13.VS異世界転移者
「異世界からの侵略者はなにも、モンスターだけに限らない。だからまぁ、こういうこともあるわけで」
夜の港、心地良い風吹く埠頭にて。
僕たちは筋骨隆々の偉丈夫と相対していた。
「おのれら、神戸市民か」
——人間。
つまるところ、明確な意思を内包した地球の『怨敵』だ。
驚きはない、アオさんから事前に教育は受けている。
異世界からやってくる人達は、知性ある個人。みなそれぞれの思惑を有している。
『神戸市民を虐殺しよう』とする人間も、なのでいる。
「咬犬。自己紹介はそれだけで十分やろ?」
日本人名、関西人特有の口調。
しかし身につけている衣装は現代的でない、粗雑なボロだ。手には扱いにたやすそうな直剣が握られている。
「異世界転生者──」
事故人為的問わず。何かしらの事象により異世界へ飛ばされてしまった人間が、五年前の災害以前には多くいたらしい。
そうした『元地球人』が、こたびの戦争に敵側として参戦している。
「目的はなに?」
アオさんが僕を庇うように前へ出て、男との会話を試みる。
「当然、オレのチートスキルで現代無双するためや」
「稚拙」
転生者は、えてして特別な力を有している場合が多い。
魔術、呪術、精霊術、神術もろもろ。千差万別な特殊能力を現地で獲得するためである。
異能を神戸では総じて、『自分ルール』と呼ぶ。
「現代社会において、オレたちの力は絶対的や。なにせ全員が無能力者やねんからな。女、金、支配、自己顕示!」
堕落を指折り数えて。
「地球に戻ることができた暁には、思うがままに生きてみよう」
「お前のような奴には幾度と出くわしてきたよ。信念も大義もなく、力だけはあるから傲慢で。嫌いだなぁ」
「ごたくはいい、闘争や。自分ルール『殺意のカタチ』。異能は抱く殺意を具現化し、対象を殺す。ただ殺すちゃんと殺す」
溢れ出す漆黒の泥濘。触れれば死が確定するのだと本能で解する。一撃必殺、まさにチートだ。
「聞いてもいないのにべらべらとよく喋る」
「ガハッ!」
「だから死ぬ」
男のこめかみに定規がブッ刺さっていた。
糸の切れた人形みたく地に落ちた。
トマトへフォークを突き立てて、そんな感じの血がどばば。
「あ、やっちった」
やっちった。
むろん犯人は僕である。
アオさんから『定規』を託されていた。
付与された自分ルールは『よく切れる』。
無意識にぶん投げ、運悪く命中してしまった。
「悪意をカタチにするだって? そんなのうちの怪物が黙っちゃいないでしょ」
間抜けが勝手気ままに作用する。
「お前の敗因は二つ。ひなた君がボクに守られているばかりの庇護者だと勘違いしたこと。違うね、この子こそが虎の子だ。危機察知能力の欠如〜」
アオさんが頭の定規をグイグイとかきまぜる。咬犬の身体が小刻みに痙攣している。
「あとは強すぎたこと。『一撃必殺』。おそらく当たりさえすればランツの首にすら手が届く。いままで負けなしだったのだろう、でもそれは、君の世界での話でしょ?」
ここにきて新事実のご開帳、アオさん曰く——。
「神戸市は、八百万の異世界と繋がっている」
神戸市民が戦うべき世界は、一つじゃない。
剣と魔法の世界、魔王がいる世界、侍がいる世界、巨人がいる世界、ロボットがいる世界、ゴジラがいる世界、人面月面がある世界。そして——。
アオさんのいた世界。
「名は『学園天国』。星一つまるまま校舎っていう、イカれた場所。生徒は生涯を学生として過ごし、文房具は戦うための武具だった。そこではね、定規はなんでも切れちゃうの」
彼らはみな人間だ、千差万別の意思がある。
咬犬のように、異世界人として正しく振る舞う外道もいれば。
アオさんのように、『いやいや。神戸市民を殺すのは違うっしょ』っていうバカもいる。
狩人とは、地球に与する反逆者達の蔑称なのだ。
「ふふ。いくらメタルキングが硬くても。スターなマリオには勝てんでしょ。これはそういうお話。君の世界とはね、『ルール』が違うんだ」
かきまぜて、かきまぜて。
「良いやつが好き。イカれたやつはもっと好き。ボクから言わせれば、君は普通すぎだ、面白みにかける。だから死ぬの。死ななければならないの、あぁ、残念な生命」
かきまぜて、かきまぜて。
それ以上は何の意味もない奇行だ。
「もう死んでいますよ」
「違うよ、君が殺したんだよ」
血濡れの両手が頬を掴む。目がかっと開いて覗き込んでくる。常人のしていい表情でなかった。
──怖い。
「死を人のせいにするな。君がコイツを殺したんだ君のせいで大勢死んだんだ。ふふ、この人殺しめ」
心を掴み、握りしめて、引き摺り出して。
間抜け者の殺人者。
どうしようもない烙印を彼は押し付けてきた。
「でもね、ありがとうなんだよ。君はボクを救ってくれた。ボクだけじゃコイツに勝てなかった」
笑って。笑って。嗤って──。
「良い悪いじゃない、ボクたちがやっているのは戦争で、選択肢の話だ。地球のために異世界を殺すか」
あるいは──。
「ひなた君。大好きなひなた君。ボクのために、今後ともたくさんを殺してね。ボクを救って、ついでに地球を救えば良い」
木洩日ひなたはアオさんの所有物である。拒否権はない、だからだろう。
「……はい」
初めて人を殺めた実感も、抱くべき罪悪感も。罪も罰も。アオさんに対する下品な忠誠心に上書きされた。
「いい子いい子」
頭を撫でられて、感性が壊れるよ。
僕はこの日、狩人に成った。
「えへへ」




