【ざまぁ開始②】最強護衛ジークの『フライパン無双』。金と装備を剥がされた勇者など、ただの案山子です。
【ざまぁ開始②】最強護衛ジークの『フライパン無双』。金と装備を剥がされた勇者など、ただの案山子です。
「うおおおおおおおおっ! 俺の金! 俺のステータス! 全部返せぇぇぇぇっ!!」
課金切れによって【レベル1】の初期ステータスに戻ってしまった勇者ゼロスが、血走った目で突進してくる。
だが、その動きはあまりにも滑稽だった。
レベル1の貧弱な筋力に対して、彼が着込んでいるのは『聖なる重鎧』。そして手に持つのは、切れ味だけは本物の重厚な『課金アイテムの聖剣』である。
あまりの重さに足はもつれ、剣の切っ先は地面をガリガリと引きずり、突進というよりは『這いずり回るカエル』のような無様な前進だった。
「死ね! 死ねぇぇっ! 俺は炎上神ワイズ様に選ばれた勇者だぞ! 貴様らのような下等な商人など、この聖剣で八つ裂きにして――」
――カキィィィィィィンッ!!
ゼロスが渾身の力を振り絞って放った聖剣の凶刃は、私の目の前で、呆気なく受け止められた。
ジークが片手で構えた『デパートの高級テフロン加工フライパン』の底面によって。
「な、なんだとォッ!?」
ゼロスが目玉が飛び出んばかりに驚愕する。
「ば、馬鹿な! この聖剣は、いかなる物質をも両断する超激レアアイテムだぞ! それが、なぜただの調理器具に弾かれる!?」
「当たり前でしょ。それはただの調理器具じゃありません。当デパートが誇る、最高品質の『焦げ付かない・傷つかない・超耐久テフロン加工フライパン』ですから!」
「そういう問題じゃねぇよ社長。俺が『闘気』でコーティングしてるからだ」
私がデパートの商品PRを挟むと、ジークが呆れたようにツッコミを入れた。
見れば、ジークの持つフライパンは、眩いばかりの黄金のオーラ(闘気)に包まれている。
「くそっ、くそぉぉぉっ!!」
ゼロスは半狂乱になりながら、何度も何度も聖剣を振り下ろす。
しかし、ジークは欠伸を噛み殺しながら、まるでハエでも追い払うかのように、フライパンでひらりひらりと剣撃を捌いていく。
カンッ、キンッ、コンッ。
軽快な金属音が広場に響く。ゼロスは息も絶え絶えになり、滝のような汗を流していた。
「ハァ……ハァ……ッ! なぜだ! 俺の剣筋が見えるのか!? 俺は剣術スキルもMAXまで課金で引き上げていたはず――」
「見え見えだっつーの。お前の剣には、殺気も、重心の移動も、実戦の勘も何一つねぇ。ただの『素人の棒振り』だ」
ジークは冷たい三白眼で、ゼロスを見下ろした。
「お前さ。自動車学校に通わないで、フェラーリを運転してどうするんだ?」
「……は?」
「レベル1の中身の空っぽな奴が、課金でレベル100のステータスを手に入れたところで、その力と速度を脳と肉体が制御できるわけないだろ。今までお前が勝ててたのは、ただ『圧倒的な数値』で相手を轢き殺してただけだ」
ジークは、ゆっくりとフライパンを肩に担ぎ直した。
「一体お前は、そのピカピカの装備と金を全部剥がされたら、あとに何が残るんだ?」
「だ、黙れ……! 黙れ黙れ黙れェェェッ!」
図星を突かれたゼロスが、屈辱に顔を歪ませて特大の上段斬りを放つ。
しかし、ジークは一歩も退かない。
「終わりだ。俺のおやつの時間を邪魔すんじゃねぇ」
――ブゥゥゥンッ!!
ジークの腕がブレた。
黄金の闘気を極限まで圧縮したフライパンが、大気を切り裂きながら、野球のフルスイングのごとき軌道でゼロスめがけて横薙ぎに振り抜かれる。
ガガァァァァァァァァァァンッッ!!!!
ゼロスの顔面(フルフェイスの兜越し)に、フライパンの平底がクリーンヒットした。
その瞬間、超高額なはずの聖なる兜が粉々に砕け散り、ゼロスの体はゴム鞠のように吹っ飛んだ。
地面を何度もバウンドし、後ろで腰を抜かしていた第一王子レオンハルトに激突。二人まとめて村の外壁まで数十メートルも吹き飛ばされ、白目を剥いて完全に沈黙した。
「ふぅ。フルスイング完了。……社長、フライパン無事だわ」
「さすがテフロン加工ですね! 焦げ付きも凹みもありません!」
「ワイの経済制裁の後に、ジークはんの暴力。これぞ究極の『ざまぁ』のフルコースやな。あーすっきりした」
ニャングルがキセルをふかしながら、ゲラゲラと笑った。
* * *
その頃。天界(神々の管理空間)では。
『ふざけるなァァァァァァッ!!』
炎上神ワイズが、自身の管理するモニタールームで、エンジェルすまーとふぉんを床に叩きつけて絶叫していた。
彼が企てた『ポポロ村焼き討ち・悪徳商人成敗のヤラセ配信』。
だが、ゴッドチューブに映し出されたのは、勇者ゼロスのあまりにも無様すぎる敗北だった。
課金切れで這いつくばり、説教され、挙句の果てに『フライパン』でホームランを打たれる自称勇者。
――【コメント欄】――
[フライパンに負ける勇者ワロタwwww]
[神の加護(笑)課金切れ(笑)]
[レベル1フェラーリおじさんダサすぎるww]
[ポポロ村の剣士強すぎだろ! スパチャ投げとくわ!]
ワイズの意図とは完全に裏腹に、ポポロ村への称賛とスパチャが嵐のように飛び交い、逆にワイズとゼロスは『ゴッドチューブ史上最大の笑い者』として大炎上していたのである。
『あーっはっはっはっ! ウケる! 最高!! 見てよワイズ君、君の勇者、フライパンの底のマークが顔にくっきりスタンプされてるじゃない!』
そこへ、缶ビールとおつまみの『ポポロシガー』を手にした女神ルチアナと魔王ラスティアが、腹を抱えて爆笑しながら乱入してきた。
『くそっ……! ルチアナ、お前が裏であの村にテコ入れしたんだな!?』
『人聞きの悪いこと言わないでよ。私はただの一視聴者として、最高に面白いエンタメにスパチャを投げただけだ・か・ら♡ さぁ、この動画、切り抜きにしてトップページに固定しとこっと!』
『やめろぉぉぉぉぉぉっ!!』
炎上神ワイズの悲鳴が、天界に空しく響き渡った。
* * *
ポポロ村。
完全に気絶しているゼロスとレオンハルトの足元に、ニャングルがトドメの『請求書』をそっと置いた。
「広場の舗装修理代、ならびに業務妨害の慰謝料として、お二人が乗ってきた馬と、そのピカピカの聖剣、担保として差し押さえさせてもらいまっせ」
どこまでも容赦のない守銭奴商人の宣告。
こうして、ハリボテの権力とステータスでイキり散らしていた愚か者たちは、金も名誉も身ぐるみも全て剥がされ、完全なる敗北を喫したのである。
「よし、仕事終わり!」
ジークが首をコキコキと鳴らしながら、私の方を振り返った。
「なあ社長。約束の『特上うな重』、今からでもいいか? 暴れたら無性に腹が減った」
「はい、もちろん! デパ地下老舗のうなぎ屋さんの特上、ご飯大盛りでお出ししますね!」
「最高だ」
ジークが珍しく、ふわりと機嫌の良い笑みを浮かべた。
圧倒的な『経済の暴力』と『物理の暴力』。
この最強の二人と、私の【デパート】があれば、この辺境の村は世界で一番安全で、世界で一番美味しい場所になる。
私は確かな手応えを感じながら、特上うな重の準備のために厨房へと向かったのだった。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
第12話、【ざまぁ開始②】フライパン無双完結です!
「自動車学校に通わないでフェラーリを運転してどうするんだ?」
ジークのド正論な説教からの、テフロン加工フライパンによるフルスイング・ホームラン!
天界のゴッドチューブでもワイズが大炎上し、ルチアナたちが爆笑する最高の結末を迎えました。
これで元婚約者と炎上勇者の脅威は、文字通り『塵』となりました。
次回、騒ぎを聞きつけた各国の軍隊(デパートの常連客たち)が、「俺たちの飯の邪魔をするな!」と完全武装で駆けつけてきます。
しかし、すでに事態は終わっていて……?
デパート親衛隊(三国同盟軍)が結成される第13話をお楽しみに!
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