22.境界戦線結成!
「アオさんだ!」
アオさんだアオさんだアオさんだ〜。
久しぶりのアオさんだー!
「やぁ、今朝ぶりだね」
会いたかった。
一人は心細かった。駆け寄るといつものいい香りがして、ほっと一息。
相変わらず綺麗な人だなー。
「おかえりおかえり。尻尾がぶんぶんだ」
僕と生石は例の寝床に開かれたゲートを通って、無事チリモン本社へ帰ってきた。
アオさんがなにやら作業をすると、ゲートはそっと閉じられた。どう言う仕組みなのだろう。
「まったく君は本当に仕事が早い。そう言うところが素敵だよ」
怪しく笑う視線の先には、同じくアオさんを睨みつける生石の姿。
「おのれ、ただの子供を戦争に巻き込んで、どういうつもりやねん」
「ただの子供? この子が?」
アオさんに引き寄せられる。
「笑える冗談だ」
「離れろやイカれ戦争屋」
「離さないよ偽善者さん」
こころなしかアオさんの手に力がこもった。ひぇ、バチバチだ……。
「例外なく子供を救うと嘯くなら、戦場でしか息の吸えない子供も認めるべきだ」
「それで死んでしもうたとき、おれの意義は陰るんや」
僕が『イカれ』なのは二人とも否定しないのね。
「それに、戦場で生き生きするのは刹那君も同じでしょう?」
「は? おのれらと一緒にすんなや青二才」
「しいていうならランツと同じ、なのかな」
アオさんが生石にコーヒー缶を投げた。椅子をトントンこつき、皆に座れと促す。
「せっかく3人揃ったんだ。オリエンテーションでもしようか」
シュパッと、生石はプルトップの音で合意する。
3人で椅子に座り向き合う。生石はイライラを隠さず貧乏ゆすりし、アオさんはいつもの仏頂面。間に挟まれた僕はやや緊張だ。
「狩人は基本的にスリーマンセルを形成する。最強と謳われている異界戦線も同様だね。なぜだかわかる?」
「知るか。おれはソロ専やねん」
「お互いにね」
アオさんは面倒くさがりだし、生石は理想主義者だ。一人の方が何かと都合が良かったのだろう。
「戦術的に強いからですか?」
前衛、中盤、後衛で役割分担してみたり。アタッカー、タンク、バッファーみたいなフォーメーションもイカすじゃん。
「それもある。でも、3人である必要性の説明にはならない」
戦術的な意味なら数は多いに越したことない。
「殺す敵の属性が肝要なのさ。ボクたちの敵は誰か、今一度立ち返ってみて」
「転生転移者どもや」
「ゴブリンみたいなモンスターです」
「あとは異世界産まれの侵略者だね。これは覚えなくていい、ボク独自の呼称なのだけれど。上から順に、悪魔、魔物、魔人と呼んでいるよ」
出た新設定!
「ほんとに覚えませんよ?」
「やめてやれ。14のガキはこういう妄想しがちなんや」
アオさん14歳なんだ。
やっぱり原付ダメじゃん!
「質問。刹那君、君はアイのような悪意ある子供を殺せるかい?」
「ぬかせ。それがどんな巨悪でも、おれはおれの信念に従い子供は殺さん」
「ひなた君、君は切実な理由があって異世界からやってきた、悪意なき敵を殺せるかい?」
「悪意がなければ『反射』できません。難しいと思います」
「ボクは搦手や駆け引きが通じないモンスターに弱いんだよね」
皆それぞれ、苦手とする相手がいる。
「だから得意な『殺し』が必要になる。三つだ」
アオさんが指を三本たてた。
「イカれた狩人のイカれ具合には、特性がある」
イカれた奴らにも道理がある。
狂い方にも作法がある。
『ワーカーホリック』
「あくまで狩りを仕事と割り切ることで、淡々と相手を殺せるタイプ。任務外の敵や、手に余る敵は放置しがちだね。ボクはこれに当てはまる」
相手が子供でも、悪意なき侵略者であっても。仕事だから殺す。アオさんは当初、僕のことも殺そうとしていた。
『バトルジャンキー』
「殺しそのものでなく、闘いに価値を見出すタイプ。特徴としては殺す相手を選びがち。理性なきモンスターにはめっぽう強い分、情にも流されやすい。いくら論理で取り繕ったって、刹那君もつき詰めればジャンキーなんだぜ」
確かにオーガと闘っているときの生石は、とても楽しそうに笑っていた。
『シリアルキラー』
「自分の才能に酔いしれるタイプ。快楽主義、愉悦主義。殺すことそのものに天性の才があって、たまたま立場が地球側なだけのやつ。ちなみにこれは悪口だぜ、ひなた君」
僕は一度も、相手を殺したいと思ったことがない。全員もれなく、気づいたときには死んでいた。
正直、らしく生きるのは楽しかった。言い訳の余地なく僕の頭は壊れている。
「大抵のやつを殺せるパーティの、最低人数が三人なのさ。狩人はイカればかりだからね。つるむ必要性があったとしても、数は少ないに越したことない」
『ワーカーホリック』
『バトルジャンキー』
『シリアルキラー』
頭に留めておこう。狩人版性格診断みたいで少し面白い。アオさん曰くランツさんはバトルジャンキーに当てはまるらしい。
「あ? おわり? なんでおれにこの話をしたんや。なんか意味あったかコレ」
「え、あったでしょ。ボクたちのパーティには『バトルジャンキー』が欠けていた。全て揃えば『隙』はなくなる。ボクは君に、仲間になるメリットを説明したつもりなのだけれど」
「え?」
「ん?」
「あ?」
「なんや、勧誘されとんのか今おれは」
「そのつもりだけれど」
「そないな誘い文句があるか!! 下手くそすぎやろ」
ほんとだよ! 生石なんて奴は『助けてよ〜』で事足りるのに。
「そんなんだから、仲間にできなかったんだぜ。アオさんー、やり直しー」
「……」
アオさんは生石のことをなにもわかっちゃいない。
生石も生石でアオさんのことを誤解している。
生石は思いのほか熱くてバカで間抜けだし。
アオさんは思いのほかコミュ障で空気が読めない間抜けだし。
「刹那君、ボクは困っています。助けてくれる?」
「がはっ。ほんまにお前のそういうとこ、気に入らんわ青二才」
「あはははは!!」
僕は思いのほか二人が大好きだ。
パーティ結成!!
であれば名前が必要だ。
異界戦線を最終目標に定めた僕たちのパーティ名──。
境界戦線。
あの日僕らは飛び越えた。
竹尺で一条の線を引き、僕らは飛び越えた。
後戻りはできない。
間抜け者がこれより、魔を射抜く──。
反撃開始だ。




