必殺! 大間産・冷凍本マグロ! 勇者ロボ空間で一刀両断からの大爆発って、どういう物理法則ですか。
必殺! 大間産・冷凍本マグロ! 勇者ロボ空間で一刀両断からの大爆発って、どういう物理法則ですか。
「グォォォォォォォォ……ッ(美味そうな匂いがする……ッ)」
リリスちゃんが錬成した『氷の城』の入り口。
おでんの極上のダシの香りに釣られて姿を現したのは、ポポロ山の主『キング雪男』だった。
先ほどのスノーコングとは比較にならない、見上げるような巨体。全身の白い毛は氷の鎧のように硬く尖り、吐き出す息は周囲の空気を瞬時に凍らせるほどの絶対零度を帯びている。
「ヒィィィッ!? なんやあいつ、城の入り口が塞がるほどのデカさやんけ!」
「まずいわ! いくら氷の城でも、あんな規格外の魔獣に暴れられたら崩壊しちゃう!」
ニャングルとスアイさんが青ざめる。
キング雪男はヨダレを垂らしながら、私たちのおでん屋台(と私たち自身)を狙って、太い丸太のような腕を振り上げた。
その一撃が振り下ろされれば、屋台ごと私たちはペシャンコにされてしまう。
「……お姉ちゃんっ!」
リリスちゃんが恐怖で悲鳴を上げた、その時だった。
「慌てるな」
低く、しかし絶対的な安心感を伴う声。
ジークが、静かに、しかし一歩の隙もない完璧な足取りで、私の前にスッと立ち塞がった。
「ジークさん……!」
「お前らは下がってろ。おでんのダシにホコリが入るからな」
キング雪男が振り下ろした渾身の豪腕。鋼鉄すら粉砕するであろうその一撃を、ジークは片手で――正確には、黄金の闘気を纏わせた素手で、ガシィッ!と真正面から受け止めたのだ。
「グォォォッ!?」
キング雪男の目が驚愕に見開かれる。
圧倒的な質量とパワーの差があるはずなのに、ジークは一歩も後ずさることなく、涼しい三白眼で巨獣を見上げていた。
「俺のメシの時間を邪魔した罪は重いぜ。……社長。アレを出せ」
ジークが、背中越しに私に声をかける。
その広く頼もしい背中は、どんな脅威からも絶対に私たちを傷つけさせないという、最強の防壁そのものだった。
怖いなんて微塵も思わない。むしろ、その圧倒的な力に胸がキュンと高鳴ってしまう。
「はいっ! 行きます! 発動――【デパート】、鮮魚コーナー奥の巨大冷凍庫!!」
私はスキルを発動し、空間から『それ』を取り出した。
全長二メートルを優に超える、流線型の黒光りする巨体。氷点下数十度でカチカチに冷凍保存された、デパ地下鮮魚店の誇る最高級の質量兵器。
「大間産・冷凍本マグロ(丸ごと一本)です!!」
「上等だ」
ドスゥゥゥンッ!!と雪の上に現れた冷凍本マグロの尻尾を、ジークが両手でガシッと掴む。
そして、マグロ全体に尋常ではない量の黄金の闘気を流し込んだ、その瞬間だった。
「仕方ねぇ! 冷凍本マグロ・ソォォォォドッ!!」
ジークが叫んだ瞬間。
――ピカァァァァァァァァンッ!!!
突如、私たちの周囲の景色が『氷の城』から、宇宙空間のような、あるいはサイバー空間のような、謎の光のグリッド線が流れる異次元空間(専用バンク)へと切り替わったのだ。
「な、何これ!?」
「こんな馬鹿な! 空間魔法!? いや、ただの演出エフェクトやんけ!!」
私とニャングルが絶叫する。
背景では、謎の熱いBGM(ブラスバンドと重厚なドラム)がどこからともなく鳴り響き、ジークがマグロを掲げる姿が、様々な角度からスローモーションで三回連続でカットインされた。
完全に、地球のロボットアニメで必殺技を放つ時の『アレ』である。
「行くぞ! アブソリュート・ゼロ・ブレス!!」
ジークが冷凍本マグロをキング雪男に向かって突き出す。
すると、あろうことか、カチカチに凍ったマグロの口がカパァッと開き、そこから猛吹雪以上の超絶対冷気が凄まじい勢いで噴射されたのだ。
「グギャァァァァァァッ!?」
キング雪男の巨体が、マグロのブレスによって一瞬にしてカチンコチンに凍りつき、巨大な氷の彫刻と化していく。
「そ、そんな! 何故、冷凍マグロの口から冷気ブレスが吐けるんや!?」
「マグロの肺活量どうなってるんですか! というか冷凍されてるのに!」
ニャングルと私の悲鳴じみたツッコミを置き去りにし、謎の勇者ロボ空間の中で、ジークは黄金に光り輝くマグロを大きく上段に振りかぶった。
「必殺!! 大トロォォォ・フィニィィィッシュッ!!!」
ズバァァァァァァァァァァンッ!!!!
ジークが振り下ろした冷凍本マグロが、氷漬けになったキング雪男の巨体を、抵抗すら許さずに脳天から股下まで見事に真っ二つに一刀両断した。
そして、次の瞬間。
一刀両断されたはずのキング雪男の体が、なぜか背後に『大』の字の謎の文字エフェクトを浮かび上がらせながら――。
チュドォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!!
火薬など一切ないはずの雪山で、周囲の雪を全て蒸発させるほどのド派手な大爆発を起こして四散したのである。
「「「…………」」」
爆発の光が収まり、謎の勇者ロボ空間が解除され、私たちは元の『氷の城』の入り口へと戻ってきていた。
目の前には、爆発によって綺麗に消滅したキング雪男の跡地と、全く傷一つついていない綺麗な冷凍本マグロを肩に担ぐ、涼しい顔の最強護衛。
私たちは、ポカンと呆気に取られて立ち尽くしていた。
「ええっと……さっきの宇宙みたいな空間は……?」
リリスちゃんが、震える声で尋ねる。
「そもそも、なんで冷凍マグロで魔獣を一刀両断出来るんですか……?」
私が、デパ地下店長としての理性を総動員して問う。
「何故、切った後に大爆発したんや……火薬なんかあらへんかったやろ……」
ニャングルが、完全に理解を拒む物理法則に頭を抱える。
その三人の純粋な疑問に対し、ジークはマグロを肩に担いだまま、いつもの無気力な三白眼で私たちを振り返った。
「大間産だからな。そんな事もあるさ」
「「「そんなわけあるかぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」」
私、ニャングル、リリスちゃん、さらにはスアイさんまでもが声を揃えて、渾身の総ツッコミを雪山に響き渡らせた。
「大間産なら勇者ロボ空間が展開されるんですか!? 大間産なら口から絶対零度ブレスが吐けるんですか!? 大間ブランドを魔法の言葉みたいに使わないでください!」
「うるせぇな。結果的に勝ったんだからいいだろ。ほら、マグロは溶ける前に仕舞っとけ。今日の夜は刺身にするからな」
ジークは「ふぅ」と一仕事終えたような顔でマグロを私に押し付けると、再びおでん屋台の席へと戻り、残っていたお餅入り巾着をモシャモシャと食べ始めた。
「……あぁ、もう。この人の常識、本当にどうなってるのよ……」
私はドッと押し寄せてきた疲労感に、その場にへたり込みそうになった。
圧倒的な強さと、キュンとするほどの頼もしさ。
そこからの、完全に意味不明なシュールギャグの落差。
これが、私のデパートが誇る(?)最強の護衛・ジークという男なのだ。
「……ふふっ。あははははっ!」
「アカン、腹痛いわ……最高やな、アンタら!」
スアイさんとニャングルが、ついにこらえきれなくなって腹を抱えて大爆笑し始めた。
リリスちゃんも「ジークさん、かっこよかったぁ!」と目を輝かせている。
そんな様子を見て、私も思わず吹き出してしまった。
吹雪のピンチも、恐ろしい魔獣の襲撃も、彼がいればただの『爆笑エンターテインメント』に変わってしまう。
これ以上の安心感と楽しい職場(ホワイト企業)は、きっとこの世界のどこを探してもないだろう。
「よし、魔獣もいなくなったし、吹雪も止んできたわね。みんな、おでんのおかわりはいかがですか?」
私の言葉に、全員が「はーい!」と元気よく返事をする。
雪山のヌシという最大の脅威を、大間産の冷凍本マグロで(なぜか)爆殺し、私たちの慰安旅行は、無事に大爆笑と大団円へ向けて幕を閉じようとしていた。
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