新村長は恋する月兎。愛の重すぎる『月光薬』がデパートの超特大ヒット商品になりました。
新村長は恋する月兎。愛の重すぎる『月光薬』がデパートの超特大ヒット商品になりました。
「いらっしゃいませぇ……。特製あらびきソーセージ、今ならお買い得ですよぉ……。試食、いかがですかぁ……」
デパート・コトネの1階食品フロア。
そこには、ピンク色のエプロンを身につけ、ホットプレートでソーセージを焼きながら死んだ魚のような目をしている世界神・ルチアナ様の姿があった。
私の丸めた新聞紙ポカポカ説教と、ニャングルの容赦ない借金返済プログラムにより、駄女神はプライドを粉々に砕かれ、時給制の試食販売員へと身を落としたのである。
「先輩! お肉が焦げてます! もっと笑顔で、元気に声を出さないとお客様は買ってくれませんよ!」
「ヒッ……は、はいぃっ! 美味しいですよぉぉっ! 神の恵みが詰まったソーセージですよぉぉっ!」
すっかり頼もしくなった後輩の看板娘・リリスちゃんにビシバシと指導され、涙目でソーセージをひっくり返すルチアナ様。
うんうん、労働の尊さを学ぶには素晴らしい環境だ。私は満足げに頷き、視線をデパートの入り口へと向けた。
――タッタッタッタッ!
自動ドアが開き、小気味良い足音がフロアに響いた。
現れたのは、ラフなパーカーとショートパンツ姿に、タローマン製の特注安全靴を履いた金髪の美少女。
先日、祖父である前村長を回し蹴り(流星脚)で空の星に変え、鳴り物入りでポポロ村の新村長に就任した月兎族のキャルルさんだ。
「コトネ店長! こんにちは! ……あ、あのっ、ジークさんはどちらに!?」
「いらっしゃい、村長さん。ジークさんなら、今3階のテラス席でサケスキーの陽薬茶割りを飲みながらお昼寝してるわよ」
私が答えると、キャルルさんのピンと立った白い兎耳が、「ピコォン!」とレーダーのように激しく反応した。
「お昼寝……! 無防備な寝顔……! はぁぁっ、尊い……っ! 今すぐ急行して、私の膝枕を添い寝でご提供しなければ……!」
「ストップストップ。キャルルさん、村長の仕事中に何言ってるの」
私は、鼻息を荒くして3階へダッシュしようとする彼女のパーカーのフードをガシッと掴んだ。
この子、基本的には優しくて村思いのいい子なのだが、ひとたびジークのことになるとヤンデレ一歩手前の激重感情を暴走させるのだ。
「あ、い、いえ! もちろん今日は、村長としての立派な『ビジネスの提案』があって来たんですよ!」
キャルルさんはコホンと咳払いをし、背負っていたリュックサックから、小瓶に詰められたエメラルドグリーンの液体を大量に取り出してカウンターに並べた。
「これは……ポーションですか?」
「ただのポーションじゃありません。ポポロ村特産の『陽薬草』を聖なる泉の純水で煮出し、そこに私の『月兎族の回復の力』を限界まで注ぎ込んだ、特製『月光薬』です!」
キャルルさんが胸を張って答える。
月兎族。それは、月の満ち欠けによって強大な力を得て、怪我や病気を癒す力を持つ獣人族の最上位種。
特に彼女の回復魔法は凄まじく、瀕死の重傷すら一瞬で完治させるという。そのせいでレオンハート獣人王国の王族から「妾」にされそうになり、亡命してきたという過去があるらしい。
「この月光薬なら、どんな深い傷や病気も一発で治ります! デパートの薬品コーナーで、これを委託販売してもらえませんか? 利益の半分は、デパート・コトネに入れてもらって構いませんから!」
「へぇ、それはすごいわね。でも、そんなに強力な回復薬を作るのって、キャルルさんの体力(MP)をかなり消耗するんじゃない?」
「へいきれすよ! ジークひゃんのお役にらてるなら、ちのいってきらりとも……っ!」
キャルルさんが笑顔で答えたが、その鼻の穴からツツーッと一筋の鼻血が垂れていた。
明らかに無理をしている。愛が重すぎる。
「村長ぉぉっ!? 鼻血出てる! 完全に貧血起こしてるじゃない!」
「だ、大丈夫です! 私は村長として、少しでもポポロ村と、このデパート(とジークさん)の繁栄に貢献したいんです!」
ふらつきながらも熱弁を振るうキャルルさんの姿に、私は少しだけ胸を打たれた。
祖父が横領した村の赤字を埋めるため、そして大好きな人の力になるため、身を削ってまで頑張っているのだ。
前世で限界まで残業していた自分の姿と少しだけ重なり、私は彼女が持参した『月光薬』を預かることにした。
「わかったわ。うちのデパートの最前列で、大々的に売り出してみる!」
* * *
その結果は、火を見るよりも明らかだった。
「うひょひょひょひょひょひょっ!! 笑いが止まらへんでぇぇっ!!」
数時間後。デパートのバックヤードで、ニャングルが算盤を火が出るほどの速度で弾きながら狂喜乱舞していた。
「コトネはん! キャルルはんの持ってきた『月光薬』、並べた瞬間に三国同盟軍の兵士たちが血眼になって買い占めていきよったで! 完売御礼や!」
「そ、そんなに!?」
「当たり前や! 戦場に立つ兵士にとって、一瞬で傷が治る最高位のポーションは『命そのもの』やからな。ルナミス帝国軍も、アバロン魔皇国軍も、金貨を惜しげもなく積んで争奪戦や!」
なんと、初回の納品分だけで、村の年間予算に匹敵するほどの莫大な利益(金貨数百枚)を叩き出してしまったのだ。
品質の確かな商品と、需要の完全なマッチング。
デパ地下の食品だけでなく、薬品という新たなジャンルでも『デパート・コトネ』は無双状態に突入した。
「や、やりましたぁ……っ!」
報告を聞いたキャルルさんが、その場にへたり込んで感涙にむせんだ。
「これで、おじいちゃんが持ち逃げした村の赤字も補填できるし、自警団のマンミアさんにも最新の武器を買ってあげられます……っ! それに、デパートの売上にも貢献できて……」
「……なんだ、ずいぶん騒がしいな」
その時。
お昼寝から目覚めたジークが、首をボキボキと鳴らしながらバックヤードに入ってきた。
手にはちゃっかりと、ルチアナ様が焼いていた『試食用のウインナー』が刺さった爪楊枝を持っている。
「ジ、ジークさん……っ!」
キャルルさんが、跳ね起きるように立ち上がった。
その顔は、憧れのアイドルを前にしたファンのように真っ赤に染まっている。
「ジークさん、私、やりました! 私の作った『月光薬』がバカ売れして、このデパートにすごく貢献できたんです! 私、ジークさんのいるこのお店のお役に立てて、すごく、すごく嬉しいです……っ!」
キャルルさんが、ピンと立った兎耳をパタパタと震わせながら、上目遣いでジークを見つめる。
褒めて、褒めて、と言わんばかりの猛烈なアピールだ。
ジークは、キャルルさんと、机の上に積まれた金貨の山を交互に見比べた。
そして、爪楊枝に刺さったウインナーをヒョイと口に放り込み、面倒くさそうに頭を掻いた。
「……ふん。まぁ、社長のデパートが儲かって、美味い飯の材料費が増えるなら、それに越したことはねぇな」
「は、はいっ!」
ジークはゆっくりと手を伸ばし。
キャルルさんの、その金色の美しい髪とウサギ耳の間を。
ポンッ、と。
大きく温かい手のひらで、軽く撫でた。
「お前、結構使えるな。これからも社長のデパートをよろしく頼むぜ、村長」
ぶっきらぼうで、気怠げで、それでいて有無を言わさぬ絶対的なオスとしての魅力。
以前、私を雪山のロッジで泣かせかけた、あの破壊力抜群の『頭ポンポン』である。
「――――ッ!!!」
キャルルさんの動きが、雷に打たれたように完全に停止した。
頭上の兎耳が、これ以上ないほどに垂直にピンッ!と張り詰める。
顔は耳の先まで真っ赤に茹で上がり、瞳孔はハートマークの形に拡大していた。
「あぁ……っ♡ ジークさんに、撫でられた……っ♡ 私の、私の存在価値が、ジークさんに肯定されっ……はうぅぅっ♡」
「村長ぉっ!? 顔! 顔がヤバいことになってる!」
ブシュゥゥゥゥッ!!
次の瞬間、キャルルさんの両方の鼻の穴から、間欠泉のように勢いよく鼻血が噴き出した。
極度の緊張と興奮、それに伴う血圧の異常な上昇。
彼女のヤンデレ一歩手前の激重感情のキャパシティは、ジークのイケメンムーブによって完全に限界を突破してしまったのだ。
「あぁん……もう、私、一生手を洗いませぇん……ガクッ」
キャルルさんは恍惚とした笑みを浮かべたまま、白目を剥いてその場にバタンと倒れ込んだ。
見事なまでの気絶である。
「そ、村長ぉぉぉぉぉぉっ!!? しっかりしてぇぇっ! 誰か、誰か月光薬を持ってきてぇぇっ!」
「アホか! 自分で作った薬で回復したら世話ないわ! ていうか鼻血に月光薬はもったいないやろ!」
「おいおい、なんだこいつ。いきなりぶっ倒れやがったぞ。貧血か?」
ジーク本人は全く自覚がないらしく、気絶したキャルルさんを見下ろして呑気に首を傾げている。
罪作りな男である。その無自覚なフェロモンが、どれだけ純情な月兎の乙女を狂わせているのか、少しは自覚してほしい。
「……はぁ。本当に、この村はまともな人がいないわね」
私は倒れたキャルルさんに毛布をかけながら、深くため息をついた。
しかし、彼女の愛の重さが生み出した『月光薬』は、間違いなくポポロ村と私たちのデパートに莫大な利益をもたらした。
新村長はちょっとヤバい恋する乙女だけれど、ポポロ村の未来は、間違いなく明るい方向へと進み始めているのだった。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
第4話はプロット補完回! 新村長のキャルルさんの猛アピール回でした!
ジークのために血を吐く思い(物理)で作った『月光薬』が、三国同盟軍にバカ売れしてデパートに莫大な利益をもたらしました。
そして念願の、ジークからの『頭ポンポン』!
嬉しさのあまりオーバーヒートして鼻血を吹き出して倒れるキャルルさん……ヤンデレ気質で愛が重いですが、どこか憎めない可愛いキャラに仕上がっていたら嬉しいです!
一方その頃、食品フロアではルチアナ様が死んだ魚のような目でソーセージを焼き続けています(笑)。
次回、第5話!(プロット補完回その2)
駄女神ルチアナ様の『スパルタ試食販売アルバイト』の奮闘記!
プライドを捨て、スーパーの試食販売員として覚醒していくルチアナ様。労働の尊さを学び、コトネからの『賄いのケーキ』に涙する、ちょっと感動的(?)なエピソードをお届けします!
【読者の皆様へのお願い】
「キャルルの愛が重すぎるw」「ジークの無自覚タラシ!」「ルチアナ様哀れww」と笑っていただけましたら、
ぜひ画面下部の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』にタップして、気絶したキャルルさんにポーション(応援)をお願いいたします!
皆様の評価ポイントが、作者の最大の癒やし(月光薬)になります!
【ブックマーク登録】も、引き続きよろしくお願いいたします!




