↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
20/28

20.ラーメンの汁は最後まで飲み干す

 決戦は明日の深夜。

 つまり猶予はなく、今すぐ神戸へ戻りことの顛末を伝えなければならない。


 さりとてお腹は空くものですから。


「とうぶん日本には帰ってこれん。腹一杯食っとけ、ひな坊」


「おうさ」


 ズルズルズル、ラーメンをズル。

 甘口の醤油スープが格別だ。さっぱりしていて子供の舌でも楽しめる。やはり地元の播州ラーメンが一等賞である。


「うま! ええ店知っとるやんけ」

「でしょー」


 生石とは比較的打ち解ることができた。

 まかりなりにも僕は生石の命を救ったのだ、感謝もあるのだろう。

 

──本質は脅しだ。


『僕の仲間になってよ』

『断る。青二才やクネヒトとは主義が合わん』


『じゃは僕が生石の仲間になるよ』

『何の違いがあんねん』


 生石はアオさん含む、チリモンの方針を認めていない。『子供が戦うことを是としている』からだ。

 見た目ヤンキーなくせに、狩人としては貴重(まとも)な倫理観をお持ちで。僕が戦うことを快く思っていないのだ。


 けれど僕たちは狩人だ、まともなままじゃいられない。


『仲間になってくれなきゃ、弱いから僕死んじゃうよ。いいの? 見捨てるの?』


『がはっ──』


 彼の優しさを利用させてもらいました。

 アオさんにもやったことだ、僕自身を人質に、交渉を強行する。ほぼ脅しな勧誘である。


 生石刹那はとびきり優しいから──。


「真面目な話、お前には感謝しとる。俺は男や、受けた恩義には必ず報いる。一助になると誓うで。そして俺は男、子供を見捨てるわけにはイカンのや」


 なぜそこまで子供に固執しているのだろう、気になる、後で聞いてみるか。


「それでも仲間にはなれん」

「なんでさ!」


「意固地になっとるわけやない。やむにやまれぬ事情ちゅうやつや。ええか、今から話すことは絶対に他言するな」


 ぐっと顔を寄せられ、声のトーンを落とす。真剣な眼差しだ、ごくりと固唾を飲む。


「『最強理論』には、明確な弱点がある。『複数戦』にめっぽう弱いんや。やからおれの戦闘スタイルは基本タイマン。ソロのプレイヤーちゅうこと」


 彼の異能は、対象と戦闘能力を同一にする力とさきほど教えてもらえた。

 であれば、対象が複数名いた場合──。


「『その場にいる一番弱い者』を対象にしてしまうんや。もし対オーガ戦で、ゴブリンでもいようもんなら、おれの戦力はゴブリン級になっとった。詰みはせえへんが、より厳しい戦いになっとったやろう」


「たしかにそれは、バレちゃまずいね……」


「異能の対象範囲は、『敵味方を問わない』」


「あー、あぁ……」


 なるほど、だからか。

 仮に僕たちが仲間になってしまった場合、最強理論は一番弱いもの。


『木洩日ひなた』を標的にしてしまう。


 最強理論は身体能力のみの同化。異能や特性、つまり『反射』は効果対象外であり。ただただ戦闘力が『小学六年生レベル』になってしまう。

 

「仲間になれないじゃん」

「そういうことや。まぁ気にすんな。別にひな坊が弱いから悪いって訳やない。おれがそういう異能にしてもたってだけの話や」


 ちぇ、なんだよそれ。

 初めからそう言ってくれればよかったのに。

 生石なりに気を遣っていたのだと気づけぬほど、僕は子供じゃないけれど。少し拗ねちゃう程度には、まだ子供だから。


 駄々をこねてみる。


「弱いから悪いんだ、ムカつく言い方するなよ。そういう異能にしたってなにさ、自分で決めれるっての?」

「──」


 おっと、流れが変わったぞ。


「今ギクっとした! ギクっとした!! 図星なんでしょ! ちゃんと説明しなよ」

「待て待て待て、すまん、誤解を生む発言やった、訂正する」


 生石は腕を組んで、しばらく逡巡する。

 観念したかのようにお手上げのポーズ。


「はぁ。もう手遅れやな、何いうても嘘になる。失言やった。そしておれは男や、ウソはつかん。ちゃんと説明するわ」

「はじめからそうしろっつーの」


 以後語られる、『最強理論』の真実。


「世界観の話や。おれの扱う自分ルール、現地では『呪いの力』と呼ばれとった」


 自分ルールとは、あまたの異能が集結する神戸において、各世界の力を統合するために付けられた呼称である。


「おれの世界において、異能は好きに決めることができとった。ただ、文字通り呪いの力や。強い力にすればするほど、自身に強い呪いが返ってしまう。呪いの対象を自分だけにとどめるためには、さまざまな条件付けが必要やった」


 タイマンでなければ真価を発揮しない。

 弱い相手でも無視できない。

 相手を認識しなければ発動しない。

 異能や武術は模倣できない。

 たくさんの弱点は、返ってくる呪いを最小限にとどめるための施策だった。


 制約と誓約的な話かな?

 ハンターハンターを読んでいるから、何となくイメージできた。


 それでも冠する名は『最強理論』。

 力の最奥だ。返ってくる呪いとはいかほどのものか。


「自分ルールが発動したのち、勝負に敗北すれば。肉体的損傷の如何に関わらず、必ず命を落とす。それがおれの『呪い』や」


「じゃあつまり──」


 つまり生石は、絶対に負けることができない。負けた瞬間、死が確定するからだ。


 彼は文字通り、全ての勝負に『命懸け』なのだ。


『子供を救いたい』

 ただ一つの願いのために。


「なら、今まで一度も、負けたことがない?」


「自分ルールを使っての戦闘なら、そうなるな」

「かっこよ!!!!」


 かっこいい。

 この人、全てにおいて格好が良すぎる。


 女だったら惚れてたぞ! 別に男でも惚れていいのかな!?


 生石のやつ、微妙に照れてやがるぜ。


 でも残念だ、話した相手が悪かった。

 僕はたぶん強情な方に思う。もし少しでも可能性があるのなら、懸けたくなってしまうじゃないか。


「仲間にも『呪い』が返ってくるようにすれば、自分ルールを書き換えられる?」


「──」


「ギクッとした! またギクっとした!!」

「お前ほんま、そういう性格悪いとこ、誰に似たんや」


 頭ん中でアオさんがニヒルに笑っている。


「可能や。自己の範囲を仲間にまで拡大することで、ひな坊は『最強理論』の対象から外れる。でも、それしたらお前も死ぬで?」


「上等」


 生石ノート項目木洩日ひなた。

・行動は即断即決が基本。


 生石はバカだな。そんな呪い、リスクですらない。


「一度も負けなければいい。生石はだから、最強になったんでしょ?」


「アカンで。いうたやろ、おれは子供を巻き込まん。御託並べても、主義は変えられん」


 並べるよ。ゴタゴタぬかすよ。

 だって僕は間抜けもの、抜け抜けと人の心を踏み荒らすから。


「この身はアオさんに捧げています。アオさんが死ねば、僕も後を追う。あの人はそんなに強くないから、異界戦線に敵うはずない。きっと死んじゃう。それでもいいの? アオさんも子供だよ?」


「……」


「どうせ負ければ死ぬんだ。なら、死ぬ気で僕たちを守ってよ。救ってよ」


「……」


 多分あとひと押し。あと少し、決定的な何かがあれば、彼は堕ちる。


 なんだろう、考えてみよう。


 生石は頑なに強さを求めている。自身の命を危険に晒してまで。なぜ?


 子供を守りたいから。


 もはや執着、強迫観念ともいえる灼熱の信念だ。

 救世主へのこだわり。


 あぁ、なるほど──。


「僕、ヒーローは生石がいい。救われるなら、あなたがいい」


 彼はヒーローになりたいのだ。

 真っ赤に染められた髪。

 炎のように赤色の意志。


 赤はヒーローの色だ──。


「ねぇ生石、僕のヒーローになってよ」


 あぁ、何て嬉しそうに歯噛みする。

 真っ赤に熱って、乙女みたいに。

 生石は始めて年相応の顔を見せた。


 ラーメンを飲み干す。


 完堕ちだ──。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
播州ラーメンって食べたことないからググったんですけど、 醤油ベースにリンゴやタマネギ、氷砂糖などの甘味が入ってて甘いんですね。 それはそれで気になる
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。