24.現代的石炭紀
「世界の名前は『現代的石炭紀』」
「私の世界は『環境が石炭紀』だったの」
「地球においては約三億年から四億年前に実在した、太古の森と虫の王国」
「それが現代まで続いていた」
「十数メートル級にまで伸びる鱗木。巨大なトンボの仲間メガネウラ。数メートルのヤスデ、アルトロプレウラ。摩訶不思議な生き物たちが、矛盾なく現代社会に息づいていた」
「巨大なシダ森の横を車が走った。ビルに巨大昆虫が止まった。弩級の節足動物と人間社会が共存できていた」
「なぜか。私の世界では『驚異的な回復能力』を皆が有していたから」
「私の異能もその力だよ。傷はすぐに治るし、やたらめったら死にはしない」
「だから太古の生命が、そのまま現代に生き残ってしまったの」
「力の源泉となるのが、世界の神『人魚様』の生き血なのさ」
「八百比丘尼伝説って日本では有名だよね。人魚の肉を食べてしまった尼さんが、何百年も生き続けてしまうというお伽話。私の世界でも人魚の血は同じ力を秘めていた」
「しかもこの神さまね、こともあろうか大淫乱の性欲魔だったの。人、植物、虫関係なしに、手当たり次第に生命と交雑した」
「結果生まれたのが『体液に回復効果を有する化け物』たち。厄介なのが、そいつらの残した子孫にも特性は遺伝するっていうこと」
「指数関数的に異能力者は広がり、異能は凡庸になった」
「ここで召喚されましたるは地球人、鬼ヤンマ」
「人魚の血は若返り効果があるもんで、当時百を超えていたひいじいは一気に若返ってしまった」
「なので『生殖能力』が復活してしまった」
「人魚様はわざわざ異世界から人間を呼んでまで、しとねを交わそうとしていたのさ」
「そこに目をつけたのが八尾財閥。私の実家ね」
「八尾財閥は世界の金融を裏で牛耳っていたトンデモ企業なのだけれど、同時に世界を悲観していた」
「私の世界では、進化がとっても遅いんだ」
「だってみんな死なないんだもん。子孫を残す意味がない。人間も同じ。私の世界の人間は、ひいじいみたく神が性欲を満たすために呼んだ地球人が原典なの」
「だから数が絶対的に少なく、遺伝子の多様性に乏しい」
「別にそれでよかったのに。少人数で慎ましく停滞しておけばよかったのに。八尾財閥は金のことしか考えていないから。金を稼ぐには、『たくさんの人口』が必要だった」
「子供を作る意味がない世界で、子供をたくさん作ろうとしていた」
「話を戻すね。人間が他所の遺伝子を取り込むには、同じように地球からやってきた転生転移者を襲う必要があった」
「新鮮な遺伝子の持ち主。鬼ヤンマはなので掠取され、種馬にされた」
「私の曽祖母は鬼ヤンマの子を孕み。産まれた祖母は八尾の人間と近親婚させられた。濃い血のツケは、不運にも私の母が支払った。介護が必要な心身で産まれてしまったの」
「ひいじいから見れば孫に当たる人物。それは可愛がっていた。可愛がって、可愛がって、可愛がったあげく、妊娠した」
「母の介護を手伝っていた職員が、寝込みを襲ったんだって」
「母の精神性は純粋な幼子。強姦と出産の苦痛に耐えきれず、自ら死を選んだ」
「私はね、死んじゃったママの代わり。ひいじいはね、私のことがとっても大切。大好きで大好きで愛して愛して」
「でも彼は傲慢にも」
「私なんかよりもよほど、『戦争』のほうが大好きなんだぜ」
「ガダルカナル島の戦い、サイパン島の戦い、ペリリュー島の戦い、硫黄島の戦い、沖縄」
「彼は戦場に立ち続けた。生き延びるたび次の戦争を求め続けた。狂っている」
「戦争体験だけが、彼に生の喜びを思い出させる。生粋のソルジャーなの」
「ところが私の世界はとっても平和。誰も死なないから争う意味もない。戦争は起こらない」
「よっぽど退屈だったんだろう」
「神戸と開戦するや否や、全てを放棄し、戦場へ向かった。傲慢な人だよ。あんなにも大切にしてくれたのに、すぐにポイ。優しかったひいじいは、戦争だって大切なんだぜ」
「私はそんなひいじいのことが大好きで、心の底から憎んでいる」
「迎えにきてくれるのかー、嬉しいな」
「でもそれ以上に、あの人がぶっ飛ばされる所も見ものだ」
「つぎは私の方から捨ててやるんだ」
「私は八尾財閥の子女。筋金入りの商売人。だからわかる、今が投資の機ってやつ」
「君たちに賭けてみよう」
「お願い。ひいじいを倒して」
「出血大サービス。ひいじいに、『自分ルール』は無いよ」
「んじゃ、バトル頑張って〜」




