11.ワクワク! ヨロズ商店
狩人の基本原則。
・異界のモンスターを神戸に押し留める。
・現実世界の人間に異界の知識を与えてはいけない。
・安易にランツ・クネヒト・ループレヒトへ助けを求めてはならない。
・死ぬ気で働き、死ぬまで動け。
アオさんに教えてもらった情報をまとめてみた。なるたけ早く学生気分から脱しなければならないからだ。
狩人になると決めたのだから。
まぁ、怖いもんは怖いけれど。胸に手を当てて心臓の音が早い。ここにきてからというもの、どこかフワついて落ち着かない。
幼少の頃、引っ越しを機に人間関係が一新された。初めて入る教室は知らない人達だらけで。すでに関係性が出来上がっていたから、友達作りに苦心した憶えがある。
初めての学校、初めての教室、初めての環境。当時は何をするにもドキドキの連続で、家に帰ったらよく疲労からの熱を出したものだ。
懐かしい感覚、実は嫌いじゃなかったりする。
「ビルの一階は他業者に貸し出している。ヨロズ商店、行ってみる? 値のつくモンスターの部位を売買したり、必要な装備や物品を購入したりするお店。ようは何でも屋さんだね」
チャリンとドアベルを鳴らす。雑貨屋さんみたく品々が、秩序なく並べ置かれていた。
軽く見渡してみるだけで心躍る。数字が五十あるボンボン時計に、知らない形の世界地図。妖精の骨格標本に、スプーンが突き刺さっている何の生首!?
どれもが奇々怪々なアイテムたち。効果のほどは皆目見当もつかないが、流石にワクワクさせられた。
「男の子ってこういうの好きだよね」
アングラ。ドキドキ。目元キラキラ!
怪しげな匂いがする。少しキツめのお香が炊かれているのだ。元を辿ると番台に店主が腰掛けていることに気がついた。
「げ」
その風体があまりに奇抜で、オブジェだと勘違いしていたのだ。
「やっほー、ヨロズさんだよー。ご新規さんだねー。いらっしゃーい」
気だるげな女性の声音だった。寝巻き感満載なダボダボのスウェット姿。髪は伸ばし放題でボサボサだ。
とろんと垂れた瞳は焦点が合っておらず、クマも目立つ。顔立ちは美人なはずだが、化粧気はなく引きこもり特有の病的な肌白さ。沢山のそばかすが意外に似合っている。
着飾ればとっても可愛らしくなるだろう、ダウナーお姉さんだ。
だが、そんな特長をまるごと彼方へ押しやるだらしない表情!
なんとヨロズさん、常にながい舌をだらんと垂らしていて、唾液を器に収集していたのだ。ばっちぃ!
犬みたいだ。
常にベロだしのせいか、話し方もなんだかたるんでいてだらしない。
「変な人だ!」
「そう、変な人。あまり関わらない方がいいよ。理由も聞くな、脳が汚れる」
「言ってくれるねー。これから何度も、私のお世話になっていくというのにさー」
何度も、何度もね。つぶやくヨロズさんの声音は、やけに扇情的だった。
変な人は見ちゃいけないと、アオさんが僕を引き寄せた。
「この子は今日から我が社に入った新人君。早速獲物を仕留めてみせたんだぜ」
「ほー。そりゃすごい」
アオさんはアイテムポーチからゴブの耳をいくつか取り出し、番台に置いた。
「ゴブリンは魔素を体外に発散する術がない。魔物のくせに。逃げ場を無くした澱みは奇形としてあらわれ、結果その部位には多くの魔素が含まれている。例えば耳とかね」
「とはいってもー、品質が悪いからー、魔素ランプの燃料くらいにしかならんけどー。ひーふーみー、のべ三十個。三千円ね〜」
「円なんだ……」
神戸だしそりゃそうか。
異世界だもんゴールドとか、ゴッズとか、そんなのを期待していた。
「チリメン・モンスターの給与形態は、衣食住の現物支給。一円も稼がなくたって、食うに困ることはないよ。さらにお金が欲しいのなら、モンスターや賞金首でも倒して、自分で換金しろってことだね。分かりやすくていい」
「たぁくさん稼いでね〜」
三千円、大金だ。僕の三ヶ月分のお小遣いだ。
とはいえ命をかけた割には、安すぎるようにも思う。頑張らねば。
「では、そろそろ死地だ」




