27.狂気相愛
「やめじゃやめ、こたびの戦争はわしの負けじゃ」
首だけになっても復活してみせた鬼ヤンマの再生能力に目を見張る一方。彼は清々しく敗北を宣言した。
首から再生したので服は着ておらず全裸。
その状態で両手を挙げるものだから、美しすぎる降伏動作だ。
もはや降伏し慣れている。
戦争に負け慣れている。
悲しいよご先祖様……。
「くそぅ、間に合わなかった。木洩日ひなただけならいざしらず、生石刹那と青染アオにも知られてしもうた」
「お前の弱点が、『ヨロ嬢』だってことにな」
生石は自慢気に訳知り顔。
逆に僕といえば、推理したくせにまだよくわかっていないのが実情だ。間抜けな話である。
生石は僕の頭を撫でてくれるが、あまり納得していない。
「わしの自分ルールは『二十億鼓動』。人魚に近ければ近いほど、再生能力があがるというものじゃ」
だから現世では使えなかった。
「神は『現代的石炭紀』の世界におる。つまり神戸では扱えんはずじゃし、ヨロズもその認識だったのだろう」
「でも使えた」
アオさんの相槌に首肯を返すヤンマ。
「わし自身もずっと不思議に思うとった」
なのでヨロズさんは、ヤンマに異能は無いとした。
「まさか、わしの異能がヨロズの『鼓動』に反応しよったとわ。あの子は神の血が濃すぎる、そのようなバグも起こりえよう」
ヨロズさんは近親相姦を繰り返すうちにできた子だと教えてもらえた。言葉の意味はよくわからないが、なんだか気持ちの悪い話だなと思った。
「にしても木洩日ひなた、よくヨロズとの因果関係がわかったな」
「えっへん」
僕はしたり顔で先の名推理を披露した。
「なんじゃそりゃ。ほぼ山勘ではないか」
「それでええ。キッカケくれただけで大手柄や。おかげで真相を知れた」
生石がまたもや撫でてくれる。
僕は犬か何かか? 嬉しいが。
「君たちの力には神の『生き血』が必要なんでしょ。生き血、つまり死んでしまって効力が消える」
ヨロズさんの鼓動がトリガーであるのなら、ヨロズさんが死んでしまっては使えない。
弱点に気づかれてしまうと、彼は無闇に敵対できなくなる。
愛しのひ孫の命に手がかかってしまうからだ。
「わしの敗北条件は、異能の詳細を知られてしまうこと。万が一お前たちがヨロズを人質にとったり、危害を加えるようなことがあれば、わしは手も足も出せん」
むかつくなぁ、そんなことするわけないじゃん。
「戦闘スタイルも不自然やった。俺が集めた情報によると、お前は極端に敗北を嫌い。大怪我や命の危険が発生する状況をとことん忌避しとったハズや」
負けの判断が早い人だなと、バトルを通して実感している。
「証拠に情報通のヨロ嬢が、お前の異能力を知らなんだ。そんなことが可能なわけない。お前は不死身のくせに、今まで一度も『死んだことがなかった』んやろ。このバケモンが」
今回ヤンマの首を落とせたのは、素晴らしい首級であり。よほどのイレギュラーだったわけですね。
「やのにお前は部隊も連れて来ず、入念な下準備もせんかった。単身敵の本丸へ突っ込んできた。あまつさえ大怪我を負いながら攻め続けた。不自然すぎる。考えればすぐに分かるとや、ヨロ嬢という弱点に気づけへんかったんは俺の落ち度やな。すまん」
「刹那君はヤンマ君とのバトルが楽しすぎて、それどころじゃなかったもんねー」
バトル中の生石はどうみてもウキウキだった。痛いところを突かれたって顔をしている。
「仲間はつれてこんさ。わしは友にすら異能の詳細を伏せてある」
「どうして?」
僕の質問に対し、三人が『だからお前は間抜けなんだ』という顔をして来た。
えぇ…….。
「大好きなヨロズに、危害が及んでしまうからじゃ」
あぁ、なるほど。
ヤンマは一人でこの世界にやって来た。ヨロズさんを残して。
彼女が神戸へ来たのは、彼女自身の意思だ。
『ヤンマは自分よりも戦争を選んだ』と、ヨロズさんは言っていたけれど。
でも言い換えれば、ヨロズさんを捨てることで、戦争から切り離したとも考えられるのでは。
「わしは生きているだけで周囲を不幸にする。娘も、孫も、みんな死んでしもうた。あんな思いは二度とゴメンじゃ。異世界に行けると知ったとき、ようやくヨロズから、わしという危機を遠ざけられると思ったのじゃ」
ヨロズさんのことを愛している。
それはそれとして、戦争を楽しむ狂気も持ち合わせている。
怖い人という印象から、歪で悲しい老人だというイメージが生まれた。
「よけいなお世話だよ」
そんなヤンマに声をかけたのは、僕たちの戦いをずっと見守っていた、ヨロズさん当人だった。
「ヨロズ……」
バチンと、鋭い平手の音が夜空にこだました。
「ばか。ひいじいのばか。勝手にいなくならないで。私にはひいじいしかいないんだから」
瞳に涙を湛え、普段の口調は鳴りをひそめて、一人の少女が家族に向き合っていた。
「ふんっ。結局自分でぶっ飛ばしているじゃん」
アオさんの悪態に苦笑いを返す。
たしかにとんだ笑い話だ。
自分から捨ててやるって息巻いてたのに、今は抱きしめた手を解こうともしない。
気怠げなお姉さんではなく、そこには家族を慈しむ少女の姿があった。
ヨロズさんもほとほと間抜けだなぁ。
「ごめんけど、二人で話をさせて」
「あかんで。申し訳ないけどヤンマを逃すわけには——」
生石をアオさんがたしなめる。
「生石君、頼むよ」
「……しゃーない。今回だけやで」
「ありがとう、恩に切るよ」
「はっ、そりゃええわ。商売人のあんたは、恩義を絶対に忘れへんもんな」
「ひひっ。言ってくれるね」
というわけで辛勝ではありますが。
境界戦線の初陣は、勝利のメダルを掲げることができたのだった。
「二人、どんな話をするんだろうね」
これは邪推だが、ヨロズさんはきっとヤンマを追いかけてこの世界へやってきたのだ。
でも、自分を捨てたひいじいに、どう向き合えばいいのかわからなくて。
中立を謳っているくせ、異界戦線の宿敵が住む城内に居を構えた。
『迎えに来て』と言っているようなものじゃないか。
ヨロズ商店と言う名も、ヨロヨローションという品名も、作為的だと思うのはうがちすぎか?
『私はここにいるよ』と言外に伝えているような──。
「詮索しないの。知らなくていいことだよ。アレは二人だけの物語で、ボクたちのストーリーには何ら関与しない蛇足だもん」
意訳、そっとしておいてあげようね。
素直じゃないなー。
「それよりも風呂や風呂。勝利のあとは温泉って相場は決まっとる」
「へぇ、いいこと言うじゃん。三人仲良く有馬温泉にでも浸かりに行こう」
「はっ。お前は一人寂しく温まっとけや。俺はひな坊と二人で楽しむんやから」
「許されるわけがない。世界が許してもひなた君が許さない」
「僕どんだけアオさんのこと好きなんだよ」
好きだけれども。
かくして対ヤンマ戦の幕が降りる。
今しばらくはゆっくりしたい気分だ。
にしても温泉か〜。
そういえば生石、アオさんの性別まだ知らなかったよな。
わくわく。楽しみ増えた。




