28.社員旅行で慰安旅行な家族旅行
「社員旅行だ慰安旅行だ家族旅行だ〜」
ヤンマとの決戦後、みんなで温泉旅行することになった。
有馬温泉は神戸が誇る六甲山麓の山あいに位置し、災害以前はそれはもう観光客で賑わっていた名所だと聞く。
今は寂れた廃温泉街といった景観。
木々と花草が鬱蒼と茂り、清流が爽やかを運ぶ。これはこれで乙な雰囲気だ、秘所ってやつ。
人の気配は皆無だが、源泉はいまだに湧いている。探せば良さげなお風呂がみつかるだろう。
皆で数十分練り歩き、どうにか湯船に浸かることができた。
「家族旅行ってのが余計やねん」
「そうは言ってもー、私がいるから効能てんこ盛りよー」
なんと今回の旅行、チリメン・モンスターのメンツ以外にも、ヤンマとヨロズさんがついて来た。彼女は湯船に水滴を垂らしている。『涙入りのビン』だ。
疲れた身体によく効きそう。
その正体、ヤンマとの話し合いでこぼした感動の涙である。ちゃっかり回収しているあたり商魂逞しいな! 名場面に採集するなよ、シュールすぎるだろう。
訳がわからないが、ボスの意向であるので仕方ない。
「殺し合いのあとはノーサイド。それがスポーツマンシップってもんだろ」
「殺し合いをスポーツだと認識しているのはアンタぐらいや」
湯船には文字通り全員つかっている。
ランツさんと生石、ヤンマにヨロズ、僕とアオさん。
ランツさんは誘ったらノリノリで来てくれた。異世界とのゲートが開き、強敵が蔓延る時間帯は日没まで。日暮から『おねむ』までの数刻だけが、彼女に許された自由時間だ。
ヤンマ討伐を社長に報告すると、熱く褒めてもらえたし。
褒められて嬉しそうなアオさんが見れて良かった。アオさんは社長が大好きなんだな。頑張った甲斐がある。
「女と一緒ってのも粋じゃねぇ」
「ふぅーん。女扱いしてくれるんだ」
「?」
今回の温泉旅行、全員水着着用の混浴なため、アオさんの秘密は守られてしまった。ちぇ、つまんねえの。
「つーか、なにしれっとお前も和んでんねん」
「風呂はヤマトの魂よ。戦争とヨロズの次に好きじゃ〜」
僕もヤンマがいることに、すごい違和感を覚えている。
昨日の今日だぞ。殺し合いしてたんだぞ。
ここではまともな感性が少数派だ。無念だな生石。
「わしはもう敵でない。ループレヒトとも話はつけた。条件付きではあるが、わしは異界戦線を抜けた身じゃ」
「というより、ヤンマは死んだことにしておいた。こいつ、都合よく切り離された体が残るから。死亡判定を取るの余裕だったぜ」
社長は満足気にあらましを語った。
戦闘で残った死体? を集め、狩人勢に一報したそう。
チリモン鬼ヤンマ討伐成功と。
おかげでヤンマは神戸市内において透明人間となり、かくして共に温泉旅行へ来ることができたわけだ。
本当の意味で、もう敵でない。
「ちゃんちゃんで済んでたまるか」
ヤンマは百万人殺しに加担したチームの首魁。
規模がデカすぎて正直ピンと来ていないが、生石はそれが引っかかっているのだろう。彼は優しいから。
「異世界出身の人間ならまだしも、そいつは地球人や。つまり同胞殺しのクソってことや。おいそれと許せるか!」
生石が殺すと固く誓ったキナと、ヤンマは何ら変わらない。れっきとした仇敵である。
ここでヤンマを許してしまえば、生石の信念が揺らぐのだ。頷けるはずもない。
「ヤンマ君は現地で家族を作った。顔も知らない同胞より、血のつながった家族を優先する気持ち、ボク分かるな。ボクだって自世界を裏切り地球側についた。たくさんの異世界人を殺したよ。向こうの人たちからすれば、ボクだって最低な殺人鬼だ。刹那君のはダブスタなポジショントークなんだぜ」
生石や僕は現実世界出身だが、アオさんは異世界出身だ。
育って来た環境が違う、スタンスが異なるのも当然だろう。
「報復とかー、大丈夫なのー」
異界戦線からの仇討ちも心配だ。
「わしらはクレバーな関係じゃ。あの子らはわしのために怒ってくれんよ」
利害で成り立っていたんだね、大人な関係。
「生石刹那、戦争に正義だ悪だと語るのはせんなきことよ。わしは言い訳などせん。わしを煮るも焼くも、勝者の君ら次第だ。甘んじて受け入れよう」
「なら、殺すより有効活用するのがアタシ流ってもんだ。噛み砕け、勝者が喚くな。男だろ刹那」
「ちっ。納得しとらんが理解はした。その条件とやら、聞かせろや」
生石はちゃんと考えられる人だから。頭ごなしに否定するわけでない。
ヤンマが語った条件とはいかに。
「契約内容はお前たちにも無関係じゃない」
ランツさんは『四つだ』と指を立てる。
・ヤンマは今後一切、狩人陣営に危害を加えてはならない。
・ヤンマはヨロズを守るためだけに力を発揮する。
・ヤンマに対して情報提供を求めない代わり、ヤンマも狩人陣営の情報を流布してはならない。
・チリメン・モンスターはヤンマの『自分ルール』に対し守秘義務を負うが、上記契約に違反した場合この限りでない。
「まとめると、わしはヨロズ専属のボディガードになるわけじゃ」
チリメン・モンスターはヤンマという戦力を削ることができ。かつヨロズさんという貴重なヒーラーを保護できる。一石二鳥な策ってわけですね。
「いやいやおかしいやろ。知っとること洗いざらい吐けや」
「互助関係といえどかつての上官を貶めることはせん。腐っても戦争屋じゃ。捕虜にはなっても賊には堕ちん」
「お前の価値観なんか知るか。殺すぞ」
「ひひっ。それはヨロズも手にかけるということかな若造」
鬼ヤンマは物理的に、ヨロズさんを倒さなければ殺せない。現実世界へ連れていけば話も変わるだろうが、藪蛇だな。
「やめろ刹那。これは最大限譲歩してもらった我が社有利の折衷案だ。お前たちはヤンマに勝たせてもらったんだぜ。その事実、ゆめゆめ忘れるなよ」
「あ?」
「そうだよ刹那君。敵さんはこちらの情報をかなり掌握していた。つまり『ボクたちが人質を殺せるような性格していない』のは、透けていたんだ。なら、ヤンマは割り切ってボクたちを消せばよかった」
バレたからなんだ。
全員殺せば知られていないのと同じだ。
「負けは負けじゃ。無為なリスクは負わんよ。戦争じゃから状況如何では容赦せんが、無理に子供を殺す趣味もない。とはいえわしの見立てじゃと、青染アオはそこまで優しい性格に思えんが?」
アオさんは仕事上の人殺しに躊躇いはない。
「それはないー。だって私たち、ラブだもんねー」
「あ、あ、なにをしとるヨロズ」
ヨロズさんは後ろからアオさんに抱き、耳をハムハムしている。
アオさんもアオさんで、面倒くさそうな顔をしているが拒絶しない。ひいおじいちゃんはタジタジだ。
「ちっ、ぬるま湯や」
生石は呆れたように肩まで湯に浸かり、顔を手ぬぐいで隠した。
この場で一番ぬるいお人好しが、何か言ってら。みんなの代わりに怒ってくれたんでしょ? 気づいているよ。
確かに大勢殺したことは許せないことだ。でもその人たちを思うがあまり、未来で増えてしまう死者を看過するのは違う。
死んだ人たちより、生きている人たちの方が絶対大切だもん。
無理に敵対する必要はない。
ヤンマ陥落は、受け入れなければならない僕らの戦果だ。
「これ以上を求めてはいけない。勝者は報復してならない。戦争は、誰かが我慢しなきゃ終わらないから。ボクたちは今、度量を試されているんだ。水に流さなくてもいい。受け入れて、飲み干せ」
「いうじゃねえか青二才」
「つまんねぇ話はお終い」
アオさんの結言でオチがついたのだろう、ランツさんがパンと手を鳴らし宣言した。
ここから先は、お互い何も言わないと。
「んで。いい加減話したらどうだ。ヨロズとアオ、お前ら二人に何があったのかをよ」
おおおお。
流石ランツさん。気になっていたことをズバリと聞いてくれちゃって。
「私がー、初めてアオと出会ったのはー。アオが自分のちんちんを切ろうとしていたとき」
そんな出だしのお話があっていいんだ。




