21.原点
「ひな坊には悪いけど、ちょっとぶちまけさせて。今の感情を言語化するのに、頭ん中を整理したい」
「まずは原点に立ち返ろう。おれが転移した『血溜まり世界』。その創造主こそ『血濡れのキナ』や」
「キナは願った。水子、堕胎された子、流れた子。産まれてこれなかった命を掬いあげたいと」
「ようは産まれ直しの世界や。結果、キナは地球中の水子を、自分の腹中に転生させるという荒技に出た。赤子を産み落とすための母神になったんや」
「ただ、神なる力もしょせん『呪いの力』や。産まれてきたガキは全員が人間未満の奇形児やった」
「子らは『忌み子』と呼ばれた」
「人間になりきれなかった、不完全な生命を揶揄ったんや」
「誰が──」
「『健常者たち』が」
「血溜まり世界の独自ルール。忌み子が健常な人間になるためには、健常な人間を食らう必要がある」
「やからキナは地球人類を異世界へ呼んだ」
「せやけど、ことはそう上首尾にいかんかった」
「キナが健在やったころは強力な異能を駆使し、健常者たちを蹂躙しとった」
「やがて呪いで発狂し、世界は徐々に崩れてしもうた」
「立場の逆転が起こったんや」
「血溜まり世界に食物はなく、健常者たちは『忌み子』と言う食糧を狩り始めた」
「皮肉な話や。子供を救うために作った世界が、子供を食い物にしとる」
「大人たちが積極的に子供を殺し、嬉々として食らっていたあの光景は、誰が何と言おうと『悪』や」
「当時のおれはまだ13のガキ、事実を受け入れることができんかった」
「やからキナの理想論に傾倒した。忌み子を救うために尽力し、深く感応した」
「キナを師と仰ぎ、『子供を救う』という価値観はここで形成されたんや」
「転機が起きたのは五年前の突発的災害。何らかの理由で八百万の異界と神戸が繋がってしもうた」
「薄暗い異界の端で、赤子たちと戯れ、惨めに生きておけばいいものを」
「キナは気付いてしまった。『地球人類を供物にすれば、この世すべての赤子を救えるのでは』と」
「気付いてしまったらもう止まらない。キナは神戸を攻め、他世界もそれに続いた。たった5年で百万人の神戸市民を鏖殺し、今に至る」
「キナは異界の人間や、あいつにとって地球は、どこまでいっても『赤子を蔑ろにする狂った世界』」
「良心の呵責はない。でも、おれは元日本人やし。割り切れんかった」
「キナの思想に触れた。感銘を受けもした。なのに今は中途半端な理想を掲げ、敵対しとる。なにやってんねやろ。最近な、自分のことがよーわからんねん」
「止めなきゃあかんのは分かっとる。でもどの面下げてキナに向き合えばいい」
「13のときに抱いた泡沫の情景。原点。思い出させてくれたんはひな坊、お前や」
「……ヒーロー」
「みんなを救うために、誰かを犠牲にできる神にはなれん。でも、手が届く範囲の子供達は命に変えても救ってみせる。そんなヒーローに、おれは憧れたんや」
「ひな坊、お前はずっとおれの横におれ。したらおれは絶対に負けへんし。ヒーローであり続けられる」
「ひな坊。今日からおれが、お前の仲間や」




