6.初仕事
風呂上がり、早速初めての仕事にとりかかった。責任は重大だ。手のひらがわずかに緊張している。
アオさんの髪をドライヤーで乾かすと言う任務だ。
熱風と櫛で髪をとかしていく。
染めているのだろう、どことなく青のニュアンスがかかっていて。ぱっとみは黒髪にしか見えないのに、窓から差し込む太陽光が、深海色を反射させるのだ。
櫛なんていらないくらいサラサラで、ツヤツヤで。おろしたての絹糸みたい。撫でたくなる衝動をぐっと堪える。
「なんでこんなに綺麗なんですか」
「ほれ、秘密兵器」
アイテムポーチから小瓶が取り出された。商店に並べられていたら、ふと歩みを止めて眺めたくなるくらいピカピカな、不思議な意匠が凝らされた小瓶。
オリーブ色の液体を手のひらに注ぐ。
「あ、この匂い……」
ベスパに乗っていたときにも感じた、深緑の香り。僕の好きな香り。
「古代ゴーレムからごくわずかだけ抽出される特別な油で、髪やお肌に塗れば効果はテキメンなのさ」
つまりヘアオイル兼化粧水?
油を髪に馴染ませていく。異世界にはゴーレムがいるのだという驚きよりも、宝石の如く毛先のキラキラにまず目を見張った。
「そんなに見つめちゃって、この髪ほしいの? いいよ、一房あげる。そろそろ伸びてきた頃合いだし」
「……。塗り終わりましたよ」
「ふふ、否定しないんだ」
うぅ、からかうなぁ。
「今後の予定だけれど、ひなた君には早速、モンスターの討伐をお願いしてみようかな」
心臓をなぞられたみたく、ドキッと血圧が上下した。
「アオさんは僕を買い被っています。こちとらただの子供だ。モンスターを倒す技量も、知識も、根性もあるはずがない。みてよこの手! 今朝なんてすっ転んでずる剥け!」
「それを決めるのは自認でなく、あくまで歴然の結果さ。単独でゴブリンを討伐し、ボクの殺意にめざとく反撃し、さらには己の生死さえ利用してみせた。これら事実は揺らがない。あと、ボクの所有物を酷く言うのはやめてほしいな。気分が悪い。いじめるぞ?」
ぺろっと手のひらの患部を舐められた。
感触が神経系を伝い、脳みそを湯煎され、身震いした。
「ボクは自分の所有物を傷つけられるのが一等苦手なんだ。そしてボクは強い。単刀直入に言うね」
少しの間。それは深呼吸するための。覚悟を定めるための。
「ひなた君にはボクがついている。絶対守るし、絶対死なせてなんかやらない。だから、死ぬ気で働け。死ぬまで動け」
──君が壊れるその日まで、君の全てはボクの物だ。
ズキュンときた。
そんなこんなで場面転換、アオさんはお化粧をばっちり決めて、あれよあれよと山の中。
例のバス停からほど近く、とはいえ誰も寄りつかない鎮守の森。
ゴブリンだ。
それも無数に。
奴らは基本群れで動くそう。
僕はアオさんに言われるがまま彼らへ挑み、そして敗れた。
「あーあ」
どう言う状況かと言いますと──。
普通にボコボコにされて、コテンパンにのされて、今、右手を噛みちぎられています。
小指、薬指、ごっくんと。




