丸めた新聞紙と家計簿チェック。推し活破産した駄女神、デパートの裏でガチ説教される。
丸めた新聞紙と家計簿チェック。推し活破産した駄女神、デパートの裏でガチ説教される。
デパート・コトネの3階、バックヤード(スタッフルーム)。
先ほどまで極上の『極厚ステーキ&肉椎茸のすき焼き風・特上幕の内弁当』を貪り食い、満面の笑みで「生きててよかったぁ」と感動していた世界神・ルチアナ様の顔は、今や絶望と恐怖で青ざめていた。
「さぁ、ルチアナ様。その『エンジェルすまーとふぉん』の利用明細画面を開いて、机の上に置いてください」
私は腕を組み、冷酷な取り立て屋のような声音で命じた。
私の右手には、ルナミス新聞社の朝刊(三面記事メイン)を硬く筒状に丸めた、通称『ハリセン新聞』が握られている。前世の店長時代、言うことを聞かない素行不良のアルバイトを物理的かつ安全に指導するために編み出した、伝説の打撃武器だ。
「えっ、あ、あの……コトネちゃん? 明細はちょっと、プライバシーというか、神様の個人情報保護法に抵触するんじゃないかな〜って……」
「出・し・な・さ・い(笑顔)」
「ヒッ……はいぃっ!」
私の有無を言わさぬ圧力に屈し、ルチアナ様は震える手でスマホの画面を操作し、テーブルの上に置いた。
そこに表示されていたのは、クレジットカード機能の直近一ヶ月の利用履歴だった。
私はそれを手に取り、一つ一つの項目を冷徹な視線で確認していく。
「……なるほど。朝倉月人全国ライブツアー、最前列VIP席チケット。十万円」
「そ、それはほら! 最前列じゃないと月人君の汗の匂いが嗅げないし、ファンサで目線を合わせてもらえないから、必須経費でしょ!?」
ポカッ!
私は丸めた新聞紙で、ルチアナ様の頭を軽く叩いた。
「イタッ!?」
「次。完全受注生産・朝倉月人等身大アクリルスタンド、五万円。同ファンクラブ限定・ライブブルーレイBOX全巻セット、十万円。……ルチアナ様、貴女このBOX、同じものを三つ買ってますよね?」
「だ、だって! 『観賞用』と『保存用』と『布教用』の三つを買うのはオタクの義務なんだよぉ!」
ポカッ!
私は再び、リズミカルに新聞紙を振り下ろした。
「痛ぁいっ! ちょっとコトネちゃん、神様を新聞紙で叩く人間なんて、アナステシア世界が始まって以来の暴挙だよ!?」
「神様が推し活でカードを限度額いっぱい(百万)まで使い切って破産するのも、世界始まって以来の暴挙だと思いますけどね」
私はため息をつきながら、さらに画面をスクロールさせた。
「しかも、推し活だけじゃありませんね。……深夜のルナミス帝国繁華街でのギャラ飲み代、三万円。最高級エステ・フルコース、八万円。極めつけは、スマホの美少女ソシャゲ課金……三十万円!? 一体何を引いたんですか!」
「だ、だってぇ……期間限定の水着キャラが、どうしても出なくて……天井(確定枠)まで回さないと私の精神が崩壊しそうだったのよぉ……」
「だからって、借金してまでガチャを回すなんて、完全に依存症じゃないですか!」
ポカッ! ポカッ! ポカッ!
私は前世のブラック企業で培った『お局店長モード』を完全に発動させ、ルチアナ様の頭を連続でリズミカルに叩きまくった。
「痛い痛い痛いっ! ごめんなさい、私が悪かったですぅぅぅっ! もう叩かないでぇぇっ!」
世界神であるはずのルチアナ様は、頭を抱えて机に突っ伏し、おいおいと情けなく泣き崩れた。
しかし、私は同情するどころか、さらに厳しい現実を突きつけた。
「貴女の家計簿(オタ活事情)、完全に破綻してますよ。一国の国家予算並みの無駄遣いです。そもそも、神格公務員のお給料って月にいくらなんですか?」
「ぐすっ……基本給二十五万円に、出来高制だよぉ……」
「月収二十五万で、なんで百万もカードを使えると思ってるんですか! 完全に支払い能力を超えてるじゃないですか!」
「だ、だから! コトネちゃんにお金貸してほしくて……」
「貸・し・ま・せ・ん」
私は新聞紙をビシッとルチアナ様の鼻先に突きつけ、にっこりと微笑んだ。
お金を貸せば、この駄女神は確実にまたガチャを引く。根本的な解決にはならないのだ。
「助けてコトネちゃぁぁん……! このまま月末の支払いができなかったら、大宇宙管理局の『カスタマーハラスメント部』から、黒服のレスラー天使たちが取り立てに来て、身包み剥がされてマグローザ漁船(強制労働)にドナドナされちゃうよぉぉ……っ!」
ルチアナ様が私のエプロンにしがみついて鼻水をこすりつける。
マグローザ漁船。シーラン国の荒波で巨大魚を釣り上げるという、一度乗ったら借金を返すまで絶対に降りられない恐怖のタコ部屋船である。
「うひょひょひょ。なんやなんや、ええカモ……やのうて、困っとるお客様がおるみたいやな」
その時。
バックヤードのドアが開き、算盤を片手に悪魔のような笑みを浮かべた男――いや、猫耳の商人が姿を現した。
うちのデパートが誇る、経済と法務の暴力装置(凄腕財務コンサルタント)、ニャングルである。
「ニャ、ニャングルさん……!」
「ルチアナはん、アンタの悲惨な台所事情は外で聞かせてもろたで。カードの限度額いっぱいの百万……これを放置したら、金利(リボ払い)で地獄を見ることになるで」
ニャングルは、シャリーン!と算盤を弾き、ルチアナ様の前に冷酷な数字を提示した。
「天界のカードの年率が十五%やとして、毎月の最低支払い額をちまちま払っとったら、元本は全く減らへん。利息だけで毎月一万円以上が消えていく。アンタの給料やと、生きてる間(永遠やけどな)ずっと利息を払い続ける『借金の奴隷』になるんやで」
「ヒィィィッ!? やだ、やだぁぁぁっ! 私、一生月人君のライブに行けなくなっちゃう!」
絶望的な未来予測に、ルチアナ様が頭を抱えて絶叫する。
ニャングルはキセルをふかしながら、ニヤリと口角を上げた。
「安心しぃ。ワイら『デパート・コトネ』は、お客様の悩みを解決する超優良ホワイト企業や。アンタをマグローザ漁船に乗せるような真似はせぇへん」
「ほ、ほんと!? じゃあ、お金を……!」
「ただし」
ニャングルの猫耳がピクリと動き、その目が獲物を狩る猛禽類のように細められた。
「『労働』と『資産売却』で、キッチリとケジメはつけさせてもらうで。まずは、アンタが溜め込んどる天界の無駄なアイテム(宝具)を全部、ドンガン地下帝国の闇市(質屋)に流す。これで当面の現金を作るんや」
「えっ!? だ、ダメだよ! あれは他の神様からの献上品で……!」
「背に腹は代えられへんやろが! 漁船に乗りたいんか!?」
「ひぃぃぃっ! 売ります! 売らせていただきますぅぅっ!」
ニャングルの恫喝に、ルチアナ様は涙目で即答した。
さすがは元ゴルド商会のエリート商人。人の弱みにつけ込み、資産をむしり取る手腕は神をも凌駕している。
「よし。コトネはん、この駄女神の資産売却はワイが責任持って進める。だが、それだけやと根本的な『金銭感覚の麻痺』は治らへん」
「ええ、同感です。自分で汗水流して稼ぐことの尊さを教えないと、絶対にまたガチャを引きますからね」
私とニャングルは、悪い顔で見つめ合い、深く頷き合った。
そして、床でガタガタと震えているジャージ姿の駄女神を見下ろした。
「ルチアナ様。貴女には明日から、このデパートで『時給制のアルバイト』をしていただきます」
「えっ……あ、アルバイト……? 私が? 世界神が?」
「ええ。リリスちゃんの下について、食品フロアでの『ソーセージの試食販売』からスタートです。お客様に笑顔でウインナーを焼いて配り、一つ売れるごとに歩合もつけますよ」
私がにっこりと微笑むと、ルチアナ様は「嘘でしょ……」と絶望の表情を浮かべた。
世界神たる者が、エプロンをつけてスーパーの試食販売員になる。そのあまりのギャップと屈辱に、彼女のプライドはズタズタに引き裂かれていた。
「嫌なら、今すぐ大宇宙管理局のカスハラ部に電話しますけど?」
「やりますぅぅぅぅっ!! 私、ウインナー焼きますぅぅぅっ!!」
ルチアナ様の悲痛な叫び声が、デパートのバックヤードに響き渡る。
こうして、推し活とガチャで身を持ち崩した駄女神の、地獄の(?)借金返済プログラムが強制的にスタートしたのであった。
丸めた新聞紙のポカポカ指導は、まだまだ続くことになりそうである。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
第3話、コトネ店長による容赦ない『家計簿チェック&丸めた新聞紙ポカポカ説教』回でした!
推しのVIPチケットに等身大アクスタ、エステにガチャ課金……と、清々しいほどに現代のオタク(駄目人間)の極みを見せるルチアナ様。
神様相手でも全く怯まず、前世のブラック企業店長モードでガチ説教をするコトネの強さが光ります(笑)。
そして、匂いを嗅ぎつけて現れたニャングルの法務・経済コンボ!
リボ払いの恐怖を突きつけられ、天界の宝具の質入れと『ウインナーの試食販売』を強制されるルチアナ。
借金まみれの駄女神の、涙ぐましい労働(更生)生活が幕を開けました!
次回、第4話!(プロット補完回)
新村長となったキャルルさんが、ジークに良いところを見せようと猛アピールを開始!?
彼女の特技である『月光薬』がデパートに特大の利益をもたらし、ジークの「頭ポンポン」にヤンデレ兎がオーバーヒートで鼻血を出して倒れます!
ラブコメ&ビジネス大成功の第4話をお楽しみに!
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