天界からの厄介な来訪者。「あんたにチートスキルあげたよね!? 金貸してええっ!」……貸しませんが、ご飯は食べさせます。
天界からの厄介な来訪者。「あんたにチートスキルあげたよね!? 金貸してええっ!」……貸しませんが、ご飯は食べさせます。
新村長キャルルさんが着任し、初日から祖父(前村長)を回し蹴りで星に変えるという鮮烈なデビューを飾った翌日のこと。
「いらっしゃいませーっ! 本日のタイムセール、ポポロ村特産の『太陽芋』を使った絶品コロッケ、揚げたてですよーっ!」
デパート・コトネの1階、食品フロア。
そこには、ピンク色の初心者マーク入りエプロンを身につけ、満面の笑みでお客様にコロッケを差し出す見習い女神・リリスちゃんの姿があった。
無銭飲食の借金返済のために始めた住み込みバイトだったが、今や彼女の明るい接客はデパートに欠かせない看板となっている。
「うんうん、リリスちゃん、すっかり接客が板についてきたわね」
私は少し離れた場所から、バックヤードの入り口で腕組みをしながら、我が子の成長を見守るような温かい視線を送っていた。
――ピカァァァァァァァァンッ!!
その平和な食品フロアに、突如として天から神々しい光の柱が降り注いだ。
大理石の床に黄金の魔法陣が浮かび上がり、神聖なコーラスのBGMがどこからともなく鳴り響く。
お客様たちが「な、なんだ!?」「天からの使いか!?」とどよめき、道を開けた。
光の柱が収まり、そこに姿を現したのは。
「ぜぇ……ぜぇ……はぁっ……!」
息も絶え絶えに肩で風を切る、一人の女性だった。
艶やかな美しい髪に、整いすぎた神々しい美貌。背中には純白の翼が生えており、頭上には輝く光の輪が浮かんでいる。
誰がどう見ても、高位の『女神様』である。
ただし、その服装が致命的に神々しくなかった。
彼女が着ているのは、上下揃いの『ダサいエンジ色の芋ジャージ』。足元はペタペタと音の鳴る『健康サンダル』。おまけに片手には、吸いかけのピアニッシモ・メンソール(タバコ)が握られている。
「げぇっ!? おば……ルチアナ先輩だっ!」
コロッケを売っていたリリスちゃんが、その姿を見た瞬間に顔を引き攣らせ、陳列棚の裏にサッと身を隠した。
「誰が『おばさん』よ! 私は永遠の17歳よ!!」
ジャージ姿の女神――世界神ルチアナは、逃げたリリスちゃんに向かってギャンギャンと吠えた後、キョロキョロとフロアを見渡し、私の姿を捉えるや否や、猛烈なダッシュで駆け寄ってきた。
ペタペタペタペタッ!という健康サンダルの音がフロアに響き渡る。
「いたぁぁぁっ! コトネぇぇぇぇっ!!」
「えっ、ちょっ、ルチアナ様!?」
ガシィッ!
ルチアナ様は私の両肩を物凄い力で掴むと、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった美しい顔を近づけてきた。
「コトネ! 私だよ! あんたが理不尽に婚約破棄された時、この世界に導いて『デパート』のチートスキルを与えた、創造主にして恩人のルチアナちゃんだよ!」
「は、はぁ。その節は大変お世話に……」
「恩返し(ペイ・フォワード)の時が来たよ! 金貸してええええええええっ!!!」
神聖な食品フロアに、女神の生々しすぎる絶叫がこだました。
私は、スッと真顔になった。
前世でブラック企業の店長をやっていた頃、給料日前に「店長、前借りさせてください!」と泣きついてくるギャンブル狂のアルバイトを思い出したからだ。
「……ルチアナ様。世界神ともあろうお方が、一体どうされたんですか」
「クレカが! エンジェルすまーとふぉんのクレジットカードの限度額(100万円)が、完全にストップしちゃったのよぉぉっ!」
ルチアナ様は、ガクッと膝から崩れ落ち、大理石の床に突っ伏して号泣し始めた。
「だって、だって仕方ないじゃない! 愛しの朝倉月人君(推しアイドル)の全国ライブツアーのVIP席チケットが当たっちゃったんだもん! それに加えて、完全受注生産の等身大アクリルスタンドと、ファンクラブ限定のブルーレイBOXまで発売されて……気がついたら、カードが『ピーッ』って……!」
「完全に自業自得のオタ活破産ですね」
私は絶対零度の冷ややかな視線を、這いつくばる女神様へ向けた。
以前、リリスちゃんがこのデパートで無銭飲食しかけたのも、元はと言えばこのルチアナ様がリリスちゃんの家族カード枠まで使い込んでいたからである。
「お願いコトネちゃん! 金貨百枚……いや、五十枚でいいから! 来月の神格公務員の給料日が出たら絶対返すから! 神に誓って!」
「神様が神に誓っても説得力ゼロですよ」
「うわぁぁぁんっ! 冷たいよぉ! チートスキルあげた恩を忘れたの!? このままじゃ、委員長のヴァルキュリアにバレて、また壁ドンされて五時間正座のお説教(拷問)されちゃうよぉ!」
床をバンバンと叩いて駄々をこねる姿は、永遠の17歳というより、おもちゃ売り場で泣き喚く子供のようだった。
周囲のお客様も「なんだあの痛いジャージ女は……」と完全にドン引きしている。デパートの風紀と品位に関わる大問題だ。
「……ルチアナ様」
私は、深く、長いため息をついた。
そして、床に這いつくばる女神様を見下ろし、キッパリと言い放った。
「お金は、一銭たりともお貸ししません」
「そ、そんなぁ……神を見捨てるの……?」
「ただし」
私は言葉を続ける。
「お腹が空いているなら、ご飯は食べさせますよ」
「……え?」
ルチアナ様が、涙で濡れた顔を上げた。
よく見れば、彼女の頬は少しこけ、お腹のあたりから「きゅるるるるぅぅ……」という情けない音が鳴り響いていた。
「金欠すぎて、ここ数日、天界の『緑の絶望(ヴァルキュリア特製の極苦青汁)』しか口にしてないんじゃないですか?」
「うっ……うぅっ……! そうなの……あれ、死ぬほど苦いしお腹にたまらないの……! ジャンクフードが食べたいよぉ……!」
「全く、仕方ないですね。裏のバックヤードにいらしてください」
私はルチアナ様を立たせ、スタッフルームへと案内した。
そこで【デパート】のスキルを起動し、今日の食品フロアで販売していたお弁当の中から、一番豪華な『売れ残り(ロス)』を取り出した。
「はい、どうぞ。当店自慢の『ロックバイソンの極厚ステーキ&肉椎茸のすき焼き風・特上幕の内弁当』です。さっきレンジで温め直しました」
私が蓋を開けた瞬間。
パァァァァァァッ……!
特製ガーリック醤油ソースの焦げる暴力的な香りと、肉椎茸に染み込んだ甘辛いすき焼きダレの香りが、スタッフルームいっぱいに広がった。
ツヤツヤに輝くサンライス(お米)の上には、分厚くカットされた霜降りのステーキ肉がこれでもかと敷き詰められている。
「あ……あぁ……っ!」
ルチアナ様の瞳孔が開き、口の端からツツーッとヨダレが垂れた。
「いただきますぅぅぅぅっ!!」
ルチアナ様は備え付けの割り箸を割るなり、餓鬼のようにステーキ弁当にがっついた。
大きなお肉を口いっぱいに頬張り、サンライスを掻き込む。
「んんんんんんんっ!!!」
ルチアナ様は、天を仰いで目を白黒させた。
あまりの美味しさに、頭上の光の輪がパカパカとネオンサインのように点滅している。
「お肉がっ! お肉がとろけるぅぅぅっ! ガーリックのパンチが効いてるのに、お醤油の甘みがフワッて広がって、ご飯が無限に止まらないよぉ! 肉椎茸も出汁を吸ってて、噛むたびに旨味の爆弾が弾けるぅぅぅっ!」
「ゆっくり食べてくださいね。お茶もありますから」
「はふっ、もぐもぐっ! 私、神様だけど……天界のどんな神酒より、このお弁当の方が神だよぉぉぉっ! 美味しいよぉぉぉっ!!」
涙と鼻水とステーキのタレで顔をぐしゃぐしゃにしながら、ルチアナ様はあっという間に特上弁当を完食してしまった。
最後はお茶で一息つき、「ぷはぁっ……生きててよかったぁ……」と、完全に満たされたオヤジのような吐息を漏らす。
「ふふっ。お粗末様でした。お腹はいっぱいになりましたか?」
「うんっ! コトネちゃん、本当にありがとう! あんたは私の天使だよぉ!」
すっかり機嫌を良くしたルチアナ様が、私の手にすりすりとおでこを擦り付けてくる。
完全に、美味しいご飯で胃袋(と忠誠心)を掴まれたチョロい駄犬……もとい、駄女神である。
「美味しいご飯を食べられて、幸せですよね?」
「うんっ! 最高に幸せ!」
「明日からも、美味しいご飯、食べたいですよね?」
「食べたいっ! コトネちゃんのご飯しか勝たん!」
「……そうですか」
私は、ニコリと。
前世で幾多のアルバイトを震え上がらせた『完璧な営業スマイル』を浮かべた。
そして、手元に用意していた丸めた「ルナミス新聞」をポン、ポンと手のひらに打ち当てた。
「それなら、まずは貴女のその『腐りきった家計簿(オタ活事情)』について、みっちりとお話し合いをしましょうか。ルチアナ様♡」
「……えっ?」
ルチアナ様の顔から、スッと血の気が引いた。
美味しいご飯には、当然『代償』が伴う。
チートスキルをくれた恩はあるが、それはそれ、これはこれだ。
借金まみれの駄女神を、うちのデパートの力で徹底的に『更生』させる、血も涙もないスパルタ労働計画が、今ここに幕を開けようとしていた。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
第2話、ついに天界から駄女神ルチアナ様(ジャージ姿)が降臨しました!
推しのオタ活でクレジットカードを限度額(100万円)まで使い切り、「金貸してええ!」と泣きつくどうしようもない神様です。
しかし、元ブラック企業の店長であるコトネは決して金を貸さず、代わりに『極上の売れ残り弁当』で完璧に胃袋を掴みました!
「お腹いっぱいになりましたか?」「明日からも食べたいですよね?」からの……
丸めた新聞紙と完璧な営業スマイル!
コトネの巧みな話術と飴と鞭によって、駄女神の退路は完全に断たれました(笑)。
次回、第3話!
丸めた新聞紙で頭をポカポカ叩かれながら、ルチアナの絶望的な家計簿チェックが始まります。
そこに、うちのデパートが誇る『金の亡者(凄腕財務コンサルタント)』ニャングルが悪魔のような笑顔で参戦!
ルチアナの借金返済地獄(デパートアルバイト編)をお楽しみに!
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「ルチアナ自業自得すぎるw」「コトネ店長こわい(褒め言葉)」「胃袋掴まれるの早っ!」と笑っていただけましたら、
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