マサカ茸の効能。『……まさか!』犯人も死体もないのに、最強護衛とポンコツ女神が名探偵になりました。
マサカ茸の効能。『……まさか!』犯人も死体もないのに、最強護衛とポンコツ女神が名探偵になりました。
「さぁ、ここが私の管理している『マサカ茸』の群生地よ!」
スアイさんに案内されてやってきたのは、ポポロ山のスキー場から少し外れた、針葉樹林の広がる静かなエリアだった。
雪から顔を出しているのは、立派なカサを持ったキノコたち。
見た目は日本の最高級キノコ『松茸』にそっくりで、周囲にはえも言われぬ芳醇な香りが漂っている。
「うわぁ……! すっごく良い香り! これがマサカ茸なんですね」
「ええ。味も香りも松茸と同等、いやそれ以上の絶品よ。さぁ、好きなだけ採ってちょうだい!」
スアイさんの許可を得て、私たちは夢中でキノコ狩りを楽しんだ。
雪山でのキノコ狩りなんて少し不思議だが、魔素を帯びた特殊な土壌がこの季節外れの恵みを生み出しているらしい。
小一時間ほどでカゴいっぱいになったマサカ茸を前に、私は【デパート】のスキルを起動した。
「発動――【デパート】、アウトドア用品コーナー! 卓上七輪と最高級備長炭、それから食品フロアの特選丸大豆醤油!」
雪の上のテーブルに、真っ赤に熾った炭火の七輪をセットする。
そこに、泥を落として軽く切り込みを入れたマサカ茸を乗せていく。
ジワジワとキノコから水分が染み出し、芳醇な香りがさらに強くなる。絶妙なタイミングで、ハケを使ってお醤油をひと塗り。
――ジュワァァァァッ……!
醤油の焦げる暴力的な香ばしさと、マサカ茸の気高い香りが混ざり合い、私たちの嗅覚を容赦なく蹂躙した。
「あかん……もう我慢の限界や! いただきます!」
「私も食べるもん!」
ニャングルとリリスちゃんが、熱々のマサカ茸にかじりついた。
「「――――ッ!! 美味ぇぇぇぇっ!!」」
二人は同時に天を仰いだ。
シャキッとした絶妙な歯ごたえ。噛むほどに溢れ出す強烈な旨味エキス。それが炭火の香ばしさと醤油の塩気によって引き立てられ、口の中が秋の味覚のオーケストラ状態になる。
「社長、俺ももらうぞ」
薪割りを終えたジークもやってきて、ひょいと一番大きなマサカ茸を口に放り込んだ。
三白眼がわずかに見開かれ、無言で深く頷く。間違いなく『美味い』のサインだ。
「ふふっ、美味しいですね。スアイさん、最高の食材をありがとうございます!」
「いいのよ。喜んでもらえて何よりだわ。……あっ、そういえば一つ言い忘れてたことがあったんだけど……」
スアイさんが、ふと思い出したように人差し指を立てた、その瞬間だった。
「…………まさか」
突然、ジークが深刻な顔つきになり、右手の親指と人差し指で顎を擦り始めた。
その三白眼は鋭く細められ、まるで難解な事件の謎に直面した名探偵のような凄みを漂わせている。
「え? ジークさん、どうかしましたか?」
「……点と点が、繋がったよ」
さらに、隣でマサカ茸を食べていたリリスちゃんまでが、どこからともなく取り出した『伊達メガネ』をクイッと中指で押し上げ、キリッとした表情で立ち上がった。
「な、なんや? 二人とも急に目つきが変わったで?」
「静かにしろ、ニャングル」
ジークが低く、渋い声で制止する。
「この密室で起きた不可解な事件……。一見すると事故に見えるが、これは巧妙に仕組まれた殺人だ」
「えっ!? さ、殺人!? 密室!?」
私は慌てて周囲を見回した。
だが、そこには美しい雪山の景色が広がっているだけで、死体はおろか、アリ一匹殺された形跡はない。だいたい、ここ思いっきり屋外だし密室でもなんでもない。
「犯人は、あの『吹雪』を利用して足跡を消した。だが、たった一つだけ致命的なミスを犯していたんだ……」
「そう! そして犯人は……この中にいる!」
ジークの渋い語りに、リリスちゃんがビシィッ!とニャングルを指さした。
「ワ、ワイ!? なんでやねん! ワイはずっとアンタらとキノコ食うとったわ!」
「動機は十分にある。被害者の隠し財産(金貨)を狙った、怨恨と強欲の果ての凶行……違うか?」
「違うちゅうねん! そもそも『被害者』って誰やねん! 誰も死んどらへんわ!」
ニャングルのツッコミも虚しく、二人の『名探偵モード』は止まらない。
ジークは雪の上にしゃがみ込み、何もない空間をルーペ(これもどこから出した?)で真剣に観察し始めた。
「……なるほど。凶器は『凶暴な雪男の爪』に見せかけた氷の刃か。巧妙な手口だが、俺の眼は誤魔化せないぜ」
「ジークさぁぁぁん! 何もない雪見て何言ってるんですか!?」
私の叫びにも全く動じず、ジークは今度は近くの茂みから、一羽の野生の雪ウサギをヒョイとつまみ上げてきた。
「おい、お前」
「キュゥ……?」
「とぼけるな。犯行時刻の午後三時、お前はどこで何をしていた?」
「キュッ?」
「……黙秘権を行使する気か。だが証拠は上がってるんだ。なぜお前は、被害者の『人参マンドラ』を齧った形跡を隠そうとした? 大方、多重債務を苦にしての犯行だろう」
「ウサギに借金なんてないでしょ!! そもそも人参マンドラって別の村の特産品だし!!」
私は全力でツッコミを入れた。
野生のウサギを相手に、無駄に低くて渋い声で尋問をする最強の護衛。シュールすぎる。
「お姉ちゃん、油断しないで! このウサギ、実は巨大な犯罪シンジケートのボスかもしれないよ!」
「リリスちゃんまで乗っからないで! というか、そのメガネどこで買ったの!?」
ツッコミが追いつかない。息が切れてきた。
見かねたスアイさんが、苦笑いしながら口を開いた。
「ご、ごめんなさいコトネちゃん。言い忘れてたんだけど……『マサカ茸』って、食べると強烈なプラシーボ効果が働くのよ」
「プラシーボ効果……?」
「ええ。『まさか』って勘繰るようになって、自分の推理力が当社比で0.5倍増しになった『ような気がする』副作用があるの。だから、あんな風にミステリー小説の探偵気分になっちゃうのよ」
なんという迷惑なキノコだろうか!
当社比0.5倍増しということは、要するに元の推理力が低ければ、大した効果はないということだ。事実、二人の推理は支離滅裂である。
「じ、じゃあ、この症状はいつ治るんですか?」
「そうねぇ、成分が抜けるまであと一時間くらいは……。まぁ、無害だし、エンタメだと思って見てあげてよ。ふふっ、ジーク君のあの真剣な顔、結構カッコいいじゃない」
スアイさんがクスクスと笑う。
確かに、ジークの無駄に整った三白眼の顔立ちと、低い声での『名探偵ムーブ』は、絵面的には非常に様になっている。言っていることは完全に意味不明だが。
「……犯人のトリックが、全て見えた」
ジークが、バサァッ!とマントを翻して立ち上がった。
その後ろで、リリスちゃんが「真実はいつも一つ!」みたいなポーズを決めている。
「皆を集めてくれ。これより、謎解き編(解決編)を始める」
「はいはい、わかりましたよ。とりあえず温かいお茶でも飲みながらにしましょうか」
私はやれやれとため息をつきながら、【デパート】から最高級の『玉露』を取り出して急須で淹れ始めた。
誰も死んでいないし、事件すら起きていない。
だが、このアホらしくも平和な空間が、今の私にはたまらなく愛おしかった。
「あのな、社長。今回の事件の核心は、犯人がどうやって『重力魔法』を密室で発動したかだ。つまり――」
得意げに語り始める最強の護衛(ポンコツ探偵)の言葉に、私は「へえ、すごいですねぇ」と適当な相槌を打ちながら、温かいお茶を差し出した。
私のデパートの慰安旅行は、雪山の澄んだ空気と、美味しいキノコと、絶え間ない笑い声に包まれて、最高にゆるゆると過ぎていくのだった。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
第3話、マサカ茸の副作用でミステリー(ギャグ)が始まりました!
「……まさか!」と言い出し、ただの雪ウサギを相手に多重債務の尋問を始めるジーク。真顔の天然ボケ(イケボ)が炸裂しています。
それに便乗してメガネをクイッとするポンコツ助手のリリスと、ツッコミに忙殺されるコトネ(笑)。
当社比0.5倍増しの推理力、全く役に立っていません!
次回、この平和な慰安旅行にハプニングが?
猛吹雪でロッジが停電! 暗闇と寒さに怯える一行の前に、コトネの前世の知識と【デパート】スキルが、雪山を『極上グランピング空間』へと変貌させます!
ホワイト企業すぎる慰安旅行、第4話をお楽しみに!
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