利益が出すぎたので『節税』の慰安旅行へ! 雪山の元魔族将軍と意気投合しました。
利益が出すぎたので『節税』の慰安旅行へ! 雪山の元魔族将軍と意気投合しました。
「アカン……アカンでコトネはん! このままやと、ゴルド商会本部に持っていかれる税金がえげつないことになってまう!」
デパートの3階、私室も兼ねたバックヤードの事務所で。
ニャングルが、目にも留まらぬ速さで算盤を弾きながら悲鳴を上げていた。
ルナミス軍とアバロン魔皇国からの定期契約に加え、新しく雇った看板娘・リリスちゃんの活躍もあり、新生『デパート・コトネ』の売上は右肩上がりを突き抜けていた。
「税金、ですか? でも、たくさん儲かっているなら別にいいのでは?」
「アホ抜かせ! 払わんでええ金を持っていかれるほど、商人の心臓を抉るもんはあらへん! ここは一つ、ドカンと『経費』を使ろて、利益を圧縮(節税)せなアカン!」
ニャングルはバンッと机を叩き、一枚のパンフレットを突き出した。
「っちゅうわけで、社員の『慰安旅行』に行くで! 目的地は、ポポロ山に新しくできたスキー場&温泉リゾートや!」
「慰安旅行……!」
その響きに、私はパッと顔を輝かせた。
前世の社畜時代、慰安旅行といえば「幹事の押し付け合い」や「上司のお酌係」という名の地獄の延長戦だった。
でも、今の私の職場は違う。気心の知れた最高の仲間たちと行く旅行だ。テンションが上がらないわけがない。
「わぁっ! スキー場! 雪遊びして、美味しいもの食べられるの!?」
休憩中のリリスちゃんが、目を星のように輝かせて飛びついてきた。
「温泉、いいな。最近フライパン振りすぎて肩が凝ってたんだよな」
ソファでサケスキーの陽薬茶割りを飲んでいたジークも、満更ではない様子だ。
「よし、決まりね! みんなでリフレッシュして、また明日からの営業に備えましょう!」
私は力強く頷き、デパートの店長として初の『社員慰安旅行』を決定したのだった。
* * *
数時間後。
私たちはポポロ村の裏手にそびえる、ポポロ山の中腹へと到着していた。
山頂付近は一年中雪に覆われており、冷たい風が吹き荒れる銀白の世界だ。
「うぅ〜、さっむーい! ジャージじゃ凍えちゃうよぉ!」
「リリスちゃん、これを着て! 発動――【デパート】、婦人服フロア、高級ダウンジャケット!」
私はガタガタ震えるリリスちゃんに、デパートから取り出した超高機能のダウンジャケットとマフラー、手袋のセットを着せかけた。
風を完全に遮断し、体温を逃がさない現代の防寒技術。
ジークとニャングルにも紳士物のコートとスノーブーツを渡し、私たち一行は完全防備でスキー場へと足を踏み入れた。
「ようこそ、ポポロ山スキーリゾートへ。……あら、貴方たちが『デパート・コトネ』の皆様ね。ルーベンスから話は聞いているわ」
雪山をくり抜いて作られたオシャレなログハウスの前で、私たちを出迎えてくれた人物。
それは、目を見張るような超絶美人だった。
艶やかな銀髪に、雪のように白い肌。耳が少し尖っていることから、彼女が魔族であることがわかる。
しかし、その美貌に反して、彼女の服装はタローマン(ホームセンター)で売られているような分厚い『ガテン系オーバーオール』と、首に巻かれた実用的なタオルという、完全なる『開拓DIY女子』の出で立ちだった。
「初めまして。コトネ・シュクルです。貴女がこのスキー場の管理人さんですか?」
「ええ。私の名前はスアイよ。……元・アバロン魔皇国の『氷魔将軍』をやっていたわ」
「ひょ、氷魔将軍!? 魔王軍の最高幹部やないか!」
ニャングルが尻尾の毛を逆立てて後ずさった。
しかし、スアイさんはどこか気怠げに、だが晴れやかな笑顔で笑った。
「安心して。もう軍は退職したから。……あんなセクハラブラック職場、二度と戻るもんですか」
「セクハラ、ですか?」
「そうよ! 聞いてくれる!?」
スアイさんは、まるで女子会のノリで愚痴をこぼし始めた。
「私、氷を操る魔法が得意なのに、軍から支給された制服が『ビキニアーマー』だったのよ!? 雪山での作戦なのに、お腹と太もも丸出しよ? 『読者(ゴッドチューブの視聴者)へのサービスだ』とか意味不明な理由で! 冗談じゃないわ。意味のない露出はエロスじゃないし、ただのセクハラよ!」
「うわぁ……それはひどいですね。完全に上層部のパワハラとセクハラのコンボじゃないですか」
前世で理不尽な上司に苦労させられた私は、深く深く頷いた。
「でしょ!? だから私、辞表叩きつけてやったの。自分で自分の居場所を作ってやるって決めて、ポポロ山を開拓してこのスキー場を作ったのよ。今はタローマンの作業服を着て、サウナに入って、自分で育てた野菜を食べる毎日……最高に幸せよ!」
スアイさんの表情は、誇りと自信に満ち溢れていた。
魔王軍という巨大な組織に依存せず、自分の力と技術(氷魔法)で新たなビジネスを立ち上げ、自由を勝ち取った自立した女性。
「スアイさん、すごくかっこいいです! 実は私も、理不尽に婚約破棄されて辺境に追放された身なんです。でも、今は自分のデパートを開いて、楽しく生きているんですよ」
「あら! 貴女もクソみたいな男(環境)から自立したのね! 気が合いそうじゃない!」
「はいっ! よろしくお願いします、スアイさん!」
私たちはガッチリと熱い握手を交わした。
組織の理不尽を跳ね除け、我が道を行く女性同士のシスターフッド(連帯感)が、雪山で熱く燃え上がった瞬間だった。
「……なんか、女同士で盛り上がっとるな。ワイら、完全に空気やで」
「いいじゃねぇか。社長が楽しそうなら、それが一番だ」
ジークが、私の様子を見ながらフッと優しく微笑んだ。
彼はログハウスの横に積まれていた薪の束を見つけると、無言でスアイさんの斧を手に取った。
「おい、管理人。薪割りくらい俺がやっておく。社長たちが女子会(話し合い)をしてる間、冷えないように暖炉の準備でもしといてやるよ」
「あら、気が利く男ね。助かるわ」
パァンッ、パァンッ。
ジークが片手で軽く斧を振るうだけで、硬い丸太が恐ろしいほどの正確さで等分に割られていく。
リリスちゃんとニャングルの重い荷物も、彼がヒョイと担いでロッジの中に運んでくれた。
「ジークさん、ありがとうございます。でも、慰安旅行なんだからジークさんも休んでくださいね?」
「俺は、お前が笑って美味い飯を作ってくれるなら、それで十分休まってるよ。今日は男手は全部俺に任せて、お前はゆっくりしてろ」
そう言って、ジークは私の頭をポンッと軽く撫でた。
大きな手から伝わる、安心感と温もり。
そのぶっきらぼうだけど絶対的な優しさに、私の胸の奥がキュンと甘く鳴った。
「……もう、ジークさんってば、たまにそういうこと言うんだから」
私は少し赤くなった頬をマフラーで隠しながら、スアイさんの案内でロッジへと足を踏み入れた。
「さぁ、荷物を置いたら、このポポロ山の名物『マサカ茸狩り』に行きましょう! 今が旬の、極上のキノコよ!」
スアイさんが自信満々に告げる。
美味しいキノコ! それはパティシエ(兼デパート店長)として、ぜひとも味わっておきたい食材だ。
だが、この『マサカ茸』が、私たちに前代未聞のシュールな事件(?)を巻き起こすことになるとは、この時の私はまだ知る由もなかったのである。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
第2章の第2話、節税対策の慰安旅行へ出発です!
元氷魔将軍のスアイさんが登場。理不尽なセクハラ(ビキニアーマー)を拒否し、自立してスキー場を開拓する農業・DIY女子!
クソ王子に婚約破棄されたコトネと、自立した女性同士の熱い意気投合が描かれました。
そして、ジークのさりげない気遣いと頭ポンポン……無双するだけじゃない、B型ヒーローの絶対的な安心感にコトネも読者もキュンとしていただけたら嬉しいです。
次回、いよいよポポロ山の名物『マサカ茸狩り』へ!
しかしこのキノコ、食べると推理力が当社比0.5倍増しになった「気がする」という厄介な代物。
犯人も死体もないのに、ジークとリリスが名探偵気取りで迷推理を始める!?
シュールなギャグ回、第3話をお楽しみに!
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