自立した女たちの夜の女子会。そして最強ヒーローからの『頭ポンポン』という名の極上のご褒美。
自立した女たちの夜の女子会。そして最強ヒーローからの『頭ポンポン』という名の極上のご褒美。
猛吹雪で停電したロッジのリビングは、LEDランタンの優しいオレンジ色の光と、チーズフォンデュの芳醇な香りに包まれていた。
「すぅ……すぅ……」
「むにゃ……金貨がいっぱい……へへへ……」
限界までチーズを堪能したリリスちゃんとニャングルは、ふかふかのラグマットの上で仲良く丸まって寝息を立てていた。リリスちゃんに至っては、よだれまで垂らしている。
私は彼らにデパートで出した毛布をそっと掛けてあげると、再びテーブルの席へと戻った。
残ったチーズフォンデュの鍋を挟んで向かい合っているのは、スキー場の管理人であるスアイさんだ。
私たちはデパ地下から取り出した『高級ドライフルーツ』と『ナッツの蜂蜜漬け』をつまみに、ホットワイン(私はホットティー)を傾けながら、すっかり『大人女子の語り合い』モードに入っていた。
「……でね、当時の軍の司令官ったら、こう言うのよ。『氷魔法の威力を上げるには、自然の冷気を直接肌で感じる必要がある。だからビキニアーマーなんだ!』って。バッカじゃないの!? 寒さで凍えて詠唱スピード落ちるわ!」
「ひ、ひどい言い訳ですね……! 完全に自分たちの趣味じゃないですか」
「そうなのよ! 男社会の理不尽極まりないセクハラとパワハラよ。おまけに給料は安いし、有給なんてあってないようなものだし」
スアイさんがホットワインをグイッとあおり、美しい顔をしかめる。
私は深く深く、首がもげるほど頷いた。
「わかります……! 私も、前世でパティシエをしていた頃は、毎日朝早くから夜中までケーキを焼き続けて、クリスマスなんて地獄のような忙しさだったのに、上司は『やりがいがあるだろう』の一点張りでしたから」
「やりがい搾取ね! 一番タチが悪いわ」
「ええ。それにこの世界に来てからも、元婚約者から『お前みたいな地味な女は国母にふさわしくない。俺の側にはもっと華やかな女がいるんだ』って、散々見下されてポポロ村に追放されましたし」
思い出すだけで腹立たしいが、今となっては遠い過去の話のようだ。
スアイさんは私の手をギュッと握り、真剣な瞳で言った。
「コトネちゃん。貴女は本当に偉いわ。そんな理不尽な環境から追い出されて、普通なら泣き寝入りするか、誰かにすがるしかない状況で……自分の力で『デパート』なんていう素晴らしいお店(居場所)を作ったんだから」
「スアイさんだって、同じじゃないですか。魔王軍の幹部という地位を捨てて、一からこのポポロ山を開拓して、こんな素敵なスキーリゾートを作ったんですから。私、スアイさんのこと本当に尊敬してます!」
私たちが互いの健闘を称え合うと、スアイさんは嬉しそうに微笑み、グラスを掲げた。
「そうね。男や、ブラックな組織になんて依存しなくても、私たちは自分の足で立って、自分の力でお金を稼いで、美味しいものを食べられる! これが一番の『幸せ』よね」
「はい! 最高の仲間と、最高のお店に乾杯!」
チンッ、と小さなグラスの音が鳴る。
クソみたいな上司や元婚約者から離れ、自分の力で居場所を勝ち取った女同士のシスターフッド(連帯感)。
それが、雪山の暗闇の中でポカポカと心を温めてくれた。
「ふふっ、なんだかすっごくスッキリしたわ。コトネちゃんと話せて良かった。……ごめんね、私、ちょっと洗い物してくるわ」
「あ、私も手伝いますよ!」
「ううん、コトネちゃんは座ってて。慰安旅行なんだから、たまには人に甘えなさいな」
スアイさんはウィンクをすると、空いたお皿を持ってキッチンの奥へと消えていった。
リビングには、パチパチと燃えるカセットコンロの微かな音と、吹雪の音だけが残る。
ふと視線を上げると、少し離れたソファの席で、ランタンの光を頼りに本を読んでいる影があった。
ジークだ。
彼は私とスアイさんの女子会に割って入ることもなく、かといって別の部屋に行くこともなく、ずっとこのリビングの隅で、静かに私たちの様子を見守ってくれていたのだ。
「……ジークさん」
私が声をかけると、彼はゆっくりと顔を上げ、三白眼を私に向けた。
「なんだ、女子会は終わったのか?」
「はい。スアイさんが洗い物をしてくれています。……ジークさん、コーヒーのおかわり、淹れましょうか?」
「ああ、頼む」
私は【デパート】から最高級のコーヒー豆とフレンチプレスを取り出し、手早く温かいコーヒーを淹れた。
マグカップを持って、彼の座るソファの隣へと腰を下ろす。
「はい、どうぞ」
「サンキュ」
ジークはマグカップを受け取ると、ブラックのまま一口飲み、ふぅと息をついた。
「……なんか、すげぇ語り合ってたな」
「聞こえてました? 愚痴ばっかりで、うるさくなかったですか?」
「いや。別に。お前らが楽しそうに笑ってたから、いいBGMだったよ」
ぶっきらぼうな言い回しだけど、その言葉には彼特有の不器用な優しさが滲み出ていた。
彼は本を閉じ、サイドテーブルに置くと、私の方へ向き直った。
「社長」
「はい?」
「お前、本当にすげぇよ」
唐突な言葉に、私はきょとんとした。
「え?」
「追放されて、右も左もわからない辺境の村で、へこたれるどころか店を開いて。変人の教師やメンヘラ騎士を手懐けて、軍隊の胃袋を掴んで、挙句の果てには神様まで店員にしちまうんだからな」
「そ、それは、ジークさんやニャングルさんが助けてくれたから……」
私が慌てて謙遜しようとすると、ジークは少し身を乗り出し、大きな手を私の頭の上にポンッと乗せた。
「――――っ」
大きな手。厚くて、温かい手のひら。
それが、私の髪を優しく、何度か撫でた。
「俺たちがいるのは、お前が美味い飯を作って、俺たちの居場所を作ってくれたからだ。お前が一人で頑張って、自分の力で立ち上がったから、俺たちがここにいるんだよ」
ジークの真っ直ぐな三白眼が、私をしっかりと見つめていた。
「お前は、本当によくやってる。誰に恥じることもない、最高の社長だ。……だから、今日くらいは肩の力抜いて、ゆっくり休め」
ドクン、と。
私の心臓が、今まで経験したことのないほど大きな音を立てて跳ねた。
前世でも、今世でも。
私はずっと『頑張るのが当たり前』だと言われてきた。
成果を出しても褒められず、さらに重い責任を押し付けられるだけの日々。
でも、目の前にいるこの圧倒的な強者は。
フライパン一つで山を消し飛ばす規格外の最強の護衛は。
私のこれまでの頑張りを、一切の計算もなく、ただ純粋に肯定してくれたのだ。
「ジーク、さん……」
目頭が熱くなり、視界がじんわりと滲んでくる。
涙を見せまいとうつむくと、ジークの手がさらに優しく頭を撫でてくれた。
「泣くなら静かに泣け。ニャングルたちが起きるぞ」
「な、泣いてません……っ! ちょっと、目にチーズの湯気が……っ」
「はいはい、そういうことにしといてやるよ」
クスリと笑うジークの低い声が、耳に心地よく響く。
頼りになって、強くて、普段は面倒くさがりなのに、一番欲しい時に一番優しい言葉をくれる。
こんなの、ずるい。
胸が苦しいくらいに、温かくて、安心してしまうじゃないか。
「……ありがとうございます。ジークさん」
外ではまだ、猛吹雪が吹き荒れている。
でも、ジークの大きな手に頭を撫でられているこの瞬間、私にとってこの場所は、世界で一番温かくて、絶対的な安心感に包まれた安全地帯だった。
私はコーヒーの香りと、彼の温もりに包まれながら、静かに、本当にゆっくりと心を休めることができた。
――そして翌朝。
この甘く平和な慰安旅行の夜を打ち破る、雪山の『大いなる脅威』がロッジを襲撃してくるとは、この時の私たちはまだ知る由もなかったのである。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
第5話、大人女子たちの熱い女子会からの、最強ヒーロー・ジークの不意打ち『頭ポンポン』回でした!
前世のブラック企業やクソ王子からの仕打ちを乗り越え、自分の足で立ったコトネ。それを「お前はよくやってる」と、ただ真っ直ぐに肯定してくれる圧倒的強者。
現実のストレスを抱える皆様にも、このジークの『絶対的な安心感と優しい言葉』が届いていれば幸いです!
さて、甘い時間はここまで。
次回、第6話『雪山の脅威! くらえ、飛び魚手裏剣!』
猛吹雪の翌朝、凶暴な雪男魔獣の群れがロッジを襲撃!
ピンチに立ち向かうジークが、コトネの【デパート】に要求した武器は……まさかの「鮮魚」!?
ジークのシュールな無双とコトネのキレッキレのツッコミが炸裂する、爆笑必至の戦闘(?)回をお楽しみに!
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