4.リボンを結んで
「ごく稀に、神戸からの来訪者が現実世界へ紛れ込んでしまうことがある。大抵はゴブリンやオークみたいな雑魚連中だけれど。ボクはそんなやつらを異世界へ連れ帰ったり、あるいは処理することを生業としているんだ」
アオさんは仕事のために神戸からこの田舎町へやってきたのだと教えてくれた。
「じゃ、じゃあ!?」
「うん。神戸市は無くなったわけじゃない。実はすぐそばにあるんだよ」
アオさんは手と手を合わせて。
手を取り合える距離にあって。
知り合いや親戚が神戸にいたわけではない。消えていった彼らはみな、顔も知らない赤の他人だ。けれど、それでも。
「よかったなぁ」
じんと胸が熱くなった。
仲間たちは死んじゃいなかった。
「ふふ、君、優しいんだ」
あまり感情を表に出さないアオさんの、小さな微笑み。破壊的だ、ドキンドキン!
「みんなにもそのこと、教えられたらいいのだけれど。異世界の情報は絶対に漏らしちゃいけないってのが、我が社の方針だからねぇ」
我が社? アオさんは会社員なのか?
「君を略取した理由もそこにある。めんどくさくて、放置しちゃおっかなーと思ったりもしたけれど、君の方からついてくるんだもん、仕方ないよね」
『君はもうボクのものだ』
「ちょうど一人くらい、下僕が欲しかったところだし」
なんてことないみたいに、とんでもないことをさらりとのたまってから。
ビリビリするぜ。
「んー? そういえばボク、君の名前知らないなー。教えてもらわなくちゃ」
異世界の話はもうお終い。そう言わんばかりにアオさんはのそりと立ち上がった。
「さぁ立って! ボク、自己紹介はお互い裸でってきめているんだ」
ん?
「え?」
「一緒にお風呂、はいろ?」
いやいやいやいや。
状況が見えない。この人は何を言っているのだ?
「血で汚れているし、一石二鳥」
ゴブリン級の困惑が頭ん中でダーンス!
「僕、チビだけれど、もう小6ですよ?」
「だから?」
身の内をまさぐる鋭いジト目。
綺麗なその顔で見つめないでおくれ。
「いや、その……」
「あっは、赤くなってる。初なぁ〜」
むしろあなたに羞恥心はないのですか?
あまりにもガキっぽいから平気なの?
こちらを見くだすのは勝手だが、それでも僕は男だ。こんなにも綺麗なお姉さんと、一緒にお風呂だなんてとんでもない。
嬉しさよりも、恥ずかしさのほうが万倍だ。
「じゃ、先に見せてあげる。ボクの公然の秘密を」
ワンピースの裾をつまみ上げて。
カーテシーのように。
お姫様がご挨拶するみたく美しい動作で。
「ほら、ボクの恥ずかしがり屋さん。見せられるようなモノじゃないけれど」
──アオさんは恥部を曝け出した。
「は──」
時が止まった。
理解するのにしばらく要した。
アオさんは下着を履いていなかったのだ。それどころか。
──リボンが結ってあった。
結べててしまっていた。
「ボクは男だよ」
「は」
タップダンス中のゴブリンが、ブレーキンしはじめた。
「だからボク達、一緒にお風呂、入れちゃう」
「へ、変態だぁぁぁぁ!!!!」
僕はどうやら、超ド級の不審者に誘拐されてしまったらしい。
青染アオ。
彼女、いや。
彼は様子がおかしい。




