雪山の脅威! 最強護衛の不可解な絶技『飛び魚手裏剣』に、私のツッコミが追いつきません。
雪山の脅威! 最強護衛の不可解な絶技『飛び魚手裏剣』に、私のツッコミが追いつきません。
翌朝。
猛烈に吹き荒れていた吹雪は嘘のように止み、ポポロ山のスキー場には、雲一つない抜けるような青空と、太陽の光を反射してキラキラと輝く白銀の世界が広がっていた。
「ふわぁぁ……よく寝たぁ。お姉ちゃんのチーズフォンデュ、夢に出てきたよぉ」
リリスちゃんが目をこすりながら起きてきた。
昨夜は停電というハプニングこそあったものの、LEDランタンと温かいご飯、そしてジークの『頭ポンポン』による絶対的な安心感のおかげで、私たちは朝までぐっすりと眠ることができたのだ。
「おはよう、リリスちゃん。顔を洗ったら朝ご飯にしましょう。今日はデパ地下の『焼きたてクロワッサン』と『特製クラムチャウダー』よ」
「やったぁぁっ! 私、お皿並べるの手伝うね!」
リリスちゃんが尻尾を振る子犬のようにパタパタとキッチンへ向かう。
スアイさんとニャングルも起きてきて、ロッジのリビングに再び平和で温かい空気が流れ始めた――その時だった。
――ズズンッ……ズズズズズズンッ!!
突如、地響きのような重い足音が響き、ロッジの窓ガラスがビリビリと震えた。
「な、なんや!? 雪崩か!?」
「違うわ! コトネちゃん、窓から離れて!」
スアイさんが鋭い声で叫び、窓の外を指さした。
そこには、昨日は一面の銀世界だったはずのゲレンデを埋め尽くすほどの、巨大な群れの姿があった。
身長三メートルはあろうかという、全身を白い剛毛で覆われた巨大な猿のような魔獣たちだ。その口からは鋭い牙が覗き、丸太のような太い腕で雪を掻き分けながら、私たちのロッジを取り囲むように接近してきている。
「ヒィィィッ!? なんやあいつら! ゴリラと白クマを足して二で割ったような化け物やんけ!」
「『スノーコング』の群れよ! 普段は山頂付近の万年雪のエリアにしか生息していないのに……まさか、昨夜の猛吹雪で餌を求めて山を下りてきたのね!」
スアイさんが青ざめた顔で言った。
スノーコングは、一匹でも冒険者パーティーが全滅しかねないほどの凶悪な魔獣らしい。それが数十匹という規模で、食料の匂い――昨夜私たちが食べたチーズフォンデュの匂いに釣られて集まってきたのだ。
「グォォォォォォォォッ!!」
リーダー格と思われる一際大きなスノーコングが咆哮を上げ、ロッジの防壁に向かって巨大な雪の塊を投げつけてきた。
ドスゥゥゥンッ!という衝撃音と共に、建物が大きく揺れる。
ドワーフ特製の強固な建築とはいえ、これほどの群れに一斉に攻撃されれば、いずれ壁を破られてしまう。
「お、お姉ちゃん! こわいよぉ……っ!」
「大丈夫、リリスちゃんは私の後ろに隠れてて!」
私は震えるリリスちゃんを背中で庇いながら、スアイさんと顔を見合わせた。
「私が氷魔法で足止めするわ! でも、数が多すぎて全部は倒しきれないかも……」
「ワイも金庫を守らなアカン! コトネはん、何かデパートから兵器とか出せへんのか!?」
皆がパニックに陥りかけた、その瞬間。
「……朝っぱらから、騒々しい奴らだな」
二階の寝室から、大きく欠伸をしながら下りてきたのはジークだった。
彼は寝癖のついた頭をボリボリと掻きながら、窓の外で暴れ狂うスノーコングの群れを、まるで「庭に迷い込んだ野良猫」を見るかのような退屈そうな三白眼で見下ろした。
「まだ朝飯も食ってねぇのに。……チッ、数が多いな」
「ジークさん! あの魔獣たち、ロッジを壊そうとしてて……!」
「わかってる。俺が片付ける。……おい社長」
ジークが、スッと私の方へ振り向いた。
「コトネ! デパートから魚を!」
「……え?」
一瞬、自分の耳を疑った。
今、彼は『魚』と言っただろうか。剣でもなく、銃でもなく、いつも使っているテフロン加工のフライパンですらなく。
「魚って……鮮魚コーナーのお魚ですか!?」
「早くしろ! 数が多すぎて、フライパンの近接戦闘じゃ間に合わねぇ。遠距離用の弾幕が必要だ!」
「え? ええっ! 発動――【デパート】、鮮魚コーナー!!」
私は訳も分からないままスキルを発動し、デパートの冷蔵ショーケースから、木箱に入った『新鮮な魚の詰め合わせ』を空間からドサッと出現させた。
ジークはそれに駆け寄ると、迷うことなく特定の魚を両手に何匹も鷲掴みにした。
そして、ロッジの玄関ドアを蹴り開け、猛吹雪の雪原へと単身で飛び出していったのである。
「グォォォォッ!?」
突然現れた人間に、スノーコングたちが一斉に牙を剥いて襲いかかってくる。
しかし、ジークは全く動じることなく、両手に持った魚に、目も眩むような『黄金の闘気』を全力で注ぎ込んだ。
――ビキィィィィンッ!!
ただの生魚が、闘気のコーティングによって鋼鉄すら凌駕する超硬度の刃物へと変貌を遂げた瞬間だった。
「くらえ! 魚手裏剣!」
ジークが、両腕をブレさせるほどの尋常ではない速度で、闘気を纏った魚を次々と投擲し始めた。
シュババババババッ!!!
「ギャァァァァァッ!?」
「グォォォォォッ!?」
黄金の光の軌跡を描いて飛んでいく魚たちが、スノーコングの分厚い剛毛と鋼のような筋肉を、まるで紙でも切るかのようにスパァァァンッ!と真っ二つに切り裂き、あるいは脳天を正確に撃ち抜いていく。
血飛沫が舞い、巨大な魔獣たちが次々と雪原に崩れ落ちていく。
「す、すごい……! 神の雷みたいな威力だよぉ……! でも、あれ……魚なのに……」
私の背中に隠れていたリリスちゃんが、あまりの光景にポカンと口を開けて呟いた。
スアイさんも「私の氷魔法より威力が高い……!? どういう原理なの!?」と頭を抱えている。
あっという間に群れの半分以上が『魚』によって殲滅された。
ジークは残りの魚を構え直し、無駄にキリッとした三白眼で言い放った。
「飛び魚だからな!」
「「「…………」」」
一瞬、ロッジの中に静寂が訪れた。
「……そ、そうね……」
私は、デパ地下店長としての理性を総動員して、彼の言葉を脳内で反芻した。
飛び魚。空を飛ぶ性質を持つ魚。だから遠距離用の弾幕として選んだ。彼の中では、完璧に筋が通っているらしい。
マイペースで、どこまでも合理的なB型ヒーローの極致。
だが。
「そ、そうね……飛び魚だから、手裏剣に……」
プツンッ。
私の中で、何かが限界を突破した。
「てっ、手裏剣になるかああああああっ!!!」
私の絶叫じみたツッコミが、ポポロ山の雪原にこだました。
「空飛ぶ魚だからって、闘気纏わせて投げたら手裏剣になるなんて、どこの物理法則ですか!? しかも綺麗に急所に命中してるし! 魚の使い方が間違ってる! お魚は美味しく食べるためのものであって、魔獣をスライスするための暗器じゃありません!!」
「うるせぇな。適材適所だろ。現にこうして百発百中で当たってるんだから、文句ねぇだろ」
ジークは私の悲鳴をどこ吹く風と受け流し、さらに残りの飛び魚を「シュバババッ!」と軽快な効果音(口で言っている)と共に投げまくった。
ニャングルは「あの飛び魚、回収したら『魔獣を仕留めた伝説の聖魚』として一本金貨一枚で売れるで……!」と悪い顔で算盤を弾いている。
「あぁ……もう、この人の常識のステータス、完全にマイナスに振り切れてるわ……」
私は深いため息をつきながら、額を押さえた。
圧倒的に強くて、絶対に守ってくれるという安心感は凄まじい。凄まじいのだが、その過程の『ボケ』のクセが強すぎて、ツッコミを入れるこちらの体力が削られていく。
――ズズゥゥゥゥンッ……!!
だが、安堵とツッコミの時間は長くは続かなかった。
飛び魚手裏剣によって群れがほぼ壊滅した雪原の奥から、今までのスノーコングとは次元の違う、規格外のプレッシャーが近づいてきたのだ。
「……チッ。手下を殺されて、ついに親玉のお出ましか」
ジークが、手元の魚を投げ切り、ゆっくりと腰を落とした。
吹雪の奥から姿を現したのは、他の個体の三倍以上の体躯を持つ、白銀の王。
ポポロ山の主とも言える『キング雪男』であった。
「グォォォォォォォォォォォォォッ!!!」
空気を震わせる絶叫。その咆哮だけで、周囲の木々の雪が吹き飛ぶ。
さすがのジークも、あれを飛び魚で倒すのは無理だろう。
「社長」
ジークが、振り返らずに私に声をかけた。
その背中は、どんな脅威からも絶対に私を傷つけさせないという、強固な防壁のように頼もしかった。
「飛び魚の弾切れだ。……次は、あれを出すぞ」
「あ、あれって……!」
私はゴクリと唾を飲み込んだ。
鮮魚コーナーにある、最大最強の『質量兵器』。
シュールな笑いと、圧倒的な安心感が交差する慰安旅行は、いよいよ雪山のヌシとの最終決戦へと突入しようとしていた。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
第6話、雪山の脅威『スノーコング』の襲撃に対し、ジークの不可解な絶技が炸裂しました!
「飛び魚だからな!」「手裏剣になるかあああ!!」
ご指定いただいたシュールなギャグの黄金律、コトネの渾身のツッコミが雪山にこだましました(笑)。
どんなピンチでも悲壮感が全くなく、むしろ腹筋が崩壊するほどの安心感を提供してくれるヒーロー・ジークの魅力(出番50%!)が全開の回でした。
次回、ついに雪山のヌシ『キング雪男』が登場!
しかし、このまま素直に戦闘が終わるわけがありません。ポンコツ見習い女神・リリスが「私も役に立つもん!」と魔法を暴発させ、雪山に『巨大なかまくら(氷の城)』を錬成してしまいます!?
そこでコトネが取った『デパート店長としての機転』とは?
トラブルを商機に変える第7話をお楽しみに!
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