15.伏線散りばめ
思いがけず朗報だ。急遽現実世界へ戻れるはこびとなった。
家族との再会を熱望していたので、融通をきかせてもらった側面もあるのだろう。一番は目下最重要課題のためだ。
仲間集めにさいし、候補者の一人がどうやら現実世界にいるらしい。強力な異能使いだという。
はて、ここで疑問が浮上する。
『現実世界への穴をぶち開けられるのは、ランツさんだけ』
その人は、どうやって現実世界へ渡ったのか。
「こちらから依頼して、現世で働いてもらっている協力者は意外と多いよ。最近魔物が異常に湧いてね。ボクらだけじゃ処理が追いつかないんだ。でも、奴は違った。ランツに勝負で勝って、こじ開けさせたんだ」
地上最強に。史上最強に。
「びっくりって顔だね。同感。でも実はね、ランツってああ見えて負けることも多いんだぜ。誰よりも強いってだけで、勝ちにこだわるタイプじゃないから」
じゃんけんなら君でも勝てるかもねと。なるほど理解。その人は、自分にとって圧倒的に有利な条件でランツさんを下したわけだ。
よかった、またしても新キャラが化け物なのかと身構えてしまった。
「おったまげたよ。ランツの全身全霊全力パンチを受けて、倒れなかったもん」
「化け物じゃん!」
アオさんに出会ってからというもの、予想通りに行くことなんて何一つない。愉快愉快だ!!
「いいんですか? 異世界の人が現実世界に渡っても」
「そこは信用している。むやみやたらと口外するようなやつじゃない」
ちぇ。僕のことは殺そうとしたくせに。妬けるなぁ。
「再三ウチに入社しないかと誘ってはいるのだけれど、ボクとソリが合わなくてね。断られっぱなしなのさ。そこで君の出番だ」
なんとなく想像ができる。アオさんは度し難い性格をしているから、敵も作りやすいだろう。
「君には一人で勧誘してきてもらいます」
「え! 単独行動ということですか?」
おもしろそうに頷くアオさん。
「僕には弱点が多いって話なのに〜」
「まぁまぁ。言うても現実世界なんだし、たいした危険はないでしょ」
フラグじゃん! 信用ならないなぁ。
「あとはランツに穴を開けてもらう手前、ゲートの監視役が必要なんだよね。君が無事に帰ってこれるよう、開けっぱにしなきゃだから」
つどランツさんに頼むわけにはいかない。彼女は忙しい人だから。
「この会社、そんなに人員少ないんですか?」
「ヨロズみたいな協力者は多いけれど、社員はボクらだけ。零細企業だね」
チリモンの主な仕事はランツさんの後始末だ。正直あまり金にはならないから、別の大手に取られているのが現状だと説明してくれた。
「んじゃ、行ってこい〜」
****
「一人で行かせて良かったのか?」
ひなたが旅立ったゲートを静かに見つめる二人。ランツとアオだ。
「さぁ。死ぬようなことはないだろうけれど、無事では済まないかもね」
「お前ってほんとドSな」
「ぎゃあ!」
ランツがアオにデコピンをした。衝撃波が起こるほどの威力だ。
「いた〜い」
アオの身体は吹っ飛び、おでこから湯気が立つ古典的表現、痛すぎて泣いている。
「忠告しとく。あいつのこと、いたく気に入っているみてぇだがまだ子供だぞ。変な気は起こすなよ」
「確かに可愛い顔はタイプだし、声や仕草も愉快だし、戦闘スタイルは相性バッチリで、匂いも素敵。イカれた性格なんて大好物な彼だけれど、そのへんは弁えているつもり。あのコを食べるのは大人になってから♪」
「から♪ じゃねえよ変態」
「初めて会ったときから、ビビッときたんだよね〜。ボク、恋愛は基本一目惚れスタイルだし」
「てめえらの痴情なんか興味ねえわ。アタシが言っているのは、故意に『覚醒』させようとかするなよってこと」
「地球人であっても、自分ルールを扱えるようになってしまう外法の技、『覚醒』….。大丈夫、安心して。そうさせないためにチームを作るんだから」
「チームねぇ。天涯孤独で一匹狼な孤高のアオちゃんが、立派になったもんだ」
「ランツ。ボク、そろそろ前へ進むよ」
「おう。なら、やるんだな?」
「うん。チームが集まり次第ことを進める」
伏線散りばめられる戦況において、ただ一つを詳らかにするのなら。
かの者は反逆の姫君と呼ばれた。
かの者は反転の粗悪と呼ばれた。
かの者は反響の藍海と呼ばれた。
かの者はただ、『反骨』と呼ばれた。
藍は青より出て青より藍し。
本来あるべき形を破却せんとする、世界に風穴をあけた宣戦布告者たち。
神戸異世界転移事件の原因にして、アオの実姉、『アイ』を含む——。
「反骨、血塗れ、鬼やんまの三人からなる、パーティ名『異界戦線』」
異界戦線は、最強と謳われている。
「最強は二つもいらない。ランツが一番だって、ボクが証明する」
なぜアオがここまで戦意をたぎらせるのか。
因縁、私怨、嫉妬心。
錯綜する意義のなか、それでも大義は一つだけ。
「ランツのことが好きだから」
狂おしいほどに愛している。
好きで好きでたまらない。
アオは性別という概念を降りた。
だから別に、両方を好きになってもいい。
矛盾しない。
そのためスカートを今日も履く。
アオはただ、ランツ・クネヒト・ループレヒトを。木洩日ひなたを。
自分の好きな人たちを、みんなに自慢したいだけなのだ。




