17.至上命題
生石は見た目の割に、意外と律儀で義理堅い。
説明パートがむずすぎるというクレームを受け、ちゃんと順を追って話してくれることになった。
いの一番に説明を求めたのは、『アイスの真相』についてだ。
僕はなぜかアタリを引きあてることができた。
生石はアタることを知っていた。景品すら用意できていた。
作為的だ。
生石は僕の性格を徹底的に調査、分析しており。行きつけの駄菓子屋へ向かうであろうことを予測立てていた。
なので事前に、『アタリを仕込んだアイス』を用意できていたのだ。
コンビニやスーパーでは難しいだろう。
個人経営の小売店なら、店主を買収することは容易だったはず。
『ひなたが来たらアタリを渡してあげて』と。
思えば店主、どうにもよそよそしかった。
買う前に『このアイス買いなよ!』とやけにセールスしてきたし、買った後は『おめでとう』とか言ってきた。
あー、だから僕、『アタるんじゃ?』と予期できていたのか。いや気づけよ間抜け者め。
ふむ、なぜそんな回りくどいことを?
「……小学生と、どう話せばいいかわからんかった」
つ、つまり。
子供と仲良く話すために、お菓子で釣ったってこと!?
アイスだけにアイスブレイク。
思考が誘拐犯と同じだ。
不器用すぎる。
生石かわいいな!
茶番はこのくらいにして本題だ。
神戸市民を虐殺した、異世界陣営の親玉。
『異界戦線』
メンバーである反骨のアイと、血濡れのキナ。
二人はアオさん&生石と並々ならない因縁があるらしい。
そんなやつらランツさんがぶっ飛ばしてしまえばいいのに。
素人ながら思ったが、最強対策は十全のようで、なかなか尻尾を掴めないそう。
言い換えれば、敵は表立った行動も取れない。なので策略、盤外戦術を講じる必要があるのだ。
『現世のゴタゴタ』も、その一つではと生石は踏んでいる。
「ここのところ、魔物の出没が頻発しとる」
チリモンだけでは処理が追いつかず、生石含む複数の狩人が対処にあたっているそう。
このペースで増え続けると、大規模な掃討作戦も視野に入ってくるだろう。
「しかも厄介なんが、かなりの割合で『進化』しよる」
異界のモンスターは、千分の一で進化する。ゴブリンならホブゴブリン、そしてオーガへ。
「非力な低級の魔物は、クネヒトでも感知できん。異界と現世との網目をくぐって外にもれ出てしまうんや」
それは知るところだが、生石はさらに踏み込む。
「なら、なんらかの方法で『進化』するであろう個体を厳選し。現世へ故意に送れるとしたら?」
ふるいをすり抜けられるほど弱く。
けれど進化後は社会を混沌に陥れられるだろう。
時限爆弾のごとくスキームだ。
ランツさんを巧くかわした、『現世への侵略攻撃』である。
「えげつ!」
「魔物を倒しとってもイタチごっこや。むしろ神戸市内の人的戦闘力が低下しかねん。異界戦線は戦力を削る戦術と、チリモンを戦場に引きずり出す狙い、一挙両得の構えや」
まさに軍略。
只今はまがうことなき戦時中なのだと分からされる。
「一方こちらの勝利条件はシンプルや。侵略戦争でなく、防衛戦なのが唯一のアドバンテージ。直接的に問題を叩きのめせばいい」
異界戦線を叩く。
「やからなひなた」
おれと一緒に戦おう。でしょ?
当たり前だよ。生石刹那、僕は協力を惜しまない。
「お前、神戸へ帰れ」
「……え?」
しかし答えは、予想と大きく反していた。
「お前はまだ子供や。現世での問題は、おれ一人でどうにかする」
生石は冷たく言い放つと、立ち上がりこの場をさろうとした。
「アオにも伝えとけ。お前みたいな女が介入すると、ろくなことにならん。おとなしゅう引っ込んどけってな」
なにそれ。
断るなら、初めからこんな回りくどいことしないでよ。
でもね、実は僕、もうわかっているのです。
こんなにも回りくどいことをしてまで、生石は僕に断りを入れに来てくれたのだ。
子供を巻き込むわけにはいかないと。
自分も高校生のガキだということを棚に上げて。
無視しておけばよかったはずだ。
何もわかっていない僕では、仕事の邪魔にすらなれなかったのに。
なのに律儀に彼は僕と向き合って、話しかけてくれた。
「待って。まだ理由を聞いてない。なんで僕と一緒じゃダメなの? 足手まといだから?」
「悪とか、正義とか、戦争しとるんやから答えはない。でも、子供が死ぬんだけは絶対に悪やろ。むかつくんや。異界戦線も、チリモンも。平気で子供を巻き込もうとする」
なんだよそれ。ヤンキーのくせに。赤坊主のくせに。なんで一番、お前がまともなことを言うんだよ。
「お前も子供だろ!!」
話は終わりだと、彼は深い山中に入っていった。
『やから全ての不幸は、おれ一人でせきとめる』
彼の悲哀に満ちた背中が、そう語っていた。
「……なんだよ」
十分だ。僕はもう、彼をいい奴と認めている。いい奴は好きだとアオさんは言った。彼のことも好きなんだろう。
それとは別の使命もあった。
生石刹那、君はアオさんを、『女』と呼んだ。
つまり君は、アオさんのことを何も理解していない。なのに嫌いだって?
それはだめだ。だめすぎる。もったいなすぎるぜ生石刹那。
「きめた。あいつ絶対仲間にする」
これは使命であり、至って個人的私情による至上命題だ。
僕は僕の素敵な神を、知らしめる必要がある。




