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26.ビリビリビート

「戦争はいい。罪は作用せず、弾頭こそが価値である」


 鬼ヤンマの出力が一段と跳ね上がった。

 身体の欠損を考慮せず突っ込んでくる。

 肉弾戦では到底歯が立たない


「ほな──」


 でもね、僕たちには『生石』がいるよ?


「この一振りも?」

「もちろんじゃ!」


『三八式歩兵銃』の激発、しかし生石の異能は武器を当人とみなし迎撃した。


 鉄を打つ音、生石の手の甲から煙が立つ。


「攻めどきと見た」

 アオさんにとってアイテムポーチは筆箱だ。中から大きな三角定規と、一メートル定規を取り出した。


「お邪魔〜」

 盾と剣、騎士の装いである。


 対するヤンマ、銃床を肘鉄の要領でアオさんに叩き込む。床尾板打撃だ、それを盾でいなし、肩口からの袈裟斬りが決まる。


「されど途端に」

 自己蘇生、跡形もなく。


 ドクドクドクと、脈打つように肉体が盛り上がり完治する。


 ほとほと化け物だな。


「ひひっ!」

 生石の鳩尾に向けヤンマが前蹴り。


「させないよ」

 すかさず僕の間抜けが悪意を咎める。

 竹尺を大腿部に差し込み、えぐる。


「ナイスだひなた君」

 アオさんの一太刀が足首を切り落とす。


 行け、届け。


「しゃっオラァァァ!!」

「おっとこれは──」

 ヤンマ、数瞬の隙。そこへ生石の渾身がめり込む。こめかみへの拳打、苦悶の表情を浮かべる。


「容赦ないのう」

 治るからと言って、痛みがなくなるわけじゃない。生石の攻め気は止まらない。


「殴り合いや!」

「喜んで!」


 近接戦では無用とみなし、スリング動作で銃を背に。互いの徒手空拳が炸裂する。

 

 打撃、ガード、いなし技にグラップリング。    

 積み重ねてきた鍛錬と技術の応酬だ。二人は共に高みへと昇っていく。


「あーあ、ボクたちは蚊帳の外だね」

 

 入り込む隙がない、向けられる悪意すらない。

 何をしても邪魔になる。サシの強制、ちくしょう、ヤンマは意図してこの状況を作り出したのだ。


「舐めてくれる〜。ならば真髄を見せてやる」


 選ばれた得物は巨大な『コンパス』

 サッと地に円を描く。アオさんが踏み入ると陣が淡く発光した。


「円環内部に限り、ボクは累乗の膂力を得る」


 選ばれた得物は『ホッチキス』

 地と足に芯を打ちつける、血が滲み痛々しい。


「自身をその場に縛りつける代わり、ボクは階上の腕力を得る」


 最後に一言──。


「ボクはひなた君の前だと、元気百倍」


 理解した僕の役割。

 奴をこの円へ誘導すること。


「おい! 僕たちはこっちだぞ!」

「見えすいた罠じゃ!」

 

 生石にも意図が伝わったのだろう、片襟片袖を取り、引き込みつつ両足をヤンマの腰位置へ置く。

 それを支点に相手を後方へ放る『巴投げ』が炸裂だ。


 だがヤンマは達人であり。

「焦りが出たな、ちと精細に欠けとるわ」


 脅威的な体幹により投げ技を耐え、着地。マウントポジションを取り、銃剣を振りかざした。


「ちっ!」

 両腕をクロスにヤンマの手首を押さえ、ブリッジ動作でマウントからの脱出。

 すぐさまタックルで制圧しようと試みるも、足を後方へ引き、生石の腰を落として技を切った。


「強ぇ。ひな坊、すまんが集中させてくれ」


 生石は意識を他所に向けている余裕がない。双方の実力は拮抗している、手数や武器が多い分ヤンマ優勢か。

 

 僕たちの参謀は生石だ。アオさんも切れる人だがどちらも手一杯。


 まずいな、血の流れが停滞している。

 パーティの頭脳へ酸素が行き届いていない。


 困惑、当惑、即断即決。


「なら、僕がどうにかするしかないじゃん」


 だってみんなのこと──。


「大好きだもん」

 

 頑張るしかないよね。

 間抜け者だって言い訳するな、せめてみんなの役に立て。


 お前はこの戦場において宙ぶらりん、置き物だ。

 むしろチャンスだといえるじゃないか。生石が頑張ってくれている、時間ならある。


 どうすれば状況を変えられる。

 考えろ、考えろ、考えろ。


「そういえば──」

 なぜヨロズさんは僕たちに嘘をついた?


 鬼ヤンマに勝って欲しいから?

 それはない。


 あの人はヤンマをボコして欲しいはず。だから無能力者という特ダネをくれたわけで、嘘をつくメリットはない。


 なにせヨロズさんは中立者だ、その気になればいつでも自分の足で会いに行けた。


 つまり彼女は『知らなかった』のだ。

 奴がもつ自分ルールの仔細を。


 現にヤンマはヨロズさんの生存に驚いていた。長らく二人には接点がなかったのだろう。


『自分ルール』の発現を悟れなくともやむなしである。


 そもそも、鬼ヤンマの自分ルールはどんな力だ?


 判明しているのは『埒外な回復能力』

 打てども打てどもダメージを白紙に戻すぶっ壊れスキルだ。


 ここで矛盾。


「そんな力があるのなら、初めて会ったときに僕たちを殺せたはず」


 ヤンマは生石の強襲を受けて撤退した。


『現世ではぶが悪い』

 そう言い残して。


「そうだ。奴はあのとき──、殴られた傷が癒えていなかった」


 つまり完全無欠な力などでなく、明明白白の弱点がある。


 そして彩度高く、『神戸でなければ発現しない』と言い切れる。


 だから決戦の舞台は神戸でないといけなかった。


 ヤンマの力は『人魚の生き血』を源泉としている。

 人から借りた力だ、その人がいない世界だと作用しないのかもしれない。


「くそっ。それがわかったところでどうしろと……」


 ゲートは閉じてしまった。開くにはランツさんの協力が必須。


 そも最強が起きたのなら、その時点で勝ちである。


 朝まで耐えれば必勝であることは初めから変わっちゃいない。

 奴に対しそんな芸当、不可能だから困っている。


 何かないのか。

 見つけ出せ。

 状況を根底から覆すような閃きを。


「考えろ、考えろ」


 人魚がいない世界だと力が使えない。

 なら、どうして神戸だと使えるの?

 

 ヤンマたちの世界、『現代的石炭紀』であればいざ知らず。


 例えば、『人魚が神戸へやって来ている』とすればどうだ?


 仮定に仮定を積み重ねていく。


 愚考極まりないがなんでもいい。兎にも角にも打開の一手がいる。


「あ……」


 鬼ヤンマは、『ヨロズさんが生きていたことを知らなかった』


 知ったとたん態度を改め撤退した。

 と思えば、間髪おかずに攻めて来た。


 冷静になって立ち返れば、少し性急すぎるくないか?


 大好きなひ孫に早く会いたいから? 

 でも奴は、『ひ孫よりも戦争を選んだ』男だぞ。


 そんな奴が目の前の戦争を蔑ろにしてまで。

『次の開戦準備』という楽しみさえ放り投げて。

 

 なぜ即日攻めて来た?

 何か裏があるのでは……?


 なんなら鬼ヤンマは、宣戦布告すら行う必要がないハズ。何も言わず、こっそりヨロズさんを攫えばよかった。


 よほど僕らとドンパチしたかったのか。

 でもそれはバトルジャンキーの思考だ。


 奴は戦争が大好きである以上に、ワーカーホリック的な『戦争屋』の側面を持つ。勝ちに拘ってくるはずだ。


 つまり宣戦布告には、僕たちと正面からやり合うデメリット以上の利があると考えるのが自然。   


『すぐに攻めるから、せいぜい準備頑張れよ』

 僕には奴の言葉がそう聞こえた。


 開戦準備で僕たちの頭をいっぱいいっぱいにさせることで。


『隠しておきたい事実』から思考を遠ざけた?


 立ち止まって、一晩だけでも冷静に考えてみれば、すぐに思い至るであろう事実から。


「あー……」


 僕は基本的に間抜けだ。勉強は苦手だし、感情派だから論理的な思考も得意じゃない。


 でもね、妙に勘が鋭かったりする。

 途中式はダメダメなのに、答えだけ当たっているかのような、奇妙な勘だ。


 だからこれら思考も、本質的には正鵠を得ていない。


 でもなぜか、『正解』だと確信持ててしまうような、歪な勘が働く。


 ヤンマはヨロズさんに『会いに行く』ではなく──。


『迎えに行く』と言った。


「異能の弱点は、ヨロズさん?」


『ヨロズさんが生きていると知った途端、すかさず回収しなければいけないくらい。ヤンマにとってヨロズさんはウィークポイントであるから?』


 瞬間──。


 想像を絶する熱量の悪意がこびんを掠めた。


「うわ」


 殺意を認識するよりも早く、弾頭を切り上げていた。だがもう遅い、竹尺を振るうために両の手が持ち上がった。腹がガラ空きになる。


 ヤンマはすでに軍刀で突きを繰り出していた。


 死ぬ──。


「ここまで全部、ブラフですから」


 あぁあなたは。

 あなたは、あなたは、あなたは、あなたは!


 あなたはなんて素敵な人なんだ。


 アオさんは円環を『自ら』飛び出して。

 ホッチキスを『自ら』引きちぎって。


 強烈なバフをかなぐり捨てて。

 自ら境界線を踏み越えた。


 アオさんはヤンマに『円から出てこれない』と思い込ませていた。そもそもの話──。


「バフなんかなくても──」


 アオさんの定規は『よく切れる』


「貧者の一灯(ボーダーライン)」

   

 ゴロン。


 ヤンマの首が転がり落ちた。

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