第二章 『慰安旅行と雪山のミステリー(物理)。最強護衛と過ごす、最高に安心なホワイト企業ライフ!』
見習い女神の無銭飲食!? デパ地下パフェの代金は、住み込みバイトで返していただきます。
地下のドン、オロチ会長との特大提携により、私のユニークスキル【デパート】は劇的な進化を遂げた。
平屋だった店舗は、見上げるほど立派な『地上3階建て』の近代的なデパートへと生まれ変わり、連日、三国同盟軍の兵士たちやポポロ村の住民で大賑わいを見せている。
1階は色とりどりの惣菜やスイーツが並ぶ食品フロア。2階はタローマン製の作業着から高級ブランドまでを揃えた服飾・雑貨フロア。
そして3階は、開放的なテラス席と屋上庭園を備えた『フードコート&レストラン街』だ。
今日の私は、3階のフードコートで、新作スイーツの提供に追われていた。
「んん〜〜っ! 美味しい〜〜っ! 生きててよかったぁぁぁっ!」
テラスの特等席から、幸せを絵に描いたような声が響き渡る。
声の主は、ピンク色の初心者マーク入りジャージを着た、天界からの常連客――見習い女神のリリスちゃんだ。
彼女の目の前には、私が丹精込めて作った季節限定の『あまおう特大苺パフェ』の空のグラスが置かれている。
大粒で甘い博多あまおうを贅沢に使い、濃厚な純生クリームとバニラアイス、サクサクのミルフィーユパイを何層にも重ねた、当デパートが誇る原価ギリギリの至高のパフェである。
「ぷはぁっ、ごちそうさまでした! コトネお姉ちゃんのパフェ、最高だよ! 天界の『緑の絶望(極苦青汁)』なんて、もう一生飲めないもん!」
「ふふっ、お粗末様でした。リリスちゃん、本当に美味しそうに食べてくれるから作り甲斐があるわ」
私が空いたグラスを下げようとした、その時だった。
「毎度おおきに! リリスはん、本日のお会計はパフェ三個と特製オムライスで、しめて金貨五枚になりまっせ!」
どこからともなく、うちの財務担当・ニャングルが算盤を弾きながら現れた。
相変わらず金貨の匂いにはマッハで駆けつける守銭奴である。
「はーい! カードでお願いしまーす!」
リリスちゃんはニコニコ顔で、ハードケースに入った『エンジェルすまーとふぉん』をニャングルの決済端末にかざした。
いつもなら、ここでチャリン♪と軽快な音が鳴るはずなのだが。
――ブッブー。
『エラー:限度額を超過しています』
無機質な電子音が鳴り響き、端末の画面に赤い文字が点滅した。
「……あれ?」
「ん? リリスはん、このカード、利用停止になっとるで」
「えっ、うそ!? だってこのカード、ルチアナ先輩のカード(限度額100万円)で、まだ今月少し残枠があったはず……!」
リリスちゃんが慌てて自分のスマホの明細画面を確認する。
そこには、昨日の深夜に『朝倉月人ライブ・最前列VIPチケット(10万円)』『限定推し活グッズ一式(5万円)』『深夜のラーメン爆食い(3千円)』という、どう見てもルチアナ先輩(永遠の17歳・限界オタク女神)による私的利用の履歴がズラリと並び、残高が見事に『0』になっていた。
「る、ルチアナ先輩のバカァァァァッ!! 自分の推し活で予算全部溶かしてるぅぅぅっ!!」
「……っちゅうことは、アンタ今、一文無しやな?」
ニャングルの猫耳がピクリと動き、その目が獲物を見つけた捕食者のように細められた。
「リリスはん。当店はツケ払いはお断りや。無銭飲食は立派な犯罪やで。金が払えへんっちゅうなら……しゃあないな。シーラン国の『マグローザ漁船』に連絡して、アンタの身柄を――」
「いやぁぁぁぁっ! マグローザ漁船だけは嫌ぁぁぁっ! チンチロリンで一生海の上なんて嫌だぁぁぁっ!」
リリスちゃんは顔面蒼白になり、私のエプロンにしがみついて大号泣し始めた。
「こ、コトネお姉ちゃん! 助けてぇぇっ! 私、パフェ我慢できなくて……うぅっ、どうしようぅぅっ!」
頭の上の光の輪が、絶望で真っ黒に点滅している。
このままでは、見習い女神が借金苦で漁船送りにされてしまう。
ニャングルの容赦のなさは、第一王子たちを破滅させた時に実証済みだ。
「おいおい、騒がしいな。……社長、こいつ海に放り込んでくるか?」
騒ぎを聞きつけたジークが、おやつのフランスパンをかじりながら気怠げに歩いてきた。
相変わらずのマイペースだが、いざとなれば本当にフライパン一本で女神を海までかっ飛ばしかねない。
「待って、ニャングルさん、ジークさん。……リリスちゃん、泣かないで。大丈夫よ」
私はしゃがみ込み、リリスちゃんの涙をハンカチで優しく拭ってあげた。
「無銭飲食はもちろんダメ。でも、お金がないなら、働いて返せばいいのよ」
「え……は、はたらく……?」
「そう。当店『デパート・コトネ』は、ただいま業務拡大につき、優秀なスタッフを募集しています。リリスちゃん、うちで住み込みのアルバイトをしてみない?」
前世の私は、デパ地下でパティシエをしながら、店舗の店長としてマネジメントも兼任していた。
ポンコツでドジなアルバイトの子なんて、腐るほど見てきたし、育ててきた。
大事なのは、その子の『強み』を見抜き、適材適所に配置することだ。
「リリスちゃんは、食べるのが大好きで、いつも美味しそうに笑顔で食べてくれるでしょ? その笑顔は、最高の『接客スキル』になるわ。それに、このデパートには美味しい賄い(まかない)も付いてるわよ?」
「ま、まかない……! パフェも、お弁当も、食べられるの……?」
「お仕事の頑張り次第ではね」
賄い、という言葉を聞いた瞬間。
リリスちゃんの頭上の輪が、ピッカーン!と眩いばかりの純白の輝きを取り戻した。
「や、やりますっ! 私、一生懸命働くもん! お姉ちゃんのお店で、立派な店員さんになる!」
「コトネはん、正気か!? こんなドジっ子、絶対皿とか割るで!」
「大丈夫。割れ物はお任せしないし、最初は試食販売と、笑顔でのご案内係からスタートするから。それに、彼女は一応『女神様』よ? 看板娘として、これ以上の箔はないわ」
私の計算高い言葉に、ニャングルは「なるほど、神様がおるデパート……客寄せパンダとしては最高やな」と算盤を弾き、納得したようにニヤリと笑った。
「よし、じゃあ早速お着替えね。発動――【デパート】、従業員用制服!」
私がスキルを発動すると、ピンクのジャージから、可愛らしいフリルのついたデパートの制服(エプロン付き)へと、リリスちゃんの服が一瞬で切り替わった。
「わぁっ! 可愛いっ! 私、立派な店員さんみたい!」
「ええ、とっても似合ってるわ。じゃあ、まずは入り口でお客様に『いらっしゃいませ』の笑顔の練習からね!」
リリスちゃんは「はいっ!」と元気よく返事をし、タタタッと1階へと走っていった。
少しドジでも、あの子の笑顔と素直さは、絶対にうちのデパートの宝になる。私は前世の店長としての勘で、そう確信していた。
「……社長。お前、ほんとホワイト企業だな」
ジークが、私の隣でコーヒーをすすりながらボソリとこぼした。
「マグローザ漁船に売り飛ばす守銭奴と違って、失敗した奴にも居場所とメシを用意してやるんだからな」
「うちはお客様も従業員も宝ですから! それに、美味しいものを食べさせれば、人は誰だって立派に働けるようになるんですよ」
私が胸を張って答えると、ジークは「違いねぇ」と少しだけ口角を上げた。
「俺も、お前のメシがあるから、こうして護衛(用心棒)をやってるわけだしな。……ま、新人がヘマしたら、俺がフォローしてやるよ」
面倒くさがりでぶっきらぼうな彼だが、その言葉には絶対的な『安心感』があった。
理不尽に婚約破棄され、辺境に追放された私。
でも今は、頼りになる(ちょっとクセの強すぎる)仲間たちと、私だけの『デパート』がある。
前世の社畜スキルをフル活用して、この異世界を最高に美味しいホワイト企業に変えてみせる。
「さぁ、今日も元気に営業開始よ!」
こうして、見習い女神を新たなスタッフに迎えた新生『デパート・コトネ』の、ドタバタで幸せな第2章の幕が上がったのである。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
ここからいよいよ第2章のスタートです!
第1話、いきなり見習い女神リリスがルチアナの推し活の巻き添えで無銭飲食(残高ゼロ)のピンチに!
ニャングルのマグローザ漁船(強制労働)の脅しに対し、コトネが前世の店長スキルを発動して見事なホワイト雇用で解決しました!
ポンコツでも強みを活かす、コトネの自立したカッコよさと、ジークのさりげない優しさ(安心感)を感じていただけたら嬉しいです。
次回、儲かりすぎたデパート一行は、節税対策として『社員の慰安旅行』へ!?
向かうはポポロ山のスキー場。そこで待っていたのは、ビキニアーマーを脱ぎ捨てたあの元魔族将軍で……!?
第2話もお楽しみに!
【読者の皆様へのお願い】
「コトネ店長かっこいい!」「ルチアナ先輩ひどすぎるw」「ホワイト企業バンザイ!」と思っていただけましたら、
ぜひ画面下部の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』にタップして、コトネたちを応援してください!
皆様の評価ポイントが、作者の最大のモチベーションになります!
【ブックマーク登録】も、ぜひぜひよろしくお願いいたします!




