23.三人揃えばなんとやら
「君たちー、ほんとによく来るねー。常連さんだねー。お姉さんは嬉しいぞー」
「こっちは仕事できてんの。アンタ、鬼ヤンマのひ孫なんだって? 初知りなんだけれど」
ヨロズさんと八尾ヤンマの因縁について、アオさんには説明済みだ。
珍しく驚いていた、鳩豆顔だった。
「別に私はー、異世界陣営でもー、狩人陣営でもないからねー。中立だし、説明責任ないもーん」
長い舌からポタポタと雫が垂れる。相変わらず強烈な見てくれなのに、話はシリアスに進んでいく。
「知っていれば避けられた戦いもあった。ひなた君を一人で行かせることもなかった。怒るつもりはないが、小言くらい言わせろバカ」
一秒。
二人の視線は交錯する。
なんだかその間が、僕には艶やかに感じられた。
「ふぅ。今回ばかりは刹那君に感謝だね」
「道理に従ったまでや」
「へぇー。いまは少年にお熱なんだー。前までは、ヨロズヨロズって、私にベタベタだったのに〜」
アオさんはヨロズさんの机にドッと足を乗せた。ひえ、怒っている!
「話をすげかえるな。お前の与太に付き合っている暇はない。持てる情報を洗いざらい教えてもらおう」
ドンと、次は生石が机の上にオーガの角を置いた。
「ヨロ嬢。なにもおれらは脅しているわけやあらへん。足りひんようなら追加分も出す。知っていることがあれば教えてほしい」
口ぶりからして、生石もこの店の馴染みなのだろう。
「さっすが生石君、話わかってんじゃーん」
ヨロズさんは嬉々としてそろばんを弾き始めた。この人はお金が大好きなんだな。
「私が八尾やんまのひ孫であることは本当ー。それはそれは可愛がってもらいましたともー。どうもー、八尾ヨロズさんですー」
言われてみれば確かに、気だるげな雰囲気が共通している。
「そうかー、ひいじい来ちゃうのかー。別に隠していなかったから、いつかは気付かれるだろうなと思っていたよー。にしても強引な人だなー」
『迎えにいく』、強い口調で彼は言っていた。
「先に言っておくけれどー、私、このビルから立ち退いてもいいよー。そしたら君らに被害はいかないしー。別に、ひいじいのこと嫌いじゃないしー」
「すまんがそこは利用させてもらうで。鬼ヤンマとの接触は、異界戦線攻略のおおきな足がかりになる」
「そもそもさー、君ら、異界戦線に勝てるの?」
鬼ヤンマ。あれと同格の強者があと二人いる。正直、勝てるかと問われれば返答に窮する。
「無理やろ。そない強くないガキが二人と、ピーキーな性能のおれ。しかも結成したばっかのパーティでろくな連携も期待できん。勝てる道理はない」
「ランツの助力も避けたいしね。相手はちゃんとしているね、抜け目なく深夜を指定してきた。先の宣戦がブラフで、無為にランツの睡眠時間を削られたとあれば目も当てられない」
敵が『今夜襲うぞ』と言うたびにランツさんを徹夜させてしまえば、それだけで最強戦力のパフォーマンスを削られてしまう。相手の思う壺だ。
「「でもそれは」」
二人の声が重なる。
「異界戦線が揃っていた場合や」
「鬼ヤンマ単独なら、勝機はある」
「一人でくるのー? なぜー」
「根拠というよりも感覚の話、鬼ヤンマはワーカーホリックだよ」
兵士。つまりは戦争を『生業』にしている。
仕事のためなら奴は、いともたやすく子供を殺せる。向けられた銃口の黒が、いまだに眼球の奥から消えてくれない。
「そんな奴がひ孫を迎えに行くだって? 公私混同もいいところ。昔気質の老人が、私的な事情で仲間を巻き込むと思えない」
アオさんもワーカーホリックだと言っていた、共感できる部分があるのだろう。
「おれが調べた過去の足跡からも、鬼ヤンマの単独行動を裏付けとる。まず第一に、異界戦線は仲良しこよしやあらへん。あくまで利害が一致しとるだけのクレバーな関係性や。よほど重要な作戦でない限りつるむことはない」
現実世界での邂逅時もソロであった。
「第二に、奴の戦闘スタイルが裏付けとる。鬼ヤンマは大戦時であっても、部隊行動を取ることはなかった。一人で敵軍へ遊撃し極上の戦果をあげ。自軍が不利と見るやすかさず離脱、幾度もの敗戦を生き延びてきた」
彼の主戦場は第一線。
ガダルカナル島の戦い、サイパン島の戦い、ペリリュー島の戦い、硫黄島の戦い、沖縄。
これがどれほど離れ業なのか。当時の戦場を知る人はもう誰も生き残っていない。
鬼ヤンマを除いては──。
生存率という観点からみれば不死身と形容できる。
「そんな奴がわざわざ、気まぐれなちょっかいに仲間を呼ぶと思えへんな」
二人ともすごいや。感覚と論拠で行動原理を予測し、複雑な持論を展開している。
真似できないな。
僕ってホント間抜けだよ、だって僕の意見は。
「可愛いひ孫にはカッコつけたいもんね」
「「たしかに」」
「あははー。この人たち本当に勝つつもりだー。いいじゃん、おもしろい、楽しみ増えた」
ヨロズさんは長い舌をようやくしまい、商売人の顔をみせた。
「話してあげるよ。私とひいじいの全部を」




