噂を聞きつけた愚か者たち。「あの地味女の富を奪え!」――元婚約者と炎上勇者、自ら破滅のフラグを立てに行く。
噂を聞きつけた愚か者たち。「あの地味女の富を奪え!」――元婚約者と炎上勇者、自ら破滅のフラグを立てに行く。
ルナミス帝国の王都。絢爛豪華な王城の一室で、ガチャンッ!とワイングラスが壁に叩きつけられ、砕け散る音が響いた。
「どういうことだッ!! 我がルナミス帝国軍の兵站予算の三割が、たった一つの辺境の村に流出しているだと!?」
顔を真っ赤にして怒鳴り散らしているのは、第一王子レオンハルト。
つい先日、私を「地味で無能な女」と罵り、ポポロ村へ追放した張本人である。
「は、はい……。前線の第七小隊を皮切りに、今や帝国軍のほぼ全域が『第三型レーション(ゲロオムレツ)』の受け取りを拒否。その代わりとして、ポポロ村にある『デパート・コトネ』なる商会と独自に弁当のサブスクリプション契約を結んでいる状態でして……」
「コトネだと!? あの役立たずの地味女が、巨万の富を築いているというのか!」
財務大臣の報告に、レオンハルトはギリッと歯を鳴らした。
追放したはずの女が、自分たちより遥かに美味しい思いをしている。プライドの高い彼にとって、それは許しがたい屈辱だった。
「殿下、お怒りを鎮めてください。そのような辺境の不法占拠者など、この私が直々に成敗してご覧に入れましょう」
そこへ、わざとらしいほどに爽やかな笑みを浮かべて歩み出てきた男がいた。
不自然なほど真っ白な歯(整形)を見せつけ、無駄に装飾過多な聖なる鎧を着込んだ青年。
彼の名はゼロス・ディバイン。神の啓示を受けた『勇者』として城に滞在している男だ。
本来は小柄な体格だが、重厚な鎧とマント、そして『極端な厚底ブーツ(シークレットブーツ)』で身長を誤魔化している。
「おお、勇者ゼロスよ! やってくれるか!」
「ええ。勇者たるもの、国を蝕む悪徳商人を許すわけにはいきませんからね」
ゼロスは聖人君子のような顔で頷いたが、その腹の中は底なしの強欲で満ちていた。
彼の持つユニークスキル【マネー】。
それは『課金(お金を消費)すればするほど、自身のステータスが跳ね上がる』という、とんでもないPay to Win(金こそ正義)な能力だった。
(俺のレベル100相当のステータスを維持するには、莫大な金貨が必要なんだ。ポポロ村とかいうド田舎に巨万の富があるなら、俺様が『正義の鉄槌』を下して、丸ごと没収してやるよ)
さらにゼロスは、裏で『炎上神ワイズ』と契約を結んでいた。
PV(視聴回数)を稼ぐためには手段を選ばないワイズの指示で、ゼロスは常にゴッドチューブの『配信カメラ(見えない魔導具)』を回している。
今回も「悪徳商人に虐げられる村を救う勇者!」というヤラセ配信で、莫大なスパチャと名声を得る算段だった。
「殿下も同行なさいませんか? 愚かな元婚約者に、殿下の圧倒的な権力と私の武力を見せつけ、全てを奪い取ってやりましょう」
「ふははっ、いいだろう! あの地味女め、泣いて許しを請うても遅いということを教えてやる!」
こうして、自分たちのハリボテの権威とステータスを過信した愚か者たちは、意気揚々とポポロ村へ向けた進軍を開始したのである。
* * *
一方その頃、ポポロ村の『デパート・コトネ』では。
「コトネはん! アバロン魔皇国からも弁当の追加注文や! ルーベンスはんの口コミで、魔皇国の幹部連中が『ウチにもあの餃子とビールを出せ』って騒いどるらしいで!」
「はーい、今作りますね! ジークさん、少し厨房を手伝ってくれますか?」
「えー。俺、今からおやつの時間なんだけど。……まぁいいや、今日の夕飯を『特上うな重』にしてくれるなら手伝う」
「交渉成立です!」
私たちは今日も今日とて、平和で大忙しなデパート経営を満喫していた。
デパ地下の食品とポポロ村の新鮮な野菜のコラボレーションは、三国同盟軍の胃袋を完全に掌握し、ニャングルの手元には毎日笑いが止まらないほどの金貨が転がり込んでいる。
そこへ、慌ただしい蹄の音を響かせて、自警団長のマンミアさんが飛び込んできた。
「コトネ殿、大変だ! 王都の方角から、ルナミス帝国の近衛騎士団が村に向かってきている! 先頭にいるのは第一王子レオンハルトと、勇者ゼロスだ!」
「えっ、レオンハルト殿下が?」
予想外の名前に、私は手を止めた。
私を「無能」と見下して追放した人が、一体何の用だろう。
「コトネ殿、彼らは武装している! 何か因縁をつけてこの店を潰す気かもしれない。私が自警団を率いて迎撃を――」
「いや、待てマンミアはん」
ニャングルが、パタンと算盤を閉じて立ち上がった。
その口元には、悪魔すら青ざめるような、極悪非道な商人の笑みが浮かんでいる。
「向こうからわざわざ飛んで火に入る夏の虫や。ここで武力で追い返したら『反逆罪』に問われるかもしれん。ここは一つ、ワイの『法と経済のフルコース』で、骨の髄までしゃぶり尽くしたろやないか」
「にゃ、ニャングルさん……顔が怖いですよ」
「へへっ、任せとき。コトネはんの店は、ワイの命に代えても守るさかい」
ニャングルはそう言うと、ドンガン地下帝国や魔皇国のルーベンスさんと交わした『分厚い契約書の束』を懐に忍ばせた。
ズシン、ズシン、ズシン。
やがて、店の前の広場に、重装甲の近衛騎士団が整列した。
その中央から、白馬に跨ったレオンハルトと、無駄にピカピカ光る鎧を着た勇者ゼロスが進み出てくる。
「コトネ! いるのは分かっている、出てこい!」
レオンハルトの傲慢な声が響く。
私が店から姿を現すと、彼は鼻で笑いながら見下ろしてきた。
「ふん。こんな辺境で小汚い商売を始めていると聞いたが……生意気にも軍の予算をかすめ取っているそうだな。国家反逆罪に問われる前に、その店と売上、そして仕入れのルートを全てこの国に献上しろ!」
「そ、そんな無茶苦茶な……! このお店は、私が正当に――」
「黙れ! 貴様のような無能な女に権利などない! 大人しく差し出せば、命だけは助けてやろう」
レオンハルトの横で、勇者ゼロスが厚底ブーツを鳴らして前に出た。
彼はどこか虚空(配信カメラの方向)をチラチラと意識しながら、わざとらしい大声で演説を始める。
「哀れな悪徳商人よ! この勇者ゼロスが、神に代わって貴女の悪行を裁きましょう! 私には『炎上神ワイズ』様の加護と、レベル100を凌駕する圧倒的なステータスがある! 逆らえば、貴女の後ろにいるその薄汚い獣人ごと、一捻りで塵にしますよ!」
ゼロスが腰の聖剣(※課金アイテム)をチャキッと鳴らす。
しかし、その言葉を聞いた瞬間。
――ピキッ。
私の後ろのテラス席で、何かがキレる音がした。
「……おい、厚底ブーツ」
ドゴォォォォォォォンッ!!!
突如、広場全体を押し潰すような、規格外の重力と殺気が吹き荒れた。
近衛騎士たちの乗る馬が泡を吹いて倒れ、レオンハルトが「ひぃっ!?」と情けない悲鳴を上げる。
殺気の中心から、ゆっくりと立ち上がったのはジークだった。
彼はデパートの『高級テフロン加工フライパン』を片手に持ち、三白眼の瞳に絶対零度の怒りを宿して、ゼロスを睨み据えていた。
「今、社長と……うちの『身内』をバカにしたか?」
「ひっ……な、なんだこの尋常じゃない威圧感は……!?」
ゼロスの顔から、余裕の笑みが完全に引きつり落ちた。
――さぁ、ショータイムの始まりだ。
ハリボテの権力とステータスを笠に着る愚か者たちへ。
うちの『守銭奴』と『最強の番犬』が、最高のおもてなし(ざまぁ)を提供させていただきます!
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
第10話、ついにざまぁの標的である元婚約者と炎上勇者がポポロ村にやってきました!
ハリボテの権力と課金ステータスでイキり散らす二人に対し、ニャングルは極悪な笑みを浮かべて『法務トラップ』を準備し、ジークは身内を侮辱されて静かにブチギレ(フライパン装備)!
自ら破滅のフラグをへし折られに来た愚か者たち。次回の反撃が待ちきれません!
【次回予告】
第11話『【ざまぁ開始①】ニャングルの法務・経済制裁。合法的に敵の資金源を完全凍結させてみた』
圧倒的な法の暴力にご期待ください!
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