見習い女神の暴走魔法!? 錬成された『氷の城』を、極上おでんの雪上カフェに変えてみせます。
見習い女神の暴走魔法!? 錬成された『氷の城』を、極上おでんの雪上カフェに変えてみせます。
「グォォォォォォォォォォォォォッ!!!」
白銀の王、『キング雪男』の咆哮がポポロ山を激しく揺らした。
ジークが最大の質量兵器を要求した、まさにその直後だった。
キング雪男が太い両腕で雪原を激しく叩きつけると、鼓膜が破れそうなほどの衝撃波とともに、周囲の雪が爆発的に舞い上がったのだ。
――バギィィィィンッ!!
「きゃあぁぁっ!?」
「うわぁっ! ロッジの屋根が!」
凄まじい突風と雪の塊がロッジを直撃し、二階の屋根の一部と窓ガラスが粉々に吹き飛んだ。
ドワーフ特製の強固な建築も、ヌシの規格外の一撃には耐えきれなかったらしい。破られた窓から、マイナス数十度にも達しようかという猛吹雪が、容赦なく室内に雪崩れ込んでくる。
「チッ、一旦退くぞ! あの吹雪の中じゃ視界が悪すぎる!」
ジークが瞬時に判断を下し、私とリリスちゃんの腕を掴んでロッジの奥へと引っ張った。
外は完全にホワイトアウト状態になり、キング雪男の姿も吹雪の奥へと掻き消えてしまった。だが、地鳴りのような足音は確実にこちらの周囲をうろついている。
「あかん! 暖房用の魔導石も風で吹き飛ばされてしもた! このままやと凍死してまうで!」
「コトネちゃん、みんな、こっちの地下室へ! ……って、ダメだわ、地下の入り口が崩れた瓦礫で塞がってる!」
ニャングルが青ざめ、スアイさんが焦りの声を上げる。
ロッジの中は瞬く間に極寒の冷凍庫と化していた。いくらダウンジャケットを着ていても、この猛吹雪を直接浴び続ければ、数十分で命に関わる。
「ど、どうしよう……お姉ちゃん、寒いよぉ……っ」
リリスちゃんがガタガタと震えながら、私の腕にしがみついた。
「大丈夫よ、リリスちゃん。私が【デパート】からテントとストーブを出すから――」
「ううん! お姉ちゃんばっかりに頼ってちゃダメだもん!」
リリスちゃんが、突然顔を上げて叫んだ。
その瞳には、恐怖ではなく、はっきりとした決意の光が宿っていた。
「私、ただの居候じゃないもん! 『デパート・コトネ』の立派な店員さんだもん! だから、今度は私がみんなをおもてなし(ガード)するの!」
リリスちゃんは震える手で、ハードケースに入った『エンジェルすまーとふぉん』を取り出した。
「お姉ちゃんのご飯と、ジークさんの頭ポンポンで、私のMP(神力)はフルチャージされてるんだから! 発動――【創造魔法】、みんなを守る『温かいかまくら』!!」
リリスちゃんがスマホの画面をタップした瞬間。
彼女の頭上の光の輪が、太陽のように眩く輝きを放った。
大気中の魔素が異常な密度で集束し、猛吹雪の雪を巻き込んでいく。
――ゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォンッ!!
「えっ……?」
地響きとともに、私たちの目の前に『それ』が錬成された。
確かに、雪と氷で作られたドーム型の建造物だ。風を完全に遮断し、中には広大な空間が確保されている。
だが、問題はその『スケール』だった。
「リ、リリスちゃん……これ、『かまくら』っていうより……」
「お城やんけ!! 完全に童話に出てくる氷の城やんけ!!」
ニャングルが目玉が飛び出んばかりに驚愕して叫んだ。
そう、リリスちゃんが錬成したのは、見上げるほど高い尖塔を持ち、美しい氷の彫刻とシャンデリアまで備えた、超巨大な『氷の城』だったのだ。
「あ、あわわわ……っ! ごめんなさいお姉ちゃん! スケールの設定、間違えちゃったぁぁっ! 『小』じゃなくて『特大(城)』にしちゃったよぉぉっ!」
リリスちゃんが頭を抱えて、その場にしゃがみ込んでしまった。
せっかく見せ場を作ろうとしたのに、大ドジを踏んでしまったと半泣きになっている。
「……ふふっ。あははははっ!」
私は、思わず吹き出してしまった。
こんな極限状態なのに、突然現れたロマンチックすぎる氷の城。そのギャップがたまらなく可笑しかった。
「コトネちゃん!? 笑ってる場合じゃないわよ!?」
「ごめんなさい、スアイさん。でも、これって凄くないですか?」
私はしゃがみ込んでいるリリスちゃんの前にしゃがみ、彼女の手を優しく握った。
「リリスちゃん、謝ることなんて何もないわ。だって、風は完全に防げているし、中はこんなに広くて綺麗なんだから。大成功じゃない!」
「えっ……ほんと?」
「ええ! これなら、ただ避難するだけじゃもったいないわ。この氷の城、最高の『雪上カフェ(イベントスペース)』になるじゃない!」
前世の社畜時代。トラブルやミスなんて日常茶飯事だった。
デパートの店長に求められるのは、ミスを責めることではなく、その状況をどうやって『プラス(商機)』に転換するかだ。
「よし、臨時営業開始よ! 発動――【デパート】、デパ地下惣菜フロア、老舗の特選おでん屋台! ならびに、地酒コーナー!!」
私がスキルを発動すると、氷の城の中央に、赤提灯の下がった立派な『おでん屋台』が出現した。
四角い鍋の中では、透き通った黄金色の琥珀ダシがグツグツと煮立ち、大根、こんにゃく、ちくわぶ、そして牛すじ串などが、たっぷりとダシを吸って美味しそうに揺れている。
「うわぁぁぁっ……! すっごく良い匂い……!」
「冷えた体には、こういうのが一番効くんやで!」
カツオと昆布の暴力的なまでに良い香りが、氷の城の中に充満する。
「さぁ、みんな! 温かいうちにどうぞ! 大人は『熱燗』も用意してありますよ!」
私は熱々の大根と牛すじを皿に取り分け、スアイさんとニャングルには、サケスキーのお湯割り(熱燗)を差し出した。
ジークは無言で一番大きな『餅入り巾着』を箸で掴み、豪快にかじりついた。
「――――ッ! 美味ぇ……!」
ジークが、フハッ、と熱い息を吐き出しながら三白眼を和らげる。
とろとろに溶けたお餅と、旨味の染み込んだ油揚げが口の中で絶妙に絡み合い、極上のダシが喉の奥を温めていく。
「この大根、中まで味がしみしみだよぉ! お口の中で溶けちゃう!」
「くぅぅぅっ! 熱燗のキレと、この牛すじの脂がたまらん! 氷の城の中で食う熱々のおでん……最高や! これ、絶対新事業としてウケるで!」
リリスちゃんとニャングルが、歓声を上げながら次々とおでんを口に運んでいく。
スアイさんも、熱燗をちびちびと舐めながら、ホォッと至福の吐息を漏らした。
「本当に……貴女って人は、どんなトラブルでも『美味しい笑顔』に変えちゃうのね。リリスちゃんの魔法も、コトネちゃんにかかれば最高の舞台装置だわ」
「ふふっ。これも、リリスちゃんが一生懸命頑張ってくれたおかげですから」
私がリリスちゃんを見ると、彼女は口の周りにからしを少しつけながら、えへへと誇らしげに笑った。
「社長」
おでんのダシを飲み干したジークが、空になった皿を屋台のカウンターに置いた。
「この巾着、もう三個おかわりだ」
「はいはい、たくさん食べてくださいね。ジークさん」
「……お前、本当にすげぇ上司だな。リリスが懐くのも無理はねぇ」
ジークが、フッと優しく口角を上げた。
トラブルを笑い飛ばし、仲間を肯定して、温かいご飯で心を満たす。
それが、私の目指す『ホワイト企業』の形だ。
私たちは氷の城という非日常の空間で、熱々のおでんを囲みながら、外の猛吹雪すら忘れて優雅なひとときを楽しんでいた。
――しかし。
カツオと昆布の極上のダシの香りは、氷の城の入り口を通じて、外の猛吹雪の中へと容赦なく漂っていってしまったのだ。
ズズゥゥゥンッ……!!
「……ん?」
氷の城の入り口に、巨大な影が落ちた。
振り返ると、そこには、あまりの良い匂いに釣られてフラフラと近寄ってきた『キング雪男』が、ヨダレをダラダラと垂らしながら立っていたのである。
「グ、グォォォ……?(それ、美味そう……)」
「……チッ。メシの邪魔をしやがって。やっぱり力ずくで追い払うしかねぇか」
ジークが首をゴキッと鳴らし、立ち上がった。
その三白眼には、食事を邪魔されたことに対する静かな、しかし絶対的な怒りの闘気が宿っている。
「社長。さっきの続きだ。アレを出せ」
「あ、はいっ!」
ついに、慰安旅行の最後を飾る(?)最強の物理ギャグ無双の幕が上がる。
私は息を呑み、【デパート】の鮮魚コーナーの奥深くへと意識を繋いだ。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
第7話、リリスちゃんが大活躍(大暴走)!
「かまくら」を作るつもりが、スケール設定をミスって「超巨大な氷の城」を錬成してしまいました!
しかし、コトネは決して怒らず、むしろ「最高の雪上カフェになるわ!」とポジティブに転換。【デパート】から『おでん屋台』を出現させ、ピンチを優雅なパーティーに変える見事なホワイト上司っぷりを発揮しました。
女性読者の皆様にも、「失敗をカバーしてくれる優しい環境」の心地よさが伝われば嬉しいです!
そして、おでんの匂いに釣られて、ついにキング雪男が再登場!
次回、第8話『必殺!大間産・冷凍本マグロ!』
ジークが待ちに待った『アレ』を要求します。
圧倒的な安心感と、それをぶち壊すシュールなボケが最高潮に達する無双回! ぜひお楽しみに!
【読者の皆様へのお願い】
「氷の城でおでん最高!」「コトネ店長優しすぎる…!」「キング雪男ヨダレ垂らしてるw」と思っていただけましたら、
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