18.最強理論
生石刹那の能力はピーキーだ。
のちに知る話だが、確かにランツさん相手でも勝ちうる力だろうと納得した。
自分ルール、『最強理論』。
能力こそ、戦闘力を相手と『同一』にする。
対象と同じ異能力や武術を得るわけではないが、身体能力という点で見れば完全に同等となるぶっ壊れスキルだ。
仮に敵がゴブリンだとしよう。
その場合、生石の力はゴブリン級になってしまう。
だが、ランツさんのような強者が相手の場合、異能力はその真価を発揮する。
「ステゴロじゃあ!!」
砲撃が鳴った。雷鳴が轟いた。
射手はその身一つであり、拳こそが砲弾だった。
たった一振りの殴打が、地を抉り木々を切り裂く。だが敵は倒れることなく踏みとどまっていた。
僕は生石刹那を追って山中に入り、驚愕を目の当たりにする。
「オーガ!?」
忘れるはずがない。
はち切れんばかりの筋骨。剥き出しの殺意。
オーガである。
今回の個体は禍々しいツノを生やし、赤黒く発汗していた。
ゴブリン級のモンスターしかいないはずの現代において、オーガとはつまり『二段階進化』の証左。
百万分の一が連続で生起するなどありえない。生石の言ったとおり、この激戦は仕組まれた死闘なのだ。
アオさんですら敵わなかった強敵、生石は真正面から渡り合えている。
戦闘に注視する──。
「だぁ!!!」
拳が鬼の胸骨にめり込む。
「ちっ──」
しかし反撃の爪が生石の皮膚を裂く。
「シッ──」
怯むことなく懐にもぐりこみ。
「!?」
けれどオーガの前蹴りが炸裂する。
生石は吹き飛ばされ、大木に激突。
「まだまだぁ!」
生石前へ。
息つくいとまもない。
乱撃は錯綜する。
両者一歩も引かず、そこに駆け引きはなく、純に殴り合っていた。
一打一打に衝撃が走る。山がざわめき戦場に風が吹く。
生石の体はみるみる青黒く染まっていく、けれど前へ。ただ前へ。
「かっこつけさせてえや。子供の前やねん」
あっけにとられている僕を守るため、彼は一歩も引かず抗っている、信念に殉じている。
大丈夫、心配しなくていい。
あなたは十二分に──。
「かっこいいよ」
なにがヤンキーだ。
認識を繰り上げざるを得ない。不良などでなく、その背中は、守るべきもののために戦う漢のソレだ。
「負けてられへんねん!」
ここで一つ、シンプルな疑問を提起する。
『最強理論』は、相手と身体能力を同一にする力。
確かに強力だが、あくまでも『=』であり、『>』ではない。
つまるところ理論は破綻し、最強たり得ない。
頂点を謳うなら、プラスアルファの一滴が必要だ。
正体こそ──。
「根性!!!!」
「めちゃくちゃだ!」
相手と同格であるのなら、より根性のある方が強い。根性に関していえば、漢生石、誰にも負けやしない。
つまり最強。
つまり──。
「『最強理論』!」
「はちゃめちゃだ!」
乱打乱撃の末、次で最後の一撃になると、両者の認識が一致する。
拳は共に振りかぶられた。
違和感。
これまでの生石は、駆け引きなしの突貫を演じてきた。対するオーガは、強者の証明として攻勢を正面から受けて立っている。
違和感。
僕の生石に対する認識は、粗野な外見に反し、律儀で知的。
決して殴るばかりが能じゃない。バカじゃない。
ならばなぜ?
理解──。
生石は突如かぶる拳を解いた。
「うまい!!」
これまでの応戦はブラフ。最後の一撃のさなかまで、一直線であると敵に思い込ませるための。
異能という『体』の真価。
根性という『心』の死力。
最後に攻撃をいなす『技』のしたたか。
伸ばし切られた鬼の肩口をグッと掴み、引き寄せつつ受け流す。
両者の立ち位置を入れ替える形だ、オーガの背後へ回り込む。
鼠蹊部に足を当てがい、背後に組みつく。
鬼の首に腕を回す。
あとで調べて知った、技の名は──。
「くたばりやがれ!!!!」
裸締め。
オーガと同等にまで高められた筋力は、そっ首を見事えぐり取った。
「しゃあ!!」
勝った。強敵に勝ってみせた。
震えた。臓が震えた。
震撼した。
「かっこいい!!」
男が漢にときめくのに、それ以上の理由はいらない。
勝者の雄叫び。
だが戦況は、余韻に浸る暇さえ彼に与えてやらない。
狩人は脊椎で知っている。
狩人は最後まで油断しないから。
「でてこいや!」
誰に向けられた言葉か。
生石とオーガの衝突は、何者かに仕組まれた目算が高い。
アオさんや僕ではオーガに勝てない、なので鬼一匹の策略が成立する。
けれど生石は、鬼なんかに遅れを取らない。
つまり敵には、生石が勝利することを前提とした、二の手三の手があるはず。
彼はそこまで読み切っていたのだ。
「だが残念」
パンッと──。
何かが炸裂するような異音。
生石のドテ腹からみるみる血の波紋が広がっていく。銃で撃たれたのだと察するにしばらく有した。
「ランツ・クネヒトが神戸の情報を頑なに秘匿した理由。わかるか? 小僧」
山奥から現れた偉丈夫。
その男は軍服を着ていた。
見た目は青年然としているが、真白く染まった髪と、老獪な口調からは若さを感じさせない。
むしろ逆、歴戦、古兵の覇気が臨界だ。
「だ、だれ?」
返事はなく、つまらなさそうに僕へ一瞥送る。
「異能力者であっても銃には勝てない。天翔ける巨龍であってもトマホークミサイルを前には小蝿と同等。ランツ・クネヒトは、はたして核攻撃に耐えうるのかな?」
男は銃を手に持っていた。
「自分ルールだけでは、現代兵器に歯が立たないのじゃ。若造、当たり前の事実から目を逸らすな」
照準は僕のこめかみに定まっていた。
あ、まずい死ぬ──。
「これ、死刑宣告じゃから」
パァン──。
激発光る。




