吹雪の山荘で大停電!? デパ地下の『極上チーズフォンデュ』で、ピンチを優雅なグランピング空間に変えてみせます。
吹雪の山荘で大停電!? デパ地下の『極上チーズフォンデュ』で、ピンチを優雅なグランピング空間に変えてみせます。
マサカ茸による『当社比0.5倍増しの迷推理事件』も無事に(?)収束し、私たちはポポロ山スキー場のロッジで夜を迎えていた。
夕方から降り始めた雪は、いつの間にか猛吹雪へと変わっており、窓の外ではゴォォォォッという風の音が不気味に響き渡っている。
「うぅ……外、すごい吹雪だよぉ。明日、お山を下りられるのかな……」
暖炉の前のソファで膝を抱え、リリスちゃんが不安そうに窓の外を見つめていた。
「心配ないわよ。このロッジはドワーフの建築技術を取り入れているから、どんな吹雪でもビクともしないわ。暖房用の魔導石もたっぷり備蓄してあるしね」
タローマン製の作業着から、ゆったりとした部屋着に着替えたスアイさんが、温かいお茶を注ぎながらリリスちゃんを慰める。
頼もしい管理人の言葉に、私もホッと胸を撫で下ろした。慰安旅行で遭難なんて笑えない。
――バツンッ!!
その時。
不意に嫌な音が響き、ロッジ内の照明が全て落ちた。
暖房用の魔導器具も沈黙し、室内は完全な暗闇と静寂に包まれる。
「きゃあぁぁっ!?」
「な、なんや!? ワイの金庫は無事か!?」
リリスちゃんの悲鳴と、暗闇でも金銭の心配をするニャングルの声が響く。
「落ち着いて。多分、魔導回路のブレーカーが落ちただけね。吹雪の日はたまにあるのよ。ちょっと予備の魔導石を取ってくるから――」
スアイさんが立ち上がろうとした、その瞬間だった。
暗闇の中、シャキィィィン!と鋭い金属音が鳴り、黄金の闘気がチカッと瞬いた。
「……動くな。闇に乗じてターゲットを狙う、暗殺者の常套手段だ」
「えっ?」
低く、渋い声。ジークだ。
彼は黄金の闘気をうっすらと纏わせた『フライパン』を構え、暗闇の中で鋭い三白眼を光らせている。
「猛吹雪による孤立。そして突如のブラックアウト。……まさか、犯人はこの山荘にいる全員を密室で始末する気か」
「ま、まだマサカ茸の効能が抜けてなかったんですか!?」
私は暗闇の中で全力でツッコミを入れた。
もう三時間以上経っているのに、まだ名探偵モードを引きずっていたらしい。どんだけプラシーボ効果が長引くんだ。
「お姉ちゃん……こわい、寒いよぉ……」
リリスちゃんが、暗闇の中で震えながら私のエプロンにしがみついてきた。
魔導暖房が止まったことで、ロッジ内の温度は急速に下がり始めている。このままでは、いくら屋内とはいえ凍えてしまう。
(暗闇と寒さ……でも、私には【デパート】がある!)
前世のデパ地下店長だった頃、台風や予期せぬ停電の対応は何度も経験してきた。
大切なのは、お客様(今は仲間たち)を不安にさせないこと。そして、ピンチを『特別な体験』に変えるホスピタリティだ。
「みんな、落ち着いて! すぐに明るく温かくするから! 発動――【デパート】、アウトドア・グランピング用品コーナー!!」
私は暗闇の中でスキルを発動した。
ポォンッ!という音と共に、空間から次々とアイテムを取り出していく。
「まずは明かりね! 『アンティーク調・超高輝度LEDランタン』!」
カチッ。
私がスイッチを入れると、暖かみのあるオレンジ色の光が、ロッジのリビングをふんわりと照らし出した。
魔導照明の青白い光とは違う、まるで焚き火のような優しい光だ。
「わぁ……! あったかい色の光……!」
「おおっ、眩しすぎず、ええ雰囲気の明かりやな!」
リリスちゃんとニャングルが、ホッと息をつく。
ジークも「なんだ、犯人じゃねぇのか」と残念そうに(?)フライパンを下ろした。
「次は暖房とご飯の準備! 『高火力カセットコンロ』と、食品フロアの『極上チーズフォンデュセット』!」
私はローテーブルの真ん中にカセットコンロを設置し、火をつける。
ゴォォォォッという力強い炎の音とともに、周囲の空気が急速に温められていく。
その上に専用のホーロー鍋を置き、デパ地下直輸入の最高級ブレンドチーズ(グリュイエールとエメンタール)をたっぷりと投入。隠し味に白ワインを少々。
「さぁ、冷えた体を中から温めましょう!」
私が木べらでゆっくりとかき混ぜると、チーズがとろぉりと溶け出し、濃厚で芳醇な香りがロッジいっぱいに広がった。
「な、なんだこの狂暴力的な乳脂肪の香りは……!?」
「チーズや! 溶けたチーズの匂いやで!」
スアイさんとニャングルが、鼻をピクピクさせて鍋を覗き込む。
私は、一口大にカットしたバゲット(フランスパン)、茹でたブロッコリーや厚切りベーコン、そして皮付きのフライドポテトを大皿に並べて差し出した。
「お好きな具材を串に刺して、このとろとろのチーズにたっぷり絡めて食べてくださいね。停電限定の、特製グランピング・パーティーの始まりです!」
「やるぅぅぅっ!」
リリスちゃんが一番に串を手に取り、厚切りベーコンをチーズの海へとダイブさせた。
たっぷりとチーズを纏ったベーコンを、ふーふーと冷ましてから口に運ぶ。
「――――ッ!! おいひぃぃぃぃぃっ!!」
リリスちゃんの瞳が、ランタンの光を反射してキラキラと輝いた。
「チーズがすっごく濃厚でコクがあるのに、白ワインの香りで後味がスッキリしてる! そこにベーコンの塩気と肉汁がジュワァッて合わさって……もう最高ぉぉっ!」
その感想を聞いた瞬間、全員が我先にと串を手に取った。
スアイさんはバゲットを、ニャングルはポテトをチーズに絡めて口に運ぶ。
「んまぁぁぁぁっ!! なんちゅう贅沢な味や! 停電の真っ暗闇で食う熱々のチーズ……背徳感のスパイスが効いて、たまらんな!」
「ええ……! 魔導暖房の人工的な温かさとは違う、火と料理の根源的な温もり……。コトネちゃん、貴女って人は、本当にどんな状況でも最高のおもてなし(魔法)を見せてくれるのね」
スアイさんが、ランタンの優しい光の中で心底リラックスしたような笑みを浮かべた。
ジークも、無言で次々とブロッコリーやソーセージをチーズの海に沈めては口に運んでいる。その顔は、名探偵の険しい表情から、すっかり『美味しいご飯を食べるお兄さん』の顔に戻っていた。
「社長」
ふと、ジークが串を持ったまま私の方を見た。
「お前がいれば、吹雪の山荘だろうが、世界の果てだろうが、最高に快適で美味い場所になるな」
「えっ……」
「……停電のおかげで、面白いメシが食えた。ありがとな」
ランタンのオレンジ色の光に照らされた、ジークの横顔。
いつもはぶっきらぼうで面倒くさがりなのに、こういう時にストレートに褒めてくれるからズルイ。
私の胸の奥が、チーズフォンデュの火よりも熱く、ポカポカと温かくなるのを感じた。
「ふふっ。どういたしまして、ジークさん。たくさん食べてくださいね」
外の猛吹雪は、まだしばらく止みそうにない。
でも、LEDランタンの優しい光と、カセットコンロの温もり、そして極上のチーズフォンデュを囲むこの空間には、寒さも不安も一切入り込む隙はなかった。
ただの『停電によるピンチ』を、オシャレで優雅な『グランピング空間』へと変貌させる。
それが、元デパ地下店長であり、ホワイト企業『デパート・コトネ』を率いる私流のトラブルシューティング(おもてなし)なのだ。
「よーし、チーズのおかわり、まだまだたくさんありますよー!」
「「「わぁぁぁぁっい!!」」」
私たちの慰安旅行の夜は、最高に美味しくて温かい笑顔と共に更けていった。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
第4話、猛吹雪による停電のピンチでした!
しかし、暗闇と寒さに怯える状況すらも、コトネの前世の知識と【デパート】のグランピング用品で、オシャレな『チーズフォンデュ・パーティー』へと早変わり!
ピンチを最高のエンタメ(おもてなし)に変えるコトネの生活力と有能さ、そしてジークからの「お前がいればどこでも快適だな」というストレートな労い。
女性読者の皆様に、最高の「安心感とトキメキ」をお届けできていれば幸いです!
次回、チーズフォンデュを囲みながら、コトネとスアイの『自立した大人の女子会』が始まります。
そして、その様子を温かく見守るジークの最高のイケメンムーブ(頭ポンポン再び!?)が炸裂する第5話をお楽しみに!
【読者の皆様へのお願い】
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