってきた。
空中にいるキャルルさんには、回避する場所がない。
「危ないっ!」
私が叫んだ瞬間。
「舐めないでください。私、ジークさんの前でカッコ悪いところは見せられませんからっ!」
キャルルさんは空中で身を捻り、安全靴の踵をカチリと鳴らした。
瞬間、靴底に仕込まれた『雷竜石』のリミッターが解除され、彼女の全身を紫電の雷光と極大の闘気が包み込む。
「はぁぁぁぁっ!! 超電光流星脚(スーパー・ライトニング・メテオ・ストライク)ぉぉぉっ!!」
空中を一回転したキャルルさんが、音速(マッハ1)を超えるスピードで、雷撃を纏った飛び蹴りを放った。
――ドゴォォォォォォォォォォォォンッ!!!
着弾の瞬間、約一千メガジュール(打撃質量換算277トン)という、巨大戦艦の主砲すら凌駕する破壊エネルギーが炸裂した。
ワイバーンのリーダーは、断末魔の悲鳴を上げる間もなく、雷光と共に文字通り『蒸発』し、空には見事な丸い爆発の雲だけが残された。
「……あ、あはは。もう笑うしかないわね」
私は引きつった笑いを浮かべた。あの可愛らしいウサギの女の子が、まさか戦術兵器クラスの破壊力を持っているとは。これなら村の防衛は全く問題ないだろう。
――しかし。
キャルルさんがリーダーを粉砕した爆発の余波に弾き飛ばされた一匹のワイバーンが、パニック状態に陥り、狂ったように一直線に村の中心……すなわち『デパート・コトネ』のテラス席へと向かって急降下してきていたのだ。
「ギャァァァァァァッ!」
「ひぃぃぃっ!? こっち来よったで!」
「コトネはん、伏せて!」
マンミアさんがクロスボウを構えるが、パニック状態の魔獣のスピードが速すぎる。
ワイバーンの鋭い爪が、テラス席の屋根を切り裂こうとした、その時。
「……メシ食ってんのに、ほこりを立てるな」
いつの間にか、私の前にスッと立ち塞がった広い背中があった。
ジークだ。
彼は右手に、食べかけの『カッチカチのフランスパン』をだらりと下げていた。
「ジークさん!」
ジークは、飛来するワイバーンに向けて、無気力な三白眼をわずかに細めた。
そして、右手に持ったフランスパンに、目も眩むような『黄金の闘気』を一気に流し込んだのだ。
ビキィィィィンッ!!
ただのパンが、闘気コーティングによってオリハルコンすら超える絶対硬度の『鈍器』へと変貌する。
「プレイボールだ」
ジークは、フランスパンを両手で野球のバットのように構え、腰を深く落とした。
そして、襲いかかってきたワイバーンの顎を正確に見切り――。
「カッ飛ばすぜ」
フルスイング。
バギィィィィィィィィィィンッ!!!!
打撃音とは思えない、まるで隕石が衝突したかのような轟音がテラスに響き渡った。
黄金のフランスパンによって顎を完璧に打ち抜かれたワイバーンは、「ゲボァッ!?」という奇妙な悲鳴を上げながら、打球角度45度の完璧な放物線を描いて、ポポロ山の遥か彼方の空へと消えていった。
見事な、完璧すぎる『場外ホームラン』である。
「「「…………」」」
テラス席に、奇妙な静寂が落ちた。
「ふぅ。まぁ、こんなもんだろ」
ジークは闘気を解除すると、武器として使ったばかりのフランスパンの先端を、無造作にムシャッと噛みちぎった。
「……うん。ちょっとワイバーンの鱗の風味が移っちまったが、香ばしくて悪くねぇな」
「だから! 食べ物で魔獣を討伐して、そのまま食べないでくださいっていつも言ってるじゃないですか!!」
私は全力でツッコミを入れた。
空飛ぶ魚で手裏剣を作ったり、冷凍本マグロで一刀両断したり、今度はフランスパンでホームランである。この人の戦闘スタイル(物理ギャグ)は、いつ見てもツッコミが追いつかない。
「ハァ……ハァ……っ! ジ、ジークさんっ!」
そこへ、上空のワイバーンを殲滅し終えたキャルルさんが、息を切らしてテラス席へと飛び込んできた。
彼女の視線の先には、片手でフランスパンを齧りながら、無傷で私を守り抜いたジークの姿がある。
「ジ、ジークさん……今、フランスパンで、あの巨大なワイバーンを……?」
「ん? あぁ、ちょっと素振りをしただけだ」
「す、素振りで、ホームラン……っ!」
キャルルさんの兎耳が、ブルブルブルッ!と激しく震えた。
彼女の脳内では、ジークのその気怠げな態度と圧倒的な力が、百万倍の美化フィルターを通して再生されているに違いない。
(あぁっ……! なんて野性的で、頼もしくて、規格外の殿方なの……っ! パン一本で竜をぶっ飛ばすなんて、私の流星脚よりもずっと、ずっと強い……っ♡)
キャルルさんの両手で顔を覆い、モジモジと身をよじる。
そして、顔は耳の先まで真っ赤に茹で上がり。
「あぁんっ♡ もう、私、ジークさんのフランスパンになりたぁぁいっ♡ ……ガクッ」
ブシュゥゥゥゥッ!!
本日二度目となる、盛大な鼻血の間欠泉を噴出させ、キャルルさんはまたしても白目を剥いてテラスの床にぶっ倒れた。
「ちょっ!? 村長ぉぉぉぉっ!! またオーバーヒートして気絶してるじゃないですか!」
「ワイバーンの素材はワイが回収してくるで! 飛竜の鱗と牙、これでまた金貨がガッポリや!」
「あーあ、社長。パンの破片が落ちちまったぞ」
気絶するヤンデレ村長、算盤を弾いて素材回収に走る守銭奴、そして自分のパンの心配しかしていない最強の護衛。
「……はぁ。本当に、ツッコミの過労死で倒れそうだわ」
私は深いため息をつきながら、倒れた村長に毛布をかけてあげた。
平和なはずのポポロ村の防衛戦は、こうしてフランスパンの素振りと、恋する月兎の鼻血と共に、無事に(?)幕を閉じたのであった。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
第6話、ポポロ村防衛戦(プロット補完回)でした!
新村長キャルルの『超電光流星脚(打撃質量277トン)』によるド派手なワイバーン殲滅! 可愛らしい見た目からの規格外の武闘派っぷりです。
そして、撃ち漏らした一匹に対する、ジークの『カッチカチのフランスパン・ホームラン』!
「プレイボールだ」「カッ飛ばすぜ」からの、そのままパンをモシャリ(笑)。相変わらずの物理ギャグ無双が炸裂しました。
ジークの圧倒的なワイルドさに、キャルルさんは本日二度目の鼻血&気絶。ヤンデレ気質な彼女の愛は留まるところを知りません!
次回、第7話!(プロット補完回その4)
舞台は再びルチアナ様へ。
ニャングルの容赦ない資産売却と、地道なアルバイトの末、駄女神の心境に変化が……?
「私、自分の力でお金を返してるんだ……」
コトネの作った節約料理を食べながら涙するルチアナ様。読者の皆様も「おっ、更生したか?」と油断する(?)感動の節約生活編をお楽しみに!
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「フランスパン最強伝説w」「キャルルすぐ鼻血出すww」「コトネのツッコミお疲れ様!」と思っていただけましたら、
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